2026.01.05

がん患者の休職・復職を支える手続きと仕事の支援制度

会社で女性社員ふたりが話しあっている様子

がんという診断を受けたとき、今後の生活や治療費、そして仕事について、さまざまな不安が頭をよぎるかもしれません。

もちろん、治療に専念するため、一時的に仕事を離れることを考える方もいらっしゃいます。

しかし、多くの患者さんが「仕事を続けたい」と希望されており、医学の進歩によって、治療と仕事を両立できる時代になってきました。

このコラムは、そんな働くがん患者さんとご家族の皆さまに向けて、仕事との向き合い方、特に「休職」と「復職」について考える上で知っておきたい大切な情報をまとめています。

一人で悩まず、会社の制度や公的な支援を上手に活用して、自分らしい働き方を見つけるためのヒントとして、ぜひご活用ください。

両手に箱を持って比較するデッサン人形

がんの治療は、手術や抗がん剤治療、放射線治療など、さまざまな方法があり、その副作用や療養期間も人によって大きく異なります。

そのため、治療と仕事を両立できるかどうかも、一人ひとりの病状や仕事の内容によって変わってきます。

まずは「どう働くか」を考える

がんの診断を受けたからといって、すぐに休職や退職をする必要はありません。

まずは、ご自身の状況を整理して、「今後どうしたいか」を考えてみることが大切です。

・治療を受けながら仕事を続けられそうか
・しばらくは休職して、治療に専念したいか
・体調が回復するまで、働き方を調整してもらえないか

といったことを、ご自身の気持ちと向き合いながら考えてみましょう。

このとき、ご家族とも相談し、どのような支援が必要か、どんな働き方を希望するか、話し合っておくことも重要です。

会社の就業規則を確認する

休職や復職を考える上で、最初に確認しておきたいのが、ご自身の会社の「就業規則」です。

就業規則には、休職できる期間や条件、復職の手続きなどが定められています。

・休職できる期間はどのくらいか
・休職中の給与や賞与の取り扱いはどうなるか
・休職後、復職できるまでの期間が定められているか
・休職や復職の手続きに必要な書類は何か

といった項目をチェックしておきましょう。

会社のウェブサイトや社内サイトで確認できる場合もありますが、もしわからなければ、人事や総務の担当者に相談してみるのも良いでしょう。

上司や会社への相談のタイミングと伝え方

がんであることを会社に伝えるか、伝えるならいつ、どのように伝えるべきか悩む方は少なくありません。

がんであることを伝えるかどうかは、もちろんご本人の自由です。

しかし、治療の副作用などで勤務に影響が出る可能性がある場合は、早めに相談しておく方が職場復帰に向けたスムーズな調整につながります。

相談する際は、まずは直属の上司に伝えるのが一般的です。

その際、ご自身の病状や治療内容、今後の希望などを具体的に伝えることで、会社側も適切な対応を検討しやすくなります。

・いつ頃から治療が始まり、どれくらいの期間休職が必要か
・治療内容や副作用の症状(例:抗がん剤治療による体力の低下、倦怠感、吐き気など)
・休職中に利用したい制度(傷病手当金など)
・復職の希望時期や、その際の働き方(短時間勤務など)

といった情報を整理しておき、主治医に「診断書」を書いてもらうと、よりスムーズに話を進めることができます。

机の上にノート、電卓、ペン、おもちゃのお金、豚の貯金箱が置かれている様子

がん治療中は、治療費や生活費など、経済的な負担も大きな問題となります。

休職中も安心して過ごすために、お金に関する心配を減らせるよう公的な制度を上手に活用しましょう。

傷病手当金

傷病手当金は、病気やけがで仕事を休んだとき、本人や家族の生活を保障するために、健康保険から支給される制度です。

・対象となる方
 → 会社の健康保険に加入している方(自営業の方など、国民健康保険の方は対象外です)
・支給される期間
 → 仕事を休み始めた日から、最長1年6ヶ月まで
・支給額
 → 給与のおよそ3分の2程度(標準報酬日額に基づき計算されます)
・申請方法
 → 会社の担当部署(人事、総務など)を通じて申請します。
   主治医に「療養のために休職が必要」と記載された診断書を書いてもらう必要があります。

【ポイント】
傷病手当金の申請は、休職期間中に行うことができます。
会社を通じて所定の書類を健康保険組合に提出することで、給付を受けられます。

その他の制度

その他にも、がん患者さんが利用できる制度はいくつかあります。

・高額療養費制度
 → 医療費の自己負担額が、年齢や所得に応じて定められた上限を超えた場合、その超えた分が払い戻される制度です。
・障害年金
 → 病気やけがによって生活や仕事に支障がある場合に受け取れる年金制度です。
   がんもその対象となる可能性があります。

これらの制度について詳しく知りたい場合は、お住まいの地域の「がん相談支援センター」や、会社の担当部署に相談してみるのが良いでしょう。

ノートパソコン・タブレットを拓きながら談笑する3人の女性

治療が一段落し、体調が回復してくると、「また働きたい」という気持ちになる方も多いでしょう。

安心して職場に戻るためには、事前の準備と周囲のサポートがとても大切です。

復職のタイミングを見極める

復職のタイミングは、ご自身の体調や主治医の見解をふまえて慎重に決めることが重要です。

・治療による副作用がどの程度まで落ち着いたか
・長時間働くことができる程度の体力が回復したか
・通勤に支障がないか
・再発や転移のリスクを考慮した上で、どのくらいのペースで働けるか

といった点を、主治医とよく相談しましょう。

復職には、主治医に「就労可能」と記載された診断書を提出するのが一般的です。

無理なスケジュールで復職すると、体調を崩してしまい、再び休職せざるを得ないケースもあります。

焦らず、ご自身のペースで考えることが大切です。

会社との連携と働き方の調整

復職する際は、上司や人事担当者、そして会社の産業医と連携し、復職に向けた計画を作成します。

・短時間勤務制度の利用
 → 最初はフルタイムではなく、短い時間から始めて、少しずつ勤務時間を増やしていく方法です。
・業務内容の見直し
 → 体への負担が少ない業務への変更や、重いものを運ぶなどの業務を一時的に軽減してもらうなどの配慮をしてもらいましょう。
・通院日の配慮
 → 治療後の定期的な通院が必要な場合、有給休暇などを活用しやすいように調整してもらうことも重要です。

また、復職前に「試し出勤」制度を利用できる企業もあります。

これは、本格的な復職の前に、通勤や勤務に慣れるための制度です。

不安な方は、会社の担当者に問い合わせてみましょう。

職場復帰後の注意点

復職後も、無理は禁物です。

・体調の変化を放置しない
 → 少しでも体調が優れないと感じたら、すぐに上司や産業医に相談しましょう。
・働き方を見直す
 → もし当初の計画通りにいかなければ、再度働き方を柔軟に調整してもらいましょう。
・同僚とのコミュニケーション
 → 病気のことを同僚にどこまで伝えるかは悩むかもしれません。
   ただ、日々の業務で協力を得るためにも、体調の状況や配慮してほしい点を伝えておくことで、お互いに気持ちよく働くことができます。

がんと診断された後も仕事と向き合うことは、患者さんにとって大きな支えとなり、生活にメリハリをもたらしてくれるものです。

しかし、無理をしてしまうと、かえって病状に影響が出るリスクもあります。

大切なのは、「自分一人で頑張ろう」と抱え込まないことです。

このコラムで紹介したように、日本には、働くがん患者さんを支援するさまざまな制度やサポートがあります。

仕事との両立に不安を感じるときは、まず会社の相談窓口や、お近くの「がん相談支援センター」に問い合わせてみましょう。

治療と仕事を両立しながら、ご自身らしく前向きな毎日を送るために、ぜひこうした支援を積極的に活用してください。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。