がん治療と仕事の両立に役立つ支援制度と相談窓口
がんと診断された時、多くの患者さんが「これからの仕事はどうなるんだろう」という大きな不安に直面します。
治療費はどれくらいかかるのか、会社を休む必要があるのか、働き続けることは可能なのか、退職しなければならないのか。
様々な疑問や悩みが頭をよぎり、心身ともに大きな負担となりがちです。
しかし、がんと診断されても、必ずしも仕事を諦める必要はありません。
近年、がん患者さんの治療と仕事の両立を支援する様々な制度や窓口が整備されつつあります。
一人で悩みを抱え込まず、適切な情報を知り、適切なサポートを求めることで、働き続ける道は見えてきます。
このコラムでは、がん患者さんが仕事と向き合う上で知っておきたい具体的な情報、相談できる窓口、そして活用できる公的・会社の支援制度について、分かりやすく解説します。
がん患者さんが仕事で直面する3つの壁

がんと診断された患者さんは、治療を始めると同時に、仕事に関して様々な課題に直面します。
これらは主に「体調」「経済」「職場」の3つの壁が挙げられます。
体調の変化
がん治療は、手術や抗がん剤治療、放射線治療など、多岐にわたります。
これらの治療は、患者さんの体に大きな影響を与え、倦怠感、吐き気、しびれといった様々な副作用を引き起こす可能性があります。
また、頻繁な通院や入院が必要となり、それによって仕事の時間を確保することが難しくなる場合も多いです。
治療の種類と影響
・手術
→ 術後の回復にはある程度の期間が必要です。
入院期間や退院後の療養期間中は、仕事を休まざるを得ないことがほとんどです。
・抗がん剤治療・放射線治療
→ これらの治療は、通院しながら行うことも多いです。
副作用の程度によっては、治療日やその前後で体調が優れず、仕事ができない日が出てきます。
・内分泌療法・分子標的薬
→ 比較的副作用が少ない治療もありますが、長期間にわたり継続する必要があるため、定期的な通院が必要です。
経済的な不安
がんと診断された患者さんの多くが抱えるのが、経済的な不安です。
・治療費の負担
→ がん治療には高額な費用がかかることが多く、家計への影響は大きな問題です。
高額療養費制度を活用することで自己負担額を抑えることができますが、それでも一定の自己負担は発生します。
・収入減少への心配
→ 治療のために仕事を休むと、その間の収入が減ってしまう可能性があります。
特に、自営業の方や非正規雇用の場合は、休業中の収入確保がより大きな課題となります。
職場とのコミュニケーション
がんという病気を職場にどう伝えるか、そしてどのような配慮を求めるか、という問題も大きな壁です。
・上司や同僚にどこまで伝えるべきか
→ 病気であることを知られたくないと考える方もいれば、理解を得てサポートしてほしいと考える方もいます。
誰に、いつ、どの程度まで伝えるか、という点は個人の状況や職場の環境によって異なります。
・会社の制度をどう活用すればいいか分からない
→ 多くの会社には、病気療養のための休職制度や、短時間勤務制度などがあります。
ただ、その存在自体を知らないという方も少なくありません。
どの制度が自分に適用されるのか、どう手続きすればいいのか分からない、といった問題に直面します。
一人で悩まないための相談窓口

これらの壁に一人で向き合う必要はありません。
がんと診断された患者さんが仕事に関する悩みを相談できる専門の窓口が、全国に存在します。
がん相談支援センター
これは、全国のがん診療連携拠点病院などに必ず設置されている、がん患者さんとそのご家族のための総合的な相談窓口です。
ここでは、がん医療の専門的な知識を持つ相談員(看護師や医療ソーシャルワーカー)が、無料で相談に応じてくれます。
治療の内容や副作用、療養生活全般に関する相談はもちろん、「仕事との両立」というテーマも大きな相談内容の一つです。
休職・復職の手続き、公的支援制度の案内、職場への伝え方など、多岐にわたる悩みに対応してくれます。
利用のポイント
・他の病院で治療を受けている場合でも、誰でも利用できます。
・相談は無料で、プライバシーは厳守されます。
・必要に応じて、地域のハローワークや社会保険労務士などの専門家につないでくれることもあります。
ハローワーク
ハローワークには、長期療養を必要とする患者さんの就職・再就職を専門に支援する窓口が設けられている場合があります。
治療を続けながらできる仕事を探したい、治療後に再就職したいといった相談に対応しています。
職業相談員が、患者さんの体調や治療状況を考慮しながら、就職活動をサポートしてくれます。
利用のポイント
・がん相談支援センターと連携している場合も多いので、両方の窓口をうまく活用するのがおすすめです。
社会保険労務士(社労士)
社会保険労務士は、年金や健康保険、労働法規の専門家です。
会社の就業規則や休職制度、公的支援制度(傷病手当金、障害年金など)について、法的な観点から具体的なアドバイスを受けることができます。
利用のポイント
・がん相談支援センターが開催する就労相談会に、社労士が参加していることがあります。
・個人で社労士に相談することも可能ですが、費用がかかる場合があります。
・まずはがん相談支援センターで情報を集めるのが良いでしょう。
知っておきたい!支援制度

経済的な不安を軽減し、働き続けるために、ぜひ知っておきたい制度がいくつかあります。
公的支援制度の例
・傷病手当金
→ 健康保険に加入している人が、病気やケガで仕事を休んだ際に、休業中の生活を保障するために給付金が支給される制度です。
治療のために休業した期間、給与が支払われなかった場合に、条件を満たせば給付金を受け取ることができます。
・高額療養費制度
→ 1ヶ月の医療費の自己負担額が一定の金額(自己負担限度額)を超えた場合、その超えた分が払い戻される制度です。
事前に申請し「限度額適用認定証」を提示すれば、窓口での支払いを自己負担限度額までにとどめることができます。
高額になりがちな治療費の負担を大きく軽減できるため、必ず確認しましょう。
・障害年金
→ 病気やケガによって生活や仕事が制限される場合に支給される年金です。
がんも対象となる場合があり、症状の程度や働きにくさの状況によって受給できる可能性があります。
これらの制度は、複雑で分かりにくいと感じるかもしれませんが、がん相談支援センターなどで専門家から具体的なアドバイスを受けることができます。
会社の制度
企業には、法律で定められた制度以外にも、独自の支援制度がある場合があります。
・休職制度
→ 病気の療養に専念するため、一定期間仕事を休むことができる制度です。
給与の支払いがあるかどうかは会社によって異なります。
・短時間勤務制度
→ 治療や通院の頻度に合わせて、勤務時間を短くしてもらう制度です。
・積立有給休暇制度
→ 時効で消滅する有給休暇を積み立てて、病気療養などに使えるようにする制度です。
これらの制度の有無や内容は、会社の就業規則に記載されています。まずは会社の担当部署や就業規則を確認してみましょう。
職場に病状を伝えるときは

仕事と治療を両立するためには、職場との良好なコミュニケーションが不可欠です。
タイミングを見極める
診断後、治療方針がある程度固まった段階で、直属の上司に相談するのが一般的です。
早めに伝えることで会社側も体制を整えやすくなり、その後の調整がスムーズに進みます。
伝えるべき情報を整理する
全ての病状を詳しく話す必要はありません。
大切なのは、「今後の治療スケジュール(通院・入院の期間)」「体調の変化によって生じる可能性のある仕事上の制約」「会社に求める具体的な配慮」の3点です。
例:「抗がん剤治療の影響で、治療後数日は倦怠感があるため、在宅勤務を希望します。」
専門家の力を借りる
・主治医の診断書
→ 治療や副作用の状況を客観的に伝えるために、主治医に診断書を作成してもらうのが有効です。
・がん相談支援センターの活用
→ 職場とのコミュニケーションに不安がある場合は、がん相談支援センターで相談員と一緒に伝える内容を整理するのもひとつです。
まとめ
がんと診断された後も、働き続けたいと願う患者さんは少なくありません。しかし、その道のりは決して楽なものではなく、様々な困難が伴うことも事実です。
「がん」という病気と「仕事」という生活を、一人で両立させる必要はありません。あなたの状況や治療内容、そして働き方への希望に応じて、活用できる支援制度や相談窓口は必ずあります。
まずは、がん相談支援センターに足を運んでみましょう。そこで得られる専門的な情報とサポートは、あなたが仕事と治療、そして自分らしい生活を続けていくための大きな力となります。
治療を続けながら働くことは、生きがいや経済的な安定をもたらし、生活の質(QOL)の向上にもつながります。
がんと診断された時こそ一人で抱え込まず、多くの支援を活用して、あなたらしい働き方を続けていきましょう。
