肝臓がんのサインかも?気になる「かゆみ」の正体と対処法
がんの治療中や療養中、あるいは経過観察中の患者さん、そしてご家族の皆様にとって、体調の変化は大きな不安の原因となることが多くあります。
中でも「かゆみ」は、一般的には皮膚の異常のように思えますが、実は肝臓の機能と深く関連している可能性があります。
この記事では、肝臓がんの患者さんに多く見られる「かゆみ」に焦点を当て、肝臓と皮膚の関係から、なぜかゆみが起こるのか、肝臓がんの症状としてどのように現れるのかを解説します。
さらに、肝臓がんの治療を受けている方が日常で実践できる症状の管理や治療法について詳しくご紹介します。
肝臓がんにおけるかゆみのメカニズム

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、機能障害が進行しても初期にはほとんど自覚症状が出にくいという特徴があります。
しかし、肝臓の機能が低下してくると、体全身に異常のサインとして症状が現れることがあり、その一つが強いかゆみです。
肝臓の機能と皮膚の関係
肝臓は、体内の老廃物や有害な物質を分解・解毒し、胆汁(たんじゅう)という消化液を作って流すという重要な役割を持っています。
この胆汁は、通常、肝臓から流れて腸へと排出されます。
肝臓の病気によってこの一連の流れが阻害されることによって、皮膚にかゆみや黄疸、乾燥などの症状を引き起こします。
かゆみを引き起こす生理学的要因
肝臓がんによって肝機能が低下したり、肝臓の中でがんが胆汁の流れを妨げたりすると、「胆汁うっ滞(たんじゅううったい)」という状態が起こります。
この胆汁うっ滞は、肝機能障害の一種です。
胆汁うっ滞が起こると、胆汁に含まれる物質(特に胆汁酸など)が体内に蓄積し、血液中に増えていきます。
この蓄積された物質が皮膚の下にある神経を直接刺激してしまうことが、全身のかゆみの主な原因と考えられています。
この肝性掻痒(かんせいそうよう)と呼ばれるかゆみは、肝臓がんのほかにも肝炎・肝硬変・原発性胆汁性胆管炎などの肝臓の疾患(病気)と強く関連しており、肝臓の異常を示唆する重要な症状の一つです。
肝臓がんの初期症状

肝臓がんは、肝炎や肝硬変といった慢性的な疾患から進行するケースが日本では多く見られます。
B型肝炎やC型肝炎の感染による慢性肝炎、あるいはアルコールや脂肪肝が原因となる生活習慣病からの肝硬変が、肝がんの主要なリスクです。
かゆみ以外の初期症状
肝臓は痛みを感じる神経が乏しいこと、また、高い予備能力と優れた再生能力を持つことから「沈黙の臓器」と呼ばれます。
そのため、肝臓がんの初期症状は、ほとんどの場合自覚症状がなく、痛みも現れません。健康診断の血液検査などで機能の異常が指摘され、偶然発見されることも多いです。
しかし、進行するにつれて、以下のような症状が現れることがあります。
これらの症状は、一般的な体調不良以外にも、肝臓に何らかの異常が存在している可能性を示唆します。
・倦怠感…体がだるく、疲れやすいと感じる
・食欲低下…食欲がない、または食後の不快感
・腹水…お腹が張って見える、腹部の膨満感
・痛み…肝臓がある部分(右上腹部)の鈍い痛み(特に進行期)
症状の進行とサイン
肝臓の機能がさらに進行して低下すると、黄疸(おうだん)という症状が現れることがあります。
黄疸は、皮膚や目の白目が黄色くなる症状で、これも胆汁うっ滞や機能障害によって起こるものです。
黄疸は肝機能の異常値が高度であることを示唆しており、多くの場合強いかゆみを伴うという特徴もあります。
異常を感じたら、それが肝炎、肝硬変、脂肪肝など、肝臓がん以外の疾患であったとしても、必ず内科や専門医のいる医療機関を受診し、血液検査などの検査を受けることが大切です。
肝臓がんと皮膚症状の関連性

肝臓がんと関連するかゆみは、一般的な皮膚炎と異なり、いくつかの特徴を持っています。
発疹の特徴
肝臓がんや肝硬変によるかゆみ(肝性掻痒)は、皮膚に目立った発疹(ほっしん)や赤みがほとんどなく、かゆみだけが強く現れるケースが多いのが特徴です。
かゆみは全身の部分に起こることが多く、特に夜間や体が温まったときに強く感じ、掻きむしった後に皮膚の損傷や感染を引き起こし、睡眠障害を伴うほど強いかゆみになる患者さんも多くいます。
もし強い発疹が出ている場合は、薬の副作用(抗がん剤療法など)や、肝臓以外の原因による皮膚疾患の可能性も考えられます。
皮膚の状態で気になる点があれば、主治医や専門医に詳しく相談することが必要です。
皮膚症状が示す肝臓がんの進行度
かゆみや黄疸などの全身症状が現れるときは、肝臓がんがある程度進行し、肝機能障害が進んでいるサインの場合があります。
黄疸の有無や程度は、胆汁の流れがどの程度滞っているかを示唆しており、肝がん治療方針を決める上で重要な診断基準となります。
ただし、かゆみの強さが病気の進行程度や転移の有無と必ずしも一致するわけではないことに注意が必要です。
症状に悩む方は、自己判断せずに主治医に相談し、血液検査や画像検査などの検査結果に基づいて正確な診断と治療を受けることが大切です。
肝臓がん患者におけるかゆみの治療法

強いかゆみは患者さんの質の高い生活を妨げる大きな悩みの一つであり、改善のためには治療と日常のケアの両方を行っていくことが必要です。
かゆみを軽減するための治療法
肝臓がんによるかゆみの治療は、原因となっている胆汁うっ滞を改善させることを目的とします。主に薬物療法が行われます。
・薬物療法
胆汁酸の体外への排出を助ける薬(吸着剤など)や、神経の興奮を抑える種類の抗ヒスタミン薬、特定の作用を持つ内服薬(オピオイド受容体拮抗薬など)などが使用されます。
効果には個人差があり、効き方も様々であるため、主治医や薬剤師と相談しながら最適な薬を見つけていく必要があります。
・原因疾患の治療
可能な場合は、肝臓がんそのものに対する療法(手術、放射線療法、薬物療法など)を行います。
胆道の閉塞があれば、内視鏡的治療法などによって胆汁の流れを回復させることを目指します。
皮膚症状の管理とケア
日常生活でかゆみを和らげるための注意点と方法を解説します。
・保湿ケア
皮膚が乾燥すると刺激に敏感になり、かゆみを感じやすくなります。
薬局などで相談し、刺激の少ない保湿剤を使用して、全身を丁寧にケアし、皮膚のバリア機能を改善させます。
・入浴法
熱すぎるお湯はかゆみを強める原因です。ぬるめのお湯で短時間の入浴を行い、入浴後は必ず保湿剤を塗布します。
特に体が温まるとかゆみが起こるケースが多いため注意が必要です。
・衣類
肌への刺激が少ない綿などの素材の服を選び、締め付けの強い衣類は避ける必要があります。
・かゆみ止めの使用
市販のかゆみ止めの薬には、肝機能に影響を与える可能性のあるものや、既存の治療薬との相互作用(効き方への影響や副作用の増強など)が考えられるものもあります。
使用前には必ず主治医または薬剤師に相談して確認してください。
おわりに
肝臓がんと関連するかゆみは、患者さんの質の高い生活を妨げる大きな悩みの一つです。当コラムで解説したように、かゆみは肝臓の異常を示す重要なサインである可能性があります。
もし強いかゆみや黄疸、倦怠感などの症状を感じたら、「一般の皮膚病だろう」と自己判断せずに、主治医やがん診療連携拠点病院などの専門医に相談し、血液検査などの検査を受けることが最も大切です。
肝機能低下や肝がん進行の早期発見、早期診断につなげ、適切な治療とケアを受けて、症状の改善と健康維持を目指しましょう。
