2025.12.24

S状結腸がんとはどんな病気?早期発見のための基礎知識

腹部を押さえて横になる女性

日本人が生涯のうちにがんと診断される確率は、二人に一人と言われるほど身近なものとなっています。

なかでも大腸がんは、発生数や亡くなる方の数において男女ともに上位に位置しており、注意が必要な疾患です。

大腸の出口に近い「S状結腸」は、その複雑な形状や役割から、特にがんが発生しやすい場所として知られています。

がんと聞くとどうしても大きな不安がつきまといますが、S状結腸がんは早期に見つけ出して適切な治療を届けることで、その後の生活を健やかに保てる可能性が非常に高い病気です。

本コラムでは、S状結腸の構造やがんが発生する仕組み、検査や治療の基本について詳しく解説します。

大腸のそれぞれの部分での名称を説明したイラスト

大腸は、小腸に続いて右下腹部から始まり、お腹の中を一周するように配置されている全長約1.5メートルから2メートルの管状の臓器です。

その中でも、大腸の出口である直腸につながる手前の部分をS状結腸と呼びます。

日本人において大腸がんは非常に身近な疾患となっており、部位別で見てもS状結腸と直腸はがんが発生しやすい場所として知られています。

S状結腸とは何か

大腸は、盲腸からはじまり、上行結腸、横行結腸、下行結腸、そしてS状結腸、直腸という順に分かれています。

S状結腸はアルファベットの「S」の字のような形をしており、骨盤の中に位置しています。

この部位は、ほかの結腸の部位に比べて自由に動くことができるため、形が複雑になりやすい特徴があります。

消化された食べ物のかすは、大腸を通る間に水分が吸収されて徐々に便へと変化していきます。

S状結腸は便を一時的に溜めておく役割を担っており、直腸へと送り出す準備をする場所です。

便が滞留する時間が長いこと、また便が硬くなりやすい場所であったり臓器の形が曲がったりしていて腸管が狭窄しやすいことが、がんの発生に影響していると考えられています。

ただ、同じ原因で比較的早期に便秘や下痢、血便の症状が現れることが多く、早期で発見されやすい場所でもあります。

S状結腸がんの発生メカニズム

S状結腸がんの多くは、腺腫と呼ばれる良性のポリープが、数年から十数年という長い時間をかけてがん化することで発生します。

このような、大腸がんにおける代表的な発がんの経路を「アデノーマ・カルチノーマ・シーケンス(adenoma-carcinoma sequence)」と呼びます。一方で、ポリープを経由せずに正常な粘膜から直接がんが発生する経路も確認されています。

がん細胞はまず、腸の壁の最も内側にある粘膜から発生します。

進行するにつれて、がんは粘膜下層、固有筋層へと深く入り込み、最終的には腸の壁の外側まで突き抜けることもあります。

この過程で、がん細胞がリンパ液の流れに乗ってリンパ節に転移したり、血液の流れに乗って肝臓や肺などの遠隔臓器に転移したりする可能性が生じます。

発がんの原因はさまざまですが、加齢や食生活の欧米化、運動不足、飲酒、喫煙などが深く関連していると言われており、日本人の生活習慣の変化に伴って増加傾向が続いています。

また、家族の中に大腸がんを患った方がいる場合や、潰瘍性大腸炎などの持病がある場合も、発生のリスクが高まることが知られています。

病院の受付を模したフィギュア

早期のS状結腸がんは、自覚症状がほとんどないことが最大の特徴です。

そのため、自身の体調の変化を待つのではなく、定期的な検査を受けることが早期発見の鍵となります。

初期症状の特徴

がんが小さいうちは、腸管内を通過する便の流れを妨げることがないため、痛みや違和感を感じることはまずありません。

しかし、粘膜の表面がもろくなり、わずかな出血を起こすことがあります。

このとき、便に血が混じる血便が見られることがありますが、痔による出血と思い込んで受診が遅れるケースも見受けられます。

また、がんの組織が崩れて出血が続くことにより、貧血の症状が出ることもあります。

特に理由がないのに動悸や息切れ・疲れやすさなどを感じる場合は、消化管からの微量な出血が原因である可能性も考慮して、医療機関に相談しましょう。

進行した場合の症状

がんが大きくなり、腸の通り道が狭くなってくると、便通にさまざまな変化が現れます。

便秘と下痢を繰り返したり、便が細くなったりする症状が代表的です。

さらに進行して腸管が完全に塞がってしまうと、腸閉塞という状態になり、強い腹痛や腹部膨満感、吐き気などの症状を伴うようになります。

また、がんが周囲の臓器を圧迫したり、浸潤したりすることで腹痛が生じることもあります。

下血の回数が増えたり、便に粘液が混じったりすることもあります。

これらの症状が出ている場合は、すでに病状が進行している可能性があるため、速やかに病院を受診して診断を受ける必要があります。

便潜血検査の意義とは

早期発見に最も大きく寄与するのが、市区町村などの検診で行われている便潜血検査です。

これは便の表面をこすり取り、目に見えないほどの微量な血液が混じっていないかを確認する検査です。この検査は痛みもなく、自宅で手軽に行えるのが利点です。

便潜血検査で陽性反応が出た場合、それは「大腸のどこかから出血している可能性がある」というお知らせです。

必ずしもがんがあるわけではありませんが、その場合も良性のポリープや痔などの疾患を見つけるきっかけになります。

陽性の結果が出た際に「自分は大丈夫だろう」と放置せず、必ず次の精密検査を受けることが、病気を早期に発見するために大切です。

内視鏡検査の流れ

便潜血検査で陽性となった場合や、何らかの症状がある場合には、大腸内視鏡検査が行われます。

これは、肛門から細い管状のカメラを挿入し、大腸の内部を直接観察する方法です。

S状結腸は肛門から近い場所にあるため、内視鏡で到達しやすく、比較的に発見は容易とされています。

ただし、曲がりが強い部位であるため、腸のひだや屈曲部に隠れている病変は、角度や視野の問題で見つけにくい可能性もあります。

検査の前には、腸の中をきれいにするために下剤を服用して便をすべて排出する必要があります。

検査時間は一般的に20分から30分程度ですが、必要に応じてその場でポリープを切除することもあります。

内視鏡検査は、病変を直接見るだけでなく、疑わしい組織の一部を採取して良性か悪性かを確定診断できる非常に重要な検査です。

画像診断の役割

診断をより確実にするため、あるいは治療方針を決定するために、複数の画像診断が行われます。

腹部CT検査やMRI検査は、がんの広がりや周囲のリンパ節への転移、肝臓などの他の臓器への転移の有無を確認するために用いられます。

特にCT検査は、短時間で広範囲を撮影できるため、ステージ分類を判断する上で不可欠です。

また、造影剤を使用することで、がん細胞への血流の状態を把握することも可能です。

これらの検査結果を総合的に判断し、医師は患者一人ひとりに最適な治療法を提案します。

医療のイメージ。医師が手のひらに薬剤や聴診器、注射などが書かれたブロックを乗せている

S状結腸がんの治療は、がんの進行度(ステージ)や患者自身の体力、持病の有無などを考慮して決定されます。

現代の医療では複数の専門家が関わるチーム医療が行われており、内科や外科などの各診療科が連携して治療にあたります。

手術療法の種類

がんが一定以上に進行している場合、治療の基本は外科手術による切除となります。

S状結腸がんは、がんが含まれる腸管の一部と、その周囲にあるリンパ節を切除する術式が一般的です。切除した後は、健康な腸管同士をつなぎ合わせます。

近年では、お腹に数箇所の小さな穴を開けて行う腹腔鏡下手術が普及しています。

これは、従来のお腹を大きく開ける開腹手術に比べて、体への負担が少なく、回復が早いという利点があります。S状結腸は比較的動かしやすい部位であるため、腹腔鏡下手術の適応となることが多いのが特徴です。

手術前には、執刀医から詳しい手術内容の案内がありますので、疑問点は事前に解消しておくことが大切です。

薬物療法と放射線治療

がんがリンパ節に転移している場合や、他の臓器に転移が見られる場合には、手術と組み合わせて、あるいは単独で薬物療法が行われます。

これは、全身に散らばっている可能性のあるがん細胞を攻撃することを目的としています。

最近では、特定の分子を標的とする薬や、免疫の力を利用する薬なども開発されており、治療の選択肢は大きく広がっています。

放射線治療については、結腸がんにおいては直腸がんに比べて行われる機会は少ないものの、骨などに転移して痛みがある場合や、局所的な制御が必要な場合に検討されることがあります。

副作用についても管理の方法が進歩しており、生活の質を保ちながら治療を継続することが可能です。

ハートマークが二つ連なったイラスト

治療を受けた後の見通しを、予後と呼びます。

大腸がん全体で見ても、S状結腸がんは他のがんに比べて治療の効果が出やすく、予後が良い病気であると言われています。

ステージ別の生存率

がんと診断された際、多くの方が気にされるのが生存率です。

大腸がんの5年相対生存率は、早期であるステージ1では約90%以上と非常に高い数値を示しています。ステージ2でも約80%台、ステージ3でも約70%台となっており、適切な治療を行えば完治を目指せる可能性が高い疾患です。

ただし、がんが他の臓器に転移しているステージ4の場合は数値が下がりますが、それでも新しい薬の登場や手術技術の向上により、長期にわたって病気と共存しながら自分らしい生活を送っている患者さんは少なくありません。

数値はあくまで統計的な目安であり、一人ひとりの経過は異なることを知っておく必要があります。

再発リスクとその管理

手術でがんをすべて切除できたとしても、目に見えない微細ながん細胞が残っている可能性は否定できません。

そのため、治療後5年間は定期的な経過観察が必要です。

具体的には、定期的な血液検査による腫瘍マーカーの確認や、CT検査、内視鏡検査などが行われます。

もし再発が見つかったとしても、早期であれば再び手術で切除できる場合もあります。

再発を過度に恐れるのではなく、定期的な通院を欠かさずに行うことで、万が一の際にも迅速に対応できる状態を整えておくことが安心につながります。

三世代家族の食事風景

がんは完全に防ぐことができる病気ではありません。

ただし、日々の生活習慣を見直すことで、その発生リスクを下げることができると考えられています。

食生活の改善

大腸がんの予防において、最も重要視されているのが食生活です。

赤身の肉(牛・豚など)や加工肉(ハム・ソーセージなど)の過剰な摂取は、リスクを高めるとされています。

一方で、野菜や果物に多く含まれる食物繊維は、腸内環境を整え、便の通りをスムーズにすることで、発がん物質が腸の粘膜に触れる時間を短くする効果が期待されています。

また、節度ある飲酒を心がけ、禁煙に取り組むことも大切です。

過度なアルコール摂取や喫煙は、さまざまながんの直接的な原因となります。

バランスの良い食事を1日3回、決まった時間に摂るという基本的な習慣が、健康な腸を保つための第一歩となります。

定期検診の重要性

生活習慣の改善とともに欠かせないのが、定期的な検診です。

40代を過ぎたら年に一度の便潜血検査を受けることが推奨されます。

S状結腸がんは、早期に発見できれば身体に負担の少ない治療で治る可能性が非常に高い病気です。

自覚症状がないからといって検診を後回しにするのではなく、「健康を確認するために行く」という前向きな姿勢で検診を活用してください。

ご自身のため、そして大切なご家族のためにも、定期的な身体の点検を習慣にすることが、がんと共に、あるいはがんを乗り越えて健やかに生きるための基盤となります。

S状結腸がんは、早期に発見して適切な対応をとることで、治療後の生活を自分らしく過ごせる可能性が高い病気です。

日々の生活の中で、便の変化や身体の兆しに意識を向けることは、健康を守るための大切な一歩となります。

もし検査の結果や体調について不安を感じることがあれば、一人で悩まずに医療機関や専門の相談員を頼ってください。

正しい情報を知り、医師と対話を重ねることが、不安を安心へと変える鍵となります。

このコラムが、皆様とそのご家族が穏やかな毎日を過ごすためのきっかけとなれば幸いです。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
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