2026.01.08

胃がんの初期症状とは?原因や検査方法を詳しく解説

紙で切り抜いた胃

日本において、胃がんは古くから多くの人々が直面してきた、非常に身近な病気の一つです。

特に50代を過ぎると、健康診断の結果に敏感になったり、日々の食事のあとの「胃もたれ」や「不快感」が気になり始めたりする方も多いのではないでしょうか。

「もしかして胃がんではないか」という不安は、誰しもが抱くものです。

しかし、現代の医療において、胃がんは決して「不治の病」ではありません。

医学的根拠に基づいた正しい知識を持ち、早期に発見して適切な治療を行えば、これまで通りの日常生活を維持することが十分に可能な時代となっています。

このコラムでは、胃がんとはどのような病気なのかという基本から、見逃してはならない初期症状、最新の検査方法、そして日々の生活で取り組める予防法までを詳しく解説します。

この記事が、あなたやあなたの大切なご家族が、毎日を安心して過ごすための道標となれば幸いです。

胃のあたりを押さえる女性

胃がんとはどのような病気?

胃がんは、食べ物を消化する大切な臓器である「胃」の最も内側にある「粘膜(ねんまく)」から発生するがんです。

私たちの胃の壁は、内側から順に「粘膜」「粘膜下層」「筋層(きんそう)」「漿膜(しょうまく)」という多層構造になっています。

胃がんは、まずこの最も内側の粘膜に発生し、時間が経過するにつれて胃の壁の深い層へと広がっていきます。

この病気の大きな特徴は、早い段階で見つけることができれば、内視鏡(胃カメラ)を使ってがんの部分だけを切り取る治療で、おなかを切らずに治せる可能性が非常に高いという点です。

一方で、発見が遅れてがんが胃の壁を突き抜けたり、リンパ節や肝臓といった他の臓器に「転移」したりすると、全身的な治療が必要になります。

だからこそ、病気の成り立ちを正しく理解し、定期的な確認を行うことが大切なのです。

胃がんの種類と特徴

一口に胃がんと言っても、顕微鏡で組織を観察した際の特徴によって、いくつかの種類に分類されます。

最も多いのは「腺がん(せんがん)」と呼ばれるタイプで、さらに「分化型」と「未分化型」の二つに大きく分けられます。

「分化型」は、進行が比較的緩やかで、がんがまとまって増える傾向があります。主に高齢の方に多く見られるのが特徴です。

対して「未分化型」は、若い世代にも見られることがあり、がん細胞がバラバラに広がりやすく、進行が早い傾向にあります。

どのようなタイプであっても、発生のきっかけとなるのは、胃の粘膜が長期間の炎症によって傷つき、細胞のコピーミスが起こることだと考えられています。

胃の痛みがある男性のイラスト

初期症状の具体例

胃がんの初期段階において、最も注意すべき点は「胃がん特有の症状というものはほとんどない」という事実です。

多くの場合、初期に見られる症状は、胃炎や胃潰瘍(いかいよう)といった、がん以外の疾患でもよく見られるものばかりです。

具体的には、以下のような違和感が挙げられます。

・みぞおちあたりの軽い痛み
・胃のもたれ、または重苦しい感じ
・食欲の低下、あるいは食欲不振
・なんとなく胃がすっきりしない不快感
・胸やけや、げっぷが頻繁に出る

これらの症状が出たとしても、市販の胃薬を飲んで症状が和らぐと、「ただの疲れだろう」と見過ごしてしまいがちです。

しかし、一時的に良くなったとしても、原因が胃がんである場合は病気が進行している可能性があります。

自覚しにくい症状とは

胃がんは自覚症状が表れにくい病気と言われています。

特に早期の段階では、自覚症状がまったくない人が全体の大部分を占めています。

がんが胃の広い範囲に広がっていない限り、食べ物の通り道が塞がれることもなく、痛みを感じる神経に触れることも少ないため、本人は「健康そのもの」と感じていることが多いのです。

また、「貧血」が初期のサインとして現れることもあります。

がんの表面からごく少量ずつ出血が続くと、徐々に血液が足りなくなり、階段を上る際の息切れや、立ちくらみ、全身のだるさを感じることがあります。

これらは「年齢のせい」と片付けられやすい症状ですが、実は胃の中の異変を知らせる体からのメッセージである可能性も否定できません。

塩

生活習慣と食事の影響

胃がんの発症には、長年の生活習慣が深く関わっていることが分かっています。

特に日本において大きな要因とされているのが「塩分の過剰摂取」です。

塩分の濃い食事は胃の粘膜を保護する膜を壊し、炎症を引き起こしやすくします。

漬物や干物、ラーメンのスープなどの摂取量が多い方は、注意が必要です。

また、「喫煙」も胃がんのリスクを確実に高める要因です。

タバコの煙に含まれる有害物質は、肺だけでなく、唾液と一緒に胃に流れ込むことで胃の粘膜を直接傷つけます。

さらに、野菜や果物の摂取不足も、胃粘膜の修復を妨げる要因になると考えられています。

遺伝的要因と環境要因

近年の研究で、胃がんの最大の原因として注目されているのが「ヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)」への感染です。

日本人の胃がん患者さんの多くが、このピロリ菌に感染していることが分かっています。

ピロリ菌は胃の粘膜に住み着き、数十年という長い時間をかけて慢性的な胃炎(慢性胃炎)を引き起こします。

この炎症が続くことで胃の粘膜が薄くなる「萎縮(いしゅく)」が進み、最終的にがんが発生しやすい土壌が作られてしまうのです。

遺伝的な要因については、家族に胃がんを経験した人がいる場合、そうでない方に比べて発症の可能性が高まるという報告があります。

これは遺伝子そのものの影響だけでなく、「塩分を好む」「ピロリ菌を共有しやすい」といった、家族共通の生活環境や食習慣が関連しているとも考えられています。

胃カメラを実施しているイラスト

胃カメラ(内視鏡検査)の重要性

胃がんを早期に発見するために、最も確実で重要な検査が「胃カメラ(内視鏡検査)」です。

これは、先端に高性能なカメラがついた細い管を口や鼻から挿入し、胃の内部を直接モニターで観察する検査です。

胃カメラの最大の利点は、粘膜のわずかな色の変化や小さな凹凸を直接確認できることです。

また、もし疑わしい箇所(病変)が見つかった場合、その場で組織の一部を採取(生検)し、後日「病理検査」によって、それががんかどうかを確定診断することができます。

最近のクリニックや診療所では、苦痛を抑えるために鎮静剤(眠くなる薬)を使用したり、鼻から入れる細いタイプのカメラ(経鼻内視鏡)を選択できたりする場所が増えています。

以前に比べて、受ける側の身体的負担は大きく軽減されています。

バリウム検査とその役割

健康診断や人間ドックで広く行われているのが「バリウム検査(胃X線検査)」です。

白い造影剤(バリウム)と、胃を膨らませる発泡剤を飲み、レントゲン車の中で体を動かしながら胃の形や粘膜の表面を撮影します。

バリウム検査は、胃全体の形や、食べ物の流れ、胃の壁の硬さなどを一度に確認するのに適しています。

ただし、あくまで影絵として観察するため、ごく小さな初期のがんを見つける能力は胃カメラに一歩譲ります。

バリウム検査で「異常あり(要精密検査)」という結果が出た場合は、必ず次のステップとして胃カメラを受ける必要があります。

体重計とメジャー

進行した場合の主な症状

がんが進行し、粘膜から深い層(筋層など)まで広がってくると、症状はよりはっきりと現れるようになります。

代表的なものに「体重減少」があります。特にダイエットをしているわけではないのに、数ヶ月で数キロ体重が落ちる場合は、体がエネルギーをがんに奪われていたり、消化吸収の機能が落ちていたりするサインです。

また、「黒色便(こくしょくべん)」と呼ばれる、真っ黒な便が出ることがあります。

これは胃の中でがんから出血した血液が、胃酸と混ざって黒く変色し、大腸を通って排出されるためです。

「イカ墨のような黒い便」が出た際は、速やかに内科や専門のクリニックを受診してください。

さらに進行すると、食べ物が胃を通過しにくくなることで、激しい吐き気や嘔吐(おうと)、食後の腹痛などが頻繁に起こるようになります。

早期発見の重要性

ここで強調したいのは、胃がんは「症状が出てから見つける」のではなく「症状がないうちに見つける」ことが、その後の人生を大きく左右するということです。

早期に発見された胃がんであれば、5年後の生存率は90%を超えるとされています。

さらに、内視鏡による切除だけで治療が終わることも多く、胃を大きく切り取る手術を避けられる場合もあります。

「忙しいから」「怖いから」という理由で検査を後回しにせず、定期的に自分の胃の状態を確認する習慣を持つことが、何よりの自分への贈り物になります。

検診のお知らせの紙

生活習慣の見直し

胃がんの予防において、まず取り組みたいのは食生活の改善です。

今日からできることとして、「減塩」を意識しましょう。お味噌汁の回数を減らす、醤油を「かける」のではなく「つける」ようにするといった小さな工夫の積み重ねが、胃の粘膜を守ることにつながります。

また、抗酸化作用のある新鮮な野菜を積極的に摂取することも推奨されます。

次に、禁煙です。タバコを辞めることは、胃がんだけでなく、肺がんや食道がん、生活習慣病全体の予防に直結します。

自分一人で辞めるのが難しい場合は、医療機関の「禁煙外来」に相談するのも一つの手です。

定期的な健康診断のすすめ

最も効果的な予防的措置は、定期的な健康診断や検診を受けることです。

特に50歳以上の方は、お住まいの市区町村が行っている胃がん検診の案内を確認してみてください。

多くの場合、非常に少ない自己負担額で検査を受けることができます。

また、一度も調べたことがない方は、医療機関で「ピロリ菌の有無」を確認する血液検査を受けることを強くおすすめします。

もし感染が分かったとしても、1週間程度お薬を飲む「除菌治療」を行うことで、将来の胃がん発症のリスクを大幅に下げることが可能です。

最近では、インターネットで事前に予約ができたり、土曜日や祝日にも診療を行っている内視鏡検査が行えるクリニックも増えています。

最寄りの駅から徒歩圏内の通いやすい医院を見つけるなどして、自分に合ったスタイルで検診を継続していきましょう。

胃がんという言葉を聞くと、どうしても「怖い」「辛い治療になるのではないか」というイメージが先行してしまいがちです。

しかし、今回お伝えした通り、胃がんは正しく理解し、適切に対処すれば、決して恐れすぎる必要はない病気です。

大切なのは、ご自身の体のわずかな変化に耳を傾けること、そして何より、定期的な検査を「自分を守るための大切な行事」として生活に取り入れることです。

「何も症状がないから大丈夫」ではなく、「何も症状がない今だからこそ、安心を確認しに行こう」という前向きな気持ちで、検診に足を運んでいただければと思います。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。