胃がんステージ4の余命と治療の選択肢を解説
胃がんのステージ4と診断を受けたとき、頭の中が真っ白になり、これからの未来が突然閉ざされたような感覚に陥る方は少なくありません。
特にインターネットで情報を探すと、まず目に飛び込んでくるのが余命や生存率といった、胸を締め付けるような数字ではないでしょうか。
しかし、現代の医療において、ステージ4という診断は決してすべての終わりを意味するものではありません。
2026年を迎えた今、医療技術は日進月歩で進化しており、かつては難しかった状況でも、がんと共に長く、自分らしい時間を過ごせるケースが増えています。
大切なのは、数字に振り回されることではなく、現在の状態を正しく理解し、どのような選択肢があるのかを知ることです。
このコラムでは、胃がんステージ4の状態から、気になる余命の捉え方、最新の抗がん剤治療、そして心と体の痛みを和らげる緩和ケアまで、患者様とご家族が前向きにこれからの時間を組み立てるための情報を詳しくお届けします。
胃がんステージ4の状態とは

遠隔転移と全身治療の選択
胃がんの進行度は、ステージ1からステージ4まで分類されます。
ステージ4とは、がん細胞が胃という組織を離れ、遠くの臓器や場所に広がっている状態を指します。
これを医学用語で遠隔転移と呼びます。
具体的には、以下のような状態が含まれます。
腹膜播種(ふくまくはしゅ)
おなかの中の膜に、がん細胞が種をまいたように散らばっている状態。
これにより腹水がたまったり、腸の動きが悪くなったりすることがあります。
肝転移
血液の流れに乗って、肝臓にがんが転移している状態。
肺転移
同様に、肺にがんが転移している状態。
遠隔リンパ節転移
胃の周りだけでなく、首の付け根や大動脈の周りなど、離れた場所のリンパ節にがんが広がっている状態。
このように、がん細胞が全身のどこかに存在している可能性が高い場合、特定の部位だけを手術で処置しても、他の場所にある細胞が再び増殖してしまうリスクが非常に高いと考えられます。
そのため、ステージ4ではおなかを切る手術よりも、全身に薬を届ける全身治療が優先して選ばれるのです。
薬物療法が選ばれる理由
多くの方ががん=手術で切り取るものというイメージを持っていますが、ステージ4においては、安易に手術を行うことが必ずしもプラスになるとは限りません。
大きな手術は体に強い負荷をかけ、免疫力を一時的に低下させます。目に見えないレベルのがん細胞が全身に散らばっている状態で、手術のダメージからの回復に時間を取られてしまうと、その間にがんが進行してしまう恐れがあるからです。
そのため、現在の標準的な治療方針では、まず薬の力で全身のがんをコントロールすることを目指します。これを薬物療法と呼びます。
ただし、がんによって胃から出血が止まらなかったり、食べ物が全く通らなくなったりといった、命に関わる緊急の症状がある場合には、例外的に症状緩和を目的とした手術が検討されることもあります。
余命と統計の正しい捉え方

統計上の生存率が意味すること
ステージ4と診断された際、最も気になるのはあとどのくらい生きられるのかという点でしょう。
多くの病院やサイトでは5年生存率というデータが紹介されています。胃がんステージ4における5年生存率は、一般的に10%未満といった厳しい数字で示されることが多いのが現状です。
しかし、この数字を見るときには、いくつかの注意点があります。
まず、現在示されている5年生存率は、あくまで数年以上前に治療を受けた患者さんのデータをまとめたものです。最新の治療を受けている方の結果ではありません。
医療の進歩は非常に速く、新しい薬が次々と登場しているため、過去のデータは必ずしも今のあなたの未来を映し出しているわけではないのです。
また、生存期間中央値という言葉もよく使われますが、これはあくまでもその治療を受けた集団全体のうちの真ん中あたりの経過を示す統計値です。
それよりも遥かに長く元気に過ごされている方もいれば、進行が早い方もいる。つまり、統計はあくまで集団の傾向であり、目の前にいる個人の予後を断定したり、寿命を予言したりするものではないのです。
データと個人の経過の違い
余命半年などといった具体的な期間を告げられたとしても、それはあくまで現時点の状態からの予測です。
胃がんの進行スピードや薬の効きやすさは、人によって大きく異なります。
・がんのタイプ(悪性度)
増殖がゆっくりなタイプか、早いタイプか。
・本人の体力(全身状態)
食事がしっかり摂れているか、筋力が維持されているか。
・併存疾患
他に大きな持病がないか。
最近では、特定の遺伝子変異に合わせた薬や免疫チェックポイント阻害薬の効果により、ステージ4であっても数年以上にわたって病状を安定させ、仕事を続けながら生活している方も珍しくありません。
余命という言葉を、残された時間を数えるための数字ではなく、これからの時間をどう充実させるかを計画するための指標として捉え直すことが、心の平穏につながります。
ステージ4における最新の薬物療法

標準的な抗がん剤治療の流れ
ステージ4の胃がん治療の柱となるのが、抗がん剤治療です。
現在は、患者様の状態に合わせて、第一選択(1次治療)、第二選択(2次治療)というように、使える薬を順次切り替えながら、長くがんと付き合っていく戦略が取られます。
一般的な1次治療では、2種類から3種類の抗がん剤を組み合わせて使用します。
飲み薬と点滴を併用するケースが多く、がんの増殖を抑え、腫瘍を小さくすることを目的とします。
抗がん剤と聞くと激しい吐き気や脱毛でボロボロになるというイメージがあるかもしれませんが、最近は副作用を抑える薬が飛躍的に良くなっており、外来に通いながら、日常生活や趣味を楽しみつつ治療を続けている方も非常に増えています。
免疫チェックポイント阻害薬と個別化医療
近年、胃がん治療の景色を大きく変えたのが個別化医療と免疫療法です。治療を始める前に、がん細胞の性質を調べる詳細な病理検査や遺伝子検査を行います。
・HER2(ハーツー)検査
がん細胞の表面にHER2というタンパク質がある場合、それをピンポイントで攻撃する分子標的薬を使用できます。
・MSI(マイクロサテライト不安定性)検査
免疫チェックポイント阻害薬が効きやすい体質かどうかを調べます。
・PD-L1検査
免疫療法の効果を予測する指標の一つです。
特に免疫チェックポイント阻害薬は、本来体が持っている免疫の力を再び呼び覚まし、がん細胞を攻撃させる治療法です。
これまでの抗がん剤とは異なる仕組みで働くため、従来の薬が効きにくかったケースでも、劇的な効果が見られることがあります。
このように、自分の検査結果に合った最適解の治療法を選択できる時代になっています。
緩和ケアの役割

苦痛を和らげることは治療の一部
緩和ケアと聞くと、もう治療法がなくなった末期がんの人が受けるものというイメージを持つ方がいらっしゃいますが、これは大きな誤解です。
現在の医療において、緩和ケアは診断されたときから、抗がん剤治療と並行して行うものと位置づけられています。
ステージ4の治療において、最も重要なのは治療を継続できる体力を維持することです。
がんによる痛み、食欲不振、激しい倦怠感、腹水によるおなかの張りなど、心身の苦痛を放置しておくと、体力も気力も削られ、せっかくの抗がん剤治療も続けられなくなってしまいます。
早期から緩和ケアチームが介入し、痛み止めを適切に使い、不安を解消することで、結果的に生存期間が延びたという研究データも存在します。
緩和ケアは、決して諦めるためのものではなく、より良く生きるための積極的な治療なのです。
体の痛みと心のつらさへの対応
がんの進行に伴う痛みには、医療用麻薬を含めたさまざまな鎮痛薬が使われます。
麻薬を使うと依存症になるのではないか、命が短くなるのではないかという不安を耳にすることがありますが、医師の指導のもとで適切に使用する限り、そのような心配はほぼありません。
痛みがコントロールされることで、夜にぐっすり眠れるようになり、日中の活動量が増えることの方が、体にとっては遥かに大きなメリットとなります。
また、診断を受けたときのショックや、死に対する恐怖、家族への申し訳なさといった心のつらさも、ケアの対象です。
病院の臨床心理士などに相談し、必要に応じて抗不安薬などを用いることも、心のエネルギーを回復させるために有効な手段です。
がんと共に自分らしく生きる

生活の質(QOL)を維持する食事
ステージ4の治療を続ける中で、最も身近な悩みとなるのが食事です。
胃がんの進行や抗がん剤の影響で、食欲が落ちたり、体重が急激に減少したりすることがあります。
がんに栄養を取られるから、甘いものは控えた方がいいといった極端な情報に惑わされる必要はありません。
今のあなたにとって最も大切なのは、食べられるものを、食べられるときに、美味しく摂ることです。
・少量頻回食
1回の量を減らし、1日に5〜6回に分けて食べる。
・栄養補助食品の活用
ドリンクタイプの高エネルギー食品などを上手に利用する。
・味覚の変化への対応
亜鉛の不足などで味が変わることがあるため、調味料を工夫する。
また、無理のない範囲で散歩やストレッチを行うことも、筋力の低下を防ぎ、気分をリフレッシュさせる効果があります。
病気だから安静にしていなければならないと考えすぎず、自分が心地よいと感じる活動を続けることが、生活の質の維持につながります。
納得できる治療を選ぶために
ステージ4の治療では、医師にすべてを任せるのではなく、自分の希望を伝えることがとても大切です。
副作用が強くても、できるだけ長く生きたいという方もいれば、家族との旅行に行きたいから、一時的に休薬したい、できるだけ痛みなく、自宅で過ごしたいという方もいます。
これからの治療のゴールをどこに置くかを医師と共有し、共に決めていくプロセスを共有意思決定と呼びます。
セカンドオピニオン(他の病院の専門医の意見を聞くこと)を検討することも、納得感を持って治療を受けるための正当な権利です。どのような選択をしても、あなたが選んだ道が、あなたにとっての正解になります。
家族へのサポートと相談窓口

家族の心のケアと休息の必要性
がん患者様を支えるご家族は、いわば第二の患者とも呼ばれるほど、精神的・肉体的に大きな負担を抱えます。
本人が一番つらいのだから、自分が弱音を吐いてはいけないと、ご自身の疲れや悲しみを押し殺してしまっていませんか?
ご家族が倒れてしまっては、患者様の生活も立ち行かなくなります。
時には、訪問看護やヘルパーなどの介護保険サービスを利用したり、ご自身の趣味の時間を持ったりすることで、適切な休息を取るようにしてください。
ご家族が穏やかでいることが、患者様にとっても最大の安心材料となります。
活用できる制度・窓口
ステージ4の治療は長期間にわたることが多く、経済的な不安も無視できません。
日本には高額療養費制度という、1ヶ月に支払う医療費の上限を決める制度があります。
また、障害年金や介護保険など、活用できる社会資源は意外と多く存在します。
どこに相談すればよいか迷ったときは、がん診療連携拠点病院などに設置されているがん相談支援センターがあります。
その病院に通院していなくても、無料で誰でも相談に乗ってくれます。
電話での問い合わせを受け付けている場所も多く、医療ソーシャルワーカーが、費用の問題から、今後の生活、利用できる施設の一覧まで、詳細にアドバイスしてくれます。
一人で抱え込まず、専門のスタッフや同じ悩みを持つ患者会など、周囲の助けを積極的に利用してください。
あとがき
胃がんステージ4という現実は、確かに重く、険しい道のりかもしれません。しかし、がんと共生するための手段は昔と比べてかつてないほど増えています。
余命という統計上の数字は、あくまで過去の平均に過ぎません。
あなたの明日は、最新の医学、適切なケア、そしてあなた自身の意志によって、これから作られていくものです。
余命という統計上の数字は、あくまで過去の平均に過ぎません。
今後の治療や生活のあり方を検討する際、確かな情報と医療体制は大きな助けとなります。
患者様が納得できる選択をし、日々の生活を少しでも安定して過ごしていくことを大切にしてください。
