GIST(消化管間質腫瘍)とは?治療や胃がんとの違いを解説
健康診断の胃カメラ検査や、腹痛による精密検査の結果、ごくまれに聞き慣れない病名を告げられることがあります。その一つが、GIST(消化管間質腫瘍)です。
GISTは、一般的な胃がんとは性質が大きく異なる疾患であり、希少がんの一つに分類されます。
年間の発症頻度は10万人に1人から2人程度とされており、非常に珍しい病気です。
そのため、インターネットなどで情報を探しても、一般的ながんに比べて体験談や解説記事が少なく、不安を感じている患者様やご家族も少なくありません。
しかし、GISTは近年の医学研究によって原因となる遺伝子の異常が解明され、新しい薬の開発や手術療法の確立が進んでいる分野でもあります。
正しく病気を理解し、適切な医療機関で診療を受けることで、良好な経過を辿ることが十分に可能な疾患です。
本コラムでは、GISTの基礎知識から最新の治療方針まで、客観的に詳しく解説します。
GIST(消化管間質腫瘍)の基本知識

GISTはどのような病気?
GISTは、食道、胃、小腸、大腸といった消化管の壁の内部に発生する悪性腫瘍の一種です。
名称に含まれる「間質(かんしつ)」とは、臓器の機能を支える土台となる部分を指します。
私たちの消化管は、食べ物を運ぶために常に一定のリズムで動いています。この動きをコントロールしている特殊な細胞(ICC)が、何らかの原因で異常に増殖し、腫瘍化したものがGISTであると考えられています。
発症する部位は胃が最も多く、全体の約6割から7割を占めます。次いで小腸に多く、その他にも食道や大腸など、消化管のあらゆる場所に発生する可能性があります。
がんという言葉は一般的に、臓器の表面を覆う粘膜から発生する「癌(がん)」を指しますが、GISTは粘膜の下にある筋肉の層などから発生するため、医学的には肉腫(にくしゅ)という分類に近い性質を持っています。
一般的な胃がんとの違い
GISTと一般的な胃がんの最大の違いは、発生する場所とその性質です。
胃がんは、胃の最も内側にある粘膜から発生します。そのため、胃カメラなどの内視鏡検査で表面を直接観察すれば、比較的早期に発見することが可能です。
一方、GISTは粘膜の下、つまり壁の厚みの中に発生するため、内視鏡で見ると粘膜が下から押し上げられているように見えます。これを粘膜下腫瘍と呼びます。
また、周囲への広がりの仕組みも異なります。胃がんは周囲のリンパ節へ転移しやすいという特徴がありますが、GISTはリンパ節への転移は非常に稀です。
その代わり、血液の流れに乗って肝臓や肺などの離れた臓器へ転移したり、おなかの中(腹膜)に種をまいたように広がったりする性質があります。
さらに、治療に使用する薬も全く異なります。
一般的な胃がんに使われる化学療法剤(抗がん剤)はGISTにはほとんど効果がありません。
その代わりに、原因となる遺伝子の異常を直接抑える分子標的薬という特別な種類の薬が用いられます。
GISTの症状と診断のプロセス

主な症状
GISTは早期の段階では自覚症状がほとんどありません。腫瘍が小さいうちは無症状であることが多く、健康診断や他の病気の検査中に偶然発見されるケースが少なくありません。
しかし、腫瘍がある程度の大きさになると、以下のような症状が現れることがあります。
・消化管内への出血
腫瘍によって粘膜が傷つき、血が出ることがあります。
これにより便が黒くなったり、吐血したりすることがあります。
・貧血
少量ずつの出血が続くと、血液中の鉄分が不足し、息切れやだるさを感じるようになります。
・腹痛や腹部の違和感
腫瘍が大きくなり周囲を圧迫することで、痛みや膨満感が生じることがあります。
・吐き気や食欲不振
腫瘍が食べ物の通り道を塞ぐようになると、胸やけや吐き気が現れることがあります。
これらの症状は、胃潰瘍や他のがんでも見られるため、症状だけでGISTを特定することは難しいのが現実です。
検査と確定診断
診断のためには、まず内視鏡やCT検査が行われます。
内視鏡検査では、胃や食道の粘膜が不自然に盛り上がっていないかを確認します。ただし、表面をなぞるだけでは「粘膜の下に何らかの腫瘍がある」ということまでしか分かりません。
そのため、より詳しく調べるために超音波内視鏡という検査が行われることもあります。
これは内視鏡の先端に超音波装置をつけたもので、胃の壁のどの層から腫瘍が発生しているかを詳細に観察できます。
最も確実な診断方法は、腫瘍の一部を採取して顕微鏡で調べる組織検査です。
しかし、GISTは粘膜の下にあるため、通常の内視鏡で組織を採取することは困難です。
そこで、超音波内視鏡で確認しながら、胃の壁越しに細い針を刺して組織を吸い出す超音波内視鏡下針生検(EUS-FNA)という高度な検査が行われます。
採取された組織で、KIT(キット)というタンパク質や遺伝子の異常が確認されれば、GISTという診断が確定します。
進行度とリスク分類の考え方

腫瘍の大きさと分裂数による評価
一般的ながんの進行度はステージで表されますが、GISTでは手術後の再発のしやすさを評価するリスク分類という考え方が用いられます。
この分類によって、その後の経過観察の頻度や、再発予防のための薬物療法の必要性が判断されます。
評価の基準は主に二つです。
一つは腫瘍の大きさです。腫瘍が大きければ大きいほど、悪性度が高いと判断される傾向にあります。
もう一つは、核分裂像という指標です。これは顕微鏡で観察した際に、細胞がどれくらいの頻度で増殖(分裂)しているかを示すもので、分裂数が多いほど進行のスピードが速いと予測されます。
この二つの要素に、発生した部位(胃なのか、小腸なのか)を組み合わせて、再発のリスクを「超低」「低」「中」「高」の4段階で分類します。
一般的に、小腸にできたGISTは胃にできたものよりも再発のリスクが高いとされています。
転移がある場合の判断
もし発見された時点で、肝臓や肺などの他の臓器に転移が見られる場合、あるいは腹膜に播種が見られる場合は、リスク分類に関わらず、全身的な治療が必要な状態と判断されます。
転移がある場合でも、GISTは薬物療法の効果が非常に高い疾患であるため、医師と相談しながら治療方針を決定していくことが重要です。
CT検査などの画像診断の結果を定期的に確認し、腫瘍の大きさの変化を観察しながら、最適な治療が継続されます。
外科的治療の役割

手術による切除の適応
転移がないGISTの治療において、最も基本となるのは手術による切除です。
GISTは周囲の組織へ深く浸潤することが少なく、一塊として取り除くことができれば根治が期待できます。
胃がんのようにリンパ節を広範囲に郭清(取り除くこと)する必要がほとんどないため、腫瘍から一定の距離を保って胃の壁を切り取る部分切除が主に行われます。
手術を行う目安は、一般的に腫瘍の大きさが2センチ以上の場合です。2センチ以下の小さなものであっても、超音波内視鏡検査などで悪性を疑わせる特徴がある場合には手術が検討されます。
逆に、非常に小さく悪性の特徴が乏しい場合は、定期的な経過観察となることもあります。
臓器の機能を温存する手術
GISTの手術では、胃や腸の機能を可能な限り温存することが可能です。
近年では、おなかに小さな穴を開けて行う腹腔鏡手術が広く行われています。
腹腔鏡手術は、開腹手術に比べて傷が小さく、術後の痛みが少ないため、早期の退院や社会復帰が可能です。
胃の出口に近い部位(幽門部)や入り口に近い部位(噴門部)に発生した場合は、胃の機能を残すために工夫が必要となります。
外科の医師は、腫瘍を確実に取り除きつつ、術後の食生活に大きな支障が出ないよう、最適な術式を選択します。
手術後は、切除した組織を再び詳しく調べ、最終的なリスク分類が確定されます。
薬物療法と分子標的薬の効果

GISTにおける薬物療法の目的
手術で腫瘍を取りきることが難しい場合や、他の臓器へ転移している場合、あるいは手術後の再発リスクが高いと判断された場合に、薬物療法が行われます。
GISTにおける薬物療法の目的は、腫瘍の増殖を抑えて小さくすること、そして目に見えないレベルの残存細胞による再発を防ぐことにあります。
先述した通り、GISTには通常の抗がん剤(化学療法)は効果がほとんど期待できません。その代わり、GISTの発症に関与しているKITというタンパク質の働きをブロックする分子標的薬が使用されます。
この薬の登場により、GISTの治療成績は飛躍的に向上しました。
主な分子標的薬と副作用への対応
現在、第一選択として使用される主な薬はイマチニブ(商品名グリベック)です。
これは1日1回、毎日決まった時間に服用する飲み薬です。 転移がある場合は長期的に服用を続けます。
また、手術後の再発リスクが高い患者様に対しては、再発予防を目的として3年間程度、この薬を服用することが推奨されています。
イマチニブには、以下のような副作用が見られることがあります。
・顔や足のむくみ
・吐き気や腹痛
・倦怠感(だるさ)
・下痢
・発疹などの皮膚の症状
・血液中の白血球や血小板の減少
副作用の出方には個人差がありますが、多くの場合は症状を和らげる薬を併用したり、一時的に休薬したりすることで、治療を継続することが可能です。
副作用を恐れて自己判断で服用を中止すると、治療効果が損なわれる可能性があるため、必ず主治医や薬剤師に相談することが重要です。
また、イマチニブの効果が不十分になった場合には、第2、第3の薬(スニチニブ、レゴラフェニブなど)を選択することも可能です。
再発予防と長期的な経過観察

定期的な検査の重要性
手術によって腫瘍を完全に切除できたとしても、GISTには再発のリスクが残ります。
そのため、治療後も長期間にわたる経過観察が欠かせません。
検査の間隔はリスク分類に基づいて決められます。リスクが高い方の場合は3ヶ月から半年ごと、低い方の場合は1年ごとといったスケジュールで、CT検査や内視鏡検査、血液検査などが行われます。
再発が最も起こりやすい部位は肝臓であり、次いでおなかの中(腹膜)です。
これらは自覚症状が出にくいため、画像検査によって早期に発見することが何より重要です。
もし再発が見つかった場合でも、速やかに薬物療法を開始することで、病状を長期にわたってコントロールできる可能性が高まっています。
日常生活で意識すべき点
治療後の生活において、特別な食事制限が必要になることは多くありません。胃を部分的に切除した場合は、手術直後は消化の良いものを中心にし、徐々に普段の食事に戻していきます。
最も大切なのは、決められた通院日を守り、自身の体調の変化を注意深く観察することです。
急激な体重減少や、原因不明の腹痛、黒い便などが出た場合は、次回の診療を待たずに病院を受診してください。
また、GISTは希少がんであるため、専門的な知識を持った医師や拠点病院での診療が望ましいとされています。
自身が受けている治療内容について疑問がある場合は、セカンドオピニオンを利用して他の医療機関の意見を聞くことも、納得して治療を続けるための有効な手段です。
あとがき
GISTは10万人に1人、2人という珍しい病気であり、診断された当初は情報不足から戸惑うことも多いでしょう。
しかし、本コラムで解説した通り、GISTは発生メカニズムが解明されており、有効な治療方針が確立されている疾患です。
一般的な胃がんとは異なる性質を理解し、分子標的薬や手術療法を適切に組み合わせることで、がんと共生しながら日常生活を維持することは十分に可能です。
医療機関が提供する情報を正しく活用し、専門の医師と信頼関係を築きながら治療に取り組むことが、何よりの支えとなります。
研究は現在も進行しており、新しい薬剤や治療の選択肢も増え続けています。
ご自身やご家族のこれからの生活を支えるための道具として、本コラムの内容をお役立ていただければ幸いです。
