2026.01.23

トリプルネガティブ乳がんとは?特徴・治療・予後を詳しく解説

胸に手をあてる女性

乳がんと診断された際、多くの方がまず直面するのが「自分の乳がんはどのタイプなのか」という点です。

乳がんは単一の病気ではなく、細胞の性質によっていくつかのサブタイプに分類されます。

その中でもトリプルネガティブ乳がんは、その名称の響きやかつて抱かれていた治療が難しいというイメージから、患者様やご家族に強い不安を与えることが少なくありません。

しかし、医療技術が目覚ましく進歩している2026年現在、トリプルネガティブ乳がんを取り巻く状況は劇的に変化しています。

新しいメカニズムの薬剤や、個々の遺伝子変異に合わせた個別化医療が導入され、治療の選択肢は以前とは比べものにならないほど広がっています。

本コラムでは、トリプルネガティブ乳がんの基礎知識から、診断の重要性や最新の治療法、そして遺伝性乳がんへの対応や日常生活でのケアまで解説します。

ピンクリボン。横には聴診器

3つの指標が意味するもの

乳がんの細胞には、増殖を助けるための「受容体」と呼ばれる鍵穴のようなタンパク質が存在することがあります。

通常、乳がんのタイプを決定する際には、以下の3つの指標を調べます。

・ER(エストロゲン受容体):女性ホルモンであるエストロゲンを取り込む受容体。
・PgR(プロゲステロン受容体):別の女性ホルモンであるプロゲステロンを取り込む受容体。
・HER2(ハーツー):がん細胞の増殖を促す指令を送るタンパク質。

トリプルネガティブ乳がんとは、これら3つの受容体がすべて陰性であることを指します。

つまり、女性ホルモンを栄養源(増殖の刺激)として利用するタイプではなく、またHER2タンパクを過剰に持っているタイプでもないという、独立した性質を持っています。

他のタイプとの性質の違い

乳がんの約6割から7割を占める「ホルモン受容体陽性」のタイプは、ホルモン療法が非常に有効です。

また、「HER2陽性」のタイプには、HER2標的薬という強力な薬剤が使えます。

一方で、トリプルネガティブ乳がんにはこれらの受容体が存在しないため、従来のホルモン療法やHER2標的薬が効かないという特徴があります。

統計的には乳がん全体の約10パーセントから15パーセントを占め、比較的若年の女性に発症しやすい傾向が認められています。

また、他のがん細胞に比べて増殖の速度が速く、発見された時にはすでに一定の大きさに進行していることや、リンパ節転移が見られることも少なくありません。

こうした性質から、以前は予後が厳しいと言われることもありましたが、それは特定の標的を狙う薬が限られていた過去の話になりつつあります。

トリプルネガティブの強み

トリプルネガティブ乳がんは、化学療法(抗がん剤治療)に対する感受性が非常に高いという側面を持っています。

標的となる受容体を持たない代わりに、細胞分裂そのものを攻撃する薬剤が効果を発揮しやすいのです。

また、近年では細胞の表面だけでなく、細胞の内部にある遺伝子の特徴に基づいた新しいアプローチが次々と開発されています。

ピンク色の花

サブタイプを確定させる検査

乳房にしこりや異常を感じてクリニックを受診すると、まずマンモグラフィやエコー(超音波)による画像検査が行われます。

ここで腫瘍の疑いがある場合、最も重要になるのが生検です。

生検とは、細い針を病変部に刺して組織を直接採取し、顕微鏡で詳しく調べる検査です。

この病理診断によって、単に「癌であるかどうか」だけでなく、ER、PgR、HER2の発現状況を確認し、トリプルネガティブというサブタイプを確定させます。

この確定診断こそが、治療の全行程を決定する根幹をなすステップとなります。

治療方針を決めるプロセスの重要性

診断の結果、トリプルネガティブであることが分かると、次に全身の広がりを調べるためにCTやMRI、PET-CTなどの追加検査が行われます。

これにより、がんの大きさ、周囲の組織への浸潤の程度、リンパ節や他臓器(肺、骨、脳など)への転移の有無を正確に評価します。

トリプルネガティブ乳がんの場合、手術の前に抗がん剤治療を行う「術前化学療法」が検討されることが多いのも特徴です。

これには、手術前に腫瘍を小さくして乳房温存手術を可能にする目的だけでなく、薬の効果を直接確認し、術後の治療方針をより適切に修正できるという大きなメリットがあります。

主治医や外科医と密に相談し、一つひとつの検査結果に基づいた最適なプランを組み立てることが大切です。

患者と笑顔で話す医師

化学療法

トリプルネガティブ乳がんの治療において、長らく主役を務めてきたのは化学療法です。

ホルモン療法が適応とならない分、抗がん剤によってがん細胞を直接攻撃します。

一般的には、アントラサイクリン系やタキサン系と呼ばれる薬剤を組み合わせて投与します。

最近では、プラチナ製剤と呼ばれる種類の薬を追加することで、より高い治療効果が期待できることも明らかになってきました。

副作用として脱毛や吐き気、倦怠感などが現れることがありますが、現在はこれらを抑えるための支持療法も格段に進化しており、仕事を続けながら外来で通院治療を受ける方も増えています。

トリプルネガティブにおける最新の治療とは

2020年代に入り、トリプルネガティブ乳がんの治療体系は、免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療が確立されたことで一変しました。

・免疫チェックポイント阻害薬
がん細胞が免疫の攻撃を逃れるためにかけている「ブレーキ」を外す薬剤です。ペムブロリズマブ(キイトルーダ)などの薬剤を術前の化学療法に組み合わせることで、手術時にがん細胞が完全に消失する(病理学的完全奏効)確率が大幅に向上することが報告されています。
・ADC(抗体薬物複合体)
抗がん剤をミサイルのようにがん細胞へ直接届ける新しい技術を用いた薬剤です。サシツズマブ ゴビテカンなどの薬剤が、従来の治療で十分な効果が得られなかった再発・転移の状態でも、高い有効性を示すことが期待されています。
・PARP阻害薬
がん細胞の遺伝子修復機能を妨げる薬剤です。これは後述するBRCA遺伝子変異がある場合に適応となります。

これらの新しい選択肢の登場により、以前は化学療法しかないと言われていた状況から、一人ひとりの細胞の性質に応じた最適な組み合わせを選択できる時代へと移り変わっています。

病院の待合椅子

HBOC(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)との関係

乳がん全体の中で、遺伝的な要因が強く関係しているケースは約5パーセントから10パーセントと言われています。

特にトリプルネガティブ乳がんを若年で発症した場合、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)との関連が比較的高いことが知られています。

これは、親から子へと受け継がれるBRCA1またはBRCA2という遺伝子に、本来の機能を果たせなくなるような変化(変異)がある状態を指します。

この遺伝子変異がある場合、生涯のうちに乳がんや卵巣がんを発症する確率が一般よりも高くなります。

遺伝子検査を受けるタイミングと意義

現在は、特定の条件を満たす乳がん患者様に対して、この遺伝子検査は保険診療で行われます。

検査の結果、BRCA変異があると判明した場合、先述したPARP阻害薬という高い有効性が期待できる薬剤を選択できるという大きな治療上のメリットがあります。

また、自身の遺伝的な体質を知ることは、反対側の乳房の予防的な切除を検討したり、卵巣がんの早期発見・予防に繋げたりするなど、将来のリスク管理において非常に重要な情報となります。

家族への影響も含め、専門の病院や遺伝カウンセラーと十分に話し合い、納得した上で検査を受けることが大切です。

自身の体質を調べることは、決して怖いことではなく、未来の健康を守るための積極的な選択の一つなのです。

青空の下でストレッチする女性

再発リスクを下げるための習慣

治療を終えた後、あるいは治療中において、再発のリスクを可能な限り低く保つためにできることがあります。

まず重要なのは、適切な体重の維持です。特に閉経後の肥満は乳がんの予後に影響を与えることが研究で明らかになっています。

高脂肪な食事を避け、野菜中心のバランスの良い食事を心がけることが基本です。

次に、適度な運動です。週に数回のウォーキングや軽い筋トレなどは、体力を回復させるだけでなく、気持ちを前向きにし、再発抑制にも寄与する可能性が示唆されています。

無理のない範囲で、日々の暮らしに身体を動かす時間を取り入れましょう。

治療中の体調管理と心の支え

抗がん剤治療中は、白血球の減少による感染症や、手足のしびれ、肌の乾燥など、さまざまな身体の変化が起こります。

これらは決して我慢すべきものではなく、早めに医療従事者に伝えて適切な対処を受けることが、QOL(生活の質)を保つ鍵です。

また、トリプルネガティブという分類名に過度な不安を抱かず、自分自身の現在の状態を正確に理解することが大切です。

最近は、同じタイプの患者同士が情報を共有するコミュニティや、病院内の相談支援センターなど、一人で抱え込まないための仕組みが整っています。

家族もまた、患者様を支える大切なパートナーです。病気についての知識を家族で共有し、これからの時間をどう過ごしたいか、本音で話し合える関係を築くことが、何よりの心の支えとなります。

トリプルネガティブ乳がんと診断された際の不安は、計り知れないものがあるかと思います。

しかし、これまで解説した通り、医療の進歩によって治療の選択肢は着実に増えています。

大切なのは、正確な現状を把握し、主治医や医療チームと対話を重ねながら、ご自身が納得できる治療方針を選んでいくことです。

以前のように「治療法が限られている」という段階は過ぎ、現在は多様な選択肢の中から最適な道を探る時代になっています。

不安なことがあれば一人で抱え込まず、病院の相談窓口などを積極的に活用してください。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。