2026.02.10

抗がん剤の副作用「感染症」。免疫低下を防ぐ対策とサイン

氷嚢と体温計

がんという病気に立ち向かう抗がん剤治療は、私たちにとってとても大切なものです。その一方で、治療が始まると同時に、吐き気や脱毛など、さまざまな副作用が現れることも少なくありません。

数ある副作用のなかで、特に注意が必要なのが「感染症」です。

感染症と聞くと、「風邪くらいなら大丈夫」と思うかもしれませんが、抗がん剤治療中は、普段ではかからないような感染症にかかってしまう可能性があります。

このコラムでは、なぜ抗がん剤治療中に感染症に注意が必要なのか、そして毎日の生活で実践できる具体的な予防策についてご紹介します。

ご自身の毎日の生活の中で、少しでもお役に立てれば幸いです。

血管の構造の図解イラスト

抗がん剤治療は、がん細胞の増殖を抑えるために行われます。

がん細胞は、正常な細胞よりも速いスピードで分裂を繰り返すという特徴があります。

抗がん剤は、この「異常に活発な細胞分裂」を止めることで、がん細胞を弱らせたり死滅させたりします。

しかし、抗がん剤はがん細胞だけを選んで攻撃できるわけではありません。

私たちの体には、骨髄・皮膚・口の中の粘膜・腸の細胞など、日々新しく生まれ変わる“元気な正常細胞”も多く存在します。

抗がん剤は、こうした正常細胞にも影響を与えてしまうため、副作用が起こりやすくなるのです。

骨髄が受ける影響と「骨髄抑制」

その中でも特に影響を受けやすいのが「骨髄」です。

骨髄は、血液の細胞である赤血球・白血球・血小板などを作り出す工場のような場所です。

抗がん剤が骨髄の働きを弱めると、これらの血液細胞が十分に作られなくなり、数が減ってしまいます。

この状態を「骨髄抑制」と呼びます。

血液細胞が減ると、

  • 赤血球減少…疲れやすくなる(貧血)
  • 血小板減少…出血しやすくなる
  • 白血球減少…感染症にかかりやすくなる

といった影響が現れます。

特に重要なのが、白血球の中でも「好中球」と呼ばれる細胞の減少です。

好中球は、体に侵入した細菌やウイルスを素早く攻撃する、免疫の最前線のような存在です。

抗がん剤によって好中球が減ると、普段なら問題にならないような弱い病原体にも感染しやすくなります。

抗がん剤を投与してから 1〜2週間後に白血球が最も少なくなる とされ、この時期は「免疫力が落ちる期間」として特に注意が必要です。

発熱や喉の痛み、咳などの小さなサインでも早めに医療者へ相談することが大切です。

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熱をはかる女性

感染症の予防は非常に大切ですが、もし感染してしまった場合でも、早期に発見して適切な対応をとることが重要です。

体調に変化がないか、毎日気にかけてみましょう。

特に注意してほしい感染症のサインには、以下のようなものがあります。

発熱

感染症の最も一般的な症状です。体温は毎日決まった時間に測るようにしましょう。

37.5度以上の熱が出た場合は、すぐに病院に連絡することが大切です。

熱を出すと、寒気や関節の痛みを伴うこともあります。

咳や喉の痛み

風邪のような症状ですが、免疫力が低下しているときは重症化する可能性があります。

喉に痛みを感じたり、いつもと違う咳が出たりしたら注意が必要です。

その他の感染症のサイン

  • 口腔ケアの際:口の中に口内炎ができていないか、出血がないかなどをチェックしましょう。
  • 排尿や排便の際:排尿時の痛みや違和感、下痢や肛門周辺の腫れや痛みがないか確認しましょう。
  • 皮膚:皮膚に赤み、腫れ、熱感、発疹がないか、傷口が化膿していないかなど、注意深く観察しましょう。

これらの症状は、ご自身で判断せずに、早めに医療機関へ相談することが非常に重要です。

洗面台で手を洗う様子

抗がん剤治療中は免疫力が低下しやすく、普段なら問題にならないような細菌やウイルスでも感染を起こすことがあります。

ただし、日常のちょっとした工夫でリスクを大きく減らすことができます。

ご本人だけでなく、ご家族も一緒に取り組むことで、より安全な生活環境を整えられます。

手洗い・うがい・マスクを習慣に


感染症の多くは、手や口を通じて体内に入り込みます。基本的な対策を丁寧に行うことが、最も確実な予防になります。

・手洗い
外出後、食事の前、トイレの後は必ず石けんで手を洗いましょう。
指の間、爪の周り、手首までしっかり洗うことで、ウイルスや細菌を落としやすくなります。

・うがい
帰宅後のうがいは、口や喉に付着した病原体を洗い流すのに役立ちます。
水だけでも効果があります。

・マスク
人混みや病院など、感染リスクが高い場所では必ず着用しましょう。
ご家族も同じタイミングでマスクを使うと、家庭内感染の予防につながります。

食事と口腔ケアで体を守る

口の中は細菌が増えやすい場所であり、食事の内容によっても感染のリスクが変わります。

・食事の注意点
生魚・生肉・生卵・加熱が不十分な乳製品などは避け、食材は中心までしっかり火を通しましょう。
調理器具の衛生管理も大切です。

・口腔ケア
歯ブラシは柔らかめを選び、歯茎を傷つけないよう優しく磨きます。
口内炎や歯周病は細菌の入り口になりやすいため、口の中を清潔に保つことが感染予防に直結します。

生活環境と外出の工夫


生活環境を整えることで、日常的な感染リスクを大きく減らせます。

・人混みを避ける
免疫力が下がる時期は、できるだけ混雑した場所を避け、必要な外出は短時間で済ませましょう。
外出時はマスクを忘れずに。

・清潔な環境づくり
部屋の換気をこまめに行い、加湿器で乾燥を防ぐと、ウイルスが広がりにくくなります。

ペットがいる場合は、触れた後の手洗いを徹底するなど、少しの工夫で安全性が高まります。

体温計

「もしかして感染症かも…?」と不安に感じたときは、自己判断で市販薬を服用したりせず、すぐに医療機関に連絡することが重要です。

連絡のタイミング

  • 37.5度以上の熱が出たとき
  • 寒気や震えがあるとき
  • 咳や喉の痛みが続くとき
  • いつもと違う強い倦怠感があるとき
  • 排尿時や肛門周辺に痛みがあるとき
  • 傷口が赤く腫れてきたとき

これらの症状が一つでも見られたら、迷わず主治医や看護師に連絡しましょう。

時間外でも、病院の代表電話や救急外来に連絡すれば、対応してくれることがほとんどです。

まずはかかりつけ医に

まずは、ご自身の治療内容をよく知っている主治医や担当の看護師に電話で相談しましょう。

その際は、熱や症状の程度、いつから続いているかなどを具体的に伝えられるようにしておくと、よりスムーズな対応につながります。

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抗がん剤治療中の感染症予防は、毎日の生活の中で少しずつ取り組んでいくことが大切です。

このコラムでご紹介した予防策は、あくまでも一例です。完璧を目指す必要はありません。ご自身の体調や、生活の状況に合わせて、できることから始めてみましょう。

そして、何か不安なことや気になることがあれば、一人で抱え込まず、ご家族や医療スタッフに相談してください。

周りのサポートを頼ることは、決して弱いことではありません。

このコラムが、皆さんの日々の暮らしを少しでも安心して過ごせるための力になれば幸いです。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。