抗がん剤の副作用「胃もたれ」。その原因と食事の対策
がんの治療、特にお薬を使った「薬物療法」は、がんという病気と闘う上で、とても重要な役割を果たしてくれます。
その一方で、治療中にさまざまな副作用が現れることも、多くの方がご経験されているのではないでしょうか。
副作用というと、吐き気や脱毛、口内炎などを思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、実は「胃もたれ」も、多くの患者さんが共通して感じる不快な症状の一つです。
「食欲がない」「食べたいものが思いつかない」といった症状に加え、「胃が重い」「なんだか胃が張っているような不快感がある」といった胃もたれに悩まされている方も少なくありません。
このコラムでは、なぜ抗がん剤治療中に胃もたれが起きるのか、そして、毎日の食事や生活の中でできる対策について、ご一緒に考えていきたいと思います。
なぜ胃もたれが起きるの?

抗がん剤は、がん細胞を攻撃し、増殖を抑制する薬物療法です。
がん細胞は、正常な細胞に比べて活発に細胞分裂を繰り返すという特徴を持っているため、その性質を利用して抗がん剤は効果を発揮します。
しかし、残念ながら抗がん剤はがん細胞だけを的に狙う薬ではありません。
私たちの体の中には、胃腸の粘膜や骨髄の細胞など、がん細胞と同じように活発に細胞分裂を繰り返す正常な細胞も多く存在します。
抗がん剤は、これらの正常な細胞にも影響を与えてしまうため、さまざまな副作用が生じるのです。
胃もたれが起こる主な原因は、いくつか考えられます。
・胃の動きがにぶくなるため
抗がん剤が胃の粘膜にダメージを与えたり、自律神経に影響したりすることで、胃の機能が低下することがあります。
これにより、食べたものが消化されるまでの時間が長くなり、腹部に不快感や膨満感を感じるようになります。
これが胃もたれの主な原因の一つです。
・胃の粘膜が弱くなるため
抗がん剤の影響で、胃の粘膜が弱くなり、消化に必要な胃酸の量や成分のバランスが崩れることもあります。
これもまた、胃もたれや吐き気といった症状を引き起こす原因となります。
・治療による精神的な疲労
がんの治療は、体だけでなく、心にも大きな負担をかけます。
ストレスや不安は、自律神経を介して胃の働きにも影響を及ぼすことがあります。
胃や腸の働きは、脳と深くつながっているため、心の状態が消化機能に変化をもたらすこともあるのです。
このように、抗がん剤治療中に胃もたれが起こるのは、抗がん剤による体の変化と、心の状態が複雑に絡み合っているためだと考えられています。
胃もたれを和らげる4つの工夫
ここからは、ご自宅で簡単に試せる食事の工夫についてご紹介します。ご自身の体調に合わせて、できることから少しずつ取り入れてみてください。
【工夫1】 少量ずつ、回数を分けて食べる
一度にたくさんの食べ物を摂取すると、胃に大きな負担をかけることになります。胃もたれが気になるときは、食事の量を少量に抑え、1回の食事を数回に分けて食べるようにしてみましょう。
例えば、朝・昼・晩の3回だった食事を、朝・午前中・昼・午後・晩と、5回や6回に分けて食べるのもひとつの方法です。
家族の方も、食事の時間をずらすなどで協力すると、患者さんが安心して食事を取れるかもしれません。
【工夫2】 消化の良い食べ物を選ぶ
胃もたれの原因は、消化に時間がかかる食べ物です。
脂肪の多い肉や魚、揚げ物、食物繊維が多い野菜、きのこ類などは、消化に負担をかけるため、体調が悪いときは避けるのが良いでしょう。
代わりに、消化のよい食べ物を選ぶのが大切です。
- たんぱく質:鶏のささみ、白身魚、豆腐、卵、乳製品など
- 炭水化物:お粥、うどん、じゃがいも、パンなど
- 野菜:大根、かぶ、かぼちゃ、人参など、柔らかく煮たもの
また、においに敏感になる方もいます。においの強い食品は避けるか、冷ましてから食べると良い場合もあります。
【工夫3】 胃にやさしい、簡単レシピ
「消化の良いもの」と言われても、具体的にどんな料理が良いか迷ってしまいますよね。
ここでは、胃に負担が少なく、手軽に作れるレシピを3つご紹介します。
鶏ひき肉と豆腐のふんわり煮

【材料】
- 鶏ひき肉…100g
- 豆腐(絹ごし)…半丁
- 水…200ml
- しょうゆ…大さじ1
- みりん…大さじ1
- 片栗粉…大さじ1(水大さじ2で溶く)
【作り方】
①鍋に鶏ひき肉、水、しょうゆ、みりんを入れ、中火で煮ます。
②ひき肉に火が通ったら、崩した豆腐を加えてひと煮立ちさせます。
③水溶き片栗粉を回し入れ、とろみがついたら完成です。
じゃがいものなめらかポタージュ

【材料】
- じゃがいも…2個
- 玉ねぎ…1/4個
- 水…200ml
- 牛乳…100ml
- 塩…少量
【作り方】
①じゃがいもと玉ねぎは薄切りにして鍋に入れ、水で柔らかくなるまで煮ます。
②粗熱が取れたらミキサーにかけ、なめらかにします。
③鍋に戻し、牛乳を加えて温め、塩で味を調えます。
さつまいものレモン煮

【材料】
- さつまいも…1本(約200〜250g)
- 砂糖…大さじ2
- レモン汁…大さじ1
- 水…150ml
【作り方】
① さつまいもを1cm幅に切り、水に5分ほどさらします。
② 鍋にさつまいも・砂糖・レモン汁・水を入れます。
③ 落とし蓋をして弱火で10〜15分、柔らかくなるまで煮ます。
【工夫4】 胃にやさしい飲み物を摂る
食事だけでなく、水分補給も大切です。
胃への刺激が強い炭酸飲料や、カフェインの多いコーヒー、アルコールなどは避けるのが良いでしょう。
代わりに、温かい白湯や番茶、ハーブティーなどをゆっくりと飲むようにしてみましょう。
脱水症状の予防にもなりますし、胃が温まることで不快感が和らぐこともあります。
毎日の生活でもっと楽になるヒント

食事だけでなく、日々の生活の中にも胃もたれを和らげるヒントがあります。
・食後すぐに横にならない
食事を終えた後、すぐに横になると、消化を助ける胃液が逆流し、胸やけや不快感を感じることがあります。
食後30分~1時間は、座ってゆったりと過ごすか、散歩などの軽い運動をしてみるのも良いでしょう。
・ゆったりとした時間を持つ
ストレスは、胃の働きを抑制してしまいます。
抗がん剤治療は、心にも負担がかかるため、意識的にリラックスできる時間を設けることが重要です。
好きな音楽を聴く、温かいお風呂に入る、軽いストレッチをするなど、ご自身が「ホッとする」と感じられる方法を見つけてみてください。
家族の方と一緒に、ゆっくりお茶を飲むのも良い気分転換になるかもしれません。
つらいときは、我慢せずに相談を

ここまで、胃もたれを和らげるための対策をいくつかご紹介しましたが、症状が改善しなかったり、つらいと感じるときには、決して我慢しないでください。
つらいと感じる前に、主治医や看護師に相談することが大切です。症状を和らげるための薬(制吐剤や胃薬など)を使用することで、不快感が和らぐことも多くあります。
「こんなことくらいで相談するのは申し訳ない…」と思われるかもしれませんが、患者さんが安心して治療を続けられるようサポートするのが、医師や看護師の役割です。遠慮せずに相談してみましょう。
また、病院によっては栄養士による栄養相談を受けることも可能です。
専門家の立場から、ご自身の体の状態に合わせた食事のポイントや工夫について、具体的なアドバイスをもらうこともできます。
おわりに
抗がん剤治療中に胃もたれが現れることは、決して珍しいことではありません。また、胃もたれだけでなく、食欲不振や便秘、下痢など、人によってさまざまな症状が出現します。
このコラムでご紹介した対策は、あくまでも一例です。ご自身の体の状態や治療の時期に合わせて、できることをできる範囲で試していくことが大切です。
完璧を目指す必要はありません。もしうまくいかなくても、「次は別の方法を試してみようかな」とゆったり構える気持ちを持つことも重要です。
家族の方も、患者さんを励ますだけでなく、一緒にできる工夫を見つけて、そっと寄り添ってあげてください。
