2026.02.05

多発性骨髄腫の症状を解説。CRABの指標と診断の流れとは

ハートと手

日常の中で感じる腰の痛みや、近頃どうも疲れやすいといった体の変化。こうした些細な不調が続いたとき、私たちは「年齢のせいかな」と自分を納得させてしまいがちです。

しかし、多発性骨髄腫という病気は、そのようなごくありふれた症状の陰に隠れて、静かに進行することがあります。

この病気は血液のがんの一種ですが、胃がんや肺がんといった他の臓器のがんとは異なる、独自の性質を持っています。

そのため、症状の現れ方も、骨や腎臓、血液の状態など、全身の多岐にわたるのが特徴です。

本コラムでは、多発性骨髄腫がどのような病気なのか、その正体と体が発するサイン、そして現在わかっている原因について詳しく解説します。

粘土で作った、疑問を浮かべる人

血液がんとしての特徴

私たちの血液の中には、ウイルスや細菌などの異物が体内に侵入した際、それらを攻撃する武器(抗体)を作り出す形質細胞という大切な細胞があります。

多発性骨髄腫は、この形質細胞ががん化して、骨髄腫細胞となって無制限に増殖してしまう病気です。

がん化した細胞は、本来の役割である「体を守るための抗体」の代わりに、役に立たない異常なタンパク(M蛋白)を大量に作り出します。

この異常な物質が血液中に蓄積したり、全身の臓器に沈着したりすることで、様々な障害が引き起こされます。

白血病や悪性リンパ腫と同じ血液のがんの分類に含まれますが、特に高齢者の方に多く、骨の破壊や腎機能の低下を伴いやすいという、非常に独特な立ち位置にある疾患です。

骨髄の中で起きる変化

骨の内部にある骨髄は、赤血球や白血球、血小板といった血液のすべての成分を作り出す工場のような役割を担っています。

多発性骨髄腫を発症すると、この工場の中でがん細胞が爆発的に増え、正常な細胞がつくられるスペースを奪ってしまいます。

その結果、体に必要な正常な血液細胞が減少し、全身に酸素を運ぶ能力が落ちたり、感染症に対する抵抗力が弱まったりします。

また、骨髄腫細胞は骨を壊す細胞(破骨細胞)を異常に活性化させる物質を放出するため、骨の内部から破壊が進んでいくことになります。

このように、目に見えない骨髄の中で起きている細胞の入れ替わりが、全身の様々な症状の引き金となっているのです。

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倦怠感を覚える女性

医療の現場では、多発性骨髄腫の代表的な症状や、治療を開始する目安となる指標を、それぞれの英語の頭文字をとって「CRAB(クラブ)」と呼ぶことがあります。

高カルシウム血症(Calcium)

骨髄腫細胞の働きによって骨からカルシウムが溶け出し、血液中に大量に流れ込むことで「高カルシウム血症」が起こります。

これがCRABの「C」にあたります。

代表的な症状は、異常な喉の渇き(多飲)と、それに伴う尿の量の増加です。

また、食欲がなくなったり、吐き気がしたり、ひどい便秘に悩まされることもあります。

一見すると胃腸の病気のようにも見えますが、これらは血液中のバランスが崩れていることを知らせる警告灯かもしれません。

さらに進行すると、強い眠気や気力の低下といった意識の変化が現れることもあります。

腎障害(Renal)

CRABの「R」は腎障害を指します。

腎臓は血液をろ過するフィルターの役割をしていますが、骨髄腫細胞が作る異常なタンパク(M蛋白)はこのフィルターを詰まらせ、機能を低下させます。

これが進むと、体のむくみや尿の泡立ち、食欲不振などが現れます。

健康診断で「尿に蛋白が出ている」と指摘されたり、血液検査で腎機能の数値(クレアチニン値など)が悪化していたりすることが、この病気を見つける重要なきっかけになることも多いのです。

腎臓を守ることは、その後の治療の選択肢を広げるためにも非常に重要です。

貧血(Anemia)

三つ目の「A」は、貧血です。骨髄の中でがん細胞が増殖し、正常な赤血球の生産が妨げられることで起こります。

具体的な症状としては、階段を上る際の息切れや動悸、常に体がだるいといった倦怠感などが挙げられます。

この貧血は、じわじわと進行するため自分では気づきにくいことがありますが、顔色の悪さや、これまでより疲れやすくなったといった日常の変化が大切なサインとなります。

また、血液成分の変化は立ちくらみやめまいを引き起こし、生活の活力を削ぐ原因となります。

骨病変(Bone)

最後の「B」は、骨病変です。がん細胞が「骨を壊す細胞」を過剰に刺激することで、骨の内部から破壊が進みます。

特に腰や背中、肋骨などに痛みが出やすく、最初は「ただの腰痛」として整形外科を受診されるケースが多く見られます。

骨がスカスカでもろくなるため、重いものを持ったり、少し体勢を変えたりしただけで骨折してしまう「病的骨折」を引き起こすこともあります。

日常生活において最も注意が必要な症状であり、早期の発見が生活の質を維持する鍵となります。

頭痛で頭を押さえる高齢女性

進行には個人差がある

多発性骨髄腫は、進行のスピードや現れる症状に大きな個人差がある病気です。

初期の段階では自覚症状が全くないこともあり、健康診断の血液検査でM蛋白が発見される「無症状の骨髄腫(MGUS)」という段階を経てから発症するケースも多く見られます。

病気が進行するにつれて、これまでお伝えしたCRAB症状が目立つようになります。

さらに、血液中のタンパク濃度が非常に高くなると、血液の粘り気が増してドロドロになる「過稠度症候群」を引き起こすことがあります。

これにより、頭痛や視力の低下、しびれといった神経症状が現れることもあります。

初期の「なんとなくの不調」が、時間の経過とともに明確な変化へと繋がっていきます。

注意すべき合併症のリスク

多発性骨髄腫の進行に伴い、重篤な合併症にも注意を払う必要があります。

その代表的なものの一つに、アミロイドーシスがあります。これは、異常なタンパクが「アミロイド」という物質に姿を変えて、心臓や消化管などの臓器に沈着し、その機能を奪ってしまう疾患です。

沈着する場所によって多彩な症状を示しますが、心臓であれば心不全のような症状、舌であれば腫れなどを引き起こします。

また、脊椎が破壊されて潰れてしまうと、神経が圧迫され、足のしびれや麻痺を引き起こすこともあります。

これらは生活の質を大きく左右するため、早期に変化に気づくことが極めて重要です。

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発症の原因は未特定

多くの方が「なぜ、私がこの病気になったのでしょうか」という問いを抱かれます。

しかし、現代の医学においても、多発性骨髄腫の明確な原因はまだ特定されていません。

現在わかっているのは、形質細胞ががん化する過程で、特定の染色体異常や遺伝子の変化が起きているということです。

ただし、これは親から子へ受け継がれる「遺伝」とは異なり、あくまで後天的に生じた変化であることがほとんどです。

特定の原因を一つに絞ることは難しいのが現状ですが、自分のせいでなったのではないかと思い悩む必要はありません。

年齢や環境が与える影響

発症に関連する最も大きなリスク要因として挙げられるのは、年齢です。

多発性骨髄腫は、40歳未満で発症することは非常に稀で、多くは60歳から70歳以降の高齢者の方に見られます。

性別ではわずかに男性に多い傾向にありますが、生活習慣との直接的な関係については、喫煙や食生活が特定の発症原因になるという明確な根拠は見つかっていません。

むしろ、前段階であるMGUSから進行していくことがわかっています。

加齢とともに誰もがかかり得る病気の一つとして客観的に捉え、今出ている症状にどう向き合うかを考えることが、前向きな療養生活への近道となります。

血液検査の結果

血液や尿からわかること

多発性骨髄腫の診断において、最も基本的かつ重要なのが血液検査と尿検査です。

血液検査では、赤血球や白血球の数だけでなく、総蛋白の量やM蛋白の存在を詳しく調べます。

また、アルブミンやカルシウム、腎機能の数値を調べることで、全身への影響度を測ります。

尿検査では、血液をすり抜けて尿中に出てくる「ベンスジョーンズ蛋白」の有無を確認します。

これらの結果を組み合わせることで、どの程度の勢いでがんが増殖しているのか、どの臓器に障害が及び始めているのかという概要を把握することができます。

画像や骨髄を調べる検査

骨の状態を調べるためには、X線撮影のほかに、より詳細な画像が得られるCTやMRI、さらには全身の病変を一度に確認できるPET検査などが行われます。

これにより、骨の破壊がどこまで進んでいるかを確認します。

そして、診断を確定させるために不可欠なのが骨髄検査です。

腰の骨などに細い針を刺して骨髄液を採取し、顕微鏡で形質細胞の割合や形を観察します。

さらに、採取した細胞を用いて染色体や遺伝子の異常を調べることで、病気のタイプや今後の経過の予測、そして最適な治療方法の選択へとつなげていきます。

階段を上る男性のイラスト

骨を守るために

多発性骨髄腫の診断がついた際、日常生活で最も気をつけたいのは転倒や衝撃による骨折の予防です。

骨がもろくなっている可能性があるため、重いものを持たない、段差に気をつけるといった細心の注意が必要になります。

また、腎臓を保護するために、医師から指示がある限りは、水分をしっかりと摂取して尿量を確保することも大切です。

脱水状態は腎機能を急速に悪化させるリスクがあるため、意識的な水分補給が推奨されます。

さらに、免疫力が低下している時期は、手洗いやうがいをこまめに行い、人混みを避けるといった基本的な感染症対策が、思わぬ体調悪化を防ぐ大きな力となります。

サポート体制を整える

多発性骨髄腫は、新しい薬剤や免疫療法、自家造血幹細胞移植などの治療選択肢が飛躍的に増えている分野です。

長く付き合っていく病気だからこそ、一人で抱え込まず、医療スタッフや家族、地域のサポート体制を整えることが重要です。

不安なときは、病院の相談支援センターや、信頼できる情報サイトを頼ってみてください。

最新の臨床試験の情報や、同じ悩みを持つ方の声に触れることで、孤独感が和らぎ、次の一歩が見えてくることもあります。

周囲を頼ることは、決して弱さではありません。

病気と共に力強く生きていくための、前向きな選択として捉えていただければと思います。

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多発性骨髄腫という病気について、その症状や原因を中心に見てきました。

骨の痛みや貧血、腎機能の低下といった多彩な症状は、あなたの体が懸命に発しているサインです。

そのサインを、CRAB(クラブ)という指標も参考にしながら正しく受け止め、検査を通じて病気の正体を見極めることがより良い毎日を取り戻すための出発点となります。

原因がはっきりしないことへのもどかしさを感じることもあるでしょう。しかし、新しい薬剤が次々と登場し、治療の成績は向上しています。

たとえ完治が難しくても、症状を上手にコントロールしながら、あなたらしい生活を続けていくことは十分に可能です。

このコラムが、あなたの抱える不安を少しでも和らげ、前向きに治療や生活と向き合うためのガイドとなることを心から願っています。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。