2026.02.06

甲状腺がんの治療法とは?手術・放射線・薬物療法まで

コスモスの花

甲状腺がんの診断を受けた際、多くの方が抱くのは「手術は必要なのか」「声はどうなるのか」といった、治療そのものと、その後の生活への不安ではないでしょうか。

甲状腺は、のどぼとけのすぐ下にある小さな臓器ですが、全身の代謝を司るホルモンを分泌するという、非常に大切な役割を担っています。

このがんの多くは、他のがんと比べても進行が緩やかで予後が良いという性質を持っていますが、一方でがんの種類(組織型)によっては迅速な対応が求められることもあります。

そのため、自分の病気がどのタイプで、どのような治療の選択肢があるのかを正しく理解することは、納得のいく歩みを進めるための第一歩となります。

本コラムでは、外科的な手術から放射線治療、最新の薬物療法まで、甲状腺がん治療の全容を詳しく解説します。

診断後の不安を少しでも和らげ、前向きに治療と向き合うための一助となれば幸いです。

黄色い標識

組織型による方針の違い

甲状腺がんの治療方針を決定する上で、最も重要なのが「組織型」と呼ばれるがんの種類です。

甲状腺がんは大きく分けて、乳頭がん、濾胞がん、髄様がん、未分化がんの四つの種類に分類されます。

それぞれの特徴は、以下の通りです。

・乳頭がん
乳頭がんは甲状腺がんの中で最も多く、全体の約9割を占めます。
進行が非常にゆっくりしており、適切な治療を行えば予後はとても良好です。
リンパ節に転移することはありますが、治療で十分にコントロールできることが多いのが特徴です。
若い世代にも比較的多く見られます。

・濾胞がん
濾胞がんは乳頭がんに次いで多いタイプで、乳頭がんと同じ「分化がん」に分類されます。
進行は比較的ゆっくりですが、血管に入り込みやすく、骨や肺など遠隔転移を起こすことがあります。
それでも治療に反応しやすく、特に放射性ヨウ素治療が効きやすいという特徴があります。

・髄様がん
髄様がんは、甲状腺のC細胞(カルシトニンを作る細胞)から発生するタイプで、分化がんとは異なる性質を持ちます。
遺伝性のものが一部にあり、家族性の甲状腺がんとして知られることもあります。
カルシトニンやCEAという腫瘍マーカーが治療や経過観察に役立ちます。
進行は分化がんより速いことがありますが、早期に治療すればコントロール可能な場合もあります。

・未分化がん
未分化がんは非常に稀で、全体の1〜2%程度しかありません。
しかし進行が極めて速く、周囲の組織に急速に広がることがあるため、早急な治療が必要になります。
多くの場合、高齢者に発生する傾向があり、診断時には進行していることが多いのが特徴です。

このように、細胞の性質によって治療の緊急度や方法が大きく異なるため、まずは自分の病気がどの種類に該当するのかを確認することが大切です。

治療が目指すゴールとは

治療の基本は、手術によってがんを摘出することです。乳頭がんや濾胞がんなどの分化がんでは、手術だけで治療が完結することも少なくありません。

しかし、リンパ節への転移や他の臓器への遠隔転移が見られる場合には、放射線治療や薬物療法を組み合わせた集学的治療が行われます。

治療のゴールは、単にがんを取り除くことだけではなく、術後の生活の質をいかに高く維持するかにあります。

甲状腺がんは長い年月をかけて付き合っていくことが多いため、再発のリスクを抑えつつ、声や食事、日常生活に支障が出ないようなバランスの取れた選択を医療チームと共に検討していくことになります。

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手術の種類と切除範囲

甲状腺がんの外科治療には、主に「全摘(ぜんてき)」と「葉切除(ようせつじょ)」の二つの方法があります。

甲状腺は左右の葉が中央で繋がった蝶のような形をしていますが、がんの広がりや大きさに応じて、すべてを摘出するか、左右どちらか一方の葉を残すかを決定します。

また、周囲のリンパ節に転移がある場合や、その可能性がある場合には、リンパ節郭清(りんぱせつかくせい)という、リンパ節を周囲の組織ごと摘出する処置も並行して行われます。

切除範囲が広いほど再発を抑える効果は高まりますが、一方で術後の生活への影響も考慮する必要があります。

現在は超音波検査やCT検査の精度が向上しており、個々の状況に合わせた最適な範囲が決定されます。

声や体への影響

手術を検討する際、多くの患者様が心配されるのが「声の変化」です。

甲状腺のすぐ裏側には、声を司る反回神経という細い神経が通っています。

がんが神経に近く、手術中に神経に触れたり、やむを得ず切除したりする場合、術後に声のかすれ(嗄声)が生じることがあります。

しかし、現在は手術中に神経の場所を確認するモニタリング技術も進んでおり、ほとんどのケースで声の機能は守られます。

また、カルシウム濃度を調節する副甲状腺も甲状腺の周囲に位置しているため、術後に一時的に血中カルシウムが低下し、手足のしびれを感じることがありますが、これらは内服薬で適切にコントロールすることが可能です。

体への負担を最小限にしつつ、確実にがんを取り除くことが、現代の外科治療の基本となっています。

病院の待合椅子

放射性ヨウ素内用療法とは

甲状腺がん、特に分化がんには、ヨウ素を取り込むという甲状腺細胞特有の性質を利用した「放射性ヨウ素内用療法」という治療法があります。

これは、放射線を出すヨウ素をカプセルなどで内服し、体の中から残ったがん細胞を破壊する方法です。

この治療は、全摘手術の後に、目に見えないほど小さな残存組織を死滅させる目的(アブレーション)や、肺や骨に遠隔転移がある場合の治療として用いられます。

がん細胞だけにピンポイントで放射線を照射できるため、非常に理にかなった効果的な方法です。

他のがんの治療で行われる外部照射とは異なり、内側から直接働きかけるという点に、甲状腺がん治療の大きな特徴があります。

治療を受ける際の注意

放射性ヨウ素治療を行う際は、治療の効果を高めるために、一定期間「ヨウ素制限食」という食事制限が必要になります。

昆布や海藻類などのヨウ素を多く含む食材を控えることで、がん細胞が放射性ヨウ素を取り込みやすい状態を作ります。

投与する放射線量に応じて、外来で行う場合と、専用の施設に入院して行う場合があります。

入院治療の場合は、数日間は周囲への影響を防ぐために特殊な個室で過ごすことになります。

副作用としては、首の腫れや口の渇き、味覚の変化などが一時的に現れることがありますが、多くの場合、時間の経過とともに回復します。

この治療を適切に組み合わせることで、再発や転移のリスクを大幅に下げることが期待できます。

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医師に相談する患者

分子標的薬という選択肢

以前は、甲状腺がんに対しては一般的な抗がん剤(化学療法)の効果は限定的であると考えられてきました。

しかし近年、がん細胞の増殖に関わる特定の分子を狙い撃ちする「分子標的薬」が登場したことで、薬物療法の状況は一変しました。

この治療は、手術が難しい未分化がんや、放射性ヨウ素治療の効果が十分に得られなくなった分化がんなどが対象となります。

がんの進行を抑え、生存期間を延ばす高い効果が期待されており、診療の現場でも重要な選択肢の一つとなっています。

ただし、薬物療法は全身に作用するため、副作用の管理が非常に重要になります。

副作用との上手な付き合い方

分子標的薬の副作用には、高血圧、皮膚の荒れ(手足症候群)、下痢、倦怠感などがあります。

これらは一般的な抗がん剤とは異なる現れ方をするため、事前の知識と早めの対応が欠かせません。

大切なのは、副作用を我慢して服用を続けるのではなく、症状が現れたらすぐに医師や看護師に相談することです。

薬剤の量を調整したり、副作用を抑えるための薬を併用したりすることで、生活の質を保ちながら治療を継続することが可能です。

現在は、どのタイミングでどの薬を使用するのが最も効果的かという研究も進んでおり、患者様一人ひとりの病状に応じたオーダーメイドの薬物療法が展開されています。

病院の受付

甲状腺ホルモン剤

甲状腺を全摘した場合や、切除範囲が広い場合には、体内で十分な甲状腺ホルモンを作ることができなくなります。

そのため、術後は不足したホルモンを補うために、甲状腺ホルモン剤を生涯にわたって内服する必要があります。

この内服には、二つの大きな目的があります。

一つは、体の代謝を正常に保ち、健康な生活を送るための「補充」です。

もう一つは、脳から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)を抑えることで、残ったがん細胞の増殖や再発を抑制する「TSH抑制療法」としての役割です。

決められた量を毎日忘れずに服用することで、がんを経験する前と変わらない、健やかな毎日を維持することができます。

定期的な経過観察を

甲状腺がんは、予後が良い一方で、数年、時には十年以上経ってから首のリンパ節などに再発することがあります。

そのため、治療が終わった後も、定期的なフォローアップが欠かせません。

通常は、数か月から半年に一度程度のペースで通院し、触診や血液検査(サイログロブリン値の確認)、超音波検査、必要に応じてCT検査などを行い、再発の有無を注意深く確認します。

定期的な検査は不安を感じることもあるかもしれませんが、早期に発見できれば、再び適切な治療を行うことで良好な状態を取り戻せます。

病院との長い付き合いを、自分自身の健康を守るための大切な習慣として捉えることが、安心した生活に繋がります。

笑顔の家族

心のケアを大切に

がんの治療は、体への処置だけでなく、心のケアも同じくらい重要です。

特に甲状腺がんは、周囲から「治りやすいがんで良かったね」と言われることも多く、患者様自身が抱える「再発への不安」や「一生薬を飲む負担」を理解してもらえず、孤独を感じてしまうことがあります。

そんなときは、一人で抱え込まずに、がん相談支援センターや地域のコミュニティ、あるいは同じ経験を持つ患者さんの集まりなどを活用してみてください。

自分の気持ちを言葉にし、誰かに聞いてもらうだけでも、心の重荷が軽くなることがあります。

また、専門の相談員に今後の生活や仕事について相談することで、具体的な解決の糸口が見つかることもあります。

周囲の支えにも頼って

治療を終えて社会復帰を目指す際、家族や職場の理解は大きな支えとなります。

声のかすれや疲れやすさなど、目に見えにくい悩みがある場合は、周囲に適切に伝えることで、サポートを受けやすい環境を整えましょう。

医学の進歩により、甲状腺がんは多くの場合、適切にコントロールできる病気となりました。

病気を「克服すべき敵」としてだけでなく、「共に歩んでいく自分の一部」として受け入れ、焦らずに一歩ずつ進んでいくことが大切です。

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甲状腺がんの治療について、その多様な選択肢と術後の生活のポイントを見てきました。

手術や放射線治療、薬物療法、そして長期にわたるホルモン管理といった治療はすべて、あなたがこれからも自分らしい生活を送り続けるための大切な手段です。

治療の過程で迷いや不安が生じたときは、遠慮なく主治医や専門のスタッフに相談しましょう。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。