2026.02.10

神経内分泌がん(NEC)の治療とは。日常を守るためにできること

シロツメクサの花

がんの診断を受けたとき、その病名が「神経内分泌がん」という聞き慣れないものであったなら、誰もが深い不安に包まれることでしょう。

さらに、インターネットで調べても「進行が早い」「悪性度が高い」といった厳しい言葉ばかりが目に入り、心が折れそうになることもあるかもしれません。

神経内分泌がんは、医学的にはNEC(Neuroendocrine Carcinoma)と呼ばれ、数ある神経内分泌腫瘍の中でも、特に増殖のスピードが速いグループに分類されます。

しかし、情報が少ないからといって、決してあきらめる必要はありません。

現在は専門機関での研究が進み、この手強いがんに立ち向かうための強力な薬物療法や、生活を支えるための緩和ケアの体制が整いつつあります。

本コラムでは、NECという病気の正体を正しく知り、納得して治療を続けるためのヒントをお伝えします。

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進行の早さが特徴

神経内分泌がんは、ホルモンを分泌する機能を持った細胞から発生する病気です。

この病気は、おとなしい性質の腫瘍(NET)と、非常に勢いが強いがん(NEC)に大きく分けられます。

このコラムで取り上げるNECは、細胞の増殖を顕微鏡で確認すると、その多くがグレード3(G3)という最も高い悪性度に分類されます。

NECの最大の特徴は、一般的ながんと比べても進行のスピードが速く、発見された段階ですでに他の臓器へ転移しているケースも少なくないという点です。

そのため、診断がついた後は、一刻も早く専門的な治療を開始することが求められます。

まずは、自分の病気が「非常に活動的である」という性質を正しく理解することが、これからの歩みの第一歩となります。

早期の治療開始を目指す

NECは、放置しておくと短期間で病状が変化しやすいという性質を持っています。

そのため、検査を一つずつ丁寧に行うことも大切ですが、それ以上に治療のタイミングを逃さないことが予後を左右する鍵となります。

幸いなことに、NECは増殖のスピードが速い分、特定の抗がん剤が効きやすいという側面も持っています。

このがんの弱点を突くためには、病名が決まったら速やかに標準的な化学療法へと繋げることが重要です。

納得して治療を始めるために

治療を開始するにあたって、心の準備を整えるのは容易ではありません。

しかし、「何のために治療をするのか」という目的を明確にすることは、副作用や通院の負担を乗り越えるための力強い支えになります。

がんを抑え込み、大切な人との時間を一日でも長く確保する。あるいは、痛みなどの症状を取り除き、自分らしい生活を取り戻す。

人によってゴールは様々ですが、自分が大事にしたいことを主治医と共有しておくことで、納得感のある治療の選択が可能になります。

不安なときは、今の気持ちを包み隠さず医療スタッフに伝えてください。

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体が発する小さなサイン

神経内分泌がんは、発生する場所によって現れる症状が異なります。

膵臓や肝臓、肺、あるいは胃や腸といった消化管など、全身のどこにでも発生する可能性があります。

急激な体重の減少や、しつこい腹痛、あるいは原因不明の倦怠感などは、体が発している重要なサインかもしれません。

特に、腫瘍が急激に大きくなることで、周囲の神経を圧迫し、強い痛みが出現することもあります。

NECの場合は、数週間の単位で体調が変化することもあります。そのため、「これくらいなら大丈夫」と我慢せず、いつもと違うと感じたらすぐに受診することが大切です。

自分の体の変化を細かく観察し、診察の際に伝えることが、適切な診断と迅速な治療の助けとなります。

病理検査の大切さ

神経内分泌がんの診断において、最も重要な役割を果たすのが病理検査です。腫瘍の一部を採取し、顕微鏡で細胞の形や増殖の勢いを確認することで、初めてNECという診断が確定します。

この検査では、Ki-67指数という数値が測定されます。

これは細胞がどれだけの割合で分裂しているかを示すもので、NECの場合はこの数値が非常に高く出ます。

画像検査(CTやMRI)だけでは判断しきれない細胞の性質を、この病理診断によって明らかにすることで、どの抗がん剤が最も効果的かを見極めることができます。

診断が出るまでの時間はもどかしいものですが、この証拠集めこそが、あなたにぴったりの武器を選ぶために欠かせないプロセスなのです。

悪性度が治療に与える影響とは

悪性度が高いと聞くと、胸の奥が沈むような気持ちになるかもしれません。

しかし、医療でいう「悪性度」とは、あくまで細胞がどれほど速く増えるかを示す指標であり、あなた自身の価値や未来を決めるものではありません。

診断は、状況を正しく理解し、これからの行動を選び取るための第一歩です。

がんの性質を知ることは、恐怖に飲み込まれないための大切な武器になります。

どのような特徴を持ち、どのような弱点があるのかを理解することで、漠然とした不安から対処が可能な課題へと変わっていきます。

自分の体で起きていることを知ることは、心の整理にもつながり、日々の体調の変化にも意味を見いだせるようになります。

診断は終わりではなく、これからの道筋を描くためのスタート地点なのです。

点滴

化学療法

NECの治療において、最も中心的な役割を果たすのが化学療法、つまり抗がん剤治療です。

細胞の増殖が速いという特徴を逆手に取り、分裂を繰り返すがん細胞を直接攻撃する薬剤が選ばれます。

一般的によく用いられるのは、シスプラチンやカルボプラチンといったプラチナ製剤に、エトポシドなどの薬剤を組み合わせた治療法です。

これらは非常に強力な薬ですが、その分、副作用への対策もセットで行われます。

現在は、吐き気や骨髄抑制(白血球の減少など)を抑えるための優れたサポート薬も揃っており、一昔前のような「ただ苦しみに耐えるだけの治療」ではなくなっています。

薬の力を信じ、がんの勢いを削ぐための重要な期間として、この時期を乗り越えていきましょう。

手術・放射線療法

NECは全身への広がりが早いため、手術だけで完全に治すことが難しい場合も多いですが、決して手術に意味がないわけではありません。

腫瘍が大きくなりすぎて通り道を塞いでいたり、出血を繰り返したりしている場合には、症状を和らげる目的で切除を行うことがあります。

また、特定の部位への転移による痛みや神経の圧迫がある場合には、放射線治療が大きな助けになります。

放射線は、ピンポイントでがんを狙い撃ちし、痛みを取り除く効果が非常に高い治療法です。

手術、抗がん剤、放射線といった治療法を状況に応じて適切に組み合わせることで、がんの勢いをコントロールし、生活の質を維持することを目指します。

再発時の選択肢

残念ながら、強力な治療を行っても、がんが再び活動を始めることがあります。

しかし、一度再発したからといって、すべての道が閉ざされるわけではありません。

現在は、最初の治療(一次治療)が効かなくなった後でも、別の種類の抗がん剤(二次治療以降)を使用する選択肢があります。

また、特定の遺伝子変異がある場合には、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬といった、新しいタイプの薬が適応になる可能性もあります。

治験という形で最新の研究に参加する道も、検討の余地があるでしょう。

治療法は一つではありません。主治医と対話を続け、次の一手を模索し続ける姿勢が、希望を繋ぐ力となります。

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心の不安は一人で抱えない

「進行の早い神経内分泌がんです」という告知は、人生の中で最も衝撃的な出来事の一つです。

頭が真っ白になり、何をすべきか分からなくなるのは、人間として当然の反応です。

このようなとき、最も避けてほしいのは、不安をすべて自分一人で抱え込んでしまうことです。

家族や親しい友人に今の気持ちを話すことも大切ですが、時には身近な人だからこそ話しにくいこともあるでしょう。

そんなときは、心のケアの専門家である臨床心理士や、がんの経験者に相談できる窓口を活用してください。

言葉にして吐き出すことで、整理のつかない感情に輪郭が生まれ、少しずつ前を向くための準備が整っていきます。

希少がんの専門家を頼る

神経内分泌がんは希少がんの一つであり、どこの病院でも同じように詳しい情報が得られるとは限りません。

だからこそ、拠点病院やがんセンターなどに設置されている専門の医療チームを積極的に頼る必要があります。

主治医だけでなく、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカーなど、多くの専門職があなたを支える準備をしています。

セカンドオピニオンを求めることも、納得して治療を続けるための立派な権利です。

希少がんだからこそ、最新の知見を持った医師と繋がり、自分にとって最善の環境を整えていきましょう。

不安な夜を穏やかに過ごすために

治療中は、将来への不安から眠れない夜を過ごすこともあるかもしれません。

心が疲れ切ってしまうと、体力の回復も遅れてしまいます。

不安を完全に取り除くことは難しいですが、少しでも和らげる工夫はいくつかあります。

例えば、温かい飲み物をゆっくり飲む、お気に入りの音楽を聴く、あるいは「今この瞬間の呼吸」に集中するマインドフルネスのような方法も有効です。

また、眠れないことが続く場合は、遠慮なく医師に相談して、睡眠導入剤や不安を和らげる薬の力を借りてください。

休息は治療の一部です。心と体を休ませる時間を意識的に作ることで、次の日の治療に向けたエネルギーを蓄えることができます。

三世代親子がリビングで食事を摂る様子

体力の維持と栄養管理

強力な治療を続けるためには、しっかりとした体力を維持することが不可欠です。

抗がん剤の影響で食欲が落ちることもあるでしょうが、そんなときこそ「食べられるときに、食べたいものを食べる」という工夫が大切になります。

高タンパク・高カロリーの食事を意識しつつ、一度にたくさん食べられない場合は、回数を分けて少量ずつ摂るのも良い方法です。

栄養士に相談して、栄養補助食品や吐き気があるときでも食べやすいメニューのアドバイスをもらうのも心強いでしょう。

体力を保つことは、がんの勢いに負けない体を作ることであり、治療の選択肢を広げることにも直結します。

家族ができること

ご家族にとっても、愛する人が苦しむ姿を見るのはつらいものです。

「何かしてあげたいけれど、何をすればいいか分からない」という無力感に襲われることもあるでしょう。

しかし、特別なことをする必要はありません。

ただそばにいて話を聴く、一緒に散歩をする、あるいは静かに見守る。それだけで患者様にとっては大きな安心感になります。

また、家族自身が倒れてしまわないよう、自分たちの時間や休息を大切にすることも立派なサポートです。

家族が笑顔でいることが、患者様が「自分は家族の負担になっている」という罪悪感を持たずに過ごせる環境を作ります。

互いを思いやり、チームとして病気に立ち向かう絆を大切にしてください。

療養生活の質を保つために

がんと闘うことだけが人生ではありません。たとえ治療中であっても、季節の移ろいを感じたり、趣味を楽しんだりする時間は不可欠です。

自宅で快適に過ごすための福祉用具の活用や、外出時の体調管理など、生活の質(QOL)を保つための知恵は、専門の看護師やケアマネジャーから多く得ることができます。

緩和ケアは終末期のものだけではなく、治療と同時、あるいは開始前からでも行われます。

大切なのは、痛みや不快な症状を早めに取り除き、穏やかな日常を一日でも長く続けることです。

かごに入った観葉植物

病名と深刻さを正しく伝える

神経内分泌がんは、周囲の人に説明してもなかなか理解されにくい病気です。

「がん」という言葉だけで過剰に反応されたり、逆に「聞いたことがないから大したことないのでは」と誤解されたりすることもあります。

大切な人たちに今の状況を伝える際は、無理に専門用語を使う必要はありません。

「非常に進行が早い珍しいがんで、今は全力で治療をしている最中なんだ」と、その深刻さと現状をありのままに伝えてみてください。

正確な情報が伝わることで、周囲もどのようにあなたをサポートすべきかが分かり、無用なすれ違いを防ぐことができます。

説明することに疲れを感じるときは、信頼できる誰かに窓口になってもらい、情報を集約してもらうのも一つの手です。

職場に相談する

仕事を続けながら、あるいは休職して治療に専念する場合、職場への相談は避けられません。

NECの治療はスピードが重要であり、急な体調の変化も起こりやすいため、会社側には早めに現状を共有しておくことが望ましいです。

「治療のために特定の日は休みが必要であること」「急に強い倦怠感が出ることがあること」など、具体的な配慮を求めましょう。

産業医や人事担当者と面談し、自分の体調に合わせた働き方を調整することで、キャリアを守りつつ治療に専念できる環境を整えられます。

仕事は社会との繋がりを保つ大切な場ですが、今は自分の体を第一に考え、周囲の助けを遠慮なく受け入れる時期であると割り切る勇気も必要です。

周囲の無理解から心を守るには

世の中には、良かれと思って「これを食べるといいよ」「もっと前向きにならなきゃ」といった言葉をかけてくる人がいます。

たとえ悪意がなくても、そのような言葉があなたの心を深く傷つけることがあります。

そのようなときは、無理に相手の期待に応えようとしたり、説得しようとしたりしなくて構いません。「ありがとう、でも今は主治医の指示通りに進めるね」と静かに受け流し、心の境界線をしっかりと引きましょう。

周囲の無理解な言葉に心を乱されるのではなく、あなたを本当に理解し、静かに寄り添ってくれる人との時間を優先してください。

自分の心を守ることは、治療を完遂するための大切なエネルギーを守ることでもあります。

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神経内分泌がん(NEC)との闘いは、時に厳しく、孤独な道のりに感じられるかもしれません。

しかし、医療の進歩は止まることなく、新しい薬や治療の選択肢が次々と生まれています。

そして何より、あなたを支えようとする多くの専門家や、あなたの回復を願う人々が周囲にいます。

この病気は、確かに手強い相手です。しかし、正しい情報を持ち、スピード感を持って治療に取り組み、そして心と生活を守るための知恵を身につけることで、未来への道を切り拓くことは可能です。

焦らず、しかし着実に、今日できることを一つずつ積み重ねていきましょう。

このコラムが、あなたの抱える不安を少しでも和らげ、前向きな歩みを支える一助となることを願ってやみません。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。