膵臓がん治療中の食事の工夫 食べやすくする調理法と実践的アドバイス
「食べたいのに食べられない」「何を作ってあげたらいいのかわからない」――膵臓がんの治療を受けている方やそのご家族から、こうした声をよくお聞きします。
治療前は当たり前だった食事が、突然大きな課題になってしまう。そんな戸惑いや不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
このコラムでは、膵臓がん治療中の食事について、なぜ食べることが難しくなるのか、そしてどんな工夫をすれば少しでも食べやすくなるのかを、具体的にお伝えします。
「これならできそう」と思える方法を、一つでも見つけていただければ幸いです。
膵臓がん治療中、食事が難しくなる理由

膵臓の機能低下による影響
膵臓は、私たちが食べたものを消化するための酵素を作り出す重要な臓器です。
この酵素があるからこそ、食べ物の栄養を体に取り込むことができます。
膵臓がんやその治療によって膵臓の機能が低下すると、消化酵素の分泌が減少し、特に脂質やたんぱく質の消化がうまくいかなくなることがあります。
その結果、少し食べただけでお腹が張ったり、脂っこいものを受け付けなくなったり、食後に腹部の不快感を感じることがあります。
また、膵臓はインスリンという血糖値を調整するホルモンも分泌しているため、治療によって血糖値のコントロールが難しくなる方もいらっしゃいます。
こうした症状は膵臓の機能低下によるもので、決してあなたの努力が足りないわけではありません。
治療の副作用による影響
抗がん剤治療や放射線治療を受けている場合、治療そのものの副作用によっても食事が難しくなります。
吐き気や嘔吐、味覚の変化、口内炎、食欲不振などが現れることがあり、匂いに敏感になることもあります。
例えば、いつも好きだった味付けが急に受け付けなくなったり、金属のような味を感じるようになったり、調理中の匂いだけで気分が悪くなることもあります。
こうした変化は一時的なものが多いですが、治療中は日々の食事に大きな影響を与えます。
食事で大切にしたい3つの基本

体重維持を最優先に
治療中に最も大切なのは、体重を維持することです。
体重が大きく減少すると体力が落ち、治療を続けることが難しくなる可能性があります。
研究でも、体重を維持できている患者様のほうが治療の効果が高いことが示されています。
完璧な栄養バランスよりも「食べられるものを食べる」
食べられないときは、以下のような考え方で大丈夫です。
- 好きなものや食べやすいものから始める
- 少量でも口にすることを優先する
- 栄養バランスは後から整えていく
少量ずつ、回数を分けて
一度にたくさん食べることが難しい場合は、1回の食事量を減らして食事の回数を増やす方法があります。
例えば、朝食(7時)、午前の軽食(10時)におにぎり半分やバナナ、昼食(12時)、午後の軽食(15時)にプリンやヨーグルト、夕食(18時)、そして夜食(21時)に温かいスープといった具合です。
「3食きちんと食べなければ」というプレッシャーを感じる必要はありません。
食べられるタイミングで、食べられる量を口にすることが大切です。
消化しやすい調理法を選ぶ
膵臓に負担をかけないためには、消化しやすい調理法を選ぶことが重要です。
蒸す、煮る、茹でる、電子レンジで加熱するといった方法は、揚げたり大量の油で炒めたりするよりも消化の負担が少なくなります。
焼く場合も、焦げ目をつけすぎないように気をつけましょう。
ただし、これは「絶対に揚げ物を食べてはいけない」という意味ではありません。
体調の良いときや食欲があるときには、好きなものを食べることも心の栄養になります。
すぐに実践できる!食べやすくする調理の工夫

食材を柔らかくする方法
硬い食材は噛む力も必要で、消化にも時間がかかります。
食材を柔らかくする工夫をすることで、ぐっと食べやすくなります。
肉類を柔らかくする方法
・繊維を断つように切る(繊維に対して直角に包丁を入れる)
・肉たたきで筋を切る
・酒や塩麹に30分ほど漬け込む
・圧力鍋で煮込む
・フォークで数カ所刺してから調理する
例えば、鶏むね肉は繊維に対して直角に包丁を入れ、酒や塩麹に漬け込んでから調理すると、驚くほど柔らかく仕上がります。
煮込み料理にする場合は、圧力鍋を使えば短時間で食材がとろとろになります。
野菜を柔らかくする方法
・長時間煮込む、または蒸す
・大根やにんじんは米のとぎ汁で下茹でする
・葉物野菜は茎の部分を細かく刻んでから加熱する
・繊維の多い野菜は皮をむいて使う
食材を細かくする工夫
食材を細かくすることで、噛む負担も消化の負担も軽減できます。
・包丁で細かくみじん切りにする
・フードプロセッサーやミキサーを活用する
・すりおろす
・裏ごしする
実践例
・野菜をみじん切りにして卵でとじる
・肉や魚をミンチ状にしてつくねやハンバーグにする
・おかゆに細かく刻んだ野菜や魚を入れて煮込む
・野菜をスープやポタージュにする
噛むことが辛いときは、思い切ってペースト状にするのも一つの方法です。
市販の介護食用のとろみ剤を使えば、飲み込みやすい形態に調整することもできます。
温度調整のポイント
食べ物の温度も、食べやすさに大きく影響します。
最適な温度は人肌程度(約40度前後)がよいでしょう。
温度調整の工夫
・スープや煮物は少し冷ましてから提供する
・冷蔵庫から出したものは5〜10分常温に置く
・電子レンジで温めた後、かき混ぜて温度を均一にする
熱すぎるものは口や喉に刺激を与え、冷たすぎるものは胃腸に負担をかけることがあります。
「ちょうどいい温度」を見つけることが大切です。
味付けのバリエーション
治療中は味覚が変化することがあります。
人によって変化はさまざまですが、以下のような工夫で対応できます。
塩味が感じにくいとき
・だしをしっかり取って旨味を強くする
・レモン汁や酢で酸味を加える
・昆布や鰹節、干し椎茸などでだしを重ねる
甘みを強く感じるとき
・しょうが、みょうが、大葉などの香味野菜を活用する
・酸味や辛味で味にメリハリをつける
・だしや旨味を強調する
金属の味が気になるとき
・プラスチックや木製のスプーンを使う
・陶器の器を使う
・冷たくする(金属味を感じにくくなる)
・柑橘類の酸味を加える
症状別!こんなときの食事の工夫

吐き気があるとき
吐き気があるときは、水分が多くさっぱりしたものが食べやすくなります。
おかゆ、うどん、そうめん、果物のコンポート、ゼリー、プリン、アイスクリーム、冷やしたおにぎりなどが候補になります。
匂いの強いものは避け、冷たいものや常温のもののほうが受け入れやすいことが多いです。
生姜には吐き気を和らげる効果があるとされていますので、生姜湯や生姜を少し加えたスープを試してみるのも良いでしょう。
また、食事の前に少し休憩を取る、食後すぐに横にならず30分ほど上体を起こしておくといった工夫も効果的です。
食欲がないとき
食欲がないときは、「食べなければ」というプレッシャーがかえって負担になることがあります。
無理に食べようとせず、好きなものや食べたいと思えるものを優先してください。
栄養価の高いものを少量食べるのも一つの方法です。例えば、卵1個(茶碗蒸しや温泉卵など)、アボカド半分、ヨーグルト1カップ、バナナ1本、チーズ1切れなど、小さくても栄養のあるものを選びます。
市販の栄養補助食品(ドリンクタイプやゼリータイプ)は、少量で高カロリー・高たんぱくを摂取できるため、食欲がないときの強い味方になります。
下痢が続くとき
下痢が続くと、水分と電解質(塩分やカリウムなど)が失われます。まずは水分補給を最優先にしてください。
水やお茶だけでなく、薄めたスポーツドリンクや経口補水液を飲むことで、失われた電解質を補うことができます。
常温または温かい飲み物のほうが、冷たすぎるものより胃腸に優しいです。
食事は、消化の良いものを中心にします。おかゆ、うどん、白身魚、豆腐、バナナ、りんごのすりおろしなどが適しています。
脂質の多いものや繊維質の多い野菜、香辛料の強いものは控えめにすると良いでしょう。
口内炎があるとき
口内炎があるときは、刺激の少ないものを選ぶことが大切です。
熱いもの、辛いもの、酸っぱいもの、硬いもの、塩辛いものは避け、柔らかく温度の低いものを選びます。
豆腐、茶碗蒸し、プリン、ゼリー、ヨーグルト、ポタージュスープ、冷ました卵粥などが適しています。
パンは硬いですが、牛乳やスープに浸して柔らかくすれば食べやすくなります。
ストローを使って飲み物を飲むと口内炎に触れにくくなることもあります。
人肌程度の温度にしたり、片栗粉などでとろみをつけたりする工夫も有効です。
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簡単に作れる!おすすめメニュー例
ここでは、実際に作りやすく、食べやすいメニューを3つご紹介します。
白身魚のミルク煮

材料(1人分)
- 白身魚(タラ、カレイなど):1切れ(80g程度)
- 牛乳:150ml
- コンソメ(顆粒):小さじ1/2
- 塩:少々
- 玉ねぎ(薄切り):1/4個
- 水溶き片栗粉:適量
作り方(調理時間:約15分)
①白身魚は骨を取り除き、一口大に切る
②鍋に牛乳、コンソメ、玉ねぎを入れて中火にかける
③沸騰直前で白身魚を加え、弱火で5〜7分煮る
④塩で味を整える
⑤水溶き片栗粉でとろみをつけて完成
ポイント
・牛乳のまろやかさで魚の臭みが消える
・たんぱく質とカルシウムを同時に摂取できる
・とろみをつけることで飲み込みやすくなる
野菜たっぷり卵がゆ

材料(1人分)
- 白米:1/4カップ(50g)
- 水:600ml
- だし昆布:5cm角1枚
- 人参(みじん切り):大さじ2
- 大根(みじん切り):大さじ2
- ほうれん草(細かく刻む):大さじ2
- 溶き卵:1個分
- 塩:少々
作り方(調理時間:約40分)
①鍋に米、水、だし昆布を入れて強火にかける
②沸騰したら弱火にし、時々かき混ぜながら40分煮る
③人参と大根を加えてさらに10分煮る
④ほうれん草を加えて2分煮る
⑤溶き卵を回し入れ、軽く混ぜる
⑥塩で味を整えて完成
ポイント
・だし昆布で旨味をプラス
・野菜を細かく刻むことで消化しやすい
・卵でたんぱく質も摂取できる
・水分量を調整して五分がゆや全がゆにもできる
バナナヨーグルトスムージー

材料(1人分)
- バナナ:1本
- プレーンヨーグルト:100g
- 牛乳:100ml
- はちみつ:小さじ1(お好みで)
- きな粉:小さじ1(お好みで)
作り方(調理時間:約3分)
①バナナを適当な大きさに切る
②すべての材料をミキサーに入れる
③なめらかになるまで30秒〜1分ミキサーにかける
④グラスに注いで完成
ポイント
・バナナの甘みで砂糖不要
・エネルギー、たんぱく質、カルシウムが手軽に摂取できる
・きな粉を加えると栄養価がさらにアップ
・冷たすぎる場合は少し常温に戻してから
避けたほうが良い食品と理由

膵臓に負担をかける可能性のある食品については、知っておくことが大切です。
脂質の多い食品
具体例
・揚げ物(天ぷら、フライ、唐揚げなど)
・脂身の多い肉(バラ肉、ベーコンなど)
・生クリームを使った料理
・バターやマーガリンを大量に使った料理
消化に多くの膵酵素を必要とするため、膵臓に負担をかけます。
完全に避ける必要はありませんが、体調が優れないときは控えめにすることをお勧めします。
アルコール
アルコールは膵臓に直接的な負担をかけるため、治療中は避けることが推奨されています。
ノンアルコール飲料で代替することもできます。
香辛料の強い料理
具体例
・カレー
・激辛料理
・キムチ
・唐辛子を多用した料理
消化管を刺激することがあります。辛みが欲しいときは、少量から試してみると良いでしょう。
繊維質の多い食品
具体例
・ごぼう、れんこん
・玄米
・全粒粉パン
・海藻類(大量に摂取する場合)
消化に時間がかかります。
栄養価は高いのですが、消化機能が低下しているときは、柔らかく煮込むか、白米や精製された穀物を選ぶほうが無難です。
食事作りで気をつけたいこと

ご家族の方は「少しでも食べてもらいたい」という思いから、つい頑張りすぎてしまうことがあります。
しかし、患者様が食べられないときに「せっかく作ったのに」という雰囲気を出してしまうと、それがプレッシャーになることもあります。
「食べられなくても大丈夫」という安心感を持ってもらうことが大切です。
無理に完食を求めず、少しでも口にできたことを一緒に喜ぶ姿勢が、患者様の心の支えになります。
また、一度にたくさん作らず、少量ずつ作ることもポイントです。残してしまうことへの罪悪感を減らすことができます。
冷凍保存できるメニューを小分けにして保存しておけば、患者様が「食べたい」と思ったタイミングで、すぐに温めて出すこともできます。
匂いに敏感になっている場合は、調理中の換気をしっかりする、患者様のいる部屋から離れた場所で調理するといった配慮も有効です。
食事は、患者様だけの問題ではありません。
ご家族も一緒に「どうしたら食べやすくなるか」を考え、試行錯誤する過程を共有することが、大きな支えになります。
困ったときは専門家に相談を
食事に関する悩みや困りごとは、医療スタッフに相談することをお勧めします。
特に管理栄養士は、食事や栄養の専門家として、個々の状況に合わせた具体的なアドバイスを提供してくれます。
体重減少が続いている、何を食べても気持ち悪い、家族がどう対応すればいいかわからない、栄養補助食品の選び方がわからない、具体的な献立の相談をしたいなど、どんな小さなことでも「こんなことで相談していいのかな」と遠慮する必要はありません。
多くの病院では、栄養相談や栄養指導のサービスがあります。
主治医に相談すれば、管理栄養士につないでもらえますし、栄養補助食品のサンプルを試すことができる場合もあります。
まとめ
膵臓がん治療中の食事は、一人ひとりの状態や症状によって最適な方法が異なります。
この記事でご紹介した工夫がすべての方に合うわけではありませんが、「これなら試せそう」と思える方法が一つでもあれば幸いです。
完璧を目指さなくて大丈夫です。食べられないときは食べられなくてもいい。できることから少しずつ試してみる。困ったときは専門家に相談する。そう思える心の余裕を持つことも、治療を続けていく上で重要です。
食事は、栄養を摂るためだけのものではありません。美味しいと感じる瞬間、家族と一緒に食卓を囲む時間は、心を支える大きな力にもなります。
できることから少しずつ、無理のない範囲で工夫を重ねていってください。
あなたとご家族が、少しでも安心して毎日を過ごせますように。
