抗がん剤の副作用 「食事がつらい」と感じたら
抗がん剤の治療を受ける際、多くの方が直面するのが副作用の問題です。
特定の部位に働きかける放射線治療とは異なり、薬が全身に作用する過程で、胃や腸などの管の内側にダメージが及んだり、味覚に障害が出たりすることがあります。
そのため、本来は楽しみであるはずの食事が思うように進まなくなるという問題に直面する方は少なくありません。
「食べたい気持ちはあるけれど、メニューを選ぶのが難しい」「大好きだった料理の味が以前と違う」といった悩みは、患者様にとって身体的な辛さだけでなく、精神的な負担にもなってしまいます。
しかし、その時々の体調に応じ、今の状態でも摂りやすい食事を見つけることで、状況を穏やかに変えていくことも期待できます。大切です。
このページでは、食欲不振が起こる主な仕組みから、日常生活ですぐに利用できる工夫の一覧まで、抗がん剤の治療中における食生活を支えるための情報をご案内します。
食欲不振が起こる原因とは

抗がん剤治療による食欲不振は、複数の理由が重なり合って生じるものです。
あらかじめその原因を把握しておくことは、無理のない範囲で食事に向き合い、心穏やかに過ごすための助けとなります。
主な要因には、以下のようなものが挙げられます。
味覚の変化
抗がん剤の影響により、味を感じる細胞がダメージを受けることで、味覚に障害が出ることがあります。
味が薄く感じられたり、口の中に金属のような味が残ったりするほか、苦味や塩味を通常よりも強く感じる傾向があります。
これまで好んでいた料理の味が変わってしまうこともあり、メニューを選ぶ際の迷いにつながるケースも見られます。
吐き気や嘔吐
薬の成分が脳の受容体や胃などの消化器に作用することで、吐き気を引き起こすことがあります。
不快感が強い時は、食べ物のにおいや盛り付けを見ただけでも食欲が抑制されてしまうことが一般的です。
特に食事の前や後の体調に応じた適切な対処が求められる場面です。
全身の倦怠感
治療の経過に伴い、強い疲れやだるさを感じることが多くなります。
身体的な負担から食事を用意する気力がわかなかったり、噛んで飲み込むという動作そのものがおっくうに感じられたりすることもあります。
こうした時は、水分を摂取するだけでも大きなエネルギーを必要とする場合があります。
口内の炎症
口の中やのどの粘膜がダメージを受けると、口内炎ができやすくなります。
食べ物がしみるような痛みは、食事をつらいと感じる大きな理由となります。
熱いものや酸味の強いもの、硬い食品などは刺激となりやすいため、これらを避けるなどの工夫が必要となります。
これらの症状の出方は、治療の種類や期間、また患者様ひとりひとりの状態によって大きく異なります。
食欲が湧かない、食べられないのはご自身の努力不足ではなく、あくまで治療に伴う反応であることを理解しておくことが大切です。
まずはご自分の状態を受け止め、医師や看護師に状況を相談しながら、その時々に合った方法を検討していきましょう。
食欲がない時にできる、小さな工夫

食欲がない時でも、少しでも食べられるように、以下の小さな工夫を試してみませんか?
少量ずつ、こまめに食べる
一度に多くの量を摂取しようとすると、胃などの消化器に大きな負担がかかり、吐き気や倦怠感を強めてしまうことがあります。
一日の食事を数回に分けて、少量をゆっくりと口にするようにしましょう。
そうすることで、胃や心に負担をかけず、体内のリズムに合わせた適切な栄養補給ができます。
無理に完食を目指すのではなく、その時々の体調に合わせた分量で進めていくことが大切です。
食べたいものを優先する
日頃の健康管理において栄養バランスは重要ですが、食欲がわかない時には「これなら口にできる」と感じる食品を選ぶことが優先されます。
食べたいものを自由に選択することは、食事に対する不安を軽減し、次の食事への意欲を支えるポイントとなります。
特定の食品に偏ることをあまり心配しすぎず、利用できるものを上手に取り入れていきましょう。
食事の環境を整える
食事の時間を固定せず、患者様ご自身の体調が良い時や、少しでも食べたいと感じた際に摂取するようにしましょう。
においが理由で食が進まない場合は、料理を冷ましてから提供したり、室内の換気を行ったりすることも大事です。
手のひらサイズの小さな器に一口分ずつ盛り付けて視覚的な負担を減らす、味覚障害で金属の味が強く感じられるときは木製やプラスチック製の食器に切り替えるなどの工夫も、食事の時間に対するストレスを和らげる助けとなります。
栄養補給を助ける食事のヒント

食欲不振のときは、栄養が偏りがちになります。
もちろん、つらい時は無理に食べる必要はありません。
やや余裕が出たら、身体にやさしいものを摂り、体力の回復を助け、治療を続ける力をつけていきましょう。
のどごしの良いもの
ゼリーやプリン、茶碗蒸し、スープ、ヨーグルトなどは、消化が良く口当たりが滑らかなため、食欲が抑制されている時でも比較的摂取しやすい食品です。
豆腐のように柔らかいものや、野菜を裏ごししたポタージュなども、必要な栄養を効率よく含むため、身体への負担を抑えつつエネルギーを補給する際の一助となります。
また、水分を多く含むものを選択することは、体内の潤いを保つ上でも有効です。
さっぱりとした味付け
抗がん剤の副作用で味覚の変化が生じ、普段の料理が重く感じられる場合があります。
そのような時は、レモンや酢などの酸味を活用したり、果物を用いたり、出汁を上手に利用してさっぱりとした味に仕上げることで、食べやすさが向上しやすいです。
大葉や生姜などの薬味を使用して香りを楽しむことも、食欲を刺激するための有効な方法です。
料理の温度を調整する
においに敏感になっている時期は、料理を人肌程度か、あるいは冷ましてから摂取することが有効です。
温かい料理は湯気とともににおいが広がりやすく、それが理由で吐き気や不快感を伴うケースがあります。
冷やしうどんやサンドイッチ、冷製スープといった冷たいメニューで、胃への刺激を抑え、温かい食事と比べて比較的スムーズに喉を通る可能性があります。
手軽に栄養補給できるもの
倦怠感が強く、ご自身での調理が難しい期間は、無理をせず市販の食品を活用することも大切です。
ゼリー飲料やドリンク状の栄養補助食品などは、少ない量で高いエネルギーを補うことが可能です。
あらかじめ冷凍のお粥やうどん、温めるだけで利用できるスープなど、時間をかけずに準備できるものをストックしておくのもいいでしょう。体調が回復したらすぐ口にできるものがある環境を整えられます。
食べやすいおすすめレシピ3選
ここでは、食欲がない時でも「これなら食べられそう」と感じていただけるような、簡単でやさしいレシピを3つご紹介します。
レシピ1:とろとろ卵のやさしいおじや

材料(1人分)
ご飯:茶碗軽く1杯
だし汁:200ml
卵:1個
お好みの具材(細かく切った人参や鶏ひき肉など):少量
作り方
①鍋にだし汁とご飯を入れて火にかけ、煮立たせます。
②具材を加え、火が通ったら溶き卵を回し入れます。
③卵がとろとろになったら完成です。
のどごしが良く、身体が温まります。
レシピ2:フルーツとヨーグルトのスムージー

材料(1人分)
お好みのフルーツ(バナナ、いちごなど):適量
プレーンヨーグルト:100g
牛乳または豆乳:50ml
作り方
①すべての材料をミキサーに入れます。
②滑らかになるまでミキサーにかけるだけ。
冷たくてさっぱりしているので、吐き気がある時でも比較的飲みやすいです。
フルーツの種類を変えれば、味の変化も楽しめます。
レシピ3:冷製かぼちゃのポタージュスープ

材料(2人分)
かぼちゃ:200g
玉ねぎ:1/4個
コンソメスープの素:小さじ1
牛乳:200ml
作り方
①かぼちゃと玉ねぎを柔らかく茹でます。
②茹でたかぼちゃと玉ねぎ、コンソメスープの素をミキサーにかけ、滑らかにします。
③粗熱を取り、牛乳を加えてよく混ぜ合わせたら完成です。
かぼちゃの甘みがやさしく、栄養も豊富です。
あとがき
抗がん剤治療の経過の中で起こる食欲不振は、多くの方が経験する一時的な症状です。
食事が思うように進まない時、ご自身を責めてしまう患者様も少なくありませんが、これは決して努力不足ではなく、治療の影響や体内での変化が主な理由です。
まずは、食べられない現状を否定せず、ご自身の心身を労わることが大切です。
もし、食事の摂取が難しい状態が長期間続いたり、体重が著しく減少したりする場合には、自己判断で抱え込まず、早めに主治医や看護師、管理栄養士に相談することが必要です。
このコラムで紹介した項目やヒントが、患者様が日々の食生活と穏やかに向き合い、安心して毎日を過ごすための一助となれば幸いです。
