前立腺がんのGS(グリソンスコア)を解説。3+4と4+3の違いとは?
前立腺がんと診断された際、医師から示される診断書の中で、PSA値と並んで最も注目すべき指標が「グリソンスコア」です。
これは顕微鏡で観察したがん細胞の形態を数値化したもので、がんの顔つきや悪性度を客観的に示す羅針盤のような役割を果たします。
多くの場合、この数字を見て「7点だから中くらい」「8点だから進行している」のように漠然と判断しがちです。
しかし、その内訳や最新の分類体系までを正しく理解しておくことは、納得のいく治療法を選択するために不可欠です。
本コラムでは、グリソンスコアの仕組みから、治療方針への影響、そして診断結果の捉え方まで、詳しく解説します。
治療を左右するグリソンスコア

がんの性格を示す指標
前立腺がんは、他のがんと比較しても進行のスピードや性質に大きな個人差がある病気です。
非常にゆっくりと進行し寿命に影響を与えないものから、早期に転移を起こす悪性度の高いものまで、多岐にわたります。
このがんの性格を見極めるための世界共通の指標が、グリソンスコアです。
泌尿器科の診療において、前立腺生検で採取された組織は病理医のもとへ送られます。
病理医は顕微鏡を用いて細胞の並び方や組織の構造を細かく観察し、がん細胞がどの程度、正常な組織から逸脱しているかを評価します。
この評価が、その後の手術や放射線治療、あるいは経過観察といった治療方針の決定において、PSA値やステージ(病期)以上に重要な意味を持つことも少なくありません。
なぜ2つの数字を足して表すのか
グリソンスコアの最大の特徴は、2つの数字を足し算して表記する点にあります。
前立腺がんの組織内には、異なる悪性度の細胞が混在していることが一般的です。
そのため、最も多く見られる組織パターンを「主要パターン」、二番目に多く見られるパターンを「二次パターン」として選び出し、それぞれの点数を合計します。
例えば「3+4=7」というスコアの場合、最も多い領域の悪性度が3点、次に多い領域が4点であることを示しています。
このように、単一の点数ではなく「最も優勢な部分」と「それに次ぐ部分」の両方を評価することで、腫瘍全体の悪性度をより正確に把握しようとするのがこの方法の目的です。
これにより、医師はがんの広がりや進行リスクを多角的に判断することが可能になります。
数値はがん細胞の形で決まる
病理診断において、グリソンパターンは1から5の5段階で評価されます。
1は正常に近い整った組織構造、5は最も乱れた構造を示します。
しかし、現在のがん診断においては1点や2点がつけられることはほとんどありません。実際には3点、4点、5点の組み合わせで評価が行われます。
3点は、がん細胞が小さな腺管を形成しており、比較的おとなしい状態です。
4点になると、腺管の形が崩れて癒合し始め、悪性度が高まった状態と判断されます。
5点は、腺管の形が完全に失われ、がん細胞がバラバラに散らばったり、大きな塊を作ったりしている、最も悪性度が高い状態を指します。
病理医は、これらのパターンが組織全体のどの程度の割合を占めているかを厳密に確認し、スコアを決定します。
スコア別のがんの悪性度

6点の場合
グリソンスコアの合計点数が6点(3+3)である場合、一般的には悪性度が低い「低リスク」のがんと分類されます。
このスコアは、顕微鏡で見える範囲のすべてが「おとなしいタイプ」の細胞で構成されていることを示しています。
周囲の臓器やリンパ節、骨などへの転移の可能性が極めて低い状態であるといえます。
現在、グリソンスコア6点の患者様に対しては、すぐに手術や放射線治療を行わず、定期的なPSA検査や画像診断、再生検を行いながら経過を見守る「監視療法(アクティブ・サーベイランス)」が有力な選択肢となります。
これは、治療による排尿障害や性機能低下といった副作用を避け、生活の質を維持することを目的とした戦略です。
7点の場合
合計点が7点になると、がんの悪性度は「中間リスク」に分類されます。
ここで重要になるのが、先ほど述べた数字の順番です。同じ7点でも「3+4」と「4+3」では、医学的な意味合いが大きく異なります。
「3+4=7」は、おとなしい細胞(3点)が主流であることを意味します。
一方、「4+3=7」は、悪性度の高い細胞(4点)が過半数を占めていることを示しており、より進行や転移のリスクが高い「準高リスク」に近い状態と考えられます。
この違いは、治療の緊急度や、放射線治療にホルモン療法を併用するかどうかといった具体的な判断に直結します。
7点という数字の内訳を正しく知ることは、自身の病状を理解する上で極めて重要なポイントとなります。
8点以上の場合
合計点が8点(4+4、3+5、5+3)、9点(4+5、5+4)、10点(5+5)となる場合は、悪性度が非常に高い「高リスク」のがんと見なされます。
これらのスコアは、がん細胞が増殖する力が強く、前立腺の被膜を突き破って周囲に広がったり、リンパ節や骨へ転移したりしやすい傾向を示しています。
この段階では、根治を目指すために手術や放射線治療を積極的に検討するほか、複数の治療法を組み合わせる集学的治療が行われることが多くなります。
たとえPSA値がそれほど高くなくても、グリソンスコアが8点以上であれば、医師は「手強いがん」として慎重かつ迅速な対応を提案します。
数字が高いことは不安の要因となりますが、早期に適切な治療を開始するための重要なサインと捉えることができます。
新分類グレードグループの導入

新しい分類が提唱された背景とは
グリソンスコアには長年、患者様に誤解を与えやすいという課題がありました。
合計点が6点から10点の範囲で示されるため、6点の患者様が「10点満点の6点なら、平均以上の悪性度なのではないか」と過度に不安を感じてしまうことがあったのです。
実際には6点は現在の基準で最も低い点数ですが、数字の印象が心理的な負担となっていました。
そこで、国際病理学会(ISUP)は2014年に、より直感的に悪性度を理解できる「グレードグループ」という新しい分類体系を提唱しました。
これは、グリソンスコアの組み合わせを1から5の5段階に整理し直したものです。
現在では、多くの病院の診断書において、従来のスコアとこの新しいグレードグループが併記されるようになっています。
グリソンスコアとの対応
グレードグループとグリソンスコアの対応関係は以下の通りです。
グレードグループ1:グリソンスコア6(3+3)以下。最もおとなしい。
グレードグループ2:グリソンスコア7(3+4)。おとなしい部分が主流。
グレードグループ3:グリソンスコア7(4+3)。悪性度の高い部分が主流。
グレードグループ4:グリソンスコア8(4+4、3+5、5+3など)。悪性度が高い。
グレードグループ5:グリソンスコア9〜10。最も悪性度が高い。
この分類によって、例えば「グレードグループ1」と診断されれば、それが「最も低い悪性度のグループ」であることが一目でわかります。
自身の病状が5段階のうちのどこに位置しているのかを確認することで、治療の必要性や緊急度をより客観的に捉え直すことが可能になります。
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治療におけるグリソンスコアの役割

経過観察の判断基準となる
前立腺がんの治療において、最も大きな決断の一つが「すぐに治療をするか、経過観察するか」という選択です。
グリソンスコアはこの判断の根拠となる最も有力な指標の一つです。
監視療法が推奨されるのは、一般的にグリソンスコアが6点以下(グレードグループ1)であり、かつPSA値が10ng/ml以下、臨床ステージがT1〜T2a(前立腺内に留まっている)といった条件を満たす場合です。
最近では、非常に限られた条件のもとで「3+4=7」の一部でも監視療法が検討されることがありますが、基本的には「6点以下」が安全に様子を見られる一つの境界線となります。
治療選択時の手がかりとして
グリソンスコアが7点以上、あるいは6点であってもPSA値が高いなどのリスク要因がある場合には、手術や放射線治療といった根治的治療が検討されます。
手術においては、スコアが高いほどがんが前立腺の周囲の組織や神経にまで及んでいる可能性を考慮し、神経温存を行うかどうかの判断基準になります。
放射線治療においては、スコアが高いほど治療後に再発するリスクを低減させるために、数ヶ月から数年間のホルモン療法を併用する期間を長く設定するなどの調整が行われます。
スコアは単なる診断の結果ではなく、治療の強さや期間を最適化するための設計図として機能します。
PSA値やステージも踏まえて判断
治療方針を決定する際には、グリソンスコア単独ではなく、PSA値やTNM分類によるステージと組み合わせて「リスク分類」を行います。
代表的なものに、D’Amico(ダミコ)分類やNCCNガイドラインによる分類があります。
例えば、グリソンスコアが6点でもPSA値が20ng/mlを超えていれば「高リスク」と判定されますし、逆にPSA値が低くてもグリソンスコアが8点であれば同様に「高リスク」となります。
これら三つの指標を総合的に見ることで、目に見えない転移の可能性や、将来的な再発の確率を統計的に予測することができます。
医師から提示される「リスク分類」の結果を理解することは、提示された治療法の妥当性を納得する上で助けとなります。
スコアが変化する場合

生検と手術後のスコア変化
前立腺がんの診断において、生検時のスコアと手術で前立腺をすべて摘出した後の確定スコアが異なることがあります。
生検は、細い針を使って前立腺の一部を数カ所から十数カ所採取する検査です。いわば「サンプル」を調べている状態です。
そのため、たまたまおとなしい部分だけが採取されたり、逆に最も悪い部分を捉えきれなかったりすることがあります。
統計的には、手術後にスコアが上がる(アップグレード)ケースが約2割から3割程度、逆に下がるケースも一定数存在します。
診断時のスコアはあくまで「現時点で確認できた最善の指標」であり、絶対不変のものではないという認識が必要です。
サンプリングエラーの可能性
生検による診断の限界を補うために、最近ではMRI画像と生検結果を組み合わせた画像診断の精度が向上しています。
MRIで怪しい箇所を特定し、そこを狙って採取する「標的生検」を行うことで、サンプリングエラー(採取の偏り)を減らす努力がなされています。
しかし、前立腺という臓器は内部でがんが多発的に発生しやすい性質を持っているため、完全にエラーをゼロにすることは困難です。
医師はこうした不確実性を考慮した上で、少し余裕を持った治療方針を提案することがあります。
患者様としても、診断の結果が一つの「推定」に基づいていることを理解しておくことで、治療後のスコアの変化にも冷静に対応できるようになります。
セカンドオピニオンの活用
グリソンスコアは、前立腺がんの悪性度を評価する重要な指標ですが、病理医の判断が求められる部分も多く、症例によっては評価が分かれることがあります。
特に、監視療法にするか根治治療に踏み切るか迷うような境界のケースでは、病理診断のセカンドオピニオンを受けることが有効な選択肢になります。
別の専門施設で組織標本を改めて確認してもらうことで、スコアの妥当性を再評価でき、治療方針を決める際の安心材料にもつながります。
また、診断内容を複数の視点から検討することは、自分自身が納得して治療を選ぶためにも大切です。
セカンドオピニオンは患者さんに認められた正当な権利であり、迷いや不安を抱えたまま進む必要はありません。
治療に向き合ううえで、より確かな情報を得るための手段として積極的に活用できます。
主治医に確認すべき点

自分のスコアを正しく知る
診察の際、医師から「がんです」と告げられると、大きなショックから病気の詳細を正確に聞き取れないことがあります。
しかし、治療の主体はあくまで患者様ご自身にあります。
まずは自分のグリソンスコアがいくつなのか、そしてグレードグループは何番なのかを確認してください。
言葉で聞くだけではなく、診断書や検査結果のコピーをもらい、自宅で落ち着いて見直すこともお勧めします。
最近では、医療機関のサイトや専門の疾患情報ページでも用語の解説が充実しています。
手元の数値と照らし合わせることで、医師の説明がより深く理解できるようになります。
検査結果をどう受け止めるか
グリソンスコアの結果が「高リスク」であったとしても、それは決して絶望を意味するものではありません。
前立腺がんは、適切に治療を行えば、たとえ高リスクであっても長期的な生存が十分に可能な病気です。
むしろ、スコアによってがんの正体が詳しくわかったことで、そのがんに最も効果的な治療が明らかになったと前向きに捉えることができます。
敵を知ることは、治療という戦いにおける最大の武器です。医師と情報を共有し、連携して治療に取り組む姿勢を持つことが、治療効果を最大限に引き出すことにも繋がります。
長期を見据えた経過観察を
前立腺がんの治療は、数年から十数年にわたる長い経過観察を伴うことが一般的です。
グリソンスコアは初期の治療選択に大きな役割を果たしますが、その後の経過を左右するのは、定期的なPSA検査の推移や、治療による身体の変化への細かな対応です。
治療後の再発の有無を調べる際も、当初のスコアに基づいて「どの程度の間隔で検査を行うべきか」という方針が立てられます。
一度の診断結果に一喜一憂しすぎず、長期的な視点で自身の健康を管理していくためのデータの一つとして、グリソンスコアを活用していきましょう。
おわりに
グリソンスコアは、前立腺がんという複雑な病気の本質を読み解くための鍵です。
その数字には、がん細胞がどのように増殖しようとしているのか、どのような治療に反応しやすいのかという、膨大な情報が凝縮されています。
このコラムによって、診断書に書かれたグリソンスコアの意味が少しでも身近に、そして具体的に感じられたのであれば幸いです。
現在、前立腺がんの診断と治療の技術は日々進化しており、遺伝子レベルでがんの性質を調べるゲノム検査なども臨床の場で利用され始めています。
どのような数値であっても一人で悩まず、主治医や相談窓口のスタッフに相談してください。
正しい情報を持ち、納得して治療に臨むことが、あなたらしい毎日を取り戻すための確かな一歩となります。
