地中海式食事法で支える がん患者の毎日の食と暮らし
「食べること」が、少し違って感じられるようになった…。
がんの治療中や治療後、食事との向き合い方がこれまでとは変わったと感じる方は少なくありません。たくさん食べられる日もあれば、そうでない日もある。そんな揺らぎの中でも、食事は私たちの心と体をそっと支えてくれるものです。
このコラムでは、地中海式食事法という選択肢を通して、日々の食卓にやさしく寄り添うヒントをお届けしたいと思います。
はじめに──“食べる”ことに迷いがあるあなたへ

がんの治療中は、体力の低下や食欲不振、味覚の変化、吐き気や嘔吐など、さまざまな症状に伴う食事の困難があります。抗がん剤や放射線療法、手術といった治療が進む中で、「以前と同じように食べることができない」と感じる患者さんはとても多いのです。
けれど「食べること」は、からだの栄養を補うだけでなく、気持ちの安定や生活の喜びにもつながります。無理をせず、自分に合った方法で少しずつ整えていくその一歩に、地中海式食事法が役立つかもしれません。
地中海式食事法とは?その考え方と特徴
地中海式食事法は、スペイン・イタリア・ギリシャなどの地中海沿岸地域の伝統的な食文化をベースとしています。
特徴は以下の通りです。
・野菜、果物、豆類、海藻、全粒穀物が豊富
・魚介類やヨーグルトなどのたんぱく質が中心
・オリーブオイルを主要な脂質源として利用
・赤ワインを少量(※医師と相談の上)
・パンや主食は精製度の低いものが基本
これらの食品は、抗炎症作用や腸内環境の改善、生活習慣病の予防に役立つものです。がんと関連した症状を抱える方にも、やさしく取り入れやすい点が魅力です。
栄養素のバランスを整えることは、治療中・治療後の体力維持や副作用軽減に効果があるとされています。
がん患者にとってのメリットと注意点

地中海式食事法ががん患者に向いている理由と、注意すべきポイントは以下のとおりです。
メリット
• 炎症の抑制に関する研究が進行中
• 腸内細菌の活性化により免疫機能の支援
• 栄養素の不足を防ぎ、体重や筋力の維持につながる
• 味覚変化にも対応しやすい多様な食材
注意点と工夫
• 油の量や塩分に注意し、胃がん・大腸がん等消化器系疾患には配慮が必要
• 吐き気・嘔吐・口内炎・下痢など症状が強いときは食材を柔らかく/冷たく
• パンや主食を和風にアレンジして、味覚の変化に対応
• 自分の病状に合わせ、医師や看護師、薬剤師へ相談することが重要
身近な食材で始める地中海式の食卓

日本でも、スーパーで手に入る食材を活かして“和風地中海式メニュー”を実践できます。たとえば以下のようなポイントがあります。
おすすめ食材の一覧(一部)
・野菜
トマト、ブロッコリー、ほうれん草、玉ねぎ
・魚介類
鮭、いわし、さば
・豆類
大豆、ひよこ豆
・発酵食品
ヨーグルト、納豆
・油
オリーブオイル
簡単レシピ紹介:蒸し鮭のオリーブオイルがけ
やわらかく、消化にもやさしいレシピです。症状によっては、野菜を裏ごししてソース状にするなどの工夫が効果的です。

材料(1人分)
塩…少し(必要に応じて)
鮭の切り身…1切れ
玉ねぎ(スライス)…1/4個
ブロッコリー…ひとつかみ
オリーブオイル…小さじ1
レモン汁…少量
調理方法
野菜を一口大に切る。
鮭に玉ねぎ・ブロッコリーをのせ、クッキングペーパーで包んで蒸す(電子レンジでもOK)
蒸し上がったら、オリーブオイルとレモン汁をかける
味覚変化がある場合は、ヨーグルトソース(無糖ヨーグルト、すりおろしにんにく、レモン汁、塩・こしょう、オリーブオイルを混ぜたもの)などでアレンジもおすすめ。
ラタトゥイユ(野菜の煮込み)
野菜たっぷりで消化にやさしく、冷やしても温めても美味しい副菜です。

材料(2人分)
• なす…1本
• ズッキーニ…1本
• パプリカ…1個
• 玉ねぎ…1/2個
• トマト缶…1/2缶
• オリーブオイル…大さじ1
• にんにく…1片
• 塩・こしょう…少々
• ハーブ(タイムやバジルなど)…お好みで
調理方法
オリーブオイルでにんにくを炒め、香りが出たら玉ねぎ→他の野菜を順に加える。
トマト缶とハーブを加えて弱火で20分ほど煮込む。
味を整えて完成。
食事を「楽しむこと」の大切さ

がんと向き合う日々の中で、「食べたい」という気持ちが遠のいてしまうときがあります。ですが食事には、心を支える力があります。
• 家族と食べるとき、食卓は会話と笑顔の場所に
• ひとりの食事も、盛り付けや香りで気持ちを整える工夫を
• 体調がすぐれない日はゼリーやヨーグルトだけでも十分
「食べること」に少しでも喜びを感じられるように、自分のペースでよいのです。
おわりに
がんという病気は、治療や診断だけでなく、日々の暮らしにも大きな変化をもたらします。だからこそ、食事という身近な営みから、「自分を大切にする時間」を取り戻してみてください。
地中海式食事法は、完璧に実践する必要はありません。「これなら少し食べられそう」と感じた食材から始める、それで十分です。情報に疲れたときは、医療従事者に相談することで、負担を減らす支援も受けられます。
