2025.10.27

肝臓がんと言われたら?「ステージ」「生存率」の正しい知識

肝臓の絵が描かれた白い紙を持つ女性

「肝臓がん」と診断されたとき、患者さんやご家族は、これからどうなるのだろう、という大きな不安に直面するでしょう。インターネットや本で病気について調べ始めると、「ステージ」「生存率」「余命」といった言葉が目に飛び込んできます。これらの言葉が、病気の深刻さを煽るように感じられ、さらに大きな不安を引き起こすかもしれません。

しかし、これらの言葉が一体何を意味するのかを正しく理解することは、不確かな情報に惑わされることなく、冷静に病気と向き合うための第一歩となります。

このコラムでは、肝臓がんの基本的な知識から始め、特に多くの人が気にされる「ステージ」、「生存率」、そして「余命」について、医学的根拠に基づき、できるだけわかりやすく解説します。

デフォルメされた肝臓のイラスト。苦しげな表情が描かれている

肝臓がんとは何か

肝臓がんは、肝臓の細胞が異常に増殖することでできる悪性の腫瘍です。

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、初期の段階では自覚症状がほとんどないことが大きな特徴です。そのため、健康診断や他の病気の検査で偶然発見されるケースが多く見られます。

肝臓がんには、肝臓の細胞そのものから発生する「肝細胞がん」と、肝臓の中にある胆管の細胞から発生する「肝内胆管がん」など、いくつかの種類があります。この記事で主に解説するのは、最も多くを占める肝細胞がんです。

肝臓がんの原因とリスク要因

肝臓がんの主な原因は、持続的な肝臓への炎症と肝細胞の破壊です。これには、以下のようないくつかの要因が関連しています。

  • B型・C型肝炎ウイルス感染
    日本における肝臓がんの原因の約8割は、B型肝炎ウイルス(HBV)またはC型肝炎ウイルス(HCV)の持続的な感染によるものです。ウイルス感染により慢性的な肝炎が進行し、肝硬変を経て肝臓がんが発生することが多いとされています。
  • アルコールの過剰摂取
    アルコールを長期間にわたり過剰に摂取すると、アルコール性肝炎や肝硬変を引き起こし、肝臓がんのリスクが高まります。
  • 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)
    肥満や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病が原因で、肝臓に脂肪が蓄積し、炎症を起こす病気です。
    NASHも肝硬変を経て肝臓がんの原因となることが、近年注目され、罹患している人も増加しています。
CT機器の前で話す医師と患者

初期症状と進行症状

肝臓がんは、初期にはほとんど自覚症状が現れません。これは、肝臓が大きな予備能力を持つため、がんが大きくなっても正常な部分がその機能を補うことができるからです。しかし、病気が進行すると、以下のような症状が現れることがあります。

・腹部の右上部分の不快感や痛み
・全身の倦怠感、食欲不振、体重の減少
・黄疸(皮膚や目の白い部分が黄色くなること)
・腹水(お腹に水がたまり、お腹が張ってむくみなどが出ること)

これらの症状は、肝臓がんのサインである可能性がありますが、他の病気でも見られるものです。そのため、特に肝炎や肝硬変の既往がある方は、わずかな体調の変化でも、かかりつけの医師に相談することが大切です。

画像診断の役割

肝臓がんの診断には、主に以下の画像検査が用いられます。

  • 超音波検査(エコー)
    体への負担が少なく、簡便に行える検査です。肝臓の腫瘍の有無や大きさ、位置などを確認します。
  • CT検査・MRI検査
    より詳細な画像を得ることで、腫瘍の大きさ、形、数、血管との関係性などを調べます。肝臓がんの診断には、これらの検査が非常に重要な役割を果たします。
  • 血管造影検査
    カテーテルという細い管を血管から挿入し、造影剤を注入して肝臓の血管の状態を撮影します。治療方針を決める上で重要な情報が得られます。

血液検査と肝機能の評価

血液検査も肝臓がんの診断に不可欠です。腫瘍マーカー(AFPやPIVKA-Ⅱなど)の数値や、肝臓の機能を評価する項目(AST、ALTなど)を調べ、診断の補助や治療効果の判定に用います。

肝機能の状態を把握することは、治療法の選択を決定する上で非常に重要な要素となります。肝がんの治療が難しいとされる理由の一つは、肝機能の低下が進んでいる症例が多いためです。

紙で作られた吹き出し。?のマークに切り取られている

ステージの定義と重要性

肝臓がんのステージ(病期)は、がんの進行度を示す分類です。他の多くの癌(胃がん、大腸がん、乳がん、肺がんなど)と同様に、肝臓がんもステージ分類が行われます。

しかし、肝臓がんのステージ分類では、がんの数や大きさ、血管への広がりだけでなく、患者さんの肝機能の状態も考慮して総合的に評価される点が大きな特徴です。これは、肝機能が低下しているとがんの治療が困難になるためです。

各ステージの特徴

肝臓がんのステージは、一般的に以下の3つの要素を組み合わせて判断されます。

  1. 腫瘍の数と大きさ……がんがいくつあるか、最も大きなもののサイズはどのくらいか
  2. 脈管侵襲の有無……がんが肝臓内の血管(門脈、肝静脈)に広がっているか
  3. 遠隔転移……肝臓から離れた肺や骨などの臓器に転移しているか

これらの要素に加えて、肝機能の評価も加味され、0期からIV期までの段階に分けられます。ステージ0やI期はがんが小さく、肝機能が比較的良好な状態を指し、ステージIV期は遠隔転移がある進行した状態を指します。

余命の考え方とステージ別生存率

「余命」という言葉は、患者さんやご家族にとって重く響くかもしれません。しかし、余命はあくまで「統計的な予測」であり、個々の患者さんの正確な寿命を断定するものではありません。

余命は、がんの種類、ステージ、患者さんの全身状態、そして何より治療に対する反応によって大きく異なります。インターネットなどで目にする数字はあくまで多くの人の平均値であり、ご自身の状況にそのまま当てはまるわけではないことを理解することが大切です。

また、「生存率」とは、がんと診断された患者さんのうちある一定の期間(通常は5年)後に生存している人の割合を示す統計データです。肝臓がんの生存率は、病期や肝機能の状況、治療法によって大きく異なります。

国立がん研究センターがん情報サービス「院内がん登録生存率集計」によると、2014-2015年に診断された肝臓がんの5年生存率は、おおよそ以下の通り報告されています。

・ステージⅠ:約60%
・ステージⅡ:約45%
・ステージⅢ:約15%
・ステージⅣ:約5%

しかし、これらの数字はあくまで過去の統計データです。近年の薬物療法の進歩は目覚ましく、特に進行した肝臓がんの治療成績は著しく改善されています。

肝臓がんの治療法

病院の待合室に置かれた長椅子

手術療法とその適応

肝臓がんの治療で最も根治が期待できるのが外科的な手術です。がんを完全に切除することで、治癒を目指します。

手術はがんが肝臓の一部にとどまっており、肝機能が比較的良好である場合に適用されます。がんの位置や大きさによっては肝臓の部分的な切除、あるいは肝移植が選択されることもあります。

化学療法と放射線療法の役割

肝臓がんの治療には、以下のような治療法も広く用いられます。

  • 肝動脈化学塞栓療法(TACE)
    肝臓に栄養を送る動脈にカテーテルを入れ、がんを攻撃する抗がん剤を注入し、その後血管を塞ぐ物質で塞ぐ治療法です。
    がんを兵糧攻めにする効果が期待できます。
  • ラジオ波焼灼療法(RFA
    体の外から針を刺し、ラジオ波を流して熱を発生させ、がん細胞を焼き殺す治療法です。
    がんが小さく、数が少ない場合に適応されます。
  • 放射線療法
    外部からがんがある部分に放射線を照射し、がん細胞を破壊します。
    手術や他の治療法が難しい場合に選択肢の一つとして検討されます。

近年、肝臓がんの治療は多様化しています。上記で紹介した治療の他にも、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬といった新しい薬が登場し、進行した肝臓がんの治療成績を大きく向上させています。

これらの薬物療法は全身のがん細胞を攻撃することを目的としています。以前は末期がんや転移がある場合、有効な治療法が限られていましたが、新しい治療法の登場により予後は大きく改善されつつあります。

青空の下でジョギングを行う男女

生活習慣の改善

肝臓がんの予防には、原因となる肝炎ウイルス感染の予防や、肝臓への負担を減らす生活習慣が重要です。

  • アルコールは適量を
    飲酒は控えるか、適量を心がけましょう。
  • バランスの取れた食事
    肥満や糖尿病を防ぐため、バランスの取れた食生活を心がけましょう。
  • 適度な運動
    定期的な運動は、肥満の予防に役立ちます。

定期検診の重要性

肝炎ウイルスに感染している方や、肝硬変と診断されている方は、定期的な検査が特に重要です。

肝臓がんの初期は自覚症状がほとんどないため、定期的な超音波検査や血液検査を受けることで、早期発見につながります。早期に発見できれば、治療の選択肢が広がり、より良い治療効果が期待できます。

「ステージ」「生存率」「余命」といった言葉は、確かに重い意味を持つかもしれません。しかし、これらはあくまで病気を正しく理解するための目安であり、患者さん一人ひとりの未来を決定づけるものではありません。

大切なのは、信頼できる情報源から正確な知識を得ること、そして不安な気持ちを一人で抱え込まず、医療従事者やご家族、信頼できる友人に相談することです。

特に、痛みなどの症状がある場合や、治療中の生活の質を維持したいときは、緩和ケアの専門医に相談することも重要です。緩和ケアは、治療のどの段階からでも利用可能であり、身体的な痛みや精神的な苦痛を和らげることで、患者さんの生活を支えます。

このコラムが、肝臓がんと向き合うすべての方にとって、少しでも安心につながる一助となれば幸いです。治療の方針や今後の見通しについて詳しく知りたい場合は、必ず担当医に相談し、納得のいくまで話し合うことをお勧めします。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。