食道がんにおける「ステージ」と「生存率」を考える
「食道がん」と診断されたとき、患者ご本人やご家族は、これからどうなるのだろう、という大きな不安に直面するでしょう。
病気について調べ始めると、「ステージ」「生存率」「余命」といった言葉が目に飛び込んできます。これらの言葉が、さらに大きな不安を引き起こすかもしれません。
しかし、これらが食道がんにおいてどういった意味を持つのかを正しく理解することは、不確かな情報に惑わされることなく、冷静に病気と向き合うための第一歩となります。
このコラムでは、食道がんの基本的な知識から始め、特に多くの人が気にされる「ステージ」、「生存率」、そして「余命」について、できるだけわかりやすく解説します。
食道がんの基本知識

食道がんとは何か
食道がんは、食べ物や飲み物が口から胃へ運ばれる管状の臓器である食道に発生する悪性腫瘍です。
食道の壁を構成する粘膜の表面から発生し、徐々に奥深くへと進行していきます。食道がんは、その発生する部位や組織の種類によって分類されます。
日本では扁平上皮がんが最も多く、食道がん全体の約90%を占めています。
食道がんの主な原因
食道がんの原因として、最も強く関連しているのが喫煙と飲酒です。
特に、熱い飲み物や食べ物を習慣的に摂取することも、食道の粘膜に炎症を起こし、リスクを高くすると考えられています。
また、飲酒すると顔が赤くなる体質の方(アルコール分解酵素が少ない人)は、食道がんになるリスクが非常に高いことが報告されています。食道がんの患者さんは男性に多いことが特徴です。
食道がんの症状と診断

初期症状の特徴
食道がんは、初期にはほとんど自覚症状がないため、健康診断などで偶然発見されるケースが多く見られます。
病変が進行すると、食べ物がつかえる感じや、飲み込みが難しいといった症状が現れます。
さらに進行すると、痛みや声のかすれ、体重の減少などが見られ、場合によっては咳や吐き気、嘔吐を伴うこともあります。背中や胸に痛みが生じることもあります。
診断方法と検査
食道がんの診断には、主に以下の方法が用いられます。
・内視鏡検査
食道にカメラを入れ、がんの有無、位置、大きさなどを直接観察します。
この際、病理診断のために組織の一部を採取し、詳しく調べます。
・CT検査・PET検査
がんの広がりやリンパ節への転移、他の臓器への遠隔転移を確認します。
診断だけでなく、治療方針を決定する上でも重要な役割を果たします。
・バリウム検査
バリウムを飲んで食道の形状や粘膜の状態をX線で撮影します。
がんの有無や広がりをおおよそ把握する目的で行われることが多いです。
これらの検査を行い、総合的に判断して診断が下されます。
食道がんのステージ分類

ステージの定義と進行度
食道がんのステージ(病期)は、がんの進行度合いを示す分類です。
がんの深さ(壁への浸潤)、リンパ節への転移、そして遠隔転移の有無という3つの要素を組み合わせて決定されます。
ステージが若いほど早期のがん、ステージが進むほど進行したがんとなります。この分類は、患者さんにとって最適な治療法を選択する上で、非常に重要な指標となります。
各ステージの特徴
・ステージⅠ
がんが食道の粘膜や粘膜下層にとどまっている段階です。リンパ節や遠隔の臓器への転移はありません。
早期に発見されると、内視鏡による治療も可能です。
・ステージⅡ・Ⅲ
がんが食道の筋層を越えて深くまで進行したり、周囲のリンパ節に転移が見られたりする段階です。
全身に広がっているわけではないため、手術や放射線療法、化学療法を組み合わせた治療が行われます。
・ステージⅣ
がんが食道から離れた遠隔臓器(肺や肝臓など)に転移している段階です。
全身に転移があるため、手術での根治は難しいと考えられますが、薬物療法を中心に症状の緩和や生存期間の延長を目的とした治療が行われます。
食道がんの治療法

手術療法の種類
食道がんの治療法として、手術は最も重要な選択肢の一つです。
手術では、がんのある食道の部分を切除し、胃や大腸を使って再建します。
進行度や患者さんの状態によっては、開胸や腹腔鏡など、いくつかの方法があります。外科的な切除は、根治を目指す上で非常に有効な治療と考えられています。
化学療法と放射線療法の役割
食道がんの治療は、手術だけでなく、化学療法と放射線療法を組み合わせることが一般的です。
- 化学療法(抗がん剤治療)
がん細胞を攻撃する抗がん剤を点滴で投与します。
全身のがん細胞に効果があるため、転移がある場合や、手術の前後に行われます。 - 放射線療法
高エネルギーの放射線をがん細胞に照射し、遺伝子を傷つけることでがん細胞を死滅させます。
手術が難しい場合や、手術と組み合わせて行われることが多いです。
食道がんのステージ別生存率

ステージごとの生存率
「生存率」とは、ある一定の期間(通常は5年)後に生存している患者さんの割合を示す統計的なデータです。食道がんの生存率は、ステージによって大きく異なります。早期発見されたがんほど生存率は高いです。
国立がん研究センターがん情報サービス「院内がん登録生存率集計」によると、2014-2015年に診断された食道がんの5年生存率は、おおよそ以下の通り報告されています。
ステージⅠ:約80%
ステージⅡ:約50%
ステージⅢ:約30%
ステージⅣ:約10%以下
しかし、これらの数字はあくまで過去の統計データであり、近年の薬物療法の進歩は目覚ましく、特に進行した食道がんの治療成績は著しく改善されています。
また、生存率は治療の効果だけでなく、患者さん自身の全身状態やがんの種類、治療への反応、他の疾患の有無など、さまざまな要因に影響されます。統計上の数値は、すべての患者さんに当てはまるわけではありません。
食道がんの余命と生活の質

余命の捉え方
「余命」という言葉は、患者さんやご家族にとって重い響きを持つかもしれません。しかし、余命はあくまで統計的な予測であり、個人の正確な寿命を断定するものではありません。
医師から余命について説明がある場合、それは治療や生活の方針を検討するための目安として用いられることが多いです。
生活の質を向上させる方法
治療を行いながら、生活の質を維持することは重要です。痛みや吐き気などの副作用に対しては、緩和ケアの専門医に相談することで、適切な処置を受けることが可能です。
また、食事や運動、精神的なケアなど、患者さん自身の生活を支える方法を見つけることも大切です。
→ 乗り越えたからこそ伝えたい「食道がん克服者の声」はこちら
まとめ
食道がんの治療は、手術、化学療法、放射線療法などを組み合わせて行われることが多く、患者さん一人ひとりの状態やがんの進行度合いに応じて、最適な治療法が選択されます。
ステージが進むにつれて治療の選択肢や負担も変化し、予後にも大きく影響を及ぼします。そのため、がんの種類やステージだけでなく、年齢や体力、生活背景なども含めて、医師とじっくり相談しながら納得のいく治療方針を見つけることが何よりも大切です。
また、治療は身体だけでなく心にも大きな影響を与えるもののため、不安や迷いを抱えるのは当然のことです。そんなときこそ、医療者との対話や、家族・友人との支え合いが力になります。
このコラムが、食道がんという病気への理解を深める一助となり、患者様やその周囲の方々が前向きな一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。
