2025.10.28

乳がんのステージで余命はどう変わる?知っておきたい生存率

聴診器と、ピンクリボンマークを模したリボンが並んで置かれている

乳がんと告げられたとき、多くの方が「これからどうなるのだろう」と不安に包まれます。

治療のこと、家族のこと、仕事のこと……頭の中にはさまざまな思いが巡るでしょう。そんなときに情報を探してみると、「ステージ」「生存率」「余命」といった言葉が目に入り、かえって心がざわついてしまうこともあるかもしれません。

でも、これらの言葉は、病気のすべてを決めるものではありません。正しく知ることで、今後の選択肢や希望が見えてくることもあります。乳がんは早期発見・早期治療によって、十分に回復が見込める病気でもあります。

このコラムでは、乳がんについての基本的な知識から、よく耳にする「ステージ」「生存率」「余命」について、できるだけわかりやすくお伝えします。不安な気持ちが、少しでも前向きな気持ちに変わるような情報をお届けできればと思います。

透明なガラスのティーカップに花が浮かんでいる様子

乳がんとは?

乳がんは、乳房にある乳腺組織にできる悪性腫瘍です。乳腺には、母乳を作る「小葉」と、母乳を乳頭まで運ぶ「乳管」があり、乳がんの多くは乳管から発生します。

乳がんは、女性が罹患するがんの中で最も多いがんであり、近年患者数は増加傾向にあります。

乳がんのステージ分類

乳がんのステージ(病期)は、がんの進行度合いを示す分類です。治療方針を決定する上で非常に重要な指標となります。

ステージは、主に以下の3つの要素を組み合わせて判断されます。

腫瘍の大きさ…がんの大きさ
リンパ節への転移…乳房周辺のリンパ節(腋窩リンパ節など)への転移の有無
遠隔転移…乳房から離れた他の臓器(肺、肝臓、骨、脳など)への転移の有無

これらの要素を総合的に評価し、0期からIV期までの段階に分けられます。

・ステージ0
 非浸潤性乳がんと呼ばれ、乳管や小葉の中にがん細胞がとどまっている状態です。
 乳房の外には広がっておらず、転移もありません。この段階で発見された場合、ほぼ完治が期待できます。
・ステージⅠ
 がんが乳腺の組織に浸潤し始めている段階です。腫瘍の大きさは2cm以下と小さいです。
 リンパ節や遠隔の臓器への転移は認められません。
・ステージⅡ
 腫瘍が大きくなったり、腋窩のリンパ節に転移が見られたりする段階です。
・ステージⅢ
 腫瘍が5cm以上と大きくなったり、リンパ節への転移がより広い範囲に広がったり、胸壁や皮膚にがんが浸潤している状態です。
・ステージⅣ
 がんが乳房から離れた他の臓器(骨、肺、肝臓、脳など)に転移している状態です。

虫眼鏡と?マーク

ステージ1からステージ4までの生存率

「生存率」とは、ある一定の期間(通常は5年)後に生存している患者さんの割合を示す統計的なデータです。乳がんの5年生存率は、ステージによって大きく異なります。

国立がん研究センターがん情報サービス「院内がん登録生存率集計」によると、2014-2015年に診断された乳がんの5年生存率は、おおよそ以下の通り報告されています。(ステージⅠ~Ⅳ。ステージ0は未掲載)

・ステージⅠ:95%以上
・ステージⅡ:約90%
・ステージⅢ:約80%
・ステージⅣ:約40%

これらの数値はあくまで過去の統計であり、すべての患者さんに当てはまるわけではありません。近年の治療法の進歩は目覚ましく、特に進行した乳がんの治療成績は著しく改善されています。

余命の目安とその要因

「余命」という言葉は、患者さんやご家族にとって重い響きを持つかもしれません。

しかし、余命はあくまで統計的な予測であり、個々の患者さんの正確な寿命を断定するものではありません。余命は、がんの種類、ステージ、患者さんの全身状態、そして何より治療に対する反応によって大きく異なります。

医師から余命について説明がある場合、それは治療や生活の方針を検討するための目安として用いられることが多いです。

胸に手を当てる女性

乳がんの転移が起こる部位

乳がんは、がんが進行すると、血管やリンパ管を通って他の臓器に移動し、増殖することがあります。これを「転移」と呼びます。

乳がんが転移しやすい部位としては、骨、肺、肝臓、脳などが挙げられます。

腋窩(えきか:わきの下)リンパ節への転移は、がん細胞が全身へと広がる可能性を示しているため、治療を行いながら、転移が起きていないか確認することが重要です。

転移による症状と生活への影響

転移が起こると、転移した部位に応じた新たな症状が現れます。

骨に転移した場合は痛みや骨折のリスクが高くなり、肺に転移した場合は咳や息切れ、肝臓に転移した場合は腹部の痛みや倦怠感などが生じることがあります。

脳に転移した場合は、頭痛や意識の変化が生じることもあります。

これらの症状は生活の質に影響を与えることが多いため、適切な緩和ケアを行い、症状をコントロールすることが重要です。

手のひらの上に紙で作った病院のアイコンが乗っている

主な治療法の概要

ステージ4の乳がんは全身にがんが広がっている状態のため、手術や放射線治療といった局所治療で根治を目指すことは難しいと考えられます。そのため、全身に効果を及ぼす薬物療法が治療の中心となります。

  • ホルモン療法
    乳がんの約7割は、女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロン)によって増殖する性質を持っています。がん細胞の表面にあるホルモン受容体が陽性の場合に行われる治療法です。
    女性ホルモンの作用を抑える薬を使用し、副作用が比較的少なく、長期間行うことができます。
  • 分子標的薬
    がん細胞特有の性質を標的にした薬を用います。特定の遺伝子の変化を持ったがんに効果を発揮します。
    HER2陽性の乳がんに対して高い効果を示します。
  • 化学療法(抗がん剤治療)
    がん細胞を攻撃する抗がん剤を点滴で投与します。
    副作用が出やすい場合もありますが、効果が高い治療法です。
  • 免疫チェックポイント阻害薬
    患者さん自身の免疫の力を利用して、がんを攻撃する治療法です。
    トリプルネガティブ乳がんなど、特定のタイプのがんに対して有効です。

治療法の選択基準

ステージ4の治療では、がんの性質(ホルモン受容体陽性・陰性、HER2陽性・陰性、トリプルネガティブなど)、転移の部位、数、そして患者さんの全身状態などを総合的に判断し、患者さんの希望を考慮した上で、最適な治療方針が決定されます。

笑顔を浮かべる家族

緩和ケアの重要性

緩和ケアという言葉を聞くと、「末期がんの人が受けるもの」と思われがちですが、実はそうではありません。

緩和ケアは、がんと診断されたその瞬間から、治療のどの段階でも受けることができる支援です。目的は、がんそのものを治すことではなく、治療中のつらさや不安をやわらげ、よりよい日常を送るためのサポートをすることです。

たとえば、痛みや吐き気、だるさといった身体的な症状に対しては、薬や生活の工夫で緩和を図ります。さらに、治療への不安や将来への心配、仕事や家族との関係など、精神的・社会的な悩みにも寄り添ってくれるのが緩和ケアの特徴です。医師や看護師だけでなく、薬剤師、心理士、ソーシャルワーカーなど多職種が連携して、患者さん一人ひとりの状況に合わせた支援を行います。

緩和ケアを受けることで、「治療に前向きになれた」「家族との時間を大切にできた」と感じる方も多く、生活の質(QOL)が大きく改善されることが報告されています。

がんと向き合う日々の中で、少しでも心と体が楽になるよう、緩和ケアという選択肢を知っておくことはとても大切です。

生活の質を向上させるために

乳がんの治療は、体への負担だけでなく、心にも大きな影響を与えるものです。だからこそ、治療と並行して「生活の質(QOL)」を保つことがとても大切です。

たとえば、栄養バランスの取れた食事を心がけることで、体力の維持や副作用の軽減につながります。散歩やストレッチなどの軽い運動は気分転換にもなり、血流や免疫力の向上にも役立ちます。夜はしっかりと睡眠をとることで、心身の回復を促すことができます。

また、治療中は不安や孤独を感じることもあるかもしれません。そんなときは、家族や友人に気持ちを話してみることも大切です。「こんなこと話してもいいのかな」と思うようなことでも、誰かに聞いてもらうだけで心が軽くなることがあります。医師や看護師、がん相談支援センターのスタッフなど、医療の専門家に相談することも、治療や生活の不安を整理する手助けになります。

治療は一人で抱え込むものではありません。周囲の支えを受けながら、自分らしい日常を少しずつ取り戻していくことが、前向きな治療につながっていきます。

乳がんの治療は、手術、放射線療法、薬物療法などを組み合わせて行うのが一般的です。どの治療を選ぶかは、がんの進行度や患者さんの体の状態、生活環境などによって異なります。一人ひとりに合った治療法を見つけるためには、医師との丁寧な対話が欠かせません。

「ステージ」や「余命」といった言葉は、初めて聞くと不安を感じるかもしれません。でも、それらは決して“終わり”を意味するものではなく、これからの治療や生活を考えるための大切な手がかりです。乳がんは早期発見・早期治療によって高い治療効果が期待できる病気でもあります。

このコラムが、乳がんに向き合う方やそのご家族にとって、少しでも安心や希望につながる情報となっていれば嬉しく思います。不安なときこそ、正しい知識と信頼できる人とのつながりが、前を向く力になります。あなたらしい選択ができるよう、心から応援しています。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。