2025.12.09

抗がん剤による体重減少の原因と食べるための工夫

体重計とメジャー

抗がん剤による治療を受けていると、以前よりも食事が思うように食べられなくなったり、少しずつ体重が減っていくことに気づいたりして、「このままで大丈夫だろうか」と不安な気持ちを抱くことがあるかもしれません。

体重の変化は、がんや治療の影響で起こる、ごく自然な体の反応です。実際に、多くのがん患者さんが、体重の変化、特に体重減少に悩んでいらっしゃいます。

このコラムでは、なぜ抗がん剤治療中に体重が減ってしまうのか、その原因をやさしくひも解きながら、ご自身の状態に合わせた食事の工夫や対策についてお話しします。一人で抱え込んでしまわずに、今できることから少しずつ始めてみましょう。

積み木のブロックで体重減少を現した図

抗がん剤はがん細胞を攻撃する薬ですが、同時に、口の中や消化管などの細胞が活発に入れ替わる部分にも影響を与えてしまいます。

そのため、多くの方に吐き気や口内炎、食欲不振などの症状が起きることがあります。

これらが、体重が減る主な原因となります。

体重減少の主な原因

体重減少は、いくつかの要因が重なり合って起こることがほとんどです。

1. 抗がん剤による副作用と食事の関係

抗がん剤治療の影響で吐き気や嘔吐・下痢や便秘といった消化器症状が起こると、十分な食事が摂取できなくなってしまいます。

特に吐き気は多くの方が経験する症状の一つで、吐き気止めの薬を利用していても食事を見るだけで気分が悪くなる時もあるかもしれません。
また、口内炎ができると食べ物がしみてしまい、食事の痛みから食べることが億劫になってしまいます。

味覚障害といって、食べ物の味が変わってしまったり、何も食べていないのに苦い金属のような味がしたり、砂をかんだような味に感じたりすることもあります。これらも食事の量を減らしてしまう大きな原因です。

2. がんや治療によるエネルギー消費増加

がんの進行した状態では、がん細胞が体の栄養を奪ってしまうため、食事を十分に摂取していても体重が減ってしまうことがあります。

これをがん悪液質と言います。

がん悪液質は、がん細胞が作り出す「サイトカイン」と呼ばれる炎症性の物質が体内で増えることで、食欲不振、体の筋肉や脂肪の減少、代謝の異常が引き起こされます。

がん悪液質は、体重減少を加速させる要因であり、栄養状態を悪化させる深刻な状態です。

がん悪液質は主に進行がんの患者さんに多く見られる症状ですが、早期の段階でも見られることがあります。

これを予防し改善するためには、食事だけでなく、軽い運動を継続することも重要だと考えられています。

無理のない範囲で散歩やストレッチなどの軽い運動を毎日行うことで、筋肉の減少を抑え、食欲増進につながることもあります。

3. 心身の疲労

治療中は、身体だけでなく、心も疲れてしまいがちです。

食欲不振の原因が吐き気などの症状だけでなく、「食べること自体がつらい」「食事の準備をする気力がない」といった心の負担からくることもあります。

これらの心身の疲労も、体重が減ってしまう要因となります。

実は体重が増えることもある?

多くの方が体重減少を経験する一方で、体重が増えてしまう方もいらっしゃいます。

その主な原因は、治療で使用される薬の影響によるむくみ(体の中に水分が溜まってしまう状態)や、食欲を増進させる薬の使用です。

むくみ(体内の水分貯留)

一部の抗がん剤は、腎臓の働きに影響を与え、体内に水分を溜め込みやすくすることがあります。また、吐き気止めとして用いられるステロイド薬も、むくみを引き起こすことがあります。

体重が増えたとしても、必ずしも脂肪が増えたわけではないことを知っておくことも重要です。

むくみを予防・緩和するためには、塩分を控えることが大切です。加工食品やインスタント食品に多く含まれる塩分は、体内に水分を溜め込みやすくするため、できるだけ手作りの食事を心がけ、薄味にすると良いでしょう。

また、適度な水分補給も重要です。

食欲の増進

ステロイド薬には、食欲を増進させる作用もあります。それにより、治療前よりも食事が進み、結果的に体重が増えてしまう方もいらっしゃいます。

食欲が増して体重が増加傾向にある場合は、食事の内容を見直してみましょう。揚げ物や脂っこいものを避け、野菜や果物を多めに摂るように心がけます。

間食にはお菓子ではなく、ナッツ類やヨーグルト、フルーツなどを選ぶことで、必要な栄養素を補給しつつ体重の急激な増加を防ぐことにつながります。

朝食を食べる女性

体重が減ってしまう原因を理解した上で、ここからは実際に毎日の生活でできる工夫をいくつかご紹介します。

無理に食べようとする必要はありません。できることから少しずつ試してみましょう。

食べやすいものを見つける

食事の悩みは、症状によって異なります。ご自身の状態に合わせて、食べやすいものを探してみましょう。

吐き気やだるさがあるとき
・冷たいものやさっぱりしたものが口にしやすいです。ゼリーやプリン、アイスクリーム、冷たい麺類などがおすすめです。
・においが強い食べ物は避けると良いでしょう。
・調理のにおいもつらく感じる場合は、電子レンジを活用したり、家族に作ってもらったりするなど、負担を減らす工夫をしましょう。
・一度に多くを食べず、少量を何回にも分けて摂取します。朝、昼、夜の3回にこだわらず、食べたいときに少しずつ口にすると良いでしょう。

口内炎や味覚障害があるとき
・口内炎の痛みがあるときは、柔らかく、なめらかなものが食べやすいです。
・お粥やスープ、ポタージュ、豆腐、卵料理などを試してみましょう。
・食べ物の温度をぬるくすると痛みが和らぐこともあります。
・味覚障害で味がわからなくなってしまったときは、風味や香りを楽しむ工夫をします。だしを利かせたり、しょうがやレモン、ごまなどを加えてみたりするのも良いでしょう。
・金属の食器が苦く感じる場合は、陶器や木のスプーンなどを使うと良い場合もあります。

食欲が全くないとき
・食事を「しっかり食べる」ことにとらわれず、水分や栄養を「補給する」という考え方に切り替えてみましょう。
・栄養補助食品(ドリンクやゼリー)や、具の入っていないスープ、牛乳などを試してみるのも良い方法です。

栄養補助食品を上手に利用する

食事だけで必要な栄養が十分に摂れない場合は、医師や栄養士と相談し、栄養補助食品を利用するのも一つの方法です。

ドリンクタイプやゼリータイプのものがあり、少量で高エネルギー、高タンパク質を摂取することができます。

特に食欲がないときや、食事の準備が大変なときに役立ちます。

水分補給を大切に

食欲がなくても、水分補給は欠かさないようにしましょう。脱水症状はだるさや吐き気を悪化させてしまうことがあります。

水だけでなく、経口補水液やスポーツドリンクなども活用すると良いでしょう。

医師に相談する男性のイラスト

体重の変化は、ご自身の体の状態を知るための大切なサインです。毎日の体重を記録したり、食事の内容や量、体調の変化をメモしたりする習慣をつけることも重要です。これらの記録は、診察のときに主治医や看護師にご自身の状態を伝える際に役立ちます。

ご自身の悩みや不安な気持ちを医療従事者に話すことは、決して弱音を吐くことではありません。食事の悩みは、栄養の専門家である管理栄養士に相談すると、ご自身に合った食事のアドバイスが受けられます。病院の外来や入院中に栄養の相談窓口があるか、主治医や看護師に尋ねてみるのも良いでしょう。

また、がん相談支援センターでは、治療に関する不安や、食事、生活、お金のことなど、さまざまな相談に無料で応じています。誰にも話せない悩みを抱えている場合は、このような専門の窓口を利用することもできます。

抗がん剤治療中の体重の変化は、ご自身の努力や心がけだけでコントロールできるものではありません。無理に食べなければと自分を責めてしまうことはありません。

今のあなたが出来ることを少しずつ見つけて、焦らずにご自身のペースで進んでいってください。辛いときや不安なときは、周囲の医療者やご家族に頼っても良いのです。このコラムが、ご自身の不安を少しでも和らげ、日々の生活のヒントになれば幸いです。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。