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がんと診断された時、多くの患者さんが「これからの仕事はどうなるんだろう」という大きな不安に直面します。

治療費はどれくらいかかるのか、会社を休む必要があるのか、働き続けることは可能なのか、退職しなければならないのか。

様々な疑問や悩みが頭をよぎり、心身ともに大きな負担となりがちです。

しかし、がんと診断されても、必ずしも仕事を諦める必要はありません。

近年、がん患者さんの治療と仕事の両立を支援する様々な制度や窓口が整備されつつあります。

一人で悩みを抱え込まず、適切な情報を知り、適切なサポートを求めることで、働き続ける道は見えてきます。

このコラムでは、がん患者さんが仕事と向き合う上で知っておきたい具体的な情報、相談できる窓口、そして活用できる公的・会社の支援制度について、分かりやすく解説します。

頭を抱えて悩むポーズのデッサン人形

がんと診断された患者さんは、治療を始めると同時に、仕事に関して様々な課題に直面します。

これらは主に「体調」「経済」「職場」の3つの壁が挙げられます。

体調の変化

がん治療は、手術や抗がん剤治療、放射線治療など、多岐にわたります。

これらの治療は、患者さんの体に大きな影響を与え、倦怠感、吐き気、しびれといった様々な副作用を引き起こす可能性があります。

また、頻繁な通院や入院が必要となり、それによって仕事の時間を確保することが難しくなる場合も多いです。

治療の種類と影響
・手術
 → 術後の回復にはある程度の期間が必要です。
   入院期間や退院後の療養期間中は、仕事を休まざるを得ないことがほとんどです。
・抗がん剤治療・放射線治療
 → これらの治療は、通院しながら行うことも多いです。
   副作用の程度によっては、治療日やその前後で体調が優れず、仕事ができない日が出てきます。
・内分泌療法・分子標的薬
 → 比較的副作用が少ない治療もありますが、長期間にわたり継続する必要があるため、定期的な通院が必要です。

経済的な不安

がんと診断された患者さんの多くが抱えるのが、経済的な不安です。

・治療費の負担
 → がん治療には高額な費用がかかることが多く、家計への影響は大きな問題です。
   高額療養費制度を活用することで自己負担額を抑えることができますが、それでも一定の自己負担は発生します。
・収入減少への心配
 → 治療のために仕事を休むと、その間の収入が減ってしまう可能性があります。
   特に、自営業の方や非正規雇用の場合は、休業中の収入確保がより大きな課題となります。

職場とのコミュニケーション

がんという病気を職場にどう伝えるか、そしてどのような配慮を求めるか、という問題も大きな壁です。

・上司や同僚にどこまで伝えるべきか
 → 病気であることを知られたくないと考える方もいれば、理解を得てサポートしてほしいと考える方もいます。
   誰に、いつ、どの程度まで伝えるか、という点は個人の状況や職場の環境によって異なります。
・会社の制度をどう活用すればいいか分からない
 → 多くの会社には、病気療養のための休職制度や、短時間勤務制度などがあります。
   ただ、その存在自体を知らないという方も少なくありません。
   どの制度が自分に適用されるのか、どう手続きすればいいのか分からない、といった問題に直面します。

窓口で相談する夫婦のイラスト

これらの壁に一人で向き合う必要はありません。

がんと診断された患者さんが仕事に関する悩みを相談できる専門の窓口が、全国に存在します。

がん相談支援センター

これは、全国のがん診療連携拠点病院などに必ず設置されている、がん患者さんとそのご家族のための総合的な相談窓口です。

ここでは、がん医療の専門的な知識を持つ相談員(看護師や医療ソーシャルワーカー)が、無料で相談に応じてくれます。

治療の内容や副作用、療養生活全般に関する相談はもちろん、「仕事との両立」というテーマも大きな相談内容の一つです。

休職・復職の手続き、公的支援制度の案内、職場への伝え方など、多岐にわたる悩みに対応してくれます。

利用のポイント
・他の病院で治療を受けている場合でも、誰でも利用できます。
・相談は無料で、プライバシーは厳守されます。
・必要に応じて、地域のハローワークや社会保険労務士などの専門家につないでくれることもあります。

ハローワーク

ハローワークには、長期療養を必要とする患者さんの就職・再就職を専門に支援する窓口が設けられている場合があります。

治療を続けながらできる仕事を探したい、治療後に再就職したいといった相談に対応しています。

職業相談員が、患者さんの体調や治療状況を考慮しながら、就職活動をサポートしてくれます。

利用のポイント
・がん相談支援センターと連携している場合も多いので、両方の窓口をうまく活用するのがおすすめです。

社会保険労務士(社労士)

社会保険労務士は、年金や健康保険、労働法規の専門家です。

会社の就業規則や休職制度、公的支援制度(傷病手当金、障害年金など)について、法的な観点から具体的なアドバイスを受けることができます。

利用のポイント
・がん相談支援センターが開催する就労相談会に、社労士が参加していることがあります。
・個人で社労士に相談することも可能ですが、費用がかかる場合があります。
・まずはがん相談支援センターで情報を集めるのが良いでしょう。

木漏れ日

経済的な不安を軽減し、働き続けるために、ぜひ知っておきたい制度がいくつかあります。

公的支援制度の例

・傷病手当金
 → 健康保険に加入している人が、病気やケガで仕事を休んだ際に、休業中の生活を保障するために給付金が支給される制度です。
   治療のために休業した期間、給与が支払われなかった場合に、条件を満たせば給付金を受け取ることができます。
・高額療養費制度
 →  1ヶ月の医療費の自己負担額が一定の金額(自己負担限度額)を超えた場合、その超えた分が払い戻される制度です。
   事前に申請し「限度額適用認定証」を提示すれば、窓口での支払いを自己負担限度額までにとどめることができます。
   高額になりがちな治療費の負担を大きく軽減できるため、必ず確認しましょう。
・障害年金
 → 病気やケガによって生活や仕事が制限される場合に支給される年金です。
   がんも対象となる場合があり、症状の程度や働きにくさの状況によって受給できる可能性があります。

これらの制度は、複雑で分かりにくいと感じるかもしれませんが、がん相談支援センターなどで専門家から具体的なアドバイスを受けることができます。

会社の制度

企業には、法律で定められた制度以外にも、独自の支援制度がある場合があります。

・休職制度
 → 病気の療養に専念するため、一定期間仕事を休むことができる制度です。
   給与の支払いがあるかどうかは会社によって異なります。
・短時間勤務制度
 → 治療や通院の頻度に合わせて、勤務時間を短くしてもらう制度です。
・積立有給休暇制度
 → 時効で消滅する有給休暇を積み立てて、病気療養などに使えるようにする制度です。

これらの制度の有無や内容は、会社の就業規則に記載されています。まずは会社の担当部署や就業規則を確認してみましょう。

出社する男性

仕事と治療を両立するためには、職場との良好なコミュニケーションが不可欠です。

タイミングを見極める

診断後、治療方針がある程度固まった段階で、直属の上司に相談するのが一般的です。

早めに伝えることで会社側も体制を整えやすくなり、その後の調整がスムーズに進みます。

伝えるべき情報を整理する

全ての病状を詳しく話す必要はありません。

大切なのは、「今後の治療スケジュール(通院・入院の期間)」「体調の変化によって生じる可能性のある仕事上の制約」「会社に求める具体的な配慮」の3点です。

例:「抗がん剤治療の影響で、治療後数日は倦怠感があるため、在宅勤務を希望します。」

専門家の力を借りる

主治医の診断書
 → 治療や副作用の状況を客観的に伝えるために、主治医に診断書を作成してもらうのが有効です。

がん相談支援センターの活用
 → 職場とのコミュニケーションに不安がある場合は、がん相談支援センターで相談員と一緒に伝える内容を整理するのもひとつです。

がんと診断された後も、働き続けたいと願う患者さんは少なくありません。しかし、その道のりは決して楽なものではなく、様々な困難が伴うことも事実です。

「がん」という病気と「仕事」という生活を、一人で両立させる必要はありません。あなたの状況や治療内容、そして働き方への希望に応じて、活用できる支援制度や相談窓口は必ずあります。

まずは、がん相談支援センターに足を運んでみましょう。そこで得られる専門的な情報とサポートは、あなたが仕事と治療、そして自分らしい生活を続けていくための大きな力となります。

治療を続けながら働くことは、生きがいや経済的な安定をもたらし、生活の質(QOL)の向上にもつながります。

がんと診断された時こそ一人で抱え込まず、多くの支援を活用して、あなたらしい働き方を続けていきましょう。


監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。

がんという診断を受けたとき、今後の生活や治療費、そして仕事について、さまざまな不安が頭をよぎるかもしれません。

もちろん、治療に専念するため、一時的に仕事を離れることを考える方もいらっしゃいます。

しかし、多くの患者さんが「仕事を続けたい」と希望されており、医学の進歩によって、治療と仕事を両立できる時代になってきました。

このコラムは、そんな働くがん患者さんとご家族の皆さまに向けて、仕事との向き合い方、特に「休職」と「復職」について考える上で知っておきたい大切な情報をまとめています。

一人で悩まず、会社の制度や公的な支援を上手に活用して、自分らしい働き方を見つけるためのヒントとして、ぜひご活用ください。

両手に箱を持って比較するデッサン人形

がんの治療は、手術や抗がん剤治療、放射線治療など、さまざまな方法があり、その副作用や療養期間も人によって大きく異なります。

そのため、治療と仕事を両立できるかどうかも、一人ひとりの病状や仕事の内容によって変わってきます。

まずは「どう働くか」を考える

がんの診断を受けたからといって、すぐに休職や退職をする必要はありません。

まずは、ご自身の状況を整理して、「今後どうしたいか」を考えてみることが大切です。

・治療を受けながら仕事を続けられそうか
・しばらくは休職して、治療に専念したいか
・体調が回復するまで、働き方を調整してもらえないか

といったことを、ご自身の気持ちと向き合いながら考えてみましょう。

このとき、ご家族とも相談し、どのような支援が必要か、どんな働き方を希望するか、話し合っておくことも重要です。

会社の就業規則を確認する

休職や復職を考える上で、最初に確認しておきたいのが、ご自身の会社の「就業規則」です。

就業規則には、休職できる期間や条件、復職の手続きなどが定められています。

・休職できる期間はどのくらいか
・休職中の給与や賞与の取り扱いはどうなるか
・休職後、復職できるまでの期間が定められているか
・休職や復職の手続きに必要な書類は何か

といった項目をチェックしておきましょう。

会社のウェブサイトや社内サイトで確認できる場合もありますが、もしわからなければ、人事や総務の担当者に相談してみるのも良いでしょう。

上司や会社への相談のタイミングと伝え方

がんであることを会社に伝えるか、伝えるならいつ、どのように伝えるべきか悩む方は少なくありません。

がんであることを伝えるかどうかは、もちろんご本人の自由です。

しかし、治療の副作用などで勤務に影響が出る可能性がある場合は、早めに相談しておく方が職場復帰に向けたスムーズな調整につながります。

相談する際は、まずは直属の上司に伝えるのが一般的です。

その際、ご自身の病状や治療内容、今後の希望などを具体的に伝えることで、会社側も適切な対応を検討しやすくなります。

・いつ頃から治療が始まり、どれくらいの期間休職が必要か
・治療内容や副作用の症状(例:抗がん剤治療による体力の低下、倦怠感、吐き気など)
・休職中に利用したい制度(傷病手当金など)
・復職の希望時期や、その際の働き方(短時間勤務など)

といった情報を整理しておき、主治医に「診断書」を書いてもらうと、よりスムーズに話を進めることができます。

机の上にノート、電卓、ペン、おもちゃのお金、豚の貯金箱が置かれている様子

がん治療中は、治療費や生活費など、経済的な負担も大きな問題となります。

休職中も安心して過ごすために、お金に関する心配を減らせるよう公的な制度を上手に活用しましょう。

傷病手当金

傷病手当金は、病気やけがで仕事を休んだとき、本人や家族の生活を保障するために、健康保険から支給される制度です。

・対象となる方
 → 会社の健康保険に加入している方(自営業の方など、国民健康保険の方は対象外です)
・支給される期間
 → 仕事を休み始めた日から、最長1年6ヶ月まで
・支給額
 → 給与のおよそ3分の2程度(標準報酬日額に基づき計算されます)
・申請方法
 → 会社の担当部署(人事、総務など)を通じて申請します。
   主治医に「療養のために休職が必要」と記載された診断書を書いてもらう必要があります。

【ポイント】
傷病手当金の申請は、休職期間中に行うことができます。
会社を通じて所定の書類を健康保険組合に提出することで、給付を受けられます。

その他の制度

その他にも、がん患者さんが利用できる制度はいくつかあります。

・高額療養費制度
 → 医療費の自己負担額が、年齢や所得に応じて定められた上限を超えた場合、その超えた分が払い戻される制度です。
・障害年金
 → 病気やけがによって生活や仕事に支障がある場合に受け取れる年金制度です。
   がんもその対象となる可能性があります。

これらの制度について詳しく知りたい場合は、お住まいの地域の「がん相談支援センター」や、会社の担当部署に相談してみるのが良いでしょう。

ノートパソコン・タブレットを拓きながら談笑する3人の女性

治療が一段落し、体調が回復してくると、「また働きたい」という気持ちになる方も多いでしょう。

安心して職場に戻るためには、事前の準備と周囲のサポートがとても大切です。

復職のタイミングを見極める

復職のタイミングは、ご自身の体調や主治医の見解をふまえて慎重に決めることが重要です。

・治療による副作用がどの程度まで落ち着いたか
・長時間働くことができる程度の体力が回復したか
・通勤に支障がないか
・再発や転移のリスクを考慮した上で、どのくらいのペースで働けるか

といった点を、主治医とよく相談しましょう。

復職には、主治医に「就労可能」と記載された診断書を提出するのが一般的です。

無理なスケジュールで復職すると、体調を崩してしまい、再び休職せざるを得ないケースもあります。

焦らず、ご自身のペースで考えることが大切です。

会社との連携と働き方の調整

復職する際は、上司や人事担当者、そして会社の産業医と連携し、復職に向けた計画を作成します。

・短時間勤務制度の利用
 → 最初はフルタイムではなく、短い時間から始めて、少しずつ勤務時間を増やしていく方法です。
・業務内容の見直し
 → 体への負担が少ない業務への変更や、重いものを運ぶなどの業務を一時的に軽減してもらうなどの配慮をしてもらいましょう。
・通院日の配慮
 → 治療後の定期的な通院が必要な場合、有給休暇などを活用しやすいように調整してもらうことも重要です。

また、復職前に「試し出勤」制度を利用できる企業もあります。

これは、本格的な復職の前に、通勤や勤務に慣れるための制度です。

不安な方は、会社の担当者に問い合わせてみましょう。

職場復帰後の注意点

復職後も、無理は禁物です。

・体調の変化を放置しない
 → 少しでも体調が優れないと感じたら、すぐに上司や産業医に相談しましょう。
・働き方を見直す
 → もし当初の計画通りにいかなければ、再度働き方を柔軟に調整してもらいましょう。
・同僚とのコミュニケーション
 → 病気のことを同僚にどこまで伝えるかは悩むかもしれません。
   ただ、日々の業務で協力を得るためにも、体調の状況や配慮してほしい点を伝えておくことで、お互いに気持ちよく働くことができます。

がんと診断された後も仕事と向き合うことは、患者さんにとって大きな支えとなり、生活にメリハリをもたらしてくれるものです。

しかし、無理をしてしまうと、かえって病状に影響が出るリスクもあります。

大切なのは、「自分一人で頑張ろう」と抱え込まないことです。

このコラムで紹介したように、日本には、働くがん患者さんを支援するさまざまな制度やサポートがあります。

仕事との両立に不安を感じるときは、まず会社の相談窓口や、お近くの「がん相談支援センター」に問い合わせてみましょう。

治療と仕事を両立しながら、ご自身らしく前向きな毎日を送るために、ぜひこうした支援を積極的に活用してください。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。

がんという病と向き合うことは、患者さんご自身だけでなく、ご家族にとっても計り知れないご苦労を伴います。

抗がん剤治療中に多くの患者さんが経験する副作用の一つに「便秘」があります。「たかが便秘」と軽視されがちですが、腹部の張り、吐き気、食欲不振、さらには痛みを伴い、日常生活の質を著しく低下させてしまいます。

慣れない治療中に、便秘という新たな負担が加わることは、心身ともに大きなストレスです。

しかし、適切な対策を知り、実践することで、そのつらさを和らげることができます。

このコラムでは、抗がん剤治療中の便秘に焦点を当て、ご自身でできる方法から医療のサポートまで、具体的な対策を詳しくご紹介します。

一番大切なのは、「つらい」と感じたら我慢しないこと。そして、早めに対策を始めることです。

リビングでお腹を押さえる女性

がん治療中に便秘が起こるのには、様々な原因が考えられます。

主な原因を知ることは、ご自身の便秘に合わせた適切な対処法を探す上で、重要な情報となります。

薬の影響

便秘の原因として最も多いのが、抗がん剤や、痛みを抑えるために使用する薬の影響です。

これらの薬の作用が腸の動きを抑制し、便を出にくくしてしまうことがあります。

特に、モルヒネなどの医療用麻薬や、吐き気を抑えるための薬は、便秘を起こしやすいとされています。

食事・水分摂取量の変化

治療の影響で食欲がない、吐き気があるなどの症状から、食事の量が減少したり、水分を十分に摂取できないことがあります。

食物繊維や水分が少ないと、便の量が少なくなり、硬くなって排便が困難になります。

消化が低下し、腸の動きも悪くなってしまうこともあります。

運動不足

治療中の体のだるさや倦怠感、痛みなどで、活動が少なくなりがちです。

身体を動かす機会が減ると、腸の動きも低下して便秘を起こしやすくなります。

犬を散歩させる女性

つらい便秘ですが、日々の生活の工夫で改善できることも多くあります。無理のない範囲で、できることから取り入れてみましょう。

これらの対策は、予防の観点からも重要です。

水分補給を最優先に

便秘対策の基本は、水分補給です。こまめな水分摂取で便を柔らかくし、スムーズな排便を促します。

【ポイント】
・こまめに飲む
 → 一度にたくさん飲むのではなく、コップ1杯程度をこまめに摂る習慣をつけましょう。
・朝一番に飲む
 → 起床後すぐに水を飲むと、腸への刺激となり、便意を促す効果が期待できます。
・水またはお茶を飲む
 → ほか、経口補水液や牛乳も良いでしょう。

食物繊維を意識した食事

食物繊維は便のかさを増やし、腸の動きをサポートします。

無理なく食べられるものから少しずつ取り入れましょう。

【ポイント】
・水溶性と不溶性をバランス良く
 → 水溶性(便を柔らかくする): わかめ、昆布、果物、里芋など
   不溶性(便の量を増やす): ごぼう、きのこ類、豆類、玄米など
・食べやすい調理法で
 → 食欲がない時は、煮込んだ野菜やスープ、すりおろしたリンゴなどがおすすめです。

適度な運動を取り入れる

適度な運動は腸の動きを活発にし、便秘改善に効果的です。

無理のない範囲で、体を動かす習慣をつけましょう。

【ポイント】
・ウォーキングの習慣をつける
 → 体調が良い時に、毎日・数日おきでも、少しずつ歩いてみましょう。
・ベッドの上でできる運動を
 → 足首回しや膝の曲げ伸ばし、腹式呼吸も腸を動かすのに役立ちます。

毎日決まった時間にトイレに行く習慣をつけることで、排便リズムが整いやすくなります。

【ポイント】
・決まった時間にトイレに行く
 → 朝食後など、便意を感じやすい時間帯にトイレに座ってみましょう。
・正しい姿勢で座る
 → 便器に座るときは、少し前かがみの姿勢をとると、排便しやすくなります。

お腹を優しくマッサージしたり、温めたりすることで、腸の動きを促す効果が期待できます。

【ポイント】
・マッサージ
 → おへその周りを「の」の字を描くように、時計回りにゆっくりとマッサージします。
・お腹を温める
 → 温かいタオルをお腹に乗せたり、ゆっくり入浴したりするのも良いでしょう。

リラックスする

ストレスは腸の動きに影響を与えます。

リラックスできる時間を作り、心と体のバランスを保つことが大切です。

【ポイント】
・リラックスできることを見つける
 → 好きな音楽を聴く、アロマを焚くなど、自分に合った方法でストレスを発散しましょう。
・つらさを相談する
 → 不安や悩みを一人で抱え込まず、家族や医療スタッフに話すことも大切です。

診察室で椅子に座る医師のイラスト

ご自身でできる対策を試しても改善しない場合や、症状がひどい場合は、我慢せずに医療機関に相談しましょう。

医師に相談するタイミング

以下のような症状がある場合は、すぐに医師に相談してください。

  • ・3日以上便が出ない
  • ・強い腹痛や腹部の張りがある
  • ・吐き気や嘔吐がある
  • ・食事が摂れない
  • ・便に血が混じるなど、便の状態がいつもと違う

便秘薬の種類と使い方

医師は便秘の原因や患者さんの状態に合わせて、適切な便秘薬を処方してくれます。

自己判断で市販薬を服用したりせず、必ず医師や薬剤師の指示に従いましょう。

【主な便秘薬の種類】
・便を柔らかくするもの(浸透圧性下剤)…酸化マグネシウムなど
・腸の動きを促すもの(刺激性下剤)…センナなど
・直腸の便を出すもの(坐薬・浣腸)…即効性があり、緊急時に使われます。

今回は、抗がん剤治療の副作用として起こる便秘について、その原因と対策を解説しました。

便秘はつらい症状ですが、多くの患者さんが経験する一時的な状態です。

大切なのは、無理をせず、ご自身の体の変化に合わせて対処することです。

便意がない時、何を食べてよいか困った時は、一人で悩まずに、通院先の病院に相談してみてください。

看護師や管理栄養士、専門の人たちがあなたの悩みに寄り添います。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。

がんの診断を受け治療に専念されている患者さま、そしてそれを支えるご家族が長期にわたる治療期間中、体力的な負担や日常生活の変化に戸惑うことは少なくありません。

これまで当たり前にできていたことが難しくなったり、周囲のサポートが不可欠になったりすることもあるでしょう。

そんなとき、多くの人にとって「介護保険」は、高齢者が利用する制度というイメージが強いかもしれません。

しかし、実は40歳から64歳のがん患者さまも、特定の条件を満たせばこの制度を利用できることをご存じでしょうか。

この記事では、がん患者さまとご家族が介護保険を賢く活用するために知っておきたいポイントを、分かりやすく解説します。

制度の仕組みから具体的な申請・利用の流れまで、一つひとつ丁寧に見ていきましょう。

「介護保険」と記載されたブロック、お金を模した積み木、高齢者をイメージした人形が机に置かれている

介護保険は、高齢者や特定の病気で介護が必要になった方が、自立した生活を送るための支援を目的とした公的な保険制度です。

在宅での療養を望む方にとって、介護や医療のサービスを利用する上で、なくてはならない制度の一つと言えます。

介護保険の対象者について

介護保険の対象者は、年齢によって二つの区分に分かれます。

第1号被保険者(65歳以上の方):
介護が必要になった原因を問わず、要介護認定を受ければサービスを利用できます。
第2号被保険者(40歳から64歳の方):
末期がんを含む「特定疾病」という病気が原因で介護が必要になった場合に限り、利用できます。

この特定疾病は、加齢に伴い生じやすい病気のうち、医学的に進行が認められる16の病名が指定されています。がんは、このうち末期がんと診断された場合に該当します。このことを知っているのと知らないのとでは、受けられる支援の幅が大きく変わります。

末期がんとは、一般的に医師が「回復の見込みがなく、余命が限られている」と判断した状態を指します。

末期がんと診断された場合、速やかに介護保険の申請を行うことで、在宅医療や在宅での療養を支えるさまざまなサービスが使えるようになります。

介護保険を利用するための「介護認定」の流れ

介護保険を利用するには、お住まいの市区町村に申請し、「要介護認定」を受ける必要があります。
この手続きは少し複雑に感じられるかもしれませんが、以下のようにステップごとに進められます。

ステップ1:市区町村の窓口で申請
 → まずはお住まいの市区町村の介護保険担当窓口(高齢福祉課など)へ行きます。
   このとき、窓口でいつ頃から介護が必要になったか、どこに困りごとがあるかなどを伝えます。

ステップ2:訪問調査と主治医意見書
 → 申請後、市区町村の担当者(認定調査員)が自宅を訪問し、ご本人の状態を把握するための「認定調査」が行われます。
   この調査では、ご本人の身体機能や日常生活動作、精神状態などが細かくヒアリングされます。
   同時に、市区町村はご本人の主治医に「主治医意見書」の作成を依頼します。
   末期がんの患者さまの場合、この意見書で末期がんであることが記載されることが、認定を受ける上で非常に重要となります。

ステップ3:介護認定審査会による審査と結果通知
 → 訪問調査と主治医意見書の内容をもとに、「介護認定審査会」で審査が行われます。
   この審査を経て、ご本人の介護の必要度が以下のように決まります。

自立(非該当): サービスは利用できません。
要支援1・2: 軽度の介護が必要な状態。日常の支援が中心となります。
要介護1〜5: 日常的な介護が必要な状態。数字が大きいほど、介護の必要度が高いことを示します。

がん患者さまの場合、病状の進行が早いため、暫定的な要介護認定が行われる特例も存在します。これにより、迅速にサービスを利用開始できる方もいます。

高齢者と介護ヘルパーのイラスト

要介護認定を受けたら、いよいよ具体的なサービスを検討します。

在宅療養を希望する方にとって、介護保険で使えるサービスは非常に心強い味方となります。

居宅サービス(自宅で受けられるサービス)

訪問介護
ヘルパーが自宅を訪問し、入浴や食事などの身体介護、調理や掃除などの生活援助を行います。
ご家族の負担を軽減し、ご本人が自宅で自分らしい生活を続けるための基本的な支援です。
訪問看護
看護師が自宅を訪問し、点滴や褥瘡の処置、服薬管理など、医療的なケアを行います。
在宅医療との連携により、病院と同じレベルの医療処置を自宅で受けることが可能になります。
訪問診療
医師が自宅を訪問して診察や処方を行う在宅での診療です。
末期がんの緩和ケアなど、在宅での療養に欠かせないサービスです。
短期入所生活介護(ショートステイ)
短期間、施設に入所し、入浴や食事、レクリエーションなどのサービスを受けます。
ご家族が一時的に休養を取りたいときなどに利用できます。

これらのサービスをどのように組み合わせるかは、ケアプランという計画書にまとめられます。

高齢女性から聞き取りを行うケアマネジャーの女性のイラスト

要介護認定を受けた後、サービスを利用するために最も重要な役割を担うのがケアマネジャー(介護支援専門員)です。

ケアマネジャーは、ご本人やご家族の意向を聞いた上で、心身の状態や生活環境に合わせた最適なサービスの組み合わせを提案してくれます。

ケアプラン作成の流れは以下の通りです。

① ケアマネジャーに相談
 → 市区町村の窓口などでケアマネジャーを紹介してもらいます。
② 面談と現状の把握
 → ケアマネジャーが自宅を訪問し、ご本人の状態やご家族の希望を詳しくヒアリングします。
③ ケアプラン作成
 → 面談と現状の把握に基づいて、どのサービスを、どのくらいの頻度で利用するかを盛り込んだケアプランを作成します。
④ サービス利用開始
 → ケアプランに沿って、サービス事業者と契約し、サービスの利用を始めます。

ケアマネジャーは、いわば介護保険のナビゲーターです。どのような支援が必要か、どんなサービスがあるのか、ご自身で探すのが難しい場合でも、ケアマネジャーに相談すれば、最適な情報を提供してくれます。

ノート、電卓、紙でできた効果やお札、豚の貯金箱が置かれている

介護保険を利用するにあたっては、費用負担についても知っておくことが大切です。

自己負担割合
介護保険サービスの費用負担は、所得に応じて1割、2割、3割のいずれかとなります。

高額介護サービス費
1ヶ月の自己負担額が一定の上限額を超えた場合、その超えた分が払い戻される高額介護サービス費制度があります。
この上限額は所得によって決まるため、厚労省のサイトなどで確認すると良いでしょう。

介護保険と医療保険の連携
在宅医療や訪問診療を利用している場合、介護保険と医療保険のどちらが適用されるのか、柔軟な考え方が求められます。
同じサービスでも、病状によっては医療保険が優先される場合もあります。
この点は、主治医やケアマネジャーと相談を重ね、患者さんの状態に合わせた適切な制度利用を検討することが重要です。

手のひらの上にハートの形のボールが3つ乗っている様子

介護保険以外にも、がん患者さまが使える支援制度は数多くあります。

高額療養費制度
1ヶ月の医療費の自己負担額が上限額を超えた場合に、その超えた分が払い戻される制度です。
介護保険の高額サービス費と合わせ、費用負担を軽減できます。
障害者手帳
身体的な機能障害がある場合、障害者手帳を取得することで、税金の控除や交通費の割引など、さまざまな支援が受けられます。
傷病手当金
療養のため仕事を休んだ場合、健康保険から給与の一部が支給される制度です。

これらの制度は、介護保険と併用できる場合が多く、経済的・精神的な負担を軽減する上で非常に役立ちます。
困りごとがある場合は、まず病院の相談室(医療ソーシャルワーカー)や地域の相談窓口に聞いてみることをお勧めします。

がん患者さまにとって、治療と生活の両立は大きな課題です。しかし、介護保険をはじめとする公的な支援制度を知って、積極的に利用することで、その負担は少なからず軽減できます。

介護保険の申請は、ご自身やご家族が「少し支援が欲しい」と感じた頃が始めどきです。この制度を理解し、上手に利用することで、生きることへの希望を拓くことができます。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。

がんの治療と向き合う中で、「住み慣れた家で、私らしく過ごしたい」と願う患者さんは少なくありません。近年、病院だけでなく、ご自身の自宅で療養する「在宅療養」という選択肢が広まってきました。

しかし、いざ在宅療養を考えたとき、「一体何から始めたらいいのだろう?」「家族だけで大丈夫なのかな?」と不安に思う方も多いのではないでしょうか。

このコラムでは、在宅療養を考えているがん患者さんとそのご家族に向けて、準備や利用できる支援について、やさしく解説していきます。

ご自宅にいながらも、質の高い緩和ケアや医療を受けることができ、安心して生活できるよう、一緒に学んでいきましょう。

食事を摂る老夫婦

在宅療養とは、病院や施設ではなく、ご自身の自宅で医療やケアを受けながら生活していくことです。

これは、がんの治療を通院中心に行っている方、病院での入院治療を終えて自宅で療養を続けたい方など、さまざまな状況で選択されます。

在宅療養のメリット

• 自分らしい暮らし
 → 住み慣れた家で、ご自身のペースで過ごすことができます。ご家族やペットと一緒にいる時間を大切にできます。
• 家族と過ごす時間
 → ご家族と一緒に、より多くの時間を過ごすことができます。お互いの安心にもつながります。
• ストレスの軽減
 → 病院への移動や、見慣れない環境での生活といったストレスが軽減されます。

在宅療養は、緩和ケアを中心に行う場合だけでなく、抗がん剤治療を自宅で行う場合など、ご本人の状態や治療方針に合わせて柔軟に対応できるのが特長です。

悩む高齢夫婦

いざ在宅療養を始めようと思っても、「何から手をつけたら良いかわからない」という方もいるかもしれません。

在宅療養を始めるにあたっては、大きく分けて「心の準備」と「環境の準備」の二つが大切になります。

これらは決して一人で進めるものではなく、医療機関の専門家と一緒に考えていくものです。

心の準備

まずはご本人とご家族が、在宅療養についてじっくり対話し、話し合うことが大切です。

• どんな暮らしをしたいか
 → 自宅でどんなふうに過ごしたいか、どんなケアを望むか、ご本人の気持ちを尊重して話し合いましょう。
• ご家族の気持ちも大切に
 → 在宅療養ではご家族の支援が重要になります。
   ご家族も、不安なことや困りごとがあれば、遠慮なく相談してください。
• かかりつけ医と相談
 → そもそも在宅療養が可能かどうか、どのような医療が自宅で受けられるのかというのは重要な確認ポイントです。
   まずは現在通院している医療機関の医師やがん相談支援センターの専門家にご相談ください。

環境の準備

専門家と連携しながら、少しずつ生活環境を整えていきましょう。

• 医療体制を整える
 → 往診してくれる医師や訪問看護ステーション、薬局など、体調の変化に対応してくれる医療チームを見つけておくことが大切です。
• 福祉用具を整える
 → 手すりの設置や段差の解消、電動ベッドや車いすの用意など、安全に過ごすための工夫をします。
   これらの多くは介護保険や医療保険の制度を利用して費用負担を軽減することができます。
• 日用品の準備
 → ストロー付きコップや食事用エプロン、清拭タオルなど、療養に必要な日用品も事前に用意しておくとよいでしょう。

窓口で相談する夫婦のイラスト

在宅療養は、決してご家族だけで抱え込むものではありません。

さまざまな専門職やサービスが、ご自宅での生活をサポートしてくれます。

医療に関する支援(在宅医療)

「在宅医療」とは、患者さんの自宅を訪問して行われる医療のことです。

これにより、病院に行かなくても自宅で質の高い治療やケアを受けることができます。

• 訪問診療
 → 医師が定期的にご自宅を訪問し、診察や治療、薬の処方、緩和ケアなどを行います。
   往診とは容体が急変した際などに医師が自宅へ駆けつけることで、訪問診療はあらかじめ計画を立てて行う点が異なります。
• 訪問看護
 → 看護師がご自宅を訪問し、体調チェックや点滴管理、傷の手当てといった医療的ケア、ご家族からの相談に応じます。
   訪問看護ステーションから派遣されます。
• 訪問薬局
 → 薬剤師がご自宅を訪問し、薬の飲み方や管理方法を指導してくれます。
   薬の種類が多い方や、飲むのが難しい患者さんにとって、心強い支援になります。

介護・生活に関する支援

介護保険は、40歳以上で特定疾病に認定されている方や、65歳以上の方が利用できる公的な支援制度です。

在宅で療養している方が利用できる主なサービスは以下の通りです。

• 訪問介護
 → ホームヘルパーがご自宅を訪問し、食事や入浴、着替えなどの介助や、調理、掃除、買い物といった生活支援を行います。
• 訪問入浴
 → 看護師と介護士がご自宅を訪問し、専用の浴槽を使って入浴の支援を行います。
• 福祉用具レンタル
 → ベッドや車いす、手すりなどの福祉用具をレンタルできます。
• 訪問リハビリテーション
 → 理学療法士や作業療法士がご自宅を訪問し、身体機能の維持・向上を目的としたリハビリを行います。

相談窓口

在宅療養を始めるにあたっては、専門家に相談することが不可欠です。

• かかりつけ医やケアマネジャー
 → 在宅医療や介護保険サービスの窓口として、様々な相談に乗ってくれます。
• がん相談支援センター
 → 全国のがん診療連携拠点病院に設置されており、在宅療養に関する相談も無料で受け付けています。
   治療や療養に関する幅広い情報を提供しています。

三世代家族が自宅で過ごしているっ様子


ご家族も、在宅療養の大切な支援者です。しかし、ご家族の負担が大きくなりすぎないように、以下のことを心がけてください。

• 一人で抱え込まない
 → 訪問看護や訪問介護といったサービスを積極的に活用し、ご自身の時間も大切にしてください。
• 休憩を取る
 → レスパイトケア(介護者の休息のための入院)など、ご家族が安心して休める支援もあります。
• いつでも相談できる人を見つけておく
 → 何かあったときにすぐに相談できる医師や看護師、ケアマネジャーなど、信頼できるチームを早めに見つけておきましょう。

今回は、がんの在宅療養について、その準備と支援について解説しました。

「在宅療養って、なんだか大変そう…」と不安に思っていた方も、このコラムを読んで、「意外と支援が充実しているんだな」「相談できる場所があるんだな」と安心していただけたら嬉しいです。

大切なのは、ご本人とご家族だけで抱え込まず、利用できるサービスを積極的に活用することです。ご自宅での生活が、あたたかい時間に満ちたものになるよう、心から願っています。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。

「入院します」と告げられたとき、誰もが心の中で静かに動揺します。

たとえそれが検査目的の一泊入院であっても、がん治療に向けた抗がん剤の短期入院であっても、あるいは体調の悪化による長期入院であっても、病院という場所は少なからず不安と緊張を呼び起こします。

入院は、がん患者さんにとって治療の一環であり、療養のための時間でもあります。

病院はただ“治す”だけの場ではなく、もうひとつの日常を営む場所であるとも言えます。検査や診断、手術の前後、薬物療法や放射線治療の合間など、それぞれが異なる目的のための時間であり、どの瞬間にも「生活」があります。

短期間の検査入院でも、病院の室内で過ごす時間がある限り、自分らしい過ごし方や気持ちの持ち方が大切になります。また長期入院になる場合は、小さな習慣や心のリズムを整えることが、入院生活の安定につながります。

今回のコラムでは、そんな入院生活が少しでも穏やかに過ごせるよう、どんな入院スタイルにも寄り添ったヒントや工夫をご紹介します。

病院のベッドで点滴を行う患者に話しかける医師のイラスト

検査入院

診断に必要な血液検査や画像検査、内視鏡検査などが主な目的。

通院と異なり、院内で一連の検査を受けるため、1日~数日滞在するケースが多いです。

検査の合間は自由時間も多いため、不安な気持ちを和らげる助けになるもの(読書、音楽、ぬり絵など)を準備するとよいでしょう。

抗がん剤治療のための短期入院

化学療法や免疫療法を安全に受けるために数日から1週間程度の入院が必要になることがあります。

副作用(吐き気・倦怠感など)への対応や感染症予防のため、無理のない生活ペースが重要です。

医師や看護師への相談のタイミングを逃さず、自分の状態を伝えることも大事です。

長期入院

肺がんや乳がん、大腸がんなど、腫瘍の進行に応じて手術後の回復や緩和ケアのため、長期の療養が必要になる方もいます。

治療だけでなく、心のケアも欠かせません。セカンドオピニオンの利用や家族との連携、がん相談支援センターでの情報収集・支援活用も助けになります。

入院生活の工夫

入院中は、病気の影響や薬の副作用によって気分や体調に波があることが多くあります。「元気なとき」と「休むべきとき」を自分なりに見つけて、無理をしないペース配分を心がけましょう。

1日のスケジュールに合わせて、食事の後は少し音楽を聴く、診療の合間にゆっくり本を読むなど、小さなリズムを持つと気持ちが整います。また、患者同士のふれあいや、看護師さんとのちょっとした会話も、気持ちの支えになることがあります。

通院と違って、入院は「孤独」を感じやすい時間です。面会制限のある時期は、家族との連絡手段(電話、LINE、手紙など)を活用してつながっている実感を持ちましょう。

手のひらに乗ったハートのボール

入院生活では、体調の変化や病院特有の環境によって、「こんなとき不便だな」「あれがあれば助かるのに」と感じる場面が多くあります。病院での生活が少しでも快適に、そして安心して過ごせるよう、あると役立つ持ち物をご紹介します。

・快眠をサポートするもの

病院では、夜間も看護師の見回りや機器の音などで眠りづらいことがあります。

アイマスク・耳栓:消灯後の照明や音を遮断し、休息の質を高めます
柔らかい枕カバーやブランケット:慣れないベッドでの睡眠を少し快適に

・ベッドまわりの工夫

入院中は点滴や検査などで、体を大きく動かすのが難しい場面も。

長めの充電ケーブル・延長コード:スマホやタブレットを枕元で使いたいときに便利
小さなポーチや収納ケース:頻繁に使うものを手元に置くための工夫に

・感染予防・衛生管理に

がん治療中は免疫力が低下することもあり、感染症への配慮が欠かせません。

ウェットティッシュ・アルコールスプレー:手指の清潔を保つために
使い捨てのマスク(複数枚):来客や検査など、人と接する場面に備えて

・衣類の選び方と工夫

入院中は着替えや体温調整が難しいこともあるため、機能性のある衣類が安心です。

前開きのパジャマや部屋着:点滴や診療に対応しやすく、着替えも楽
羽織りもの・靴下:冷えやすい環境で体調管理に役立つ

・入浴・洗面時の準備

病棟によってはシャワー設備や洗面用品が限られていることも。

コンパクトな洗面セット:歯ブラシ、フェイスタオル、洗顔料などの清潔アイテム
スリッパ(滑りにくい素材):移動時や水まわりでの安全対策に

・情報整理・医療コミュニケーションに

主治医や看護師との会話は治療に大きく関係します。記録しておくと後々役立つことも。

ノート・ペン:薬の名前、検査の結果、症状の変化を記録。質問メモとしても便利
お薬手帳・診療記録の控え:外来受診や他科との連携時にも役立つ大切な情報源

・手続きや連絡の備えに

病院での費用の支払いや、緊急時の連絡体制にも配慮を。

健康保険証・限度額適用認定証:医療費負担を軽減できる制度利用のために必要
緊急連絡先のメモ:いざという時、病院側がすぐ対応できるように

・家族との連絡や外部支援への備え

面会できないときでも「つながり」を感じられるアイテムは心の支えになります。

スマートフォン・タブレット:家族や支援者とのコミュニケーションに
がん相談支援センターの案内ページの控え:情報の確認や相談の際にすぐアクセスできるように

これらの持ち物は、「あったら便利」なだけでなく、「不安や困りごとを和らげる」存在にもなります。

入院の目的や期間、患者さん自身の状況に合わせて、参考にしてください。

笑顔の男女の看護師

診療科や部門によって対応は異なりますが、医師・看護師との連携は入院生活の要です。体調の変化や薬の影響、症状について「自分でうまく説明できるか不安」という方も多いですが、看護師さんはその“わかりにくさ”も理解してくれる存在です。

対応のタイミングや質問のしかたなど、遠慮せずに「今こう思っている」と話すことが、医療側との信頼関係につながります。また、感染症予防の観点から、手洗いやマスクの利用、室内での過ごし方には一定のルールがあります。病院からの案内や掲示を確認しながら、自分と他の患者さんの両方を守る行動を大切にしましょう。

入院という時間は、誰にとっても日常から大きく環境が変わる特別な経験です。短期であっても長期であっても、生活のリズムや持ち物の準備ひとつで過ごしやすさは大きく変わります。

本コラムでは、入院の形態ごとの違いや、あると便利な持ち物を整理しました。少しでも不安を減らし、安心して療養に集中できるようにとの思いを込めています。もちろん、病院ごとにルールや環境は異なりますので、最終的には主治医や看護師に確認することが大切です。

入院生活は決して楽なものではありませんが、工夫や準備によって「自分らしい時間」を取り戻すことができます。このコラムが、患者様やご家族の一助となり、日々を少しでも穏やかに過ごすためのヒントになれば幸いです。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。

がんと診断された時、患者様やご家族が抱く不安の一つに、医療費の問題があります。がん治療は長期にわたることが多く、抗がん剤や手術、放射線といった治療方法の選択肢が多くなるほど、費用も増大しがちです。

日本の公的医療保険制度では、窓口での自己負担が原則として1割から3割に定められています。しかし、高額な治療が必要な時は、この割合であっても家計を圧迫するリスクがあります。

そこで、患者様の経済的負担を大幅に軽減し、安心して治療に専念できるよう国が定めているのが「高額療養費制度」です。

本記事では、この制度の基本から、長期治療における費用軽減効果、そして特に重要な最新情報であるマイナ保険証を利用した手続き不要化の仕組みまで解説します。

制度について知ることで経済的な不安を軽減し、治療に集中できる状態を整えましょう。

病院とお金を天秤にかけるイラスト

まずは、高額療養費の制度について説明します。

制度の概要

高額療養費制度は、公的な医療保険制度の一つです。

簡単に言うと、1か月の間に医療機関の窓口で支払った自己負担額が、ご自身の収入に応じた上限額(自己負担限度額)を超えた場合、その超えた分が国から払い戻される制度です。

かつ、マイナ保険証の提示により、原則その場で自己負担限度額が適用される仕組みへと移行されました。

この制度の対象となる費用は、
・保険適用となる診療や治療(抗がん剤、手術、入院費、検査費など)
・入院中の食事代の標準負担額を除いた自己負担額
に限られます。

自己負担額が多くなるほど制度の効果を大きく受けられ、がんの治療費だけでなく、病気やけがで医療機関にかかったときの医療費が対象になります。

公的な医療保険に加入している方であれば、年齢や収入に関係なく、誰もが利用できます。

制度の対象とならない費用(全額自己負担)

注意すべきは、以下のような保険適用外の費用は高額療養費制度の対象にならないという点です。

・先進医療費 
 ※厚生労働省が定める高度な治療方法で、保険適用外の技術料部分(診察、入院など共通部分は対象)。
・差額ベッド代 (個室や少人数部屋を希望した場合)
・文書料、診断書料
・入院中の生活費用(日用品、パジャマレンタルなど)
・保険適用外のサプリメントや代替療法の費用

治療方法を選択する時は、これらの全額自己負担となる費用も考慮する必要があります。

豚の形の貯金箱の前で悩む男性のイラスト

高額療養費制度の自己負担限度額は年齢やご本人の収入(所得)によって細かく定められており、人によって異なります。

70歳未満の方の自己負担限度額の考え方

70歳未満の場合、限度額の計算は所得に応じた区分が適用されます。所得区分はア~オで分かれています。

70歳未満の方の自己負担限度額を区分ごとに説明した表
※2025年現在。改定により変更となる可能性があります。

総医療費が高額になるほど、それぞれの区分における計算式によって自己負担額が決まる仕組みです。

病気や治療による一時的な支出が、家計に過度な負担とならないよう設計されています。

70歳以上の方の場合


70歳以上の方の場合、自己負担限度額は70歳未満の方に比べて低く設定されており、さらに「外来」と「世帯全体(入院+外来)」で限度額が分かれている点が特徴です。

所得区分も「現役並み所得者」「一般」「低所得者Ⅰ・Ⅱ」に分かれます。

70歳以上の方の自己負担限度額を区分ごとに説明した表
※2025年現在。改定により変更となる可能性があります。

現役並み所得者
70歳未満の一般所得者とほぼ同等の限度額が適用されます。所得に応じて、3段階の限度額が設定されています。

一般所得者
外来のみの限度額が18,000円(年間144,000円が上限)と低く設定されています。
この年齢層では、特に外来で継続的な治療(通院による抗がん剤治療など)を受ける際の負担が大きく軽減される仕組みになっています。

低所得者
所得の低い方は8000円に設定されています。

この年齢層は、慢性疾患や複数疾患の治療が長期間にわたることが多いため、外来の限度額が細かく設定され、負担が抑えられるよう配慮されています。

75歳以上(後期高齢者医療制度)の場合

基本的な「高額療養費制度」の仕組み(自己負担限度額を超えた分を払い戻す)は75歳以上の方も70歳以上の方と同じです。

ただし、加入する医療制度や自己負担割合が異なるため、細かい扱いに違いがあります。

75歳以上の方の自己負担限度額を説明した表
※2025年現在。改定により変更となる可能性があります。

高額療養費制度において、75歳という年齢は制度適用上の大きな区切りとなります。

75歳以上になると、原則として全ての方が「後期高齢者医療制度」に移行するため、限度額の計算基準や適用される制度そのものが変わります。

75歳になると、それまで加入していた国民健康保険や被用者保険(協会けんぽ、組合健保など)から、後期高齢者医療制度に移行します。この制度の下で、独自の限度額が適用されます。

また、75歳の誕生日を迎える月は、移行前の医療保険と後期高齢者医療制度の2つの制度にまたがって加入することになります。

そのため特例として、移行前の制度と移行後の制度のそれぞれの自己負担限度額が通常の半額に設定されます。これにより、移行によって患者様の負担が二重になることを防いでいます。

多数回該当と世帯合算

がん治療は数ヶ月、数年に及ぶことがあり、長期化するほど経済的な負担が増します。高額療養費制度には、この長期化に対応する「多数回該当」という規定があります。

過去12ヶ月間において既に3回以上高額療養費の支給を受けている場合、4回目からの自己負担限度額が大幅に引き下げられます。

例えば一般所得者の場合、4回目以降の限度額は44,400円に固定され、月々の負担が約半分に軽減されます。これは、抗がん剤治療などで定期的な通院や入院が必要な方にとって特に効果的です。

また、同一の公的医療保険に加入しているご家族の場合、月の医療費を合算することができます(世帯合算)。一人では限度額に届かない場合でも、世帯全体で合算することで高額療養費の対象となる可能性があります。

ただし、合算できるのは自己負担額が21,000円以上のものに限られるなど、細かなルールがあります。

マイナンバーカードのイラスト

従来の高額療養費制度では、一時的に医療費を全額または高額で立て替えて窓口で支払う必要がありました。その後、申請から支給まで数ヶ月待つ必要があったため、一時的にまとまった資金が必要でした。

しかし、近年の「マイナ保険証(マイナンバーカードと健康保険証の一体化)」の普及により、この手続きと支払いのあり方が劇的に変化しています。

「限度額適用認定証」の原則不要化と立替不要の仕組み

これまで、高額な医療費が発生する前に自己負担限度額までの支払いに抑えるためには、事前に「限度額適用認定証」を申請し、病院の窓口に提示する必要がありました。

現在、マイナ保険証を利用して「オンライン資格確認」システムが導入されている医療機関で受診する場合、この限度額適用認定証の事前申請が原則として不要となります。

仕組みは次の通りです。

①マイナ保険証を医療機関の受付に設置された顔認証付きカードリーダーにかざす。
②患者様の最新の保険情報や所得区分が自動で確認される。
 → 窓口で支払う金額が、すでに「自己負担限度額」までに抑えられる。

つまり、従来のように高額な費用を立て替える必要がなくなり、経済的な不安が大幅に軽減されます。

特に抗がん剤の点滴や入院を繰り返すがん患者様にとって、これは最も大きなメリットと言えます。

マイナ保険証の利用が推奨される理由

高額療養費の手続きの簡素化以外にも、マイナ保険証を利用することで、以下のようなメリットがあります。

・過去の薬剤情報や特定健診の情報を医師と共有できるため、より適切な治療を受けられる可能性が高まる。
・情報の共有により、重複する投薬や不必要な検査を減らすことができ、結果的に医療費の適正化につながる。

ただし、すべての医療機関でオンライン資格確認が導入されているわけではないため、受診前に病院のサイトや窓口で確認することが推奨されます。

今回は、がん治療にかかるお金の不安を軽くする「高額療養費制度」についてご紹介しました。高額療養費制度は、この不安を軽減し、患者様が経済的な心配なく治療に専念できるように設計された、日本の医療制度の柱です。

特に、マイナ保険証の利用によって窓口での立て替えが不要になる仕組みが整ってきている点は、多くの人にとって大きな安心材料となります。ご自身の所得区分や年齢に応じた限度額を理解し、必要に応じて限度額適用認定証の事前申請やマイナ保険証の準備を行ってください。

もし、「どうしたらいいか分からない…」「もっと詳しく知りたい」という場合は、ぜひお近くの「がん相談支援センター」や、ご加入の健康保険の窓口に相談してみてください。

皆さまが、安心して日々の生活を送り、治療に前向きに取り組めることを心から願っています。


監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。

抗がん剤治療は癌細胞と闘う重要な方法である一方で、さまざまな副作用を伴います。その中でも「倦怠感」は多くの患者様が経験されるつらい症状の一つです。

「全身がだるい」「何もする気が起きない」といった疲労感に、自分の心が折れそうになることもあるかもしれません。

しかし、この倦怠感は、決して自分の頑張りが足りないわけではありません。

抗がん剤が体内で作用し、癌細胞だけでなく正常な細胞にも影響を与えることで起こる自然な反応なのです。

このつらさを少しでも軽減できる方法を、一緒に考えていきましょう。

頭を押さえる女性

抗がん剤治療に伴う倦怠感は、単なる疲れとは少し異なります。

倦怠感は、薬ががん細胞だけでなく正常な細胞にも影響を及ぼすことで生じると考えられています。

特に、体内でエネルギーを作り出す仕組みが一時的に低下したり、炎症反応が高まったりすることで、全身のだるさや疲れやすさが強く感じられるようになります。

また、治療の過程で貧血が進んだり、食欲の低下や睡眠の質の変化が重なることも、倦怠感を増幅させる要因になります。

こうした複数の影響が重なり合うことで、日常生活に支障をきたすほどの疲労感として現れることがあるとされています。

この疲労感が強くなると、日常生活の活動が低下し、これまでできていた仕事や家事も困難になることがあります。

まずは、自分の倦怠感がどのようなパターンで起こるのかを知ることが大切です。

抗がん剤の種類や投与量、個人の体質によって、その出方は人それぞれ。

治療の開始からどれくらいの時間で倦怠感が始まり、どの程度続くのか、最もだるいのはいつか、どのような時に強く感じるのかなど、自分の状態を観察し、メモを取るのもよいでしょう。

これは、医師や看護師、薬剤師といった医療スタッフに相談する際の重要な情報源となります。

倦怠感を記録するときのポイント
・いつ頃からだるさを感じ始めたか。
・治療のどの時期に倦怠感が強くなるか(例:投与後〇日目)。
・どの程度のだるさか(例:10段階で〇)。
・だるさの変化(例:日中より夕方がつらい)。
・倦怠感の他に、吐き気、下痢、口内炎、痛み、不眠などの症状があるか。

ベッドに置かれた枕

抗がん剤による倦怠感は、身体への影響が大きいため、身体的なケアが非常に大切です。

無理なくできる工夫を日常生活に取り入れることで、少しでも楽になるヒントが見つかるかもしれません。

質の良い休息をとる

「だるい」と感じる時、無理をして活動しようとするとかえって疲労が蓄積し、回復が遅れることがあります。
積極的に休息をとることが必要です。

・短い昼寝
 → 日中に20~30分程度の短い昼寝は、疲労の軽減に役立ちます。
   ただし、長く寝すぎると夜間の不眠につながることもあるので注意しましょう。
・休息の時間を作る
 → 家事や仕事、活動の合間に休憩を挟むなど、意識的に休息の時間を設けるようにしましょう。
   家族に協力をお願いすることも大切です。
・寝具の工夫
 → 快適な寝具を選び、寝室の温度や湿度を調整して、質の良い睡眠がとれるように工夫しましょう。

栄養バランスのよい食事を摂る

食欲不振や吐き気、口内炎、下痢などの消化器系の副作用は、栄養状態を低下させ、倦怠感を強くする原因になります。
食べられる時に食べられるものを少量ずつでも摂取することが大切です。

・食べやすいものを口にする
 → のどごしのよいもの、香りの少ないもの、あっさりしたものなど、自分が食べられるものを優先しましょう。
   ゼリーやヨーグルト、プリン、スープ、うどんなどもよいでしょう。
・少量を頻回に
 → 一度に多く食べるのがつらい場合は、少量を1日に数回に分けて食べる工夫を。
・食べ物の温度を調整する
 → 吐き気がある時は冷たいものが食べやすいこともあります。
   口内炎がある場合は、刺激の少ないぬるめのものがよいでしょう。
・栄養補助食品の活用
 → 食事からの摂取が難しい場合は、医療用の栄養補助食品を活用することも検討してみてください。
   薬剤師や管理栄養士に相談すると、自分に合ったものを紹介してもらえます。
・水分補給
 → 脱水は倦怠感を悪化させる要因です。こまめに水分を摂取しましょう。

無理のない運動

倦怠感がある時に運動なんて、と思われるかもしれませんが、適度な運動は疲労の軽減につながることが知られています。

ただし、無理は禁物です。

・軽い散歩
 → 体調のよい時に、自宅の周りを軽く散歩するだけでも気分転換になり、体力の維持にも役立ちます。
・ストレッチやヨガ
 → 自宅でできる簡単なストレッチや、座ってできるヨガなども身体を動かすのによい方法です。
・活動と休息のバランス
 → 無理なく運動ができる時間が限られているかもしれません。
   本当にやりたいこと、大切な活動にエネルギーを使うことを優先し、あとは休息に充てるなど、メリハリをつけることが大切です。

身体を温める

身体を温めることやマッサージは、血行を促進し、リラックス効果も期待できます。

・入浴
 → 体調がよい時は、シャワーだけでなくゆっくりと湯船に浸かるのもよいでしょう。
   アロマオイルなどを活用して、気分転換を図るのもおすすめです。
   ただし、貧血などがある場合は、のぼせないよう注意が必要です。
・温湿布やカイロ
 → だるさを感じる部位に温湿布やカイロを貼ることで、疲労感が軽減されることがあります。
・軽めのマッサージ
 → 家族に手足や肩などを軽くマッサージしてもらうのもよいでしょう。
   ただし、皮膚が敏感になっている場合や痛みがある場合は、無理のない範囲で。

植木鉢にパンジーを植えている様子

抗がん剤治療中の倦怠感は、身体的なつらさだけでなく、精神的な負担も伴います。「いつまでこの状態が続くのだろう」「自分は役に立たない」など、不安や焦り、落ち込みを感じることもあるでしょう。

感情を表現する

つらい気持ちを自分の中にため込まず、信頼できる人に話すことが大切です。

・家族や友人に相談する
 → ご家族や親しい友人に、自分の正直な気持ちを伝えることで、理解や共感を得られ、精神的な負担が軽減されることがあります。
・医療者に相談する
 → 医師や看護師、薬剤師は、治療の専門家であるだけでなく、患者さんの精神的なサポートも行っています。
   不安やつらさを遠慮なく相談してみましょう。
   緩和ケアチームがある病院では、精神的なケアの専門家(精神科医、公認心理師など)に相談できる制度がある場合も多いです。
・患者会やピアサポート
 → 同じ癌を経験した人たちと情報交換をしたり、気持ちを分かち合ったりできる患者会やピアサポートの場もおすすめです。
   自分と同じように倦怠感に悩む人がいることを知るだけでも、孤立感が軽減されることがあります。

気分転換を図る

身体がだるくても、気分転換を図ることで、精神的な疲労感が和らぐことがあります。

・好きなことをする
 → 無理のない範囲で、自分が好きなこと、楽しめることを見つけてみましょう。
   音楽を聴く、映画を見る、読書をする、絵を描く、手芸をするなど、自宅でできることでも十分です。
・自然に触れる
 → 庭の植物を眺める、ベランダで外の空気を吸うなど、自然に触れることで心が癒されることがあります。
・アロマテラピー
 → リラックス効果のあるアロマオイルを活用するのもよいでしょう。

完璧を目指さない

これまでのように家事や仕事ができないことに、焦りや自己嫌悪を感じるかもしれません。

しかし、治療中は無理をしないことが大切です。

・優先順位をつける
 → 体力やエネルギーが限られている中で、本当に必要なこと、大切なことを見極めて、優先順位をつけましょう。
・人に頼る
 → 家族や友人、地域のサポート制度などを活用し、助けを借りることをためらわないでください。
   家事代行サービスや宅配サービスなども利用を検討してみましょう。
・「ま、いっか」の気持ち
 → 完璧でなくてもよい、と割り切る気持ちも大切です。散らかったままでも、料理を作らなくても、大丈夫。
   自分を責めずに、体を休めてください。

スマートフォンを持つ手

倦怠感は、治療の計画や方針に影響を与える可能性のある重要な症状です。

医療者との連携を密にし、適切な情報を活用することが改善への近道となります。

主治医や看護師、薬剤師への相談

倦怠感が日常生活に支障をきたす程度の場合、あるいはこれまでとは異なる強さやパターンで現れた場合は、迷わず主治医や看護師、薬剤師に相談しましょう。

・症状を具体的に伝える
 → いつから、どの程度、どのようなだるさで、他にどのような症状を伴うのかなど、具体的に伝えることが大切です。
・原因の特定
 → 貧血や甲状腺機能低下など、倦怠感の原因となる別の身体的な問題がないか、血液検査などで確認することもあります。
・対処法の検討
 → 薬で症状が軽減できる場合や、栄養療法の見直し、活動量の調整など、適切な対処法を一緒に検討してくれます。

情報の活用

信頼できるサイトや情報源を活用することも大切です。

・国立がん研究センターがん情報サービス
 → 癌や治療、副作用に関する正確で豊富な情報が掲載されています。
・各病院のがん相談支援センター
 → 癌に関するあらゆる相談を受け付けている窓口です。
   医療費や社会制度、心理的なサポートなど、幅広く支援してくれます。
・患者向けの冊子やパンフレット
 → 病院内で配布されている患者さん向けの冊子には、副作用の対処法が分かりやすくまとめられていることが多いです。

両親と子供がソファを背に座っている姿

患者様が倦怠感と闘う中で、ご家族の存在は非常に大きいものです。

しかし、ご家族もまた、精神的な負担や疲労を感じることがあります。

・患者さんの気持ちに寄り添う
 → 「だるい」という患者さんの訴えを軽く見ず、共感し、寄り添う姿勢が大切です。
・無理強いしない
 → 「もっと動いた方がいい」「食べないと体力が落ちる」といった無理強いは、かえって患者さんを追い詰めることになります。
・休息の機会を作る
 → 患者さんの休息だけでなく、ご家族自身の休息も大切です。
   介護疲れを感じたら、地域のサポート制度や一時的な医療サービスの利用を検討してみましょう。
・情報を共有する
 → 医療者からの情報は、ご家族も一緒に聞くことで、患者さんの状態を理解し、適切なサポートを提供しやすくなります。

抗がん剤治療中の倦怠感は、非常につらい副作用の一つです。

しかし、自分一人で抱え込まず、医療者やご家族、社会のサポートを活用しながら、自分の体と心の声に耳を傾けることが大切です。

倦怠感は、治療の過程で起こる一時的な変化です。治療が終了し、体力が戻るにつれて、だるさも軽減されていくことがほとんどです。

今のつらさがいつか過去になる日が来ることを信じて、焦らず、自分を労りながら、一歩ずつ進んでいきましょう。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。

がんと診断されると、治療のことからお金、仕事、家族のことまで、さまざまな不安や疑問が次々と頭に浮かぶかもしれません。

例えば、「がんと診断を受けたが、今後のことが漠然と不安」「治療費はいくらかかるのだろう」「仕事が継続できるか心配」など、そのつらい気持ちや、どこから手をつけてよいかわからない戸惑いを、一人で抱え込んでしまう方も少なくありません。

しかし、がんと向き合うあなたの悩みを受け止め、解決の糸口を一緒に見つけてくれる専門家がいる場所があります。

それが「がん相談支援センター」です。

このコラムでは、がん相談支援センターがどのような場所で、どのように利用できるのかを、わかりやすくご案内します。

窓口で相談する高齢夫婦のイラスト

がん相談支援センターは、がん患者さんとそのご家族が抱えるさまざまな悩みや不安を解決するため、専門的な知識を持った相談員が無料で相談に応じてくれる、国が定めた公的な窓口です。

このセンターは、全国の「がん診療連携拠点病院」や「地域がん診療病院」などに設置されています。

誰でも無料で利用できる

「その病院に通院していないと利用できないのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、ご安心ください。がん相談支援センターは、その病院の患者さんやご家族だけでなく、どなたでも・何度でも、無料で利用することができます。

たとえば、まだどの病院で治療を受けるか決めていない方や、セカンドオピニオンを検討している方、他の病院に通院している方でも、気軽に相談することが可能です。

専門的な知識を持つ相談員

がん相談支援センターには、がん医療に携わる専門の相談員(看護師や医療ソーシャルワーカーなど)が常駐しています。

これらの相談員は、がん治療に関する医療的な情報から、社会的な支援制度まで、幅広い知識を持っています。

一人ひとりの状況に応じて、的確な情報提供や、適切な専門家・相談窓口への案内をしてくれます。

紙でできた、?の書かれた吹き出し

がん相談支援センターでは、治療のことから生活に関わることまで、多岐にわたる相談に対応しています。

ここでは、具体的な相談内容の一部をご紹介します。

(1)医療に関すること
 ・がんの標準的な治療法にはどのようなものがあるか、情報提供をしてほしい。
 ・セカンドオピニオンを受けたいが、どうすればいいかわからない。
 ・放射線治療や化学療法など、治療方法に関する不安を聞いてほしい。
 ・緩和ケアはいつから受けられるのか、内容について知りたい。
 ・がんの診断後の生活や療養について、どう考えていけばよいか。

(2)お金や仕事に関すること
 ・治療費がどのくらいかかるのか心配だ。高額療養費制度などの情報を知りたい。
 ・入院中や療養中に利用できる公的な支援制度やサービスについて知りたい。
 ・仕事を続けたいが、体調が心配だ。就労に関する支援制度や相談先を教えてほしい。
 ・会社に病気のことをどう伝えたらよいか、相談したい。

(3)心や生活に関すること
 ・治療の副作用で体調が悪く、精神的に落ち込んでしまう。
 ・がんの診断を受けてから、家族との関係がぎくしゃくしてしまう。
 ・がん患者同士で話ができる場所や、仲間を見つけたい。
 ・子どものことが心配で、どう話したらよいかわからない(小児がんに関する相談も可能です)。

がんに関する悩みは人それぞれです。

どんな小さなことでも、不安に感じていることを話してみるだけで、気持ちが楽になることがあります。

がん相談支援センターは、誰でも気軽に利用できる場所です。

1)がん相談支援センターを探そう

全国のがん診療連携拠点病院に設置されたがん相談支援センターは、国立がん研究センターが提供しているウェブサイトで一覧として掲載されています。「がん相談支援センター」と検索すると、このサイトを見つけることができます。

お住まいの地域や、通院している病院の近くにあるセンターを探してみましょう。

2)電話または面談で相談しよう

センターの相談窓口には、直接訪問して相談する「面談」と、電話で相談する「電話相談」の二つの方法があります。

電話相談
時間がないときや、まずは気軽に話してみたいときに便利です。
相談時間はセンターによって異なりますが、一般的に20〜30分程度の目安が設けられていることが多いようです。
まずは受付時間を確認してから電話をかけてみましょう。

面談
よりじっくりと相談したい場合におすすめです。
事前に予約が必要なセンターが多いため、まずは電話で問い合わせてみましょう。

ご自身にとって相談しやすい方法を選び、まずは一度問い合わせてみることをおすすめします。

【利用する上でのポイント】
・予約の有無を確認
 → 面談を希望する場合は、事前に電話で問い合わせて、予約が必要かどうか確認しましょう。
・相談したい内容を整理
 → 相談内容をメモにまとめておくと、限られた時間の中でスムーズに話すことができます。
・連絡先の確認
 → 電話番号だけでなく、受付時間や場所も事前に確認しておきましょう。

がんの診断は、あなたの人生における大きな出来事です。これまでの生活が大きく変わってしまうのではないかという不安は、決して特別なことではありません。

しかし、がんと向き合う道は、一人で歩む必要はありません。

がん相談支援センターは、そうした不安を一人で抱え込まず、安心して治療や療養生活を送るためにある公的な支援サービスです。専門的な知識を持つ相談員が、あなたの気持ちに寄り添いながら、一緒に解決策を探してくれます。

「がん相談支援センター」という言葉を、この機会にぜひ覚えておいてください。もしも不安や悩みが押し寄せたとき、そこに頼れる場所があるという事実が、あなたの心に少しでも光を灯してくれるはずです。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。

抗がん剤による治療を受けていると、以前よりも食事が思うように食べられなくなったり、少しずつ体重が減っていくことに気づいたりして、「このままで大丈夫だろうか」と不安な気持ちを抱くことがあるかもしれません。

体重の変化は、がんや治療の影響で起こる、ごく自然な体の反応です。実際に、多くのがん患者さんが、体重の変化、特に体重減少に悩んでいらっしゃいます。

このコラムでは、なぜ抗がん剤治療中に体重が減ってしまうのか、その原因をやさしくひも解きながら、ご自身の状態に合わせた食事の工夫や対策についてお話しします。一人で抱え込んでしまわずに、今できることから少しずつ始めてみましょう。

積み木のブロックで体重減少を現した図

抗がん剤はがん細胞を攻撃する薬ですが、同時に、口の中や消化管などの細胞が活発に入れ替わる部分にも影響を与えてしまいます。

そのため、多くの方に吐き気や口内炎、食欲不振などの症状が起きることがあります。

これらが、体重が減る主な原因となります。

体重減少の主な原因

体重減少は、いくつかの要因が重なり合って起こることがほとんどです。

1. 抗がん剤による副作用と食事の関係

抗がん剤治療の影響で吐き気や嘔吐・下痢や便秘といった消化器症状が起こると、十分な食事が摂取できなくなってしまいます。

特に吐き気は多くの方が経験する症状の一つで、吐き気止めの薬を利用していても食事を見るだけで気分が悪くなる時もあるかもしれません。
また、口内炎ができると食べ物がしみてしまい、食事の痛みから食べることが億劫になってしまいます。

味覚障害といって、食べ物の味が変わってしまったり、何も食べていないのに苦い金属のような味がしたり、砂をかんだような味に感じたりすることもあります。これらも食事の量を減らしてしまう大きな原因です。

2. がんや治療によるエネルギー消費増加

がんの進行した状態では、がん細胞が体の栄養を奪ってしまうため、食事を十分に摂取していても体重が減ってしまうことがあります。

これをがん悪液質と言います。

がん悪液質は、がん細胞が作り出す「サイトカイン」と呼ばれる炎症性の物質が体内で増えることで、食欲不振、体の筋肉や脂肪の減少、代謝の異常が引き起こされます。

がん悪液質は、体重減少を加速させる要因であり、栄養状態を悪化させる深刻な状態です。

がん悪液質は主に進行がんの患者さんに多く見られる症状ですが、早期の段階でも見られることがあります。

これを予防し改善するためには、食事だけでなく、軽い運動を継続することも重要だと考えられています。

無理のない範囲で散歩やストレッチなどの軽い運動を毎日行うことで、筋肉の減少を抑え、食欲増進につながることもあります。

3. 心身の疲労

治療中は、身体だけでなく、心も疲れてしまいがちです。

食欲不振の原因が吐き気などの症状だけでなく、「食べること自体がつらい」「食事の準備をする気力がない」といった心の負担からくることもあります。

これらの心身の疲労も、体重が減ってしまう要因となります。

実は体重が増えることもある?

多くの方が体重減少を経験する一方で、体重が増えてしまう方もいらっしゃいます。

その主な原因は、治療で使用される薬の影響によるむくみ(体の中に水分が溜まってしまう状態)や、食欲を増進させる薬の使用です。

むくみ(体内の水分貯留)

一部の抗がん剤は、腎臓の働きに影響を与え、体内に水分を溜め込みやすくすることがあります。また、吐き気止めとして用いられるステロイド薬も、むくみを引き起こすことがあります。

体重が増えたとしても、必ずしも脂肪が増えたわけではないことを知っておくことも重要です。

むくみを予防・緩和するためには、塩分を控えることが大切です。加工食品やインスタント食品に多く含まれる塩分は、体内に水分を溜め込みやすくするため、できるだけ手作りの食事を心がけ、薄味にすると良いでしょう。

また、適度な水分補給も重要です。

食欲の増進

ステロイド薬には、食欲を増進させる作用もあります。それにより、治療前よりも食事が進み、結果的に体重が増えてしまう方もいらっしゃいます。

食欲が増して体重が増加傾向にある場合は、食事の内容を見直してみましょう。揚げ物や脂っこいものを避け、野菜や果物を多めに摂るように心がけます。

間食にはお菓子ではなく、ナッツ類やヨーグルト、フルーツなどを選ぶことで、必要な栄養素を補給しつつ体重の急激な増加を防ぐことにつながります。

朝食を食べる女性

体重が減ってしまう原因を理解した上で、ここからは実際に毎日の生活でできる工夫をいくつかご紹介します。

無理に食べようとする必要はありません。できることから少しずつ試してみましょう。

食べやすいものを見つける

食事の悩みは、症状によって異なります。ご自身の状態に合わせて、食べやすいものを探してみましょう。

吐き気やだるさがあるとき
・冷たいものやさっぱりしたものが口にしやすいです。ゼリーやプリン、アイスクリーム、冷たい麺類などがおすすめです。
・においが強い食べ物は避けると良いでしょう。
・調理のにおいもつらく感じる場合は、電子レンジを活用したり、家族に作ってもらったりするなど、負担を減らす工夫をしましょう。
・一度に多くを食べず、少量を何回にも分けて摂取します。朝、昼、夜の3回にこだわらず、食べたいときに少しずつ口にすると良いでしょう。

口内炎や味覚障害があるとき
・口内炎の痛みがあるときは、柔らかく、なめらかなものが食べやすいです。
・お粥やスープ、ポタージュ、豆腐、卵料理などを試してみましょう。
・食べ物の温度をぬるくすると痛みが和らぐこともあります。
・味覚障害で味がわからなくなってしまったときは、風味や香りを楽しむ工夫をします。だしを利かせたり、しょうがやレモン、ごまなどを加えてみたりするのも良いでしょう。
・金属の食器が苦く感じる場合は、陶器や木のスプーンなどを使うと良い場合もあります。

食欲が全くないとき
・食事を「しっかり食べる」ことにとらわれず、水分や栄養を「補給する」という考え方に切り替えてみましょう。
・栄養補助食品(ドリンクやゼリー)や、具の入っていないスープ、牛乳などを試してみるのも良い方法です。

栄養補助食品を上手に利用する

食事だけで必要な栄養が十分に摂れない場合は、医師や栄養士と相談し、栄養補助食品を利用するのも一つの方法です。

ドリンクタイプやゼリータイプのものがあり、少量で高エネルギー、高タンパク質を摂取することができます。

特に食欲がないときや、食事の準備が大変なときに役立ちます。

水分補給を大切に

食欲がなくても、水分補給は欠かさないようにしましょう。脱水症状はだるさや吐き気を悪化させてしまうことがあります。

水だけでなく、経口補水液やスポーツドリンクなども活用すると良いでしょう。

医師に相談する男性のイラスト

体重の変化は、ご自身の体の状態を知るための大切なサインです。毎日の体重を記録したり、食事の内容や量、体調の変化をメモしたりする習慣をつけることも重要です。これらの記録は、診察のときに主治医や看護師にご自身の状態を伝える際に役立ちます。

ご自身の悩みや不安な気持ちを医療従事者に話すことは、決して弱音を吐くことではありません。食事の悩みは、栄養の専門家である管理栄養士に相談すると、ご自身に合った食事のアドバイスが受けられます。病院の外来や入院中に栄養の相談窓口があるか、主治医や看護師に尋ねてみるのも良いでしょう。

また、がん相談支援センターでは、治療に関する不安や、食事、生活、お金のことなど、さまざまな相談に無料で応じています。誰にも話せない悩みを抱えている場合は、このような専門の窓口を利用することもできます。

抗がん剤治療中の体重の変化は、ご自身の努力や心がけだけでコントロールできるものではありません。無理に食べなければと自分を責めてしまうことはありません。

今のあなたが出来ることを少しずつ見つけて、焦らずにご自身のペースで進んでいってください。辛いときや不安なときは、周囲の医療者やご家族に頼っても良いのです。このコラムが、ご自身の不安を少しでも和らげ、日々の生活のヒントになれば幸いです。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。