2025.12.26

がん患者が在宅医療を始める際の準備と支援の基本

聴診器、ペン、カプセル、体温計、紙でできた家が机の上に乗っている

がんの治療と向き合う中で、「住み慣れた家で、私らしく過ごしたい」と願う患者さんは少なくありません。近年、病院だけでなく、ご自身の自宅で療養する「在宅療養」という選択肢が広まってきました。

しかし、いざ在宅療養を考えたとき、「一体何から始めたらいいのだろう?」「家族だけで大丈夫なのかな?」と不安に思う方も多いのではないでしょうか。

このコラムでは、在宅療養を考えているがん患者さんとそのご家族に向けて、準備や利用できる支援について、やさしく解説していきます。

ご自宅にいながらも、質の高い緩和ケアや医療を受けることができ、安心して生活できるよう、一緒に学んでいきましょう。

食事を摂る老夫婦

在宅療養とは、病院や施設ではなく、ご自身の自宅で医療やケアを受けながら生活していくことです。

これは、がんの治療を通院中心に行っている方、病院での入院治療を終えて自宅で療養を続けたい方など、さまざまな状況で選択されます。

在宅療養のメリット

• 自分らしい暮らし
 → 住み慣れた家で、ご自身のペースで過ごすことができます。ご家族やペットと一緒にいる時間を大切にできます。
• 家族と過ごす時間
 → ご家族と一緒に、より多くの時間を過ごすことができます。お互いの安心にもつながります。
• ストレスの軽減
 → 病院への移動や、見慣れない環境での生活といったストレスが軽減されます。

在宅療養は、緩和ケアを中心に行う場合だけでなく、抗がん剤治療を自宅で行う場合など、ご本人の状態や治療方針に合わせて柔軟に対応できるのが特長です。

悩む高齢夫婦

いざ在宅療養を始めようと思っても、「何から手をつけたら良いかわからない」という方もいるかもしれません。

在宅療養を始めるにあたっては、大きく分けて「心の準備」と「環境の準備」の二つが大切になります。

これらは決して一人で進めるものではなく、医療機関の専門家と一緒に考えていくものです。

心の準備

まずはご本人とご家族が、在宅療養についてじっくり対話し、話し合うことが大切です。

• どんな暮らしをしたいか
 → 自宅でどんなふうに過ごしたいか、どんなケアを望むか、ご本人の気持ちを尊重して話し合いましょう。
• ご家族の気持ちも大切に
 → 在宅療養ではご家族の支援が重要になります。
   ご家族も、不安なことや困りごとがあれば、遠慮なく相談してください。
• かかりつけ医と相談
 → そもそも在宅療養が可能かどうか、どのような医療が自宅で受けられるのかというのは重要な確認ポイントです。
   まずは現在通院している医療機関の医師やがん相談支援センターの専門家にご相談ください。

環境の準備

専門家と連携しながら、少しずつ生活環境を整えていきましょう。

• 医療体制を整える
 → 往診してくれる医師や訪問看護ステーション、薬局など、体調の変化に対応してくれる医療チームを見つけておくことが大切です。
• 福祉用具を整える
 → 手すりの設置や段差の解消、電動ベッドや車いすの用意など、安全に過ごすための工夫をします。
   これらの多くは介護保険や医療保険の制度を利用して費用負担を軽減することができます。
• 日用品の準備
 → ストロー付きコップや食事用エプロン、清拭タオルなど、療養に必要な日用品も事前に用意しておくとよいでしょう。

窓口で相談する夫婦のイラスト

在宅療養は、決してご家族だけで抱え込むものではありません。

さまざまな専門職やサービスが、ご自宅での生活をサポートしてくれます。

医療に関する支援(在宅医療)

「在宅医療」とは、患者さんの自宅を訪問して行われる医療のことです。

これにより、病院に行かなくても自宅で質の高い治療やケアを受けることができます。

• 訪問診療
 → 医師が定期的にご自宅を訪問し、診察や治療、薬の処方、緩和ケアなどを行います。
   往診とは容体が急変した際などに医師が自宅へ駆けつけることで、訪問診療はあらかじめ計画を立てて行う点が異なります。
• 訪問看護
 → 看護師がご自宅を訪問し、体調チェックや点滴管理、傷の手当てといった医療的ケア、ご家族からの相談に応じます。
   訪問看護ステーションから派遣されます。
• 訪問薬局
 → 薬剤師がご自宅を訪問し、薬の飲み方や管理方法を指導してくれます。
   薬の種類が多い方や、飲むのが難しい患者さんにとって、心強い支援になります。

介護・生活に関する支援

介護保険は、40歳以上で特定疾病に認定されている方や、65歳以上の方が利用できる公的な支援制度です。

在宅で療養している方が利用できる主なサービスは以下の通りです。

• 訪問介護
 → ホームヘルパーがご自宅を訪問し、食事や入浴、着替えなどの介助や、調理、掃除、買い物といった生活支援を行います。
• 訪問入浴
 → 看護師と介護士がご自宅を訪問し、専用の浴槽を使って入浴の支援を行います。
• 福祉用具レンタル
 → ベッドや車いす、手すりなどの福祉用具をレンタルできます。
• 訪問リハビリテーション
 → 理学療法士や作業療法士がご自宅を訪問し、身体機能の維持・向上を目的としたリハビリを行います。

相談窓口

在宅療養を始めるにあたっては、専門家に相談することが不可欠です。

• かかりつけ医やケアマネジャー
 → 在宅医療や介護保険サービスの窓口として、様々な相談に乗ってくれます。
• がん相談支援センター
 → 全国のがん診療連携拠点病院に設置されており、在宅療養に関する相談も無料で受け付けています。
   治療や療養に関する幅広い情報を提供しています。

三世代家族が自宅で過ごしているっ様子


ご家族も、在宅療養の大切な支援者です。しかし、ご家族の負担が大きくなりすぎないように、以下のことを心がけてください。

• 一人で抱え込まない
 → 訪問看護や訪問介護といったサービスを積極的に活用し、ご自身の時間も大切にしてください。
• 休憩を取る
 → レスパイトケア(介護者の休息のための入院)など、ご家族が安心して休める支援もあります。
• いつでも相談できる人を見つけておく
 → 何かあったときにすぐに相談できる医師や看護師、ケアマネジャーなど、信頼できるチームを早めに見つけておきましょう。

今回は、がんの在宅療養について、その準備と支援について解説しました。

「在宅療養って、なんだか大変そう…」と不安に思っていた方も、このコラムを読んで、「意外と支援が充実しているんだな」「相談できる場所があるんだな」と安心していただけたら嬉しいです。

大切なのは、ご本人とご家族だけで抱え込まず、利用できるサービスを積極的に活用することです。ご自宅での生活が、あたたかい時間に満ちたものになるよう、心から願っています。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。