がん患者のための介護保険制度の基礎知識と利用方法
がんの診断を受け治療に専念されている患者さま、そしてそれを支えるご家族が長期にわたる治療期間中、体力的な負担や日常生活の変化に戸惑うことは少なくありません。
これまで当たり前にできていたことが難しくなったり、周囲のサポートが不可欠になったりすることもあるでしょう。
そんなとき、多くの人にとって「介護保険」は、高齢者が利用する制度というイメージが強いかもしれません。
しかし、実は40歳から64歳のがん患者さまも、特定の条件を満たせばこの制度を利用できることをご存じでしょうか。
この記事では、がん患者さまとご家族が介護保険を賢く活用するために知っておきたいポイントを、分かりやすく解説します。
制度の仕組みから具体的な申請・利用の流れまで、一つひとつ丁寧に見ていきましょう。
介護保険とは? なぜがん患者が使えるの?

介護保険は、高齢者や特定の病気で介護が必要になった方が、自立した生活を送るための支援を目的とした公的な保険制度です。
在宅での療養を望む方にとって、介護や医療のサービスを利用する上で、なくてはならない制度の一つと言えます。
介護保険の対象者について
介護保険の対象者は、年齢によって二つの区分に分かれます。
第1号被保険者(65歳以上の方):
介護が必要になった原因を問わず、要介護認定を受ければサービスを利用できます。
第2号被保険者(40歳から64歳の方):
末期がんを含む「特定疾病」という病気が原因で介護が必要になった場合に限り、利用できます。
この特定疾病は、加齢に伴い生じやすい病気のうち、医学的に進行が認められる16の病名が指定されています。がんは、このうち末期がんと診断された場合に該当します。このことを知っているのと知らないのとでは、受けられる支援の幅が大きく変わります。
末期がんとは、一般的に医師が「回復の見込みがなく、余命が限られている」と判断した状態を指します。
末期がんと診断された場合、速やかに介護保険の申請を行うことで、在宅医療や在宅での療養を支えるさまざまなサービスが使えるようになります。
介護保険を利用するための「介護認定」の流れ
介護保険を利用するには、お住まいの市区町村に申請し、「要介護認定」を受ける必要があります。
この手続きは少し複雑に感じられるかもしれませんが、以下のようにステップごとに進められます。
ステップ1:市区町村の窓口で申請
→ まずはお住まいの市区町村の介護保険担当窓口(高齢福祉課など)へ行きます。
このとき、窓口でいつ頃から介護が必要になったか、どこに困りごとがあるかなどを伝えます。
ステップ2:訪問調査と主治医意見書
→ 申請後、市区町村の担当者(認定調査員)が自宅を訪問し、ご本人の状態を把握するための「認定調査」が行われます。
この調査では、ご本人の身体機能や日常生活動作、精神状態などが細かくヒアリングされます。
同時に、市区町村はご本人の主治医に「主治医意見書」の作成を依頼します。
末期がんの患者さまの場合、この意見書で末期がんであることが記載されることが、認定を受ける上で非常に重要となります。
ステップ3:介護認定審査会による審査と結果通知
→ 訪問調査と主治医意見書の内容をもとに、「介護認定審査会」で審査が行われます。
この審査を経て、ご本人の介護の必要度が以下のように決まります。
自立(非該当): サービスは利用できません。
要支援1・2: 軽度の介護が必要な状態。日常の支援が中心となります。
要介護1〜5: 日常的な介護が必要な状態。数字が大きいほど、介護の必要度が高いことを示します。
がん患者さまの場合、病状の進行が早いため、暫定的な要介護認定が行われる特例も存在します。これにより、迅速にサービスを利用開始できる方もいます。
介護保険でどんなサービスが使える?

要介護認定を受けたら、いよいよ具体的なサービスを検討します。
在宅療養を希望する方にとって、介護保険で使えるサービスは非常に心強い味方となります。
居宅サービス(自宅で受けられるサービス)
訪問介護
ヘルパーが自宅を訪問し、入浴や食事などの身体介護、調理や掃除などの生活援助を行います。
ご家族の負担を軽減し、ご本人が自宅で自分らしい生活を続けるための基本的な支援です。
訪問看護
看護師が自宅を訪問し、点滴や褥瘡の処置、服薬管理など、医療的なケアを行います。
在宅医療との連携により、病院と同じレベルの医療処置を自宅で受けることが可能になります。
訪問診療
医師が自宅を訪問して診察や処方を行う在宅での診療です。
末期がんの緩和ケアなど、在宅での療養に欠かせないサービスです。
短期入所生活介護(ショートステイ)
短期間、施設に入所し、入浴や食事、レクリエーションなどのサービスを受けます。
ご家族が一時的に休養を取りたいときなどに利用できます。
これらのサービスをどのように組み合わせるかは、ケアプランという計画書にまとめられます。
介護保険利用の鍵!ケアマネジャーとの連携

要介護認定を受けた後、サービスを利用するために最も重要な役割を担うのがケアマネジャー(介護支援専門員)です。
ケアマネジャーは、ご本人やご家族の意向を聞いた上で、心身の状態や生活環境に合わせた最適なサービスの組み合わせを提案してくれます。
ケアプラン作成の流れは以下の通りです。
① ケアマネジャーに相談
→ 市区町村の窓口などでケアマネジャーを紹介してもらいます。
② 面談と現状の把握
→ ケアマネジャーが自宅を訪問し、ご本人の状態やご家族の希望を詳しくヒアリングします。
③ ケアプラン作成
→ 面談と現状の把握に基づいて、どのサービスを、どのくらいの頻度で利用するかを盛り込んだケアプランを作成します。
④ サービス利用開始
→ ケアプランに沿って、サービス事業者と契約し、サービスの利用を始めます。
ケアマネジャーは、いわば介護保険のナビゲーターです。どのような支援が必要か、どんなサービスがあるのか、ご自身で探すのが難しい場合でも、ケアマネジャーに相談すれば、最適な情報を提供してくれます。
介護保険利用の費用や注意点

介護保険を利用するにあたっては、費用負担についても知っておくことが大切です。
・自己負担割合
介護保険サービスの費用負担は、所得に応じて1割、2割、3割のいずれかとなります。
・高額介護サービス費
1ヶ月の自己負担額が一定の上限額を超えた場合、その超えた分が払い戻される高額介護サービス費制度があります。
この上限額は所得によって決まるため、厚労省のサイトなどで確認すると良いでしょう。
・介護保険と医療保険の連携
在宅医療や訪問診療を利用している場合、介護保険と医療保険のどちらが適用されるのか、柔軟な考え方が求められます。
同じサービスでも、病状によっては医療保険が優先される場合もあります。
この点は、主治医やケアマネジャーと相談を重ね、患者さんの状態に合わせた適切な制度利用を検討することが重要です。
その他の支援制度

介護保険以外にも、がん患者さまが使える支援制度は数多くあります。
・高額療養費制度
1ヶ月の医療費の自己負担額が上限額を超えた場合に、その超えた分が払い戻される制度です。
介護保険の高額サービス費と合わせ、費用負担を軽減できます。
・障害者手帳
身体的な機能障害がある場合、障害者手帳を取得することで、税金の控除や交通費の割引など、さまざまな支援が受けられます。
・傷病手当金
療養のため仕事を休んだ場合、健康保険から給与の一部が支給される制度です。
これらの制度は、介護保険と併用できる場合が多く、経済的・精神的な負担を軽減する上で非常に役立ちます。
困りごとがある場合は、まず病院の相談室(医療ソーシャルワーカー)や地域の相談窓口に聞いてみることをお勧めします。
まとめ
がん患者さまにとって、治療と生活の両立は大きな課題です。しかし、介護保険をはじめとする公的な支援制度を知って、積極的に利用することで、その負担は少なからず軽減できます。
介護保険の申請は、ご自身やご家族が「少し支援が欲しい」と感じた頃が始めどきです。この制度を理解し、上手に利用することで、生きることへの希望を拓くことができます。
