2026.01.19

抗がん剤で色素沈着が現れたら 知っておきたいケアと考え方

頬を押さえる女性

がん治療において、抗がん剤や分子標的薬などを用いた薬物療法を継続する中で、皮膚の色調が変化する「色素沈着」が現れることがあります。

顔のくすみ、爪の黒ずみ、あるいは手足の関節まわりの変色など、その現れ方はさまざまです。

こうした外見上の変化は直接的な痛みや生命に関わる症状ではないものの、鏡を見る際や日常生活の中で心理的な負担や戸惑いを感じる要因となります。

本コラムでは、色素沈着のメカニズムを正しく理解し、日常生活でどのようにケアを行い、前向きに治療を継続していくかについて、医学的根拠に基づいた情報を提供します。

鏡を見ながら肌の状態を確かめる女性

薬物療法による色素沈着は、薬剤が皮膚の「メラニン」に関わるプロセスに影響を及ぼすことで発生します。

主なメカニズムは3点あります。

第一に、薬剤の成分が表皮にあるメラニン細胞(メラノサイト)を直接刺激し、色素の生成を過剰に促進させてしまう点です。

第二に、本来は代謝(ターンオーバー)によって体外へ排出されるべきメラニンが、薬剤の影響で皮膚組織内に留まってしまう「排出の停滞」という点。

そして第三に、一部の細胞毒性抗がん剤が皮膚の基底層にダメージを与え、炎症後の反応として色素が定着するという点です。

これらの変化は、特定の部位に薬剤が蓄積しやすい性質や、日光(紫外線)による外部刺激が加わることでより現れやすくなります。

がん種や薬剤の種類、個人の体質により現れ方は異なりますが、これらは薬が体内で作用していることに伴う二次的な反応です。

手の写真。肘より下から指先までが写っている

色素沈着は、特定の部位に集中して現れる傾向があります。

ご自身の状態を確認する際の目安としてください。

起こりやすい部位

・顔面: 特に頬や額など、日光に当たりやすい部分。
・手足: 指の関節、手のひら、足の裏、肘、膝などは、摩擦や圧迫が加わりやすい箇所です。
・爪: 爪自体が黒ずんだり、帯状の線が現れたりすることがあります。
・その他: 首まわりや、下着などで圧迫されやすい部分。

副作用や病気で起きることも

・細胞毒性抗がん剤
 → カペシタビン、ドセタキセル、エリブリンなど、多くのがん種で使用される薬剤の副作用で現れることがあります。
・分子標的薬
 → 皮膚の再生に関わる因子に作用するため、皮膚症状が現れやすい特徴があります。
・手足症候群
 → 手のひらや足の裏に赤みや痛みが生じた後、その部位が色素沈着として残る場合があります。

患者とにこやかに話す医師

色素沈着は、患者さんの「生活の質(QOL)」に直結する重要な症状です。

「これくらいのことで相談してもいいのかな」と一人で抱え込まず、気になる変化があれば主治医や看護師に相談しましょう。

相談の際のポイント

・変化の時期と場所:いつ頃から、どの部位が変化したか。
・随伴症状:かゆみ、痛み、腫れ、あるいは皮膚のめくれなど、他の症状が伴っていないか。
・経過の記録:スマートフォンなどで写真を撮っておくと、診察時に変化が伝わりやすくなります。

必要に応じて皮膚科専門医との連携や、薬剤の調整、適切な保護剤の処方を受けることができます。

スキンケア用品の写真。化粧水のボトルがいくつか並んでいる

色素沈着を完全に防ぐことは簡単なことではありません。

しかし、物理的な刺激(摩擦・圧迫)を軽減しメラニン細胞を活性化させないように気を付けたり、目立たなくさせたりすることは可能です。

衣類・靴の対策

・衣類の工夫
 → 縫い目やゴムの締め付けが刺激になることがあります。
   特に、首回り、手首、ウエスト部分がゆったりとした綿素材の衣類を選ぶと、肌への負担が軽減されます。
・靴の選択
 → 足裏や指の関節は色素沈着が起こりやすい部位です。
   足を圧迫しないサイズの靴を選び、必要に応じて柔らかいインソールを活用して摩擦を抑えましょう。

紫外線対策(UVケア)

紫外線はメラニン細胞を活性化させ、色素沈着を定着・悪化させる大きな要因となります。

・日焼け止めの使用
 →  低刺激性でSPF30程度のものを、露出部にこまめに塗布します。
・日光を遮るアイテムを活用
 → 帽子、日傘、長袖の着用、手袋の使用などが有効です。

保湿の徹底

皮膚のバリア機能が低下すると外部刺激を受けやすくなり、炎症から色素沈着につながることがあります。

・低刺激の保湿剤を塗布
 →  洗顔後や入浴後、皮膚が清潔な状態で速やかに保湿を行います。
・摩擦を避ける
 → 皮膚を清潔に保つことは重要ですが、ゴシゴシと擦ることは逆効果です。
   洗顔や入浴時はたっぷりの泡を使い、手で優しく包み込むように洗うのが基本です。
   体を洗う際はナイロンタオル等でこすらず、泡で優しく洗うように心がけてください。

畳まれた白いタオルと水色のタオル

すでに色素沈着が現れている場合でも、適切な対応を継続することで症状の悪化を最小限に抑え、治療後の回復をスムーズにする準備ができます。

悪化を防ぐための「レスキューケア」

色素沈着をこれ以上濃くさせないためには、炎症を早期に鎮めることが重要です。

・炎症の鎮静(冷却)
 → 手のひらや足裏に赤みや熱感があるときは、保冷剤をタオルで包み、優しく冷やして炎症を鎮めてください。
・食事の見直し
 → 皮膚の代謝(ターンオーバー)を健やかに保つため、ビタミン類を含むバランスの良い食事を心がけましょう。
・刺激を避ける
 → 色素沈着が起きている部位は非常に敏感です。
   体を洗う際の摩擦や、きつい衣類による圧迫をこれまで以上に避けるよう意識してください。

外見の変化を補完するための「アピアランスケア」

外見の変化による心理的負担を軽減するために、専門的な手法を取り入れることも検討してください。

・医療用化粧品の活用
 → 肌への負担が非常に少ない、がん治療の副作用カバーに特化したコンシーラーやファンデーションが普及しています。
・専門家への相談
 → 病院内の「がん相談支援センター」では、皮膚の状態に合わせたメイク技術や、爪の変色をカバーするネイルケアの方法など、外見の悩みについて具体的なアドバイスを受けることが可能です。(利用を希望する場合は、各病院の相談支援センターに確認するのが確実です)

治療が終了した後は

最も心に留めておいていただきたいのは、この症状の多くは「永続的なものではない」という点です。

治療が終了し薬剤の影響がなくなれば、皮膚の細胞は少しずつ元の状態へと入れ替わっていきます。

また、部位や個人差はありますが、治療終了後、数ヶ月から1年程度をかけて、ゆっくりと確実に薄くなっていくことが一般的です。

現在の肌の変化は、治療に懸命に取り組んでいることの証である「一時的な現象」です。

今は皮膚の自然な回復力を支える時期だと捉え、無理のない範囲でケアを続けていきましょう。

色素沈着をはじめとする皮膚の副作用は、多くの場合、治療の終了とともに時間をかけて改善へと向かいます。今の姿が固定されたものではないと理解しておくことが、心の安定につながります。

また、外見の変化は、あなたが懸命に治療に取り組んでいる過程で生じているものです。その変化だけで、あなたの価値や生活の質が損なわれるわけではありません。

大切なのは、ご自身の体調や肌の状態を客観的に観察し、適切なセルフケアを取り入れながら、一歩ずつ進んでいくことです。

日常生活の中で少しでも快適に過ごせるよう、本コラムの情報が皆様の支えとなることを願っています。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。