2025.10.27

肺がんのステージ別生存率と余命とは

胸を押さえる男性

「肺がん」と診断されたとき、多くの患者さんやご家族は、これからどうなるのだろう、という大きな不安に直面するでしょう。インターネットや本で病気について調べ始めると、「ステージ」「生存率」「余命」といった言葉が目に飛び込んできます。これらの数字や言葉が、病気の深刻さを示すように感じられ、さらに大きな不安を引き起こすかもしれません。

しかし、これらの言葉が一体何を意味するのかを正しく理解することは、不確かな情報に惑わされることなく、冷静に病気と向き合うための第一歩となります。

このコラムでは、肺がんの基本的な知識から始め、特に多くの人が気にされる「ステージ」、「生存率」、そして「余命」について、医学的根拠に基づき、できるだけわかりやすく解説します。

肺をデフォルメしたイラスト

肺がんとは何か

肺がんは、呼吸器である肺に発生する悪性腫瘍です。私たちの体は、たくさんの細胞が集まってできています。この肺の細胞が、何らかの原因で異常な増殖を繰り返し、腫瘍となってしまう病気が肺がんです。異常な細胞の増殖は、やがて正常な肺の機能を妨げ、全身に影響を及ぼすことがあります。

肺がんの最も高いリスクは喫煙です。喫煙者のがん死亡のうち、肺がんの割合が最も多いことが報告されています。しかし、非喫煙者でも肺がんになる可能性はあります。受動喫煙、アスベストやラドンガスなどの特定の化学物質へのばく露、PM2.5などの大気汚染、あるいは遺伝子の関連も原因として考えられています。

日本で肺がんと診断される患者は増加傾向にあり、特に男性ではがん死亡率の第1位、女性でも第2位を占めています。

肺がんの主な種類

肺がんは、顕微鏡で見た細胞の形(組織型)によって大きく2つの種類に分類されます。この分類は、その後の治療方針を決定する上で非常に重要です。

■ 非小細胞肺がん
肺がん全体の約85%を占める、最も一般的なタイプです。増殖の速さが比較的遅く、早期発見された場合は手術による根治も可能です。
さらに細かく、以下の3つの種類に分けられます。

・腺がん:肺がん全体の約50%を占める最も多い種類です。非喫煙者にも多いことが特徴です。
・扁平上皮がん:肺の中央の太い気管支に発生しやすく、喫煙との関連が強いタイプです。
・大細胞がん:まれな種類で、細胞が大きく、進行が速いことが特徴です。

■ 小細胞肺がん
肺がん全体の約15%を占めます。細胞が小さく、増殖の速い悪性度の高いタイプです。

診断された時点でリンパ節や他の臓器への転移がみられることが多く、手術の対象となることは少なく、主に化学療法や放射線療法が用いられます。

Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳと書かれたブロックが積み上がり、がんのステージを表している

ステージの定義と重要性

肺がんの「ステージ」(病期)は、病気の進行程度を示す分類です。

これは、TNM分類という国際的な分類方法に基づき、腫瘍の大きさ(T)、リンパ節への転移の有無(N)、そして他の臓器への遠隔転移の有無(M)という3つの要素を組み合わせて診断されます。

ステージを知ることは、最適な治療法を選択する上で極めて重要です。なぜなら、ステージによって、手術の対象となるか、あるいは薬物療法が中心になるかなど、治療方針が大きく異なり、予後にも大きな影響を与えるからです。

各ステージの特徴

肺がんのステージは、0期からIV期までの5つの段階に分けられます。

•ステージⅠ
がんがまだ小さく、肺の一部にだけ限局しており、リンパ節や他の臓器への転移は見られません。
早期発見された肺がんの半数近くがこのステージに該当します。
•ステージⅡ
がんがやや大きくなったり、肺の近くのリンパ節に転移が見られたりする段階です。
手術が可能な場合も多いですが、術後に再発を予防するための薬物療法が行われることもあります。
•ステージⅢ
がんがさらに進行し、より広範囲のリンパ節に転移が見られたり、胸壁や心臓などの周囲の臓器に広がったりしている段階です。
このステージでは、手術と放射線治療、化学療法を併用する治療が中心となります。
•ステージⅣ
がんが肺から離れた他の臓器(脳、骨、肝臓など)にまで転移している段階です。
このステージは遠隔転移があるため根治は難しいと考えられていましたが、近年は薬物療法の進歩により、延命と生活の質の改善を目指す治療が可能になっています。

余命の定義とその影響

頭を抱えるポーズのデッサン人形

「余命」という言葉は、患者さんやご家族にとって重い響きを持つかもしれません。

しかし、余命はあくまで「統計的な予測」であり、個々の患者さんの正確な寿命を断定するものではありません。余命は、がんの種類、ステージ、患者さんの年齢や全身状態、そして何より治療に対する反応によって大きく異なります。

インターネットなどで目にする余命の数字は、あくまで多くの人の平均値であり、ご自身の状況にそのまま当てはまるわけではないことを理解することが大切です。医師から余命について説明がある場合は、あくまで治療や生活の方針を決定するための目安として捉えることが重要です。

ステージ別の生存率

肺がんの生存率は、がんの種類やステージによって異なります。一般的に、ステージが若いほど(ステージ1に近いほど)生存率は高い傾向にあり、ステージが進むにつれて低下する傾向にあります。

国立がん研究センターがん情報サービス「院内がん登録生存率集計」によると、2014-2015年に診断された肺がんの5年生存率は、おおよそ以下の通り報告されています。

•ステージⅠ:約80%
•ステージⅡ:約50%
•ステージⅢ:約30%
•ステージⅣ:約10%以下

しかし、これらの数字はあくまで過去の統計データであり、近年の薬物療法の進歩は目覚ましく、特に進行した肺がんの治療成績は著しく改善されています。

手のひらの上に紙で作った病院のイラストが乗っている

肺がんの主な治療法

肺がんの治療法は、がんの種類とステージ、そして患者さんの全身状態を考慮して、複数の専門医が話し合って決定します。

主な治療法には以下のような種類があります。

■ 手術
がんが局所にとどまっている場合に、がんのある部位を取り除く治療法です。
非小細胞肺がんのステージ1やステージ2が対象となることが多いです。
根治が期待できる最も有効な治療法の一つです。
■ 放射線療法
高エネルギーの放射線をがんに照射して、がん細胞を破壊する治療法です。
手術が難しい場合や、手術と併用して行われます。
■ 化学療法(抗がん剤治療)
抗がん剤を体内に投与し、全身のがん細胞を攻撃する治療法です。
小細胞肺がんではこの治療法が中心となります。
■ 薬物療法
近年、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が導入され、肺がんの治療は大きく変化しました。
 ・分子標的薬
  がん細胞特有の遺伝子の変化を標的として作られた薬剤です。
  正常な細胞への影響が少なく、高い効果が期待できる場合があります。
 ・免疫チェックポイント阻害薬(免疫療法)
  がん細胞に対する免疫力を回復させ、がんを攻撃する治療法です。
  特に非小細胞肺がんの治療で有効性が高く、標準治療として広く用いられています。

これらの治療法は、単独で行われることもあれば、組み合わせて行われることもあります。

治療法による生存率の変化

近年、薬物療法の進歩は目覚ましく、特に進行した肺がんの治療成績が向上しています。以前は治療が難しいとされていた状況でも、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が効果を発揮し、患者さんの生存期間が大きく延長する例が増えています。

生存率は、治療法の選択や治療効果を考える上での一つの目安となりますが、大切なことは、担当医とよく相談し、ご自身の病状や希望に合った治療法を選択することです。

散らばったパズルのピース

転移のメカニズム

がんは、体の中を旅して別の部位に移動し、そこで増殖する性質を持っています。この現象を「転移」と呼びます。

肺がんの細胞は、リンパ節や血液の流れに乗って、肺から離れた他の臓器(脳、骨、肝臓、副腎など)に移動し、そこで新しいがんの塊(転移巣)を作ります。

転移が生存率に与える影響

転移は、がんが進行した状態を示す重要な指標です。

転移が見られるステージ4の肺がんは、転移のない早期の肺がんに比べて生存率が低くなる傾向にあります。これは、がんが全身に広がっているため、手術や放射線治療といった局所治療だけでは根治が難しくなるためです。

しかし、前述したように、最近の薬物療法は転移したがんにも効果を発揮することが増えています。転移が見つかっても決してあきらめず、担当医と最善の治療法について話し合うことが重要です。

肺がんの治療においては、転移の部位や数、遺伝子の変化の有無などを検査し、患者さんごとに最適な薬剤を選択することが、生存期間の延長につながります。

「ステージ」「生存率」「余命」といった言葉は、確かに重い意味を持つかもしれません。しかし、これらはあくまで病気を正しく理解するための目安であり、患者さん一人ひとりの未来を決定づけるものではありません。

大切なのは、信頼できる情報源から正確な知識を得ること、そして不安な気持ちを一人で抱え込まず、医療従事者やご家族、信頼できる友人に相談することです。

特に、痛みなどの症状がある場合や、治療中の生活の質を維持したいときは、緩和ケアの専門医に相談することも重要です。緩和ケアは、治療のどの段階からでも利用可能であり、身体的な痛みや精神的な苦痛を和らげることで、患者さんの生活を支えます。

このコラムが、肺がんと向き合うすべての方にとって、少しでも安心につながる一助となれば幸いです。治療の方針や今後の見通しについて知りたい場合は、必ず担当医に相談し、納得のいくまで話し合うことをお勧めします。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。