抗がん剤の副作用「白血球減少」による感染症対策と発熱時の対応
がんという病と向き合う中で、多くの患者さんが経験する副作用の一つに、抗がん剤による「白血球の減少」があります。
医師から「白血球が減っています」と伝えられると、感染症にかかりやすくなるというイメージから、不安に感じる方も多いのではないでしょうか。
「熱が出たらどうしよう」「風邪を引かないか心配」「外出は控えるべき?」など、日々の生活の中で様々な疑問が湧いてくることでしょう。
しかし、白血球の減少は、抗がん剤ががん細胞を攻撃する際に起こる、一般的な影響です。
この症状を正しく理解し、適切な対策を行うことで、不安を和らげ、感染症のリスクを減らすことができます。
このコラムでは、抗がん剤治療中の白血球減少の原因と身体への影響を解説するとともに、患者さんご自身とご家族が実践できる日常での感染症の予防方法をご紹介します。
白血球減少の原因と身体への影響とは?

白血球とはどんな細胞?
白血球は、体を守るために働く「免疫細胞」のひとつで、血液の中を常に巡回しながら、細菌やウイルスなどの異物を見つけて対処する役割を担っています。
体内に侵入した病原体を察知すると、白血球はすぐに反応し、異物を排除するためのさまざまな働きを行います。
白血球にはいくつかの種類があり、それぞれ得意とする役割が異なります。
細菌への素早い対応を担うもの、ウイルスに対抗するもの、異物の情報を記憶して次に備えるものなど、多様な仕組みが連携することで、私たちの体は日々の生活の中で外敵から守られています。
こうした白血球の働きは、普段は意識することがありませんが、健康を保つうえで欠かせない存在です。
白血球が十分に働ける状態であれば、ちょっとした傷や体調の変化にも体が自然と対応できます。
しかし、この白血球が減ってしまうと、体を守る力が弱まり、感染症に対して敏感になりやすくなります。
白血球が減少する理由とは
私たちの体には、細菌やウイルスなどの病原体から身を守るための、免疫という仕組みがあります。
その中心的な役割を担っているのが白血球です。白血球は血液の中を巡り、体内に侵入した異物を見つけて排除する働きをしています。
なかでも好中球は、細菌をいち早く察知し、直接取り囲んで分解する働きを持つ即戦力のような存在です。
しかし、抗がん剤治療では、この白血球を作る骨髄の細胞にも影響が及びます。
抗がん剤は、がん細胞のように増殖の早い細胞を狙って作用しますが、骨髄の細胞も同じく活発に分裂しているため、治療の影響を受けやすいのです。
その結果、白血球の数が一時的に減少し、特に好中球が大きく低下することがあります。
白血球が最も減りやすい時期は、抗がん剤投与後10〜14日頃といわれています。
この期間は、骨髄が薬の影響を受けているため、新しい白血球が十分につくられにくく、免疫力が大きく低下しやすいタイミングです。
治療のサイクルごとにこの波が繰り返されるため、体調の変化に気づきやすくしておくことが大切です。
白血球減少がもたらす身体への影響
白血球、特に好中球が減ると、体は細菌に対抗する力が弱くなります。
普段なら問題にならないような小さな傷や口内炎でも、細菌が増えやすくなり、感染が広がるリスクが高まります。
発熱や喉の痛み、咳、排尿時の違和感など、日常的な症状が感染のサインとなることもあります。
また、白血球が少ない時期は、体の中で起きている炎症反応が表れにくくなることがあります。
通常であれば、細菌が体に侵入すると発熱や腫れなどの反応が起こりますが、白血球が不足していると、こうした“異変のサイン”が弱く出ることがあります。
そのため、症状が軽くても油断せず、体調の変化に敏感でいることが重要です。
さらに、白血球減少は体力や気力にも影響を及ぼすことがあります。
免疫力が低下している状態では、普段より疲れやすくなったり、体が重く感じたりすることもあります。
これは、体が外敵から身を守るためのエネルギーを十分に使えない状態になっているためです。
こうした理由から、白血球が低下している期間は、感染症を防ぐための対策がとても大切になります。
手洗い・うがい、人混みを避ける、食事の衛生に気をつけるなど、日常生活の中でできる工夫が、体を守る大きな力になります。
感染症を寄せ付けないための5つの習慣

白血球が減少している期間は、感染症にかかりやすい状態です。
しかし、日常生活の中でできる簡単な工夫を行うことで、そのリスクを大幅に減らすことができます。
これらの予防方法を家族全員で行い、患者さんをサポートしましょう。
こまめな手洗いとうがい
感染症の原因となる細菌やウイルスは、手や口から体内に入りやすいため、日頃の衛生習慣がとても重要です。
特に白血球が減っている時期は、普段以上に手洗いやうがいを丁寧に行うことで、感染のリスクを大きく下げることができます。
・外から戻った時、食事の前、トイレの後にはしっかりと手洗いを行いましょう。
・手洗い後は、ペーパータオルなどで水気を拭き取り、しっかりと乾燥させましょう。
・うがいは、口や喉の細菌を洗い流してくれます。水またはうがい薬を使い、毎日行いましょう。
マスクを使用する
マスクは、咳やくしゃみによる飛沫を防ぐだけでなく、外からの細菌やウイルスの侵入を抑えるためにも有効です。
白血球が減っている時期は、普段より感染しやすくなるため、外出時のマスク着用が大切になります。
・病院や人混みなど、人が多く集まる場所へ行く際は、必ずマスクを着用しましょう。
・マスクが濡れたり汚れたりした時は、新しいものに交換し、常に清潔な状態を保ってください。
食事の注意点
食べ物から細菌が侵入することを防ぐためには、日頃の食事管理が大切です。
白血球が減っている時期は、普段よりも食材の衛生や調理方法に気を配ることで、感染のリスクを大きく下げることができます。
・十分に加熱された食品を選びましょう。
生肉、生魚、生卵などは避け、調理時もしっかりと火が通ったか確認しましょう。
・野菜や果物はしっかりと洗い、表面の汚れや細菌を落としましょう。
・賞味期限や消費期限が切れた食品は食べないようにし、保存状態にも気を付けましょう。
口腔ケアと皮膚の保護
口内炎や乾燥した皮膚は、細菌が入り込みやすい場所になるため、日頃のケアが大切です。
特に白血球が減っている時期は、口内や皮膚の状態を整えることで感染のリスクを下げることができます。
・食後にはしっかりと歯磨きを行い、口内を清潔に保ちましょう。口腔内を潤すためのスプレーなどを利用することもおすすめです。
・皮膚の乾燥は、保湿クリームで保護しましょう。
・爪は短く切り、皮膚を傷つけないように注意してください。
清潔な環境を保つ
生活環境を清潔に保つことも、感染症を防ぐうえで大切です。とくに白血球が減っている時期は、普段より細菌に対して弱くなっているため、身の回りの衛生管理を意識しましょう。
・ドアノブや電気スイッチなど、手がよく触れる場所はこまめに拭き取り、清潔に保ちましょう。
・寝具は定期的に交換し、湿気や汚れをためないようにしましょう。
発熱した時の対処法

白血球減少中の発熱は、感染のサインである可能性があります。慌てずに、冷静に対処することが大切です。
発熱したら、まず相談を
発熱を感じたときは、まず落ち着いて体温を測り、現在の状態を確認しましょう。
白血球が減っている時期の発熱は、体が感染に対して弱くなっているサインである可能性があります。
体温が37.5℃以上ある場合は、自己判断で様子を見るのではなく、すぐに病院へ連絡することが重要です。
病院に連絡すると、医師や看護師が症状や体温の変化を確認し、次のような対応が案内されます。
・外来での診察
血液検査で白血球や好中球の数を確認し、感染の有無を調べます。
必要に応じて、抗菌薬の点滴や内服薬がその日のうちに開始されることがあります。
・入院が必要と判断された場合
免疫力が大きく低下していると考えられる場合は、入院して治療を受けることになります。
入院中は、点滴治療や感染管理がより厳密に行われ、体調の変化にすぐ対応できる環境が整っています。
・自宅での過ごし方の指導
軽症で外来対応となった場合でも、体温の記録方法や衛生管理、食事・休養の取り方など、家庭での注意点について具体的なアドバイスが得られます。
指示に沿って生活することで、自宅でも安全に過ごしやすくなります。
がん治療中の発熱は、単なる風邪とは異なり、感染症の初期サインである可能性が高いため、早めの連絡と受診がとても大切です。
迷ったときはためらわず医療者に相談し、指示に従うことが安全につながります。
相談時に伝えるべきこと
発熱や体調の変化があった際に医療者へ相談するときは、状況を正確に伝えることが適切な判断につながります。
特に白血球が減っている時期の発熱は、感染症のサインである可能性があるため、事前に必要な情報を整理しておくと安心です。
医師や看護師に伝えるべき主なポイントは次のとおりです。
・熱の上がり方
いつ頃から発熱が始まったのか、現在の体温は何度か、どのくらいの間隔で上昇しているかなど、体温の変化を具体的に伝えます。
・その他の症状の有無
咳、喉の痛み、下痢、腹痛、吐き気など、発熱以外に気になる症状があれば、軽いものでも共有しましょう。
症状の組み合わせは診断の手がかりになります。
・治療を受けている病院名
複数の医療機関を利用している場合や、時間外に相談する場合は、どこで治療を受けているかを明確に伝えることで、対応がスムーズになります。
・服用している薬の種類
抗がん剤以外にも、内服薬やサプリメントなど、現在飲んでいるものを把握しておくと、薬の影響や相互作用を判断する助けになります。
これらの情報をあらかじめメモしておくと、慌てずに相談でき、医療者側も状況を正確に把握しやすくなります。
適切な対処につながる大切な準備として、日頃から記録しておくことをおすすめします。
自己判断で薬を使わない
白血球が減っている時期は、体が感染に対して弱くなっているため、自己判断で市販の解熱剤や痛み止めを使うことは避けましょう。
薬の種類によっては、発熱などの重要なサインを抑えてしまい、感染症の発見が遅れる可能性があります。
また、症状が一時的に軽くなったように見えても、原因となる問題が進行してしまうこともあります。
体調に不安がある場合や薬を使いたいと感じた時は、必ず医師や医療スタッフに相談し、適切な判断を仰ぐことが大切です。
おわりに
白血球減少は、抗がん剤治療の過程で一時的に起こる変化であり、多くの方が経験するものです。
治療が進むにつれて徐々に回復していくため、必要以上に恐れる必要はありません。
ただし、体の抵抗力が弱まっている時期でもあるため、体調の変化に気づいたときは早めに対応することが大切です。
不安を抱えたまま過ごすことは、心身の負担につながります。
発熱や体調の違和感がある場合だけでなく、気持ちの面で心配が生じたときも、ひとりで抱え込まずに医療者やご家族に相談してください。
治療中は、体調の変化に敏感になりやすく、先の見えない不安を感じることもあるかもしれません。
そうした時期を少しでも安心して過ごすために、このコラムが、患者さんご自身とご家族の皆さまの助けとなれば幸いです。
