2026.05.29

がん放射線治療中の皮膚トラブルを防ぐ!セルフケアと日常の備えを解説

赤くなった手を押さえる女性

放射線療法は、現代のがん治療において欠かせない柱の一つです。

手術、薬物療法と並び、多くの患者様の治癒や症状の緩和を支えています。

しかし、放射線を照射する際、がん細胞を狙い撃ちにする過程で、どうしてもその通り道となる皮膚には一定の負担がかかります。

治療が進むにつれて現れる肌の赤みや乾燥、かゆみといった皮膚障害は、多くの患者様が直面する悩みです。

これらの症状は、適切に対応することで悪化を防ぎ、治療を予定通りに完結させる大きな助けとなります。

このコラムでは、放射線治療中の皮膚ケアの基本から、自宅で実践できる具体的な方法、そして医療スタッフとの連携まで、健やかな肌を保つための知恵を詳しく解説します。

腕をかく女性

放射線が照射される部位の皮膚には、多かれ少なかれ変化が生じます。

これを放射線皮膚炎と呼び、治療に伴う急性期の副作用として知られています。

まず、どのような症状がどのような仕組みで起こるのかを正しく理解することから始めましょう。

放射線皮膚炎の主な症状

放射線治療を始めて数回目、あるいは1〜2週間ほど経つと、照射部位の肌に少しずつ変化が現れます。

初期には、日焼け後のような赤み(紅斑)や熱っぽさ、軽いかゆみが出ることが一般的です。

治療が進むにつれて皮膚は乾燥し、カサつきや表面の皮が剥がれ落ちる落屑(らくせつ)が見られるようになります。

さらに炎症が強くなると、皮膚がじくじくしたり、水ぶくれができる「びらん」や「潰瘍」といった症状が生じることもあります。

こうした変化は照射終了後もしばらく続く場合がありますが、多くは数週間から数ヶ月かけて自然に回復していきます。

とはいえ、治療中の不快感や痛みは日常生活に影響を及ぼすことがあります。そのため、早めのスキンケアや生活上の工夫がとても大切です。

気になる症状があれば、我慢せず医療スタッフに相談することで、より快適に治療を続けられます。

放射線が肌に影響を与えるしくみ

放射線治療を受けると、なぜ皮膚に障害が起こるのでしょうか。

私たちの皮膚の表面にある「表皮」は、最も奥に位置する基底層で新しい細胞が作られ、それが少しずつ押し上げられて表面へと到達し、生まれ変わりを繰り返しています。

放射線はがん細胞の増殖を抑えるために用いられますが、その過程で基底層にある正常な細胞にも影響を与えてしまいます。

基底細胞がダメージを受けると、細胞分裂が一時的に妨げられ、新しい皮膚が十分に供給されなくなります。

その結果、皮膚のバリア機能が低下し、水分が失われやすくなり、乾燥やひりつき、赤みといった症状が現れます。

外部からの刺激にも敏感になり、わずかな摩擦や衣服のこすれでも不快感が生じやすくなるのです。

これが放射線皮膚炎が起こる根本的な仕組みです。

放射線治療はがんを確実に叩くために欠かせない治療ですが、その一方で皮膚への影響は避けられないことがあります。

だからこそ、治療中の皮膚変化を医療チームが丁寧に観察し、必要なケアを行うことが重要です。

患者さんが少しでも安心して治療を続けられるよう、皮膚の状態に合わせたサポートを行うことが治療の一部でもあります。

?マークと虫眼鏡

同じ放射線治療を受けていても、皮膚症状の出方は一人ひとり異なります。

これには、治療そのものの条件だけでなく、身体の部位やその方の体質、日々の生活習慣などが複雑に関係しています。

治療部位や回数による負担の違い

放射線を照射する部位によって、皮膚の反応は大きく変わります。

例えば、乳がんの治療では脇の下や胸の下など、皮膚同士が重なり合って「こすれ(摩擦)」や「蒸れ」が起きやすい場所は、炎症が悪化しやすい傾向があります。

また、首まわり(頸部)などはもともと皮膚が薄く、首を動かすたびに摩擦が生じるため、ダメージを受けやすいデリケートな部位です。

皮膚トラブルの程度には、放射線をかける「回数」や「強さ(線量)」、そして「範囲の広さ」も関わっています。

がんを叩くための根治治療では、長期間にわたり繰り返し照射を行うため、ダメージが蓄積しやすくなります。

一方で、痛みを和らげるための緩和照射では、回数を絞ることで皮膚への負担を最小限に抑える工夫がなされます。

また、最近では化学療法(抗がん剤治療)を同時に行う化学放射線療法も一般的ですが、薬剤の影響で肌のバリア機能が低下し、通常よりも強く赤みや痛みが出ることがあります。

「自分の場合はどうなるのだろう」と不安を感じるかもしれませんが、治療の目的や部位に合わせて、医療チームはあらかじめ予測しケアを準備しています。

肌の状態に関わる体質や生活習慣

もともとの肌質も影響を与えます。乾燥肌の方や、アレルギー体質の方は、炎症が強く出たりかゆみを感じやすかったりすることがあります。

また、年齢を重ねると皮膚の皮脂腺や汗腺の機能が低下し、水分を保つ能力が弱くなるため、高齢の方のケアにはより丁寧な配慮が必要です。

生活習慣の面では、喫煙や栄養状態の偏りが皮膚の回復力を遅らせる原因となります。

また、照射部位に過度な摩擦を与えたり、強い紫外線を浴びたりすることも、症状を悪化させるリスク要因です。

自分の肌がどのような影響を受けやすい状態にあるのかを事前に知り、それに応じた対策を立てることが、長期にわたる治療期間を健やかに過ごすための鍵となります。

ハンドクリームを塗る手

皮膚のバリア機能が低下している時期、最も大切なのは「清潔に保つこと」「潤いを与えること」「刺激を避けること」の3点です。

これらを日々の習慣として取り入れることで、皮膚のダメージを最小限に抑えることができます。

刺激を抑えて清潔に保つ洗い方

皮膚を清潔に保つことは、細菌の感染を防ぐために不可欠です。

しかし、洗い方を誤ると、かえって肌を傷つけてしまうことがあります。

洗浄の基本は、低刺激で弱酸性の石鹸を使用し、たっぷりの泡で洗うことです。

手のひらで石鹸をしっかりと泡立て、その泡を転がすようにして、肌を直接手で擦らないように優しく洗ってください。

また、お湯の温度にも注意が必要です。熱すぎるお湯は皮脂を奪い、乾燥を悪化させてしまうため、38度から40度程度のぬるま湯が適しています。

シャワーを浴びる際は、水圧を弱めにして、照射部位に直接強い水流が当たらないように配慮しましょう。

洗い流した後は、柔らかいタオルを肌に軽く押し当てるようにして、水分を吸い取ります。

ゴシゴシと拭くことは、脆弱な皮膚を剥がしてしまう原因となるため厳禁です。

保湿のポイントとスキンケア用品の選び方

乾燥した肌は外部刺激に弱く、かゆみも生じやすくなります。

そのため、十分な保湿ケアが重要です。使用する保湿剤は、香料や着色料が含まれていない、刺激の少ないものを選びましょう。

医療機関からヒルドイド(ヘパリン類似物質)や軟膏などが処方されている場合は、その指示に従って正しく塗布します。

保湿剤を塗る際は、清潔な手で適量を手に取り、肌の上に置くようにして優しく広げます。

このときも、擦り込むように塗るのではなく、表面を覆うようなイメージで行うのがコツです。

特に照射直後は皮膚が敏感になっているため、治療の前後でいつ塗布すべきかを担当の看護師や医師に確認しておきましょう。

施設によっては、照射の直前には何も塗らないように案内される場合もあります。

毎日決まったタイミングで保湿を継続することで、肌の柔軟性が保たれ、回復が早まることが期待できます。

摩擦や刺激を減らす

日常生活の中での物理的な刺激を減らす工夫も欠かせません。

肌に直接触れる下着や衣類は、綿(コットン)100%などの吸湿性が良く、肌触りの柔らかい素材を選びましょう。

襟元が硬いものや、レース、ゴムの締め付けが強いものは、摩擦による皮膚炎の悪化を招くことがあります。

また、照射部位を日光(紫外線)から守ることも大切です。

外出の際は、薄手のストールを巻いたり、日傘を利用したりして、直接強い光が当たらないように工夫してください。

ただし、照射部位に直接市販の日焼け止めクリームを塗る際は、成分や落としやすさについて事前に担当医に相談することが重要です。

汗をかいたときもそのままにせず、こまめに優しく拭き取るか、ぬるま湯で洗い流して、肌を常に健やかな状態に保つよう心がけましょう。

患者と話す医師

セルフケアを行っていても、症状が強く出たり、痛みが伴ったりすることはあります。

そんなときは、決して一人で我慢せず、医療チームのサポートを受けることが大切です。

相談のタイミング

放射線科の診療では、定期的に医師や看護師が皮膚の状態を確認します。しかし、次の診察を待たずに相談すべき場面もあります。

例えば、肌が赤く腫れて熱を持っているとき、水ぶくれができてじくじくしてきたとき、あるいは痛みが強くて夜も眠れないときなどは、早急に問い合わせを行ってください。

医療機関では、炎症の程度に合わせて、ステロイドの外用薬や、皮膚を保護するための特殊な被覆材などが処方されることがあります。

また、あまりに症状が強い場合は、一時的に照射を休止して皮膚の回復を待つという判断がなされることもあります。

早期に対応を開始することで、皮膚障害が悪化して長期化するのを防ぐことができます。

気になる変化があれば、スマートフォンのカメラで写真を撮っておき、診察の際に見せるのもひとつの方法です。

注意したい症状

皮膚のバリア機能が大きく低下すると、そこから細菌が入り込み、二次的な感染症を引き起こすリスクが高まります。

特に注意したいサインとして、黄色い膿がにじむ、照射部位だけでなく周囲の広い範囲まで赤みが広がる、全身に発熱があるといった症状が挙げられます。

これらは単なる放射線皮膚炎ではなく、蜂窩織炎などの感染症を併発している可能性があり、早めの対応が必要です。

また、かゆみが強いと無意識のうちに爪で掻いてしまい、小さな傷から出血や炎症が広がることもあります。

皮膚を守るためには、爪を短く整えておくといった基本的なケアがとても重要です。

さらに、かゆみがつらい場合には我慢せず、かゆみを抑える薬について医療スタッフに相談してください。

適切なケアを行うことで、症状の悪化を防ぎ、治療期間をより快適に過ごすことにつながります。

洗面所で手を洗う様子

放射線の照射期間が終わっても、皮膚のケアがすぐに終わるわけではありません。

照射の影響は数週間から数ヶ月、時には年単位で続くことがあるため、長期的な視点での管理が必要です。

治療後に起こりやすい肌の変化

照射終了の直後から2週間後くらいまでは、一時的に皮膚の症状がピークに達することがあります。

皮が剥がれたり、色素沈着が生じて肌が黒ずんだりすることがありますが、これらは組織が回復しようとする過程で起こる反応です。

この時期も、治療中と同じように丁寧な洗浄と保湿を続けてください。

時間の経過とともに赤みは引き、新しい皮膚が作られていきます。

色素沈着も、半年から1年ほどの長い時間をかけて徐々に薄くなっていくことが一般的です。

しかし、照射を受けた部位の皮膚は、以前よりも乾燥しやすく、汗が出にくくなったり、毛が生えにくくなったりといった変化が残ることもあります。

これを長期的な後遺症として捉え、無理に元の状態に戻そうと焦らず、今の肌の状態に合わせたケアを継続していくことが大切です。

肌ケアの習慣をつける

放射線治療を受けた部位の皮膚は、治療が終わって数年が経ってからも、他の部位より刺激に弱い状態が続くことがあります。

特に、強い紫外線や冬場の乾燥は負担になりやすいため、季節に応じた保護や保湿を意識的に行うことが大切です。

日常の中で少し気を配るだけでも、肌のトラブルを防ぐ助けになります。

また、アピアランスケア(外見のケア)の視点も欠かせません。

色素沈着や質感の変化が気になり、温泉や公衆浴場の利用をためらう方もいます。

入浴前後に肌を整えるケアを取り入れたり、気になる部分をカバーできる専用のシートを活用したりすることで、安心して過ごせる場面が広がります。

最近は、肌の変化に寄り添うアピアランス支援のサービスも増えており、専門家に相談することで自分に合った方法を見つけることができます。

自分が心地よく過ごせる工夫を取り入れることは、がんを経験した後の生活を豊かにし、自分らしさを取り戻す大切な一歩になります。

放射線治療中の皮膚の悩みは、目に見える変化であるからこそ、鏡を見るたびに不安を感じたり、衣服が擦れるたびに痛みを感じたりと、患者様の心に小さくない負担を強いるものです。

しかし、今回ご紹介した「洗う・潤す・守る」という日々の積み重ねは、確実にあなたの肌の回復を助ける力になります。

このコラムが、あなたが自分らしく、心地よい毎日を過ごすための一助となれば幸いです。

皮膚の再生力は、私たちが思っている以上に力強いものです。その力を信じて、焦らず、一歩ずつケアを続けていきましょう。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。