2026.06.09

肺がん治療中の息苦しさを和らげるために。すぐできる対処法と楽な姿勢

胸を押さえる男性

「息が吸えない」「空気が足りない」「胸が苦しい」――肺がんの治療を受けている方や手術後の方から、こうした息苦しさの訴えをよくお聞きします。

日本緩和医療学会によると、肺がん患者様の75〜87%が息苦しさを経験するといわれています。

息苦しさは体の症状であると同時に、精神的にも大きな不安や恐怖を伴うものです。

このコラムでは、肺がん治療中や手術後の息苦しさについて、なぜ起こるのかや、日常生活でできる具体的な対処法をお伝えします。

すぐに試せる楽な姿勢や呼吸法を知ることで、日々の生活が少しでも楽になれば幸いです。

胸を押さえる女性

がんそのものによる影響

肺がんが進行すると、がん細胞が気道(空気の通り道)を狭くしたり、肺の機能を低下させたりすることで、息苦しさが生じます。

また、がんが胸水(肺の外側に水が溜まる状態)を引き起こすと、肺が十分に膨らまなくなり、呼吸が苦しくなることがあります。

さらに、がん細胞が肺のリンパ管に広がると、リンパ管が詰まって肺の中に水分がたまりやすくなる「がん性リンパ管症」という状態になることがあります。

これも強い息苦しさの原因になります。

これらが、肺がんで息苦しさが起こりやすい主な理由です。

治療による影響

抗がん剤治療や放射線治療によって、肺に炎症が起きる間質性肺炎や放射線肺臓炎が発生することがあります。

これらは肺胞(肺を形づくる小さな袋)の壁に炎症が起き、血液中の酸素が少なくなった状態です。

手術を受けた方の場合は、肺の一部を切除したことで肺の容量が小さくなり、息苦しさを感じやすくなります。

小さくなった肺に体が慣れるまでは、動いたときや階段を上るときなどに特に息苦しさを感じることが多いです。

不安やストレスによる影響

息苦しさは、体の状態だけでなく、不安や恐怖といった心の状態とも深く関わっています。

「息ができなくなったらどうしよう」という不安が、さらに息苦しさを強くしてしまうという悪循環が起きることがあります。

病気への不安、治療への心配、将来のことを考えたときの恐怖など、精神的なストレスが呼吸を浅く速くしてしまい、結果として息苦しさを感じやすくなることもあります。

このように、体と心は密接につながっているのです。

前かがみの姿勢

椅子に座って、テーブルや机に腕を置き、少し前かがみになる姿勢は、息苦しいときに最も楽に感じる方が多い姿勢です。

この姿勢では、横隔膜(呼吸に関わる筋肉)が下がりやすくなり、肺が広がるスペースが確保されます。

具体的な方法

・椅子に座り、テーブルに両腕を置く
・クッションや枕をテーブルの上に置き、その上に腕や頭を乗せる
・外出先では、手すりや壁に手をついて前かがみになる

この姿勢は、自宅だけでなく、外出先でも簡単に試すことができます。

仰向けより横向きがおすすめ

ベッドや布団で横になるときは、仰向けよりも横向きのほうが楽なことが多いです。

特に、息苦しい側を上にして横向きに寝ると、良いほうの肺がより働きやすくなります。

楽な寝方のための工夫

・枕を2〜3個用意し、頭だけでなく背中や膝の間にも挟む
・抱き枕を使って体を安定させる
・ベッドの頭側を30〜45度上げる(上体を少し起こす)

これらの工夫により、肺が広がりやすくなり、息苦しさが和らぎます。

立ったままでの対処

もし立っているときに息苦しくなり、座ることができない場合は、壁に背中をもたれかけ、足を少し前に出す姿勢をとってみてください。

その際、両手を太ももに置くか、壁に手をついて体を支えます。

体重を壁に預ける姿勢を取ることで呼吸筋の負担が減り、楽に呼吸ができるようになります。

買い物中や外出先で急に息苦しくなったときにも、すぐに試せる方法です。

ハートのボールを持つ手

口すぼめ呼吸

口すぼめ呼吸は、息苦しいときに最も効果的な呼吸法の一つです。

口すぼめ呼吸のやり方
1. 鼻からゆっくり息を吸う(2秒程度)
2. 口をすぼめる(口笛を吹くような形)
3. 口からゆっくり息を吐く(4秒程度、吸う時間の2倍)

この呼吸法により、気道が広がった状態を保ちやすくなり、肺の中に残った空気を効率よく出すことができます。

息苦しいときほど、ゆっくり長く息を吐くことを意識してください。

腹式呼吸

腹式呼吸は、お腹を使って深く呼吸する方法です。

仰向けに寝るか、楽な姿勢で座り、片手をお腹に、もう片手を胸に置きます。

鼻からゆっくり息を吸いながら、お腹が膨らむのを意識します。

そして、口からゆっくり息を吐きながら、お腹がへこむのを意識します。

胸だけで浅く速い呼吸をするよりも、腹式呼吸のほうが効率よく酸素を取り込むことができます。

ただし、息苦しいときに無理に深呼吸をしようとすると、かえって苦しくなることもあります。

自分のペースで、楽にできる範囲で行うことが大切です。

リラックスするための呼吸法

息苦しさと不安が悪循環になっているときは、意識的にリラックスする呼吸法が有効です。

リラックス呼吸の手順
1. 楽な姿勢で目を閉じる
2. 鼻からゆっくり息を吸いながら「1、2、3」と数える
3. 口からゆっくり息を吐きながら「1、2、3、4、5、6」と数える
4. 5〜10回繰り返す
5. 肩、首、顔、手、足の順に力を抜いていく

不安が強いときこそ、ゆっくりとした呼吸を心がけてください。

室内環境を整える

部屋の空気が乾燥していると、気道が刺激されて息苦しさを感じやすくなります。

環境を整える方法
・加湿器を使う(湿度40〜60%を目安に)
・洗濯物を室内に干す
・観葉植物を置く
・室温は20〜24度程度に保つ
・エアコンの風が直接当たらないよう風向きを調整
・定期的に換気をして新鮮な空気を取り入れる

これらの工夫で、呼吸がしやすい環境を作ることができます。

締め付けのない衣服を着る

体を締め付ける服は、呼吸を妨げることがあります。

ベルトやブラジャー、襟の詰まった服などは避け、ゆったりとした服を選びましょう。

特にお腹周りや胸の周りがきつくない服装が、楽に呼吸できるポイントです。

パジャマや部屋着は、普段着よりもさらにゆったりとしたものを選び、体を締め付けないようにします。

また、靴下のゴムがきついと足がむくみ、それが息苦しさにつながることもあります。

履き口のゴムが緩い靴下を選ぶのも一つの方法です。

動作をゆっくりにする

急いで動くと息切れしやすくなるため、日常の動作はゆっくりと行うようにします。

動作のコツ
・朝起きるとき:いきなり起き上がらず、まず横向きになってから手をついてゆっくり起きる
・階段を上るとき:1段上がるごとに一呼吸置く
・重いものを持つとき:一度に持たず、分けて運ぶ
・基本的な心がけ:「息が切れたら休む」ではなく「息が切れる前に休む」

無理のないペースで動くことが大切です。

水分をこまめに摂る

水分不足は痰を固くし、息苦しさを増す原因になります。

一度にたくさん飲むのではなく、少量ずつこまめに水分を摂るようにしましょう。

常温の水や白湯、麦茶などが適しています。

ただし、心臓や腎臓に問題がある場合は、水分制限が必要なこともあります。

1日にどのくらいの水分を摂ってよいか、主治医に確認しておくと安心です。

リビングに集まる三世代家族

不安を受け止める

息苦しさを感じている患者様は、「このまま息ができなくなったらどうしよう」という強い不安を抱えていることがあります。

ご家族は、その不安を否定せずに、まずは受け止めることが大切です。

「大丈夫、落ち着いて」と励ますよりも、「苦しいね、一緒にゆっくり呼吸しよう」と寄り添う言葉のほうが、患者様の心を落ち着かせることができます。

手を握る、背中をさするといった、言葉以外のサポートも効果的です。

楽な姿勢を見つける手伝いを

息苦しいときは、体を動かすことも大変です。

ご家族がクッションや枕を運んで、楽な姿勢を作る手伝いをしてあげてください。

「この姿勢は楽?」「もう少し高くする?」と声をかけながら、一緒に楽な姿勢を探しましょう。

抱き枕や背当てクッションなどを用意しておくと、素早く姿勢を調整できます。

夜間に息苦しくなったときのために、ベッドの近くに枕やクッションを複数準備しておくと良いでしょう。

環境を整える

患者様が楽に過ごせるよう、室温や湿度を調整する、換気をする、衣服を緩めるなど、環境面でのサポートもご家族ができる大切な役割です。

息苦しいときは、自分で動くのも辛い状態です。

患者様の代わりにエアコンのリモコンを操作したり、窓を開けたりしてあげてください。

また、息苦しさが強いときは話すこと自体も負担になります。

「はい」「いいえ」で答えられる質問にする、筆談を用意するなど、患者様の負担を減らす工夫も有効です。

PCの前で説明する医師

急に息苦しさが強くなったとき

以下のような症状がある場合は、すぐに医療機関に連絡してください。

・これまでになかった強い息苦しさが急に現れた
・唇や皮膚が青紫色になる(チアノーゼ)
・意識がもうろうとする
・胸の痛み、冷や汗、動悸などが同時に現れた

夜間や休日でも、遠慮せずに救急外来や往診を依頼してください。

緊急度の高い状態の可能性があります。

日常生活に支障が出ているとき

息苦しさのために、食事が十分に摂れない、眠れない、トイレに行くのも辛いなど、日常生活に大きな支障が出ている場合は、我慢せずに主治医に相談しましょう。

酸素療法(酸素吸入)や薬物療法(呼吸を楽にする薬や、不安を和らげる薬)によって、症状を緩和できることがあります。

「このくらいで相談していいのかな」と遠慮する必要はありません。

早めの相談が、より良い対処法につながります。

呼吸法や姿勢を教えてもらいたいとき

呼吸リハビリテーションという、呼吸を楽にするための専門的な訓練があります。

理学療法士や作業療法士が、一人ひとりに合った呼吸法や姿勢、日常生活の工夫を指導してくれます。

呼吸リハビリテーションを受けることで、息苦しさが軽減したり、動ける範囲が広がったりすることがあります。

呼吸リハビリテーションを実施しているがん拠点病院も多いため、主治医に「呼吸リハビリを受けたい」と相談してみるのもひとつの方法です。

肺がん治療中や手術後の息苦しさは、多くの患者様が経験する症状です。

息苦しさの原因は、がんそのもの、治療の影響、不安やストレスなど様々ですが、日常生活でできる対処法を知ることで、少しでも楽に過ごすことができます。

前かがみの姿勢や横向きで寝る姿勢、口すぼめ呼吸などは、今すぐ試せる方法です。

また、ご家族のサポートも、患者様の大きな支えになります。

息苦しさは一人で抱え込まず、医療スタッフや家族と一緒に、楽に過ごせる方法を見つけていってください。

症状が強いとき、日常生活に支障があるときは、遠慮せずに医師に相談しましょう。

あなたらしく、少しでも快適に過ごせる日々を、一緒に作っていきましょう。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。