2026.05.22

抗がん剤の手足症候群対策。痛みを和らげ治療を続けるためのセルフケア

足の裏を押さえる女性

抗がん剤治療を進める中で、多くの患者様が直面する皮膚のトラブルに「手足症候群」があります。

これは単なる一時的な肌荒れではありません。進行すると歩行が困難になったり、箸を持つ、ボタンを留めるといった細かな作業ができなくなったりするなど、日常生活の質(QOL)に直結する副作用です。

しかし、手足症候群は適切な予防と早期の適切な対応によって、症状の悪化を抑え、治療を計画通りに継続することが可能です。

このコラムでは、手足症候群が生じるメカニズムから、今日から自宅でできる具体的なスキンケア、そして医療チームと上手に関わるための方法まで、実務的な視点で詳しく解説します。

足首を押さえる女性

手足症候群とは?

手足症候群(Hand-Foot Syndrome: HFS)は、特定の抗がん剤治療に伴って現れる、皮膚の副作用の一種です。

医学的には「掌蹠(しょうせき)感覚低覚醒」や「肢端紅斑(したんこうはん)」とも呼ばれます。

この症状の最大の特徴は、文字通り「手のひら(掌)」と「足の裏(足底)」という、私たちが日常生活で最も頻繁に使用する部位に集中的に障害が生じる点にあります。

具体的な症状としては、初期段階では皮膚のピリピリとした違和感やしびれ、知覚の変化から始まり、進行するにつれて明らかな発赤(赤み)や腫脹(はれ)、そして強い痛みを伴うようになります。

さらに症状が進行すると、皮膚の乾燥が激しくなり、あかぎれや水ぶくれ、あるいは皮膚が剥がれ落ちるびらんが形成されます。

ここまでになると、単なる皮膚のトラブルに留まらなくなってしまいます。

たとえば、「歩くときに地面に足をつくと激痛が走る」「箸を持つ、ボタンを留めるといった指先の動作が困難になる」「熱いものに触れると過敏に痛みを感じる」といった、日常生活の基本的な動作を著しく制限することになります。

手足症候群は、がんそのものによる痛みとは異なり、薬物療法の副作用として現れるものです。

そのため、「治療が効いている証拠だから我慢しなければならない」と考えられがちですが、実際には重症化すると抗がん剤の減量や休薬を余儀なくされる原因となります。

つまり、手足症候群を正しく理解し、適切に管理することは、あなたらしい生活を維持するだけでなく、がん治療そのものを計画通りに完遂するためにも重要なのです。

手足に症状が現れる理由とは

手足症候群が起こる大きな理由は、抗がん剤が体の末端にある細い血管から少しずつ漏れ出し、その周りの皮膚に刺激を与えてしまうためです。

特に手のひらや足の裏は、日常生活の中でよく使う場所で、歩く・物を持つ・水仕事をするなど、常に摩擦や圧力、熱といった刺激を受けています。

そのため、薬の影響が出やすく、症状が強く現れやすいのです。

さらに、手足の皮膚は他の部位より角質層が厚く、いったん薬剤が入り込むと皮膚の中にとどまりやすい特徴があります。

これも、手足に症状が集中しやすい理由のひとつです。

分子標的薬を使った治療では、薬の作用によって血管が新しく作られるのを抑えたり、皮膚細胞の増える力を弱めたりすることがあります。

その結果、皮膚のバリア機能が低下し、炎症や赤み、痛みなどが起こりやすくなります。

このように、手足症候群は「薬の影響」と「手足という部位の特徴」が重なって起こるものです。

手足症候群を起こしやすい薬剤の種類

自身の使用している薬剤が手足症候群を起こしやすいものかどうか、事前に確認しておくことが重要です。

主な種類は以下の通りです。

細胞毒性抗がん剤
カペシタビン(ゼローダ)、5-FU、リポソーマル化ドキソルビシン(ドキシール)など。
これらは主に手のひらや足の裏にびまん性の紅斑(赤み)やしびれ、知覚の異常を引き起こす傾向があります。
分子標的薬(マルチキナーゼ阻害薬)
ソラフェニブ(ネクサバール)、スニチニブ(スーテント)、レゴラフェニブ(スチバーガ)など。
これらは特に圧力がかかる部分に限局した角化や、強い疼痛を伴うのが特徴です。

これらの薬剤を使用する際は、副作用の発現頻度や発症時期の目安について主治医や薬剤師へ事前に問い合わせ、詳細を把握しておくことがおすすめです。

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手が赤くはれている様子

手足症候群の症状は、薬剤の種類や投与量、個人の体質によって現れ方が異なります。

自分自身の皮膚の状態を毎日観察し、小さな変化にいち早く気づくことが、重篤な障害を防ぐ鍵となります。

主な症状の進行の流れ

手足症候群の症状は、治療開始から数日〜数週間で現れることが多いですが、治療を続ける中でゆっくり進行し、数か月後に強く出てくる場合もあります。

一般的には、次のような流れで変化していきます。

・初期の予兆
手のひらや足の裏に、ピリピリした刺激や軽いしびれ、違和感が出始めます。
「なんとなくおかしい」「少しヒリヒリする」といった小さな変化が最初のサインになることが多いです。
・発赤と腫れ
皮膚が赤くなって腫れたり、触ると熱を感じたりします。
歩いたり物を持ったりするだけで刺激が加わるため、症状が強く出やすい時期です。
・皮膚の乾燥と変化
皮膚がカサカサして乾燥し、色素沈着が起こることがあります。
さらに進むと、皮膚が厚くなってひび割れ(あかぎれ)ができ、痛みで日常生活に支障が出ることもあります。
・重症化
水ぶくれやびらんが見られ、強い痛みで歩行や手作業が困難になることがあります。
症状がここまで進むと、治療の調整が必要になる場合もあります。
・爪のトラブル
爪の周りが赤く腫れる「爪囲炎(そういえん)」や、爪の変形・変色が起こることがあります。
爪の異常は細菌が入りやすく、感染につながるリスクが高いため、特に注意が必要です。

医療現場では、症状の程度を「グレード」という数値で判断します。

グレード1(軽度)
皮膚に軽度の赤みや、ピリピリ感などの知覚異常が現れる段階です。
皮膚が少し厚くなることもありますが、痛みはなく、日常生活への影響はほとんどありません。
グレード2(中等度)
はっきりとした赤みや腫れが見られ、水疱や皮膚の剥離が生じることもあります。
痛みがあり、箸を持つ、ボタンを留める、あるいは歩行といった日常の動作に多少の制限が生じます。
グレード3(重度)
激しい赤みや腫れ、大きな水疱、あるいは深い亀裂やびらんが形成されます。
強い疼痛により、身の回りのセルフケアや歩行が極めて困難になり、適切な処置や休薬の検討が不可欠な状態です。

グレード2のサインが見られたら、我慢をせずに医療機関へ報告しましょう。

チューブやジャー、スプレーなどの保湿剤のパッケージが並んでいる様子

手足症候群において最も効果的なのは、症状が出てから対処するのではなく「出る前に予防する」ことです。

皮膚のバリア機能を高めておくことで、発症を遅らせ、重症化を抑えることが可能になります。

保湿剤の使い方

手足症候群を予防するためのスキンケアの基本は、皮膚の水分をしっかり保つことです。

治療が始まる前から、毎日欠かさず全身、とくに手足の保湿を続けることが大切です。

以下のポイントを押さえてケアを行いましょう。

・薬剤の選び方
医師から処方されるヘパリン類似物質や尿素入りクリーム、ワセリンなどを適切に使います。
皮膚が硬くなりやすい部分には尿素系、乾燥が強い部分には保護力の高い軟膏など、部位や症状に合わせて使い分けることがポイントです。
・塗り方
クリームを塗るときは、皮膚をこすらず、そっと置くように広げるのがコツです。
摩擦は皮膚への刺激となり、炎症を悪化させることがあるため、優しいタッチを心がけましょう。
・たっぷり使う
ティッシュが軽く貼りつく程度、または皮膚が少しツヤっとするくらい、十分な量を使います。
回数は最低でも朝と夜の2回。できれば手洗いや入浴のたびに保湿すると、より効果的です。

角質の事前管理とフットケア

特に足の裏のように皮膚が厚く硬くなっている部分は、薬剤がたまりやすく、その影響で炎症やひび割れが起こりやすくなります。

歩くたびに負担がかかる場所でもあるため、症状が強く出ることも少なくありません。

そのため、治療が始まる前の段階で、医療機関のフットケア外来などを利用して、無理のない範囲で角質を整えておくことが勧められます。

専門のスタッフに相談しながらケアを行うことで、皮膚を傷つけずに安全に準備ができます。

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料理をする女性の後ろ姿

手足症候群は、物理的な刺激(摩擦、圧迫、熱)によって症状が悪化します。

日常生活の中で、これらの刺激をどのように排除するか、取り入れやすい対策を紹介します。

手の保護と家事・作業の工夫

手は日常生活の中で最もよく使う部位のひとつで、気づかないうちに強い刺激を受けています。

手足症候群を予防するためには、日々の動作を少し工夫するだけでも負担を減らすことができます。

・水仕事をするとき
熱いお湯は皮膚を乾燥させ、血流を強く促して炎症を悪化させることがあります。
食器洗いや掃除の際は、ぬるま湯か水を使うようにしましょう。
また、洗剤による刺激を避けるために、綿の手袋の上にゴム手袋を重ねる「二重手袋」がとても有効です。
皮膚を守りながら作業ができるため、症状の予防につながります。
・料理をするとき
包丁を握るときの摩擦や圧力は、手のひらに負担をかけます。
持ち手にスポンジを巻いて太くすると握りやすくなり、刺激を減らすことができます。
また、電動の調理器具を取り入れることで、手指を使う時間を減らし、負担を軽くすることができます。
・物を持つとき
重い荷物を持つときは、持ち手が指に食い込まないようにタオルを巻くなどの工夫が役立ちます。
キャリーカートを使えば、手のひらへの圧迫を大幅に減らすことができ、症状の悪化を防ぐ助けになります。

足の保護と歩行・運動の工夫

足の裏は、歩く・立つといった動作のたびに体重がかかるため、常に強い圧迫を受けている部位です。

そのため、手足症候群の症状が出やすく、悪化しやすい場所でもあります。

日常生活の中で少し工夫することで、負担を減らすことができます。

・靴とサイズの選び方
足に余裕があり、締め付けの少ない柔らかい素材の靴を選びましょう。
新品の靴は靴擦れを起こしやすいため、できるだけ履き慣れた靴を使うのがおすすめです。
必要に応じてクッション性の高い中敷きを入れると、歩行時の衝撃を和らげることができます。
・靴下の着用を習慣に
自宅でも素足で歩かず、綿素材の厚手の靴下を履いて足裏を摩擦から守りましょう。
靴下の縫い目が刺激になる場合は、あえて裏返して履くと刺激を減らせます。
・活動量の調整
症状が出やすい時期は、長時間の立ち仕事や長距離の歩行は控えめにし、こまめに休憩をとるようにしましょう。
スポーツや激しい運動は足裏に大きな負担がかかるため、この時期は無理をせず控えることが大切です。

こちらへ向かって話す医師

セルフケアを徹底していても、症状が進行することはあります。

症状を我慢してしまうと治療の継続を妨げてしまう可能性があるため、早期に相談し、指示を仰ぐようにしましょう。

早期相談が重要な理由

手足症候群の症状が出ても、「この程度で相談するのは申し訳ない」と遠慮してしまう方は少なくありません。

しかし、手足症候群は悪化してからでは皮膚の回復に時間がかかり、治療の中断につながることもあります。

早めに医療者へ伝えることで、ステロイド外用薬などの支持療法を開始でき、症状の重症化を防ぎながら治療を続けやすくなります。

・主治医に伝えるポイント
症状を伝えるときは、
「いつから」
「どの部位に」
「どんな変化があるか(赤み、痛み、しびれなど)」
「どのような動作がつらくなったか(歩行、ボタンかけなど)」
といった具体的な情報を伝えると、より適切な対応につながります。
・記録に残しておく
皮膚の状態をスマートフォンで写真に残したり、気づいた変化をメモしておくと、診察時に正確に状況を共有できます。
小さな変化でも記録しておくことで、治療方針の判断に役立つことがあります。

休薬と減量に対する捉え方

症状が進んだ場合、主治医から一時的に薬をお休みしたり、量を減らしたりする提案がされることがあります。

これは治療がうまくいっていないという意味ではありません。副作用をしっかりコントロールしながら、長く治療を続けていくための前向きな調整です。

皮膚の状態が落ち着いてくれば、再びその時の体調に合った形で治療を再開することができます。

治療を続けるうえで、こうした調整は決して珍しいことではありません。

大切なのは、無理をして生活に支障が出てしまう前に、適切なケアや調整を行うことです。

治療と日常生活のバランスを保ちながら、病気と長く向き合っていくための大切な手段として受け止めてください。

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手足症候群は、治療を続けるうえで多くの方が経験し得る副作用ですが、早めの気づきと適切なケアによって、症状の悪化を防ぐことができます。

日常生活の中でできる小さな工夫や、医療者への早期相談は、治療を中断せずに続けるための大切な力になります。

つらさを我慢する必要はありません。気になる変化があれば、遠慮せず主治医や医療スタッフに伝えてください。

治療と生活のバランスを保ちながら、ご自身のペースで安心して治療に向き合えるよう、周囲のサポートを積極的に活用していきましょう。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。