抗がん剤のつらい吐き気を和らげる食事と薬の知識
「治療を頑張りたい気持ちはあるのに、吐き気で食べられない」「匂いを嗅ぐだけで気分が悪くなる」「体力をつけたいのに、何を食べたらいいかわからない」――。
抗がん剤治療を受けていると、吐き気のつらさは多くの患者さんが経験する悩みです。
せっかく治療を続けているのに、食事が取れない、眠れない、思うように過ごせない。そんな不安やストレスは、あなただけのものではありません。
このコラムでは自宅でできる吐き気対策や、少しでも食べやすくなる食事の工夫、簡単レシピを紹介します。
「何をどう試せばいいか」「今すぐできることは何か」をわかりやすくまとめました。今日から吐き気を少しでもラクにするヒントを、一緒に探していきましょう。
吐き気の副作用はなぜ起こる?

抗がん剤が体内に入ると、脳の中にある「化学受容器引き金帯(CTZ)」という部分がそれを感知します。
ここから「嘔吐中枢」に指令が飛び、吐き気が誘発されます。
また、消化管(胃や腸)の粘膜が刺激されると、そこから放出されたセロトニンなどの物質が迷走神経を伝わって脳に信号を送ることも分かっています。
吐き気は、現れる時期によって大きく3つに分類されます。
これを知っておくと、いつ、どのような薬を使うべきかの指標になります。
- 急性悪心・嘔吐
- 抗がん剤の投与開始から24時間以内に現れるもの。
- 遅延性悪心・嘔吐
投与から24時間後以降、数日間にわたって続くもの。 - 予期性悪心・嘔吐
以前のつらい経験から、「病院に行くだけで」「薬の匂いを嗅ぐだけで」吐き気を感じてしまうもの。
(心理的な要因が強いのが特徴です)
また、治療の内容や体質、心理的な不安などによっても吐き気の出方は人それぞれです。
そのため「みんな我慢しているから」と比べる必要はありません。
吐き気を少しでも減らす工夫を、自分のペースで探していくことが大切です。
今すぐできる!自宅での吐き気対策

吐き気があるときは、心身ともに消耗し、何をするにも億劫になってしまうものです。
医療機関でのケアはもちろん大切ですが、身の回りの環境をほんの少し整えるだけで、そのつらさが和らぐこともあります。
ここでは、ご自宅でリラックスして過ごすために、今すぐ取り入れられる小さな工夫をご紹介します。
・部屋の空気と匂いを見直す
強い匂いは吐き気を悪化させます。調理中は換気扇を強めに回し、できるだけ部屋の空気を入れ替えましょう。
また、普段は好きな香りであっても、治療中は花や香料の匂いが不快に感じられることがあります。
そのため、香水を控えたり、無香料の洗剤を使用したりすることがおすすめです。
・締め付けない服を着る
ウエストや首まわりを締め付けるような服・ベルト・下着は、胃の圧迫感を強めます。
呼吸がしやすい、ゆったりした部屋着でリラックスしましょう。
・体勢を変えてみる
横になるときは右を下にして寝ると、胃の内容物が逆流しにくくなります。
背中を少し起こした姿勢で休むのもおすすめです。
・口の中をさっぱりさせる
歯磨きやうがいで口の中を清潔に保ちましょう。
ミントやレモン味のガムやキャンディを少しなめるだけでも、気分転換になります。
吐き気を和らげる食事のヒント
ここでは、吐き気が表れているときの食事のヒントと、比較的食べやすいレシピを案内します。
食事の対策
・食べるタイミングを工夫する
「時間だから食べなきゃ」と無理をせず、食べられそうな時に少量ずつ取りましょう。
空腹すぎても吐き気が出やすいので、少しずつ何回かに分けて食べるのがコツです。
・食材選びと調理法のポイント
温かい食事より、匂いの少ない冷たい食事の方が食べやすい傾向があります。
冷たい麺類、冷製スープ、冷ややっこなどが向いています。
●吐き気が強いときにおすすめの食材
・喉越しが良いもの
ゼリー、アイスクリーム、シャーベット、プリン、豆腐など。
・さっぱりしたもの
そうめん、冷やし茶漬け、果物(スイカ、リンゴなど)。
・乾いたもの
クラッカーやトーストなど(喉を通りやすく、適度に胃酸を吸着・中和するため、朝起きたときのムカムカを抑えるのに役立つことがあります)
油っぽいもの、甘いお菓子、香辛料が強い料理は避けましょう。
代わりに、消化がよくて匂いの少ないおかゆや蒸し野菜がおすすめです。
・味付けのコツ
味は濃すぎないようにしましょう。
塩やしょうゆよりも、酢やレモン汁で酸味を加えたり、梅干しやしょうがを添えたりすると、口の中がさっぱりして不快感が和らぎ、食欲が戻ることがあります。
・飲み物の工夫
吐き気が続くと脱水になりやすくなります。
経口補水液やスポーツドリンクを冷やして、少しずつ飲みましょう。炭酸水を少しずつ飲むのも気分転換になります。
水を飲むのもつらいときは、氷を舐めるだけでも水分補給になります。
簡単にできる!吐き気対策レシピ
◆あっさりマッシュポテト

材料(1人分)
- じゃがいも:1個(150g程度)
- 水:適量
- 塩:ひとつまみ
作り方
1. じゃがいもを薄切りにして、柔らかくなるまで茹でる
2. 湯を切ってフォークでつぶす
3. 塩をほんの少し加えて味を整える
→ バターを使わないので匂いが控えめ。胃にもやさしいです。
◆とろろご飯

材料(1人分)
- ご飯:100g
- 長いも:50g
- 醤油:数滴(香りが気になる場合は入れなくてもOK)
作り方
1. 長いもをすりおろす
2. ご飯にかける
3. 醤油をほんの少し垂らす
→ つるっと食べられるので、固形物がつらい時にも向いています。
◆バナナヨーグルト

材料(1人分)
- バナナ:1/2〜1本(食べられそうな量でOK)
- プレーンヨーグルト:100g
- はちみつ:小さじ1(お好みで。なくても大丈夫)
作り方
1. バナナを薄く切る
2. ヨーグルトをかける
3. 甘みがほしい場合、はちみつを少量加える
→ においが強くなく、冷たくて口当たりがやさしいので、吐き気があるときにも比較的食べやすい一品です。
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つらいときは我慢しないで医師に相談を

「薬を飲んでも効かない」「毎回つらくて食べられない」と感じたら、医師や看護師に遠慮なく伝えましょう。
吐き気を抑える薬(制吐薬)は、種類を組み合わせたり飲み方を変えたりすることで効果が高まることがあります。
「いつ」「どんなとき」に吐き気が出るかをメモしておくと、医師に伝えやすくなります。
よく使われる制吐薬の種類
・セロトニン受容体拮抗薬(5-HT3拮抗薬)
→ 抗がん剤投与後すぐの吐き気に効果的です。消化管からの信号をブロックします。
・NK1受容体拮抗薬
→ 長く続く吐き気に効きやすい薬です。脳の嘔吐中枢への指令を直接抑え込みます。
・ステロイド(デキサメタゾンなど)
→ 短期間の使用で吐き気を抑えます。
・ドパミン受容体拮抗薬
→ 胃の動きを整えます。
・抗不安薬
→ 精神的な緊張による「予期性吐き気」に効果的です。
医師に伝えたいポイント
・吐き気が始まったタイミング(治療直後か、数日後か)
・1日のうち吐き気があった回数と、実際に吐いた回数
・食事と水分がどの程度摂れているか
・処方された吐き気止めが効いている時間、効かない時間
・副作用の有無(便秘、眠気など)
こうした情報を伝えることで、より自分に合った薬を選んでもらえます。
家族が協力できること

患者さんのそばにいるご家族も、何ができるか悩まれることでしょう。
・無理に食事を勧めない
「栄養があるから食べて」という励ましが、吐き気のある患者さんにはプレッシャーになることもあります。
「食べられそうなものがあったら教えてね」という、一歩引いた見守りが安心感につながります。
・口腔ケアを助ける
吐いた後は口の中が酸性になり、不快感が残ります。
こまめなうがいや、刺激の少ない歯磨きを促してあげてください。
・清潔な環境づくり
枕元のゴミ箱をこまめに空にする、部屋の空気を入れ替えるといった環境整備も大事です。
心のケアも副作用対策のひとつ

抗がん剤の吐き気には、気持ちの影響が大きいことがあります。
前回のつらい経験を思い出すと、「また来るかも」と不安になり、吐き気を感じることがあります。
心を落ち着けるための行動
・音楽を聴く
・好きな香りをティッシュに少しつけて深呼吸
・軽いストレッチや瞑想
・信頼できる人に気持ちを話す
気持ちを吐き出すことも立派なケアのひとつです。
おわりに
抗がん剤の吐き気は、心身ともに負担が大きい副作用です。しかし、小さな工夫とサポートを積み重ねることで、「今日はなんとか乗り切れた」という日が増えていきます。
無理をせず自分のペースで、周りに頼りながら「大丈夫」を少しずつ増やしていきましょう。
このコラムが、あなたの不安を少しでも軽くし、治療に向き合う毎日の支えになれたら幸いです。
