2026.03.17

がん治療の前に歯科受診が必要な理由とは。感染症や副作用を防ぐ備えを!

口腔ケア 歯ブラシやフロス、歯の模型、聴診器が並んでいる

がんの診断を受け、手術や抗がん剤治療、放射線治療などの具体的なスケジュールが決まり始めたとき、主治医から「治療を始める前に歯科を受診してください」と言われることがあります。

がんという大きな病気と向き合っている最中に、なぜ今、歯科治療が必要なのかと驚かれる患者様も少なくありません。

実は、お口の中の健康状態は、がん治療の「安全性」と「完遂率」に直結しています。

お口の中を清潔に整えておくことは、治療に伴う重い感染症を防ぎ、副作用による苦痛を和らげ、予定通りに治療を進めるための極めて重要な準備なのです。

今回は、がん治療と歯科受診の密接な関係について、客観的な視点から詳しく解説します。

歯ブラシが並んでいる様子

治療を止めないための準備

がんの標準的な治療である手術や抗がん剤治療、放射線治療が始まると、身体の免疫機能が一時的に低下したり、粘膜が傷つきやすくなったりします。

この時期にお口の中に虫歯や歯周病、あるいは適合の悪い入れ歯などのトラブルがあると、それが原因で強い痛みや腫れが生じることがあります。

がん治療の途中で激しい歯痛や歯ぐきの腫れが起きると、まずはその歯科的な処置を優先しなければならず、がんの治療スケジュールを中断したり、延期したりせざるを得ないケースが出てきます。

特に化学療法(抗がん剤治療)の場合、白血球が減少している時期には抜歯などの外科的な処置が行えないため、痛みがあっても「何もできない」という非常に苦しい状況に陥るリスクがあります。

治療前に歯科を受診し、問題のある箇所をあらかじめ処置しておくことは、がん治療という「完走」を目指すためのコース整備なのです。

感染症を未然に防ぐ

お口の中には数百種類もの細菌が存在しています。健康な状態であれば問題になりませんが、がん治療によって全身の抵抗力が落ちると、これらのお口の中の細菌が牙を剥きます。

特に注意が必要なのが、手術後の「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」です。

手術で全身麻酔を受けた際や、術後の体力が低下している時に、お口の中の細菌が唾液と共に誤って肺に入り込むことで肺炎を引き起こします。

これは術後の合併症として非常に警戒すべきものであり、最悪の場合は命に関わることもあります。

また、抗がん剤治療によって免疫が極端に低下すると、歯周病菌などが血液中に入り込み、全身を巡って「敗血症(はいけつしょう)」という重篤な感染症を引き起こす可能性も否定できません。

お口の中の細菌数を減らし、清潔な状態(口腔ケアが徹底された状態)を保つことは、がんそのものの治療を安全に行うためのバックアップ体制を築くことに他なりません。

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口元を押さえる女性

抗がん剤による口内炎

多くの抗がん剤は、分裂が盛んな細胞を攻撃する性質があります。

お口の粘膜も細胞の入れ替わりが速いため影響を受けやすく、副作用として口内炎が高い頻度で現れます。

抗がん剤による口内炎は一般的なものより範囲が広く、深い潰瘍になることがあり、強い痛みを伴うこともあります。

さらに、お口の中に歯石が残っていたり、尖った虫歯や欠けた歯があると、そこが粘膜を刺激して口内炎を悪化させ、細菌感染のきっかけになることがあります。

治療前に歯石を取り除き、鋭利な部分を滑らかにしておくだけでも、口内炎の重症化を抑え、食事がとれなくなるほどの痛みを軽減できる可能性があります。

こうした準備は、がん治療を少しでも快適に進めるための大切なサポートになります。

放射線治療による影響

顔や首(頭頸部)への放射線治療を行う場合、唾液を作る「唾液腺(だえきせん)」に照射範囲が含まれることがあります。

その結果、唾液の分泌が極端に減少し、お口の中が常に乾く「口腔乾燥」という症状が生じます。

唾液にはお口の中を洗浄し、中和し、再石灰化を促すという重要な保護機能があります。

唾液が失われると、自浄作用が働かなくなり、虫歯(放射線性う蝕)が急速に進行しやすくなります。

また、粘膜が乾燥することで傷つきやすくなり、会話や食事が困難になることもあります。

放射線治療の前から歯科医師による管理を受け、適切な保湿剤の使用や高濃度のフッ素塗布を行うことで、治療中および治療後の深刻なトラブルを予防することが可能になります。

骨を守る薬の副作用

乳がんや前立腺がん、多発性骨髄腫などの治療では、骨転移の予防や治療のために骨を強く保つ目的で「骨修飾薬」が使われることがあります。

これらの薬(ゾメタやランマークなど)を使用している最中に、不衛生なお口の状態で抜歯などの外科的処置を行うと、稀にあごの骨が露出してしまう「顎骨壊死」という副作用が報告されています。

この副作用は一度起こると治りにくく、日常生活にも大きな影響を及ぼすことがあります。

そのため、薬剤を使い始める前に歯科を受診し、抜歯が必要な歯をあらかじめ処置しておくことが重要とされています。

治療前にお口の環境を整えておくことで、顎骨壊死のリスクを減らし、安心してがん治療を進めやすくなります。

こうした準備は、治療の安全性を高めるための大切なステップです。

粘土でできた歯ブラシと歯のキャラクター

正しい歯磨きで口腔ケアを

がん治療が始まると、粘膜が非常にデリケートになります。

普段通りの強いブラッシングでは、かえって粘膜を傷つけてしまうことがあるため、時と場合に合わせた工夫が必要です。

・歯ブラシの選び方
毛先の柔らかいタイプを選び、力を入れすぎずに優しく磨きます。
口内炎があると大きいブラシは当たりやすく、痛みにつながります。
小さめのヘッドは細かい部分も磨きやすく、刺激を減らせます。
・刺激を避ける
アルコール成分の強い洗口液や、研磨剤の多い歯磨き粉は、口内炎がある時には強い刺激となります。
使用を控えるか低刺激のものに切り替えます。
・こまめな「うがい」を
お口の中を常に湿らせておくことが大切です。
生理食塩水や重曹水を用いたうがいは、お口の中の酸性を中和し、粘膜の痛みを和らげる効果があります。

セルフケアだけでは取り除けない汚れは、歯科医院でのクリーニング(口腔ケア)によって除去してもらいましょう。

歯医者に情報共有を

がんの治療を受ける病院と、かかりつけの歯科医院が異なる場合でも、「医科歯科連携(いかしかれんけい)」という仕組みによって情報の共有が行われます。

患者様ご自身でできる最も重要なことは、歯科を受診する際に「がんの診断を受けたこと」「いつからどのような治療(手術、抗がん剤、放射線など)が始まるか」を明確に伝えることです。

可能であれば、病院から発行された治療計画書や「お薬手帳」を持参してください。

歯科医師は、主治医と連絡を取り合い、抜歯のタイミングや、使用を避けるべき薬剤などを調整し、がん治療に最適な歯科診療プログラムを組み立てます。

この連携こそが、がん患者様を守るためのセーフティネットとなります。

食事の前に手を合わせる女性

治療後の体力を支える「食べる力」

がんの治療が一段落した後、体力を回復し、健康な生活を取り戻すために欠かせないのが「適切な栄養摂取」です。

治療中は食欲の低下や味覚の変化が起こりやすく、栄養が不足しがちになるため、治療後の食事は身体づくりの大切な土台になります。

しっかりと噛んで食べることは、栄養の吸収を助けるだけでなく、脳への刺激や唾液の分泌を促し、全身の健康維持にもつながります。

唾液には消化を助ける働きのほか、口の中を守る成分も含まれているため、免疫力の維持にも役立つとされています。

治療によって歯を失ったり、噛み合わせが変わったりした場合は、体力が戻ってきた段階で入れ歯やインプラントなどの処置を検討し、再びしっかり噛める状態に整えることが大切です。

食べる力を取り戻すことは、再発予防や長期的な生活の質(QOL)を支える、何より重要な基盤になります。

再発予防とQOLを維持する通院

がん治療の終了後も、お口のケアを継続することは非常に重要です。

特に頭頸部放射線治療を受けた方や、特定の薬剤を長期に使用している方は、治療が終わって数年経ってからでも、あごの骨のトラブルや急激な虫歯の悪化が起こる可能性が残るとされています。

治療後は体調が落ち着いても、口腔内は治療の影響を受けやすい状態が続くため、注意深いケアが欠かせません。

定期的な歯科検診を受けることで、口腔内の細菌数を低く保ち、粘膜や歯ぐきの状態を継続的に確認できます。また、検診によって小さな変化を早期に見つけることで、将来的なトラブルを防ぎやすくなります。

歯科医師や歯科衛生士は、お口の健康だけでなく、摂食・嚥下(飲み込み)のリハビリテーションや生活習慣の工夫など、日常生活を支える幅広いサポートを提供する存在です。

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これまで、がん治療と歯科受診を切り離して考えていた方も多いかもしれません。

しかし、お口の健康管理は、手術や抗がん剤治療と同じく「治療プロセスの一部」として捉えるべき重要な取り組みです。

日本全国の医療機関では「周術期口腔機能管理(しゅうじゅつきこうくうきのうかんり)」という名称で、がん患者様の歯科診療を公的医療保険の枠組みの中で手厚くサポートする体制が整っています。

臨床研究においても、適切な口腔ケアを行った患者様は、行っていない患者様と比較して、術後肺炎の発症率が低下し、入院期間が短縮されるといった有益な報告が数多くなされています。

主治医から歯科受診を勧められたら、それは「がんをより安全に、確実に治すための準備が始まった」とポジティブに捉えてください。

かかりつけの歯科医や、病院内の歯科口腔外科の医師、そして看護師や歯科衛生士と密に連携し、お口という全身への入り口を万全の状態に整えること。それが、がんという難敵に立ち向かうための、最初にして最強の防衛策となります。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。