2026.04.23

がん悪液質に向き合う。体重減少の仕組みと日常生活でできる工夫

頭を抱えるポーズのデッサン人形

がんの治療を続けていくなかで、食事は摂れているはずなのに体重が減ってしまったり、以前に比べて疲れやすくなったりすることに戸惑いを感じる方は少なくありません。

こうした身体の変化は、単なる栄養不足や食欲不振だけではなく、がん悪液質という病態が関係している可能性があります。

これまで、がんによる体重の減少や体力の低下は、病気が進行すれば避けられないものとして諦められがちでした。

しかし現在では、その仕組みが詳しく解明され、早期から適切なケアや新しい治療薬の利用によって、日常生活の質を維持し、治療を継続できる可能性が高まっています。

このコラムでは、がん悪液質の基礎知識から、最新の薬物療法、そして日々の生活でできる工夫まで、多角的な視点で解説します。

体重計とメジャー

がん悪液質とは、英語でcachexia(カケキシア)と呼ばれる症候群です。

これは、がんそのものが原因となって全身の代謝に異常が生じ、筋肉や脂肪が著しく減少してしまう状態を指します。

がん悪液質とは?

通常の栄養不足であれば、しっかりエネルギーを摂れば体重は少しずつ戻っていきます。

ところが、がん悪液質では事情がまったく異なります。

体の中で強い炎症反応が続くことで代謝のバランスが崩れ、食べても栄養がうまく利用されません。

そのため、単に食事量を増やすだけでは体重や筋肉量を回復させることが難しくなります。

この状態は「食欲がない」「食べられない」といった単純な問題ではなく、身体を構成する筋肉や脂肪が過剰に分解され続けるという代謝の異常が背景にあります。

さらに、がん悪液質は体力の低下や治療の継続にも影響し、生活の質を大きく損なうことがあります。

早い段階から悪液質の対策が重要とされるのは、このように身体全体に広く影響が及ぶためです。

なぜ体重が減少するのか

がん細胞が体内で増えると、身体はそれに対抗しようとして「サイトカイン」と呼ばれる炎症物質を放出します。

本来は免疫反応の一部ですが、がんが進行するとこのサイトカインが過剰に分泌され、全身に炎症が広がってしまいます。

すると、脳の食欲を調整する働きが乱れ、食べたいという気持ちが起こりにくくなったり、筋肉を作る力が弱まったりします。

さらに、がん細胞そのものが大量のエネルギーを消費するため、身体は不足分を補おうとして自分自身の筋肉や脂肪を分解してエネルギー源に変えてしまいます。

これが続くと、食事量に関係なく体重が落ち、筋肉量も急激に減っていきます。

こうした炎症反応と代謝異常が重なり合うことで、がん悪液質は進行します。

単なる「痩せてしまう」「食べられない」という問題ではなく、身体の仕組みそのものが変化してしまうため、強い倦怠感や体力低下につながり、日常生活にも大きな影響を及ぼしてしまうのです。

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悪液質は、気づかないうちに静かに進行することが多い病態です。

そのため、自分自身の身体の小さな変化を早めに確認し、主治医へ相談することが非常に大切です。

がん悪液質の診断基準とは

がん悪液質の診断では、まず体重の変化が大きな手がかりになります。

一般的には、過去6ヶ月のあいだに体重が5%以上減っている場合、悪液質の可能性が高いと判断されます。

たとえば体重60kgの方なら、3kgの減少がひとつの目安になります。

食事量が大きく減っていないのに体重が落ちている場合は、特に注意が必要です。

さらに、BMIが20未満で体重が2%以上減っていることや、明らかな筋力の衰えが見られかつ体重が2%減っている場合も診断の重要なポイントになります。

筋肉量の減少は見た目だけでは分かりにくいため、最近ではCT画像を使って筋肉量を評価する方法も広く用いられています。

これらの基準は日本だけでなく、国際的にも共通して採用されている臨床指標です。

体重や筋力の変化は日常生活の中で気づきやすい点でもあるため、早期に異変を察知するためにも重要です。

がん悪液質の症状とは

がん悪液質でよくみられる症状のひとつが、慢性的な疲れやすさ、いわゆる倦怠感です。

しっかり休んでも回復しにくく、日常のちょっとした動作でも息が上がりやすくなってしまいます。

また、食欲が落ちることで食事量が減ってしまい、栄養が十分でなくなりさらに体力が奪われていくという悪循環に陥りやすくなります。

筋肉量が減ると、身体の動きそのものが弱くなり、階段の上り下りや椅子から立ち上がるといった基本的な動作が負担に感じられるようになります。

こうした変化は、生活の質(QOL)を大きく下げるだけでなく、抗がん剤治療の副作用が出やすくなったり、治療の継続が難しくなったりする原因にもなります。

そのため、「最近服がゆるくなった」「歩くスピードが落ちた」「以前より疲れやすい」といった小さな変化も、悪液質のサインとして見逃せません。

体重や筋力の低下はゆっくりと進むことが多いため、早めに気づいて対策につなげることがとても大切です。

食事の前に手を合わせる女性

がん悪液質は一様ではなく、病状の進展に応じていくつかの段階に分けられます。

それぞれの段階に応じた適切なアプローチを知ることで、無理のない対策を立てることができます。

前悪液質

本格的な体重減少が始まる前の、いわば「サイン」が出始めた段階を「前悪液質(ぜんあくえきしつ)」と呼びます。

この時期には、食欲が落ちてきたり、体の代謝が少し乱れたりといった変化が現れますが、まだ筋力や日常生活の機能はある程度保たれています。

見た目の変化も小さく、本人も周囲も気づきにくいことが少なくありません。

しかし、この段階こそが対策のチャンスです。

栄養のとり方を見直したり、無理のない範囲で体を動かしたりといった早期からの対策は、悪液質の進行を抑えるうえで非常に効果的だと考えられています。

「最近、お茶碗一杯が食べきれなくなった」「半年で体重が1〜2kg減った」といった、小さな変化を見逃さないようにしましょう。

こうしたサインを感じたら、遠慮せずに主治医や看護師、管理栄養士に相談することが大事です。

早めの対応が、その後の治療を力強く支える大きな土台になります。

悪液質・不応性悪液質

前悪液質の段階を過ぎ、体重や筋肉量の低下がより明確になってくると「悪液質」と呼ばれる状態に進みます。

さらにがんが進行し、体力が著しく低下して、点滴や食事による栄養補充の効果が十分に得られなくなってきた段階を「不応性(ふおうせい)悪液質」と呼びます。

この段階では、栄養をとっても体重が戻りにくく、身体のエネルギー消費が大きく乱れているのが特徴です。

こうした状態にある患者さんやご家族にとって何より大切なのは、食べることや体重を増やすことだけを目標にしないことです。

無理に食べることを自分に強いたり、ご家族が無理に勧めたりすることは、時にご本人の心身に大きな負担となってしまいます。

この段階では、食べたいものを一口楽しむことや、だるさや疲れを和らげて少しでも楽に過ごすといったような、穏やかな生活を守るためのケア(緩和ケア)へと視点を切り替えていくことが重要です。

治療の目的や優先したいことは、患者さんごとに異なります。

医療チームと相談しながら、「今の患者さんにとって何が一番大切か」を一緒に考え、その人に合ったサポートやケアの方法を選んでいくことが大切です。

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公園でストレッチする女性

医療機関での治療だけでなく、日常生活においても、がん悪液質の進行を穏やかにし、体力維持のために取り組めることがあります。

体力を維持するために

食事の面で大切なのは、高エネルギーかつ高タンパクな摂取を心がけることです。

しかし、食欲不振のときには、無理にたくさんの量を食べることは大きなプレッシャーになります。

食べなければならないという思いがストレスとなり、さらに食欲が減ってしまうこともあるため、1回の量を少なくして回数を増やす、あるいは栄養補助食品を利用するといった工夫が効果的です。

また、炎症を抑える効果が期待されるオメガ3脂肪酸を積極的に取り入れることも、病態の改善に寄与する可能性があります。

無理のない運動も効果的

「疲れているときに運動をしても大丈夫だろうか」と思われるかもしれませんが、適度な運動は筋肉の合成を促し、食欲を増進させる効果があります。

特にストレッチや軽いウォーキングは、全身の血流を良くし、倦怠感を軽減させるためにも有効です。

ただし、過度な運動は逆効果になることもあるため、その日の体調に合わせて少し気持ちが良いと感じる程度に留めることが大切です。

リハビリテーションの専門スタッフと連携し、個別のプログラムを考えてもらうのも良い方法です。

患者と談笑する医師

がん悪液質の治療は、ここ数年で大きな変化を遂げています。

これまでは特定の治療薬が少ない状況でしたが、2021年に日本で新しい薬剤が承認されたことで、治療の選択肢が大きく広がりました。

新しい治療薬・アナモレリンの登場

2021年に承認されたアナモレリン(商品名:エドルミズ)は、日本で初めて「がん悪液質」に対して使用できる薬剤です。

体内で食欲を高める働きを持つホルモン「グレリン」に似た作用を持ち、脳に働きかけて自然な食欲を呼び起こします。

また、成長ホルモンの分泌を助けることで筋肉の合成をサポートし、悪液質によって削られてしまう体重や筋肉量の維持・増加に役立つことが期待されています。

これまでのステロイド剤のように一時的に食欲を刺激するだけでなく、筋肉という「体の土台」を守るアプローチができる点が大きな特徴です。

対象となるのは、切除不能な非小細胞肺がん、胃がん、膵がん、大腸がんの患者さんで、悪液質と診断された場合に処方が検討されます。

ただし、アナモレリンは悪液質の根本原因である炎症や代謝異常そのものを治す薬ではありません。

筋肉量の維持や体重の改善が期待される一方で、筋力そのものの回復には限界があるとされています。

それでも、食欲の改善や体力の維持に貢献し日常生活の質を支えるための、重要な選択肢のひとつとなっています。

治療が目指す方向性とは

がん悪液質に対しては、薬だけに頼るのではなく、栄養、運動、心理的サポートを組み合わせた、多方面の専門家が一丸となって支えるチーム医療が大切です。

薬物療法で食欲を底上げし、適切な栄養をとり、軽い運動でその栄養を筋肉へと変えていく。

この一連の流れを作り上げることが、悪液質の進行を抑えるうえで大きな力になります。

実際の医療現場では、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士など、さまざまな専門職が連携しながら患者さんをサポートしています。

食事の工夫や運動の取り入れ方、気持ちの負担を軽くする方法など、それぞれの専門性を生かして支援する体制が広がりつつあります。

医療機関によっては、悪液質に関する資料を用意していたり、専用の相談窓口を設けているところもあります。

気になることがある場合は、遠慮せずに問い合わせてみることで、より自分に合ったサポートを受けやすくなります。

リビングで談笑する三世代家族

がん悪液質は身体だけでなく、心にも大きな影響を及ぼします。

特に食べられない自分や痩せていく姿に不安を感じる患者様、そして何とかして食べさせたいと願うご家族の間で、葛藤が生じることがあります。

体調の変化による影響

体重が減り、体力が低下することで、これまでは当たり前にできていた家事や外出が難しくなることがあります。

日常生活の機能が制限されることは、誰にとっても辛い経験です。

しかし、こうした変化は患者様個人の責任ではありません。がんという病気が引き起こしている異常な代謝反応の結果なのです。

現状を主治医と共有し、状況に応じた適切なアプローチを受けることで、身体の疲れが和らぎ、家族との時間をより大切に過ごせるようになる可能性があります。

納得できる治療を

治療の目的は、単に数値を改善することだけではありません。

患者様やご家族が望む生活、例えば孫と一緒に食事を楽しみたい、短い距離でも自分の足で歩きたいといったQOLの維持・向上こそが、治療の真のゴールです。

そのため、薬物療法の効果が十分に期待できる段階なのか、あるいは緩和ケアを主軸にして身体を休める時期なのかを、主治医、および医療チームとじっくり話し合うことが大切です。

過去の情報に囚われず、最新の知見に基づいた選択肢を確認することで、納得のいく療養生活を続けることができます。

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がん悪液質は、早期の介入によってその進行を抑制したり、症状を改善したりすることが可能な病態へと変わりつつあります。

体重の減少や筋力の低下を仕方のないことと諦める前に、まずは今の自分の身体で起きていることを知り、変化を伝える勇気を持ってください。

がんと共に生きるなかで、少しでも美味しく食べられ、少しでも元気に動ける時間を増進させていくこと。それが、患者様自身の人生の質を守り、より良い明日へと続く道になります。

このコラムの内容が、患者様や大切なご家族の支えとなり、これからの取り組みに役立つ一助となれば幸いです。

もし気になる症状があれば、次の受診を待たずに医療機関へ相談してみてください。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。