2025.11.06

がん治療費の負担を軽減! 医療費控除の活用法

医療費控除

がんの治療と向き合う日々の中で、お身体のことだけでなく、治療費などのお金のことで漠然とした不安を感じていらっしゃる方は少なくないのではないでしょうか。

「これから費用はどれくらいかかるのだろうか…」 「治療が長引けば、家計に大きな負担をかけてしまうのではないか…」

もし、そんなふうに、おひとりで思いを抱え込んでいらっしゃるのなら、どうか安心してください。公的な制度の中には、がん患者様やそのご家族の経済的な負担を軽減するための、心強い味方がいくつも存在します。

今回はその中の一つ、「医療費控除(いりょうひこうじょ)」について、一緒に学んでいきましょう。言葉は聞いたことがあるけれど、何だか難しそう…と敬遠していた方もご安心ください。このコラムを読み終える頃には、きっと「自分にも関係があるかも」「やってみようかな」と、次の一歩を踏み出すきっかけが見つかるはずです。

医療費控除って?

「難しそう」と思っていませんか?まずは基本を学んでみましょう

まずは、「医療費控除」がどのような制度なのか、基本的なところから見ていきましょう。

支払った医療費の一部が戻ってくる制度です

医療費控除とは、簡単に言うと、1年間(その年の1月1日から12月31日まで)に支払った医療費が一定の金額を超えたときに、確定申告をすることで、納めた税金(所得税)の一部が戻ってくる(還付される)制度のことです。

「確定申告」と聞くと身構えてしまうかもしれませんが、これは、年間の所得(収入から必要経費を引いたもの)や、支払った税金の額を税務署に報告する手続きのことです。医療費控除はその手続きを通じて、払いすぎた税金を取り戻すことができます。

原則として、年間に支払った医療費の合計が「10万円」を超えた場合に、この制度を利用することができます。(※年間の所得が200万円未満の方は、医療費が所得の5%を超えた場合に適用されます)

家族の分も合算できます

この制度の大きなポイントは、申告をする本人の分だけでなく、「生計を一つにする配偶者やその他の親族」のために支払った医療費も合算して申告できるという点です。

例えば、ご自身の治療費に加え、配偶者の方が通院した費用や、離れて暮らすお子さんの入院費を支払った場合なども、すべてまとめて計算することが可能です。家族みんなの医療費を合わせれば、控除の対象となる10万円のハードルをクリアしやすくなるかもしれません。

「高額療養費制度」との違いは?

よく似た言葉に「高額療養費制度」がありますが、これは医療費控除とは別の、また別の心強い制度です。

  • 高額療養費制度:ひと月(月の初めから終わりまで)の医療費の自己負担額が、年齢や所得に応じた上限額を超えた場合に、その超えた額が後から戻ってくる制度です。
  • 医療費控除:1年間の医療費の合計を元に、確定申告をすることで税金の負担を軽減する制度です。

簡単に言うと、高額療養費制度は「ひと月単位の大きな出費を抑える」もので、医療費控除は「一年間の医療費の合計から税金を取り戻す」もの。どちらも大切な制度ですので、違いを理解しておくと安心です。

医療費控除の対象は?

では、具体的にどのような費用が医療費控除の対象になるのでしょうか。がんの治療に関連するものを中心に、いくつか例を見ていきましょう。

【対象になるもの◎】

  • 医師や歯科医師による診療費、治療費、手術代、入院費
  • 医師の処方せんを元に薬局で購入した医薬品の代金
  • 通院に必要な交通費(電車やバスなどの公共交通機関)
    ※ご自身の運転によるガソリン代や駐車場代は対象外です。
    ※タクシー代は、公共交通機関が利用できない場合(急な体調不良や、歩行困難で常にタクシーを利用せざるを得ない場合など)に認められることがあります。
  • 医師の指示による訪問看護やリハビリテーションなどのサービス費用
  • 治療目的の施術料(あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師によるもの)
  • 入院中の食事代(自己負担分)
  • セカンドオピニオンの費用(交通費も含めて対象になります)
  • 人工肛門や人工膀胱(ストーマ)の装具費用

【対象になるか確認・相談が必要なもの△】

  • ドラッグストアなどで購入した市販薬(風邪薬など、治療の目的で購入した場合)
  • 介護保険制度を利用した介護サービス(医療費控除の対象となるサービスがあります)
  • 国内未承認の治療や保険外診療(医師が治療行為として必要と判断した場合は対象となることがあります)

【対象にならないもの×】

  • ウィッグ(かつら)や、治療中の肌に優しい下着などの購入費
  • 健康増進や病気の予防のために使用するサプリメントや健康食品
  • 人間ドックや健康診断の費用
    ※ただし、健康診断の結果、がんなどの重大な病気が発見され、引き続きその治療を行った場合には、その健康診断も医療費控除の対象に含めることができます。
  • ご家族や親族に世話をしてもらったことに対する謝礼
  • 本人の希望による差額ベッド代

!注意点:保険金を受け取ったとき

生命保険や医療保険から、入院給付金や手術給付金などの保険金が支給された場合は、支払った医療費の合計金額から、その給付された保険金の額を差し引く必要がありますのでご注意ください。ただし、がん診断給付金のように、治療費の補てんを目的としない保険金は差し引く必要はありません。

3ステップ

「自分も対象になるかもしれない」そう感じた方は、ぜひ手続きに挑戦してみてください。「申告」と聞くと難しく感じてしまうかもしれませんが、やることはとてもシンプルです。

ステップ1:領収書やメモを集めて保管する

まずは、病院や薬局から受け取る領収書を大切に保管する習慣をつけましょう。1年分をまとめて一つの箱やファイルに入れておくと便利です。

通院で電車やバスを利用した際の交通費は領収書が出ないことが多いため、日付、利用した交通機関、区間、運賃などをノートやスマートフォンのメモ機能などに記録しておきましょう。

ステップ2:「医療費控除の明細書」を作成する

確定申告の際には、集めた領収書を一枚一枚提出する必要はありません。その代わりに「医療費控除の明細書」という書類を作成します。この明細書に、医療を受けた人の名前、病院名、支払った医療費の額などを記載していきます。

この明細書の用紙は、国税庁のホームページからダウンロードできるほか、税務署でもらうこともできます。また、加入している医療保険の組合などから送られてくる「医療費のお知らせ」を明細書の代わりに添付することも可能です。

ステップ3:確定申告の時期に提出する

作成した「医療費控除の明細書」を「確定申告書」に添付して、お住まいの地域を管轄する税務署に提出します。

確定申告の期間は、原則として翌年の2月16日から3月15日までですが、医療費控除のような税金が戻ってくる「還付申告」の場合は、翌年の1月1日から5年間、いつでも申告を行うことができます。「去年の分を忘れていた!」という方も、諦めずに確認してみてください。

もし申告の方法で分からないことがあれば、税務署の窓口で相談したり、電話で問い合わせをしたりすることもできます。最近では、国税庁のホームページにある「確定申告書等作成コーナー」を利用すれば、画面の案内に従って入力するだけで申告書を作成でき、印刷して提出したり、e-Tax(電子申告)でそのまま送信したりすることも可能です。

今回は、医療費控除という制度についてお話ししました。

このような制度は、特別なものではなく、病気と向き合い、一生懸命治療に取り組んでいる方々と、それを支えるご家族を、社会全体でサポートしていくための大切な仕組みです。

治療の中で湧き上がる経済的な不安は、とても大きなものです。しかし、こうした制度を「知る」ことは、その不安を少しだけ和らげてくれる「お守り」のような存在になってくれるはずです。

「難しそう」と最初から諦めてしまうのではなく、まずは今年の医療費の領収書を一つの箱に集めてみることから始めてみませんか。その小さな一歩が、あなたの心を少し軽くし、安心して療養に専念できる日々に繋がっていくかもしれません。

これからもがんとともに暮らす皆さまの生活に寄り添う情報をお届けしてまいります。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。