2026.10.07

緩和ケアはいつから受けるもの?がんと診断されたときから始まる理由とは

木漏れ日

「緩和ケア」という言葉には、がんの治療を終えた人が最期に受けるケアという印象が、今も根強く残っています。

しかし実際の緩和ケアは、がんと診断されたときから、がんの治療と並行して始まるものです。

痛みや吐き気、気持ちのつらさなどを和らげ、患者さんとご家族が自分らしい生活を続けられるよう支えることを目的としています。

このコラムでは、がんの緩和ケアにおける具体的な特徴や注意点を分かりやすく整理し、毎日の暮らしの中で無理なく取り入れられる実用的な生活の知恵や対策をお届けします。

?のブロックと電球のブロックが机の上に散っている様子

緩和ケアと聞いて不安になったら

緩和ケアを勧められることは、治療をあきらめることや、残された時間が短いことを意味するものではありません。

「緩和ケア=終末期のケア」というのはよくある誤解で、実際には、がんそのものや治療に伴う体と心の問題を和らげるためのものであり、病気の時期にかかわらず必要に応じて行われます。

医師が緩和ケアの話をするのは、今あるつらさを少しでも軽くして、治療や生活を続けやすくするためであることがほとんどです。

緩和ケアに「終末期」のイメージがあるのは、以前はがんの治療が難しくなった時期に行われることが多かったためです。

現在では、国のがん対策の中でも「がんと診断された時からの緩和ケア」の推進が掲げられており、手術や抗がん剤治療、放射線治療を受けている方も、痛みや副作用、不安などに対する緩和ケアを受けています。

つまり、緩和ケアの話が出ることは、病状が大きく変わったということを意味するとは限りません。

緩和ケアを勧められて不安を感じたときは、その気持ちをそのまま主治医や看護師に伝えてかまいません。

「緩和ケアを勧められたのは、どのような理由からですか」と尋ねると、今の病状と緩和ケアの目的を確かめ、納得して話を進めることができます。

緩和ケアは、がんと診断されたときから始まる

緩和ケアは、がんと診断されたときから始まり、治療中、治療後、そして病気が進行した時期まで、それぞれの段階に合わせて続いていくものです。

WHO(世界保健機関)も、緩和ケアを病気の早い時期からがんの治療と組み合わせて行うものと定めています。

診断を受けた直後の気持ちの動揺や、治療が始まってからの痛み、副作用なども、緩和ケアの対象です。

緩和ケアには、主治医や病棟の看護師など、日ごろ治療に関わる医療者が行う基本的な緩和ケアと、緩和ケアを専門とする医師や看護師が行う専門的な緩和ケアがあります。

例えば、手術後の傷の痛みを和らげる薬の調整や、抗がん剤による吐き気を抑える薬の使用も、広い意味での緩和ケアに含まれます。

つらさが強い場合や、通常の対応では和らぎにくい場合には、医師や看護師に相談してより詳しい支援を受けましょう。

全国のがん診療連携拠点病院には、こうした専門の体制が整えられています。

がんと診断されて間もない時期は、治療の説明や検査で手一杯になり、つらさを伝える余裕がないこともあります。

気になる症状や不安は小さなうちから記録しておき、診察の際に伝える習慣をつけておくと、必要な緩和ケアにつなげやすくなります。

ハートと手

体と心のつらさを和らげ、生活の質を保つ

緩和ケアの目的は、がんに伴う体と心のつらさを和らげ、患者さんとご家族の生活の質(QOL)を保つことです。

ここでいうつらさには、痛みや息苦しさなどの身体的な苦痛だけでなく、不安や気持ちの落ち込み、仕事やお金の心配といった社会的な問題、生きる意味についての悩み(スピリチュアルな苦痛)なども含まれます。

患者さんご本人だけでなく、ご家族も支援の対象です。

具体的な支援としては、痛み止めの種類や量の調整、吐き気や便秘、食欲不振、だるさへの対応、眠れないときの対策などがあります。

痛み止めには、一般的な解熱鎮痛薬のほか、医療用麻薬が使われることもあり、痛みの強さや生活のリズムに合わせて調整されます。

気持ちのつらさには、心理士や精神科の医師が関わることもあります。

また、医療ソーシャルワーカーが、医療費の負担を軽くする制度や介護保険、仕事との両立などの相談に応じ、療養生活の不安を減らすための情報を提供します。

緩和ケアで大切にされるのは、患者さんご自身が「どのように過ごしたいか」という希望です。

「家族と食事を楽しみたい」「仕事をもう少し続けたい」など、大切にしたいことを医療者に伝えておくと、その希望に沿ったケアを一緒に考えてもらえます。

なぜ治療中に緩和ケアを提案されるのか

がんの治療と並行して緩和ケアを行うことで、痛みや副作用によるつらさが軽くなり、治療そのものを続けやすくなることが期待されます。

つらさを我慢しながら治療を続けると、体力や気力が落ち、食事や睡眠がとれなくなって、治療の予定どおりに進められなくなることもあるためです。

海外の研究では、進行した肺がんの患者さんに、診断後の早い時期から緩和ケアを組み合わせたところ、生活の質や気持ちの落ち込みが改善したことが報告されています。

日常生活に置き換えると、例えば、抗がん剤治療のあとの吐き気が薬の調整で軽くなれば、食事がとれるようになり、次の治療までに体力を取り戻しやすくなります。

痛みが和らいで夜に眠れるようになれば、日中に散歩や家事をする余裕も生まれます。

こうした小さな変化の積み重ねが、治療を続ける力を支えます。

痛みや症状を適切にコントロールしながら治療を進めることは、現在では標準的ながん医療の一部と考えられています。

緩和ケアを受けることで、がんの治療が後回しになることはありません。

治療の方針は主治医と相談しながら決め、その治療を続けるための支えとして緩和ケアを活用する、という考え方を持っておくと受け止めやすくなります。

同じ不安を抱えていた方が、どう歩んだのか
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頭に手をあてる人

こんなときは相談してよいサイン

緩和ケアは、つらさが限界になるまで我慢してからスタートするものではありません。

痛みや不安などのつらさが、日常生活や治療に影響し始めたときがひとつの目安です。

「この程度で相談してよいのだろうか」と迷うときこそ、早めに伝えることが大切です。

緩和ケアについて相談してよい主なサインは、次のとおりです。

・痛みのために眠れない、動くのがつらい
・息苦しさや吐き気、便秘、食欲がない状態が続いている
・抗がん剤などの治療の副作用がつらく、治療を続けることに不安がある
・気持ちが落ち込む、不安で眠れない日が続いている
・仕事やお金、家族のことなど、療養生活の心配が頭から離れない
・ご家族の看病や介護の負担が大きく、疲れがたまっている

これらは、どれか一つでも当てはまれば相談してよい目安です。

ご家族の疲れや悩みも、緩和ケアのサポートの対象です。

つらさの感じ方は人によって違い、ほかの人と比べる必要はありません。

相談するときは、つらさの強さを0から10の数字で伝えたり、「いつから」「どのような場面で」つらいのかをメモにまとめたりしておくと、医療者が状況を把握しやすくなります。

ご本人が言い出しにくい場合は、ご家族から伝えることもできます。

緩和ケア病棟への入院は、時期の考え方が異なる

緩和ケアそのものは診断されたときから始まりますが、緩和ケア病棟への入院は、時期の考え方が異なります。

緩和ケア病棟は、ホスピスとも呼ばれ、がんの治療を終えた方や、治療を続けないことを選んだ方が、つらい症状を和らげながら過ごすための病棟であることが一般的です。

個室が多い、ご家族が付き添いやすいなど、穏やかに過ごせるよう療養環境に配慮された施設が多いのも特徴です。

入院の条件は病院によって異なるため、事前の確認が必要です。

多くの緩和ケア病棟では、入院の前に、患者さんやご家族と面談を行い、病状や希望を確認します。

病院によっては、入院を希望してから実際に入院できるまでに時間がかかることもあります。

一方で、症状を和らげるために短い期間だけ入院し、症状が落ち着いたら自宅に戻るという利用の仕方ができる病院もあります。

また、一般の病棟に入院中でも、緩和ケアチームが訪問して、専門的な緩和ケアを行うことができます。

将来、緩和ケア病棟の利用を考える可能性がある場合は、体調が比較的落ち着いている時期に、主治医やがん相談支援センターに相談し、地域の緩和ケア病棟の情報を集めておくと安心です。

見学や面談の予約を早めにしておくことで、いざというときに慌てずに済みます。

医師と話す患者

主治医への伝え方

緩和ケアを始めたいときの最初の相談先は、がんの治療を担当している主治医です。

主治医に「痛みやつらさを和らげる方法を相談したい」「緩和ケアについて話を聞きたい」と伝えると、必要に応じて、緩和ケア外来や緩和ケアチームにつないでもらえます。

緩和ケアは健康保険が適用される医療で、ほかの治療と同じように受診します。

緩和ケア外来は通院しながら緩和ケアを受けるための外来で、がんの治療を受けている病院のほか、別の病院の緩和ケア外来を紹介してもらうこともできます。

入院中であれば、緩和ケアチームが病室を訪れて対応します。

緩和ケアチームは、緩和ケアを専門とする医師や看護師、薬剤師、心理士、管理栄養士、医療ソーシャルワーカーなどが連携して、一人ひとりのつらさに合わせた支援を考えます。

自宅で過ごしたい場合は、訪問診療を行う医師や訪問看護師による、在宅での緩和ケアを受けることもできます。

主治医に話を切り出しにくいと感じるときは、外来の看護師に先に相談してみる方法もあります。

看護師から主治医に状況を伝えてもらえることも多く、診察の際に話を始めやすくなります。

緩和ケアの相談をしたからといって、がんの治療が打ち切られることはないので、心配せずに伝えてみてください。

緩和ケアについて相談できる窓口

病院の外にも、緩和ケアについて相談できる窓口があります。

代表的なのは、全国のがん診療連携拠点病院などに設置されているがん相談支援センターです。

その病院に通院していない方やご家族でも、無料で相談することができます。

電話での問い合わせに対応しているところも多く、相談した内容の秘密は守られます。

がん相談支援センターでは、看護師や医療ソーシャルワーカーなどの相談員が、緩和ケアの内容や、地域で緩和ケア外来や緩和ケア病棟がある病院、在宅での緩和ケアを行う医療機関などの情報を案内しています。

「主治医にどう切り出せばよいか分からない」「家族として何ができるか知りたい」といった相談や、医療費や介護保険などの制度についての相談にも応じています。

国立がん研究センターの「がん情報サービス」では、全国のがん相談支援センターを調べることができます。

相談の前に、聞きたいことを2〜3点メモにまとめておくと、限られた時間でも必要な情報を得やすくなります。

相談は1回で終わらせる必要はなく、状況が変わったときに何度でも利用することができます。

患者会やがんサロンなど、同じ病気を経験した人と話せる場を紹介してもらえることもあります。

患者を見舞う家族

これからの希望を話し合う「人生会議」

緩和ケアの中では、これからの治療や過ごし方について、患者さんの希望を本人とご家族、医師などの間で話し合っておくことが大切にされています。

この取り組みは「アドバンス・ケア・プランニング」と呼ばれ、厚生労働省は「人生会議」という愛称で紹介しています。

体調が比較的落ち着いている早期の時期から少しずつ始めておくと、いざというときに本人の希望に沿った選択がしやすくなります。

話し合う内容は、例えば「どのような治療を受けたいか、受けたくないか」「どこで過ごしたいか」「大切にしたいことは何か」「自分で意思を伝えられなくなったとき、誰に代わりに判断してほしいか」などです。

すべてを一度に決める必要はなく、希望は気持ちや体調の変化に合わせて何度でも変えてかまいません。

改まった場を設けなくても、ふだんの会話の中で「もしものときはどうしたい?」と少しずつ話題にするだけでも十分です。

ご本人の考えがご家族と違っていても、まずは否定せずに聞くことが大切です。

話し合いの進め方に迷うときは、主治医や看護師、緩和ケアチーム、がん相談支援センターに相談すると、話し合いのきっかけ作りや進め方について助言を受けられます。

話し合った内容は、メモに残してご家族と共有しておくと安心です。

緩和ケアは、最期の時期だけに行うものではなく、がんと診断されたときから、治療と並行して体と心のつらさを和らげるために始まるケアです。

つらさや不安があるときは、我慢を重ねずに、主治医や看護師、緩和ケアチーム、がん相談支援センターなど、身近な専門家を頼ってください。

小さなつらさを一つずつ和らげながら、ご自身らしい毎日を大切に過ごしていきましょう。

監修医 医学博士 上羽 毅

監修医

医学博士

上羽 毅

私は医師として日々の診療にあたる中で、患者さんが抱える「治療に対する不安」や「治療への向き合い方」などの声を多く耳にしてきました。
そのような経験から、このサイトでは信頼性を第一に、最新の医学的知見や治療方針をもとに内容を確認・監修しています。専門的な部分を分かりやすく伝えることを心がけ、読者の方が正しい知識をもとに前向きに治療へ臨めるよう願っています。